消えない思い

樹木緑

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第169話 リョウさんの事情

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突然に泣き崩れてしまった彼に、
僕はどう声を掛けていいのか分からなかった。

数年前の自分が重なって、
もらい泣きしないようにするのがやっとだった。

暫くリョウさんは声を殺して泣いていた。

「あの……
大丈夫ですか?」

僕がそう声を掛けると、
リョウさんはテーブルに顔を突っ伏したまま、
コクコクと頷いた。

どうしよう、貸してあげれるハンカチ無いな。

テーブルを見ると、紙ナプキンが置いてあった。

「ごめんなさい。
これ、紙ナプキンだけど、良かったら」

そう言って彼の前に差し出した。

「ごめんね、取り乱して……」

「大丈夫ですよ。
僕にも覚えがあるから……」

そう言うと彼はやっと顔を上げた。

思った様に、彼の眼は真っ赤になって腫れていたけど、
カバーできるものがここには何もない。

「あの……
君にも覚えがあるって……」

「はい、僕、番が居るんです」

そう言ってうなじを彼に見せた。

「じゃあ、君の番は……?」

「色々あって別れたんです」

「え? 番になった後で?」

僕は少しほほ笑んだ。

「リョウさんってポールと付き合ってたんですよね?」

僕がそう言うと、彼はコクリと頷いた。

「二人の間には一体何があったんですか?
どうしてポールとの別れを選択したのですか?」

彼は暫く僕を見つめた後、
少しずつ口を開いて行った。

「僕が初めてポールに会ったのは、
僕達がまだ16歳の時の高校1年生の夏休みだった」

あ、大体僕と先輩が会ったのと同じ様な時期だ~

「彼が短期夏期留学生として日本に来たんだよ。
その時に彼をホストしたのが僕の家族で……
その時は、普通にホストファミリーと
留学生って言う様な関係だったんだけど……」

「だけど……?」

「ほら、日本のΩ事情ってちょっとひどいじゃない?
でもポールの僕の事を普通に扱ってくれる態度や優しさ、
人懐っこい性格や、さっぱりとしたところ、
そんなことが色々と重なって
彼をどんどん知っていくうちに
いつの間にか僕の方が先に
ポールの事を好きになっていたんだ」

僕は、うん、うんと頷きながら
話を聞いていた。

「ポールが家いたのは1か月と短い間だったけど、
僕にはポールを好きになるには十分な時間だった」

「あの…… リョウさんの家族関係は?」

「うん、僕の両親は二人共αなんだ」

あちゃ~ そうか……

「僕には小さい頃から決まっていた婚約者が居て……」

「だろうね」

「え?」

「あ、イエ、こちらの事で……
それよりも続けて」

「あ、はい。
それで要君も日本人だし、番が居るから
α社会の事知ってると思うけど、
僕の両親も例に漏れず、
α社会優位を過信する人達で……

自分の家からΩが出たことが許せなかったんだろうね。
どんなことをしても、僕を良家のαと番わせるって……

僕を良家の出のΩと番っても良いと言う
次男、三男のαのいる家庭への腰入りを勝手に決めてきて……

僕も最初はそれでも良いって思ってたんだけど、
親の決めた結婚が段々苦痛になって来て……

本当に自分がやりたいのはそんな事なのか?
本当の恋も経験しないうちに、
本当に誰かの番になりたいのか?って疑問が出始めて……

へへ……運悪くって言ったら変かな?
ポールに出会って、
本当の恋ってものを知って……

振られるのを覚悟で次の年の夏休みに
今度は僕がフランスへ来たんです」

「そして当たって砕け散ろうとして……
思いがけずど真ん中を射たんですね」

僕がそう言うと、
彼はコクリと頷いて、

「まさか彼が僕の思いにこたえてくれるとは
思いもしないで……

でも、その時は知らなかったんです。
彼がそんなにも有名なモデルだったなんて……」

「え? それがネックだったの?」

「だって……
沢山の奇麗な人たちとの絡みなんかあるんですよ。
精神的に無理です!

僕は見た目もパッとしないし、
もっさいし、子供っぽいし、そばかすあるし……
背もそんなに高くないし……
取り柄と言ったらゼロに近いくらいだし……
出来るのは子供産めるだけで……
親に頼らないと自分の道も選べないような人間だし……」

「そんな自分を卑下するような……
僕はあって直ぐですけど、リョウさんは凄く魅力的だと思いますよ?
それに、ポールはリョウさんを選んだんですよね?」

「僕が旨く出来なかったから……
ポールが奇麗な人と絡むたびに嫉妬して……
当たり散らして……
仕事だって分かってたのに……

最後は二人共ボロボロだったんです。

ポールも撮影に支障をきたし始めて、
それで書置きだけ残して日本へ帰ったんです……」

「それからは?」

「一度も会って無いし、話しても居ません……
僕がブロックを掛けて、もし、日本へ来るようなことがあっても、
追い返すようお願いして……」

“うわ~ それじゃポール、
トラウマにもなる筈だよな~”

「じゃあ、それからも彼の事はずっと?」

「忘れられなくて……
忘れなきゃいけないと思っても、
全然だめで……
もう10年以上も立って、
ポールはこんなにも有名になって歩き続けてるのに、
僕だけがあの日に立ち止まったままで……」

「いや、ポールもそんな変わってないと思うよ?」

「いえ、ポールは10年前より輝いています。
特に最近は……」

「あ、それ多分、自分の欲求を
陽ちゃんで発散できるようになったからだ」

「あの……
要さんは何故番とは別々で?」

「僕もリョウさんと似たようなものだよ。
僕の番には婚約者が居て、両家の為には絶対必要な結婚らしくって、
番の両親に仲を引き裂かれたってわけ。
まあ、僕はしっぽ巻いて逃げて来たんだけどね」

「そんな……
君の番は何もしなかったの?」

「へへ、実を言うと、僕も黙って出てきた口なんだ。
両親の話によると、僕を探しにきてくれたらしいけど、
それっきりみたい……
自分から出てきて何言ってるんだろうって感じだけど、
もうちょっと食らいついて欲しかったかな~って」

そうだ、あれから先輩は僕の両親の前に姿を現したことは無い。
今先輩がどうしているのかも僕には全く分からない。

大学はもう卒業したはずだ。
先輩も政治家としての活躍が始まる筈……

その時はそう思っていた。

「君も苦労したんだね。
じゃあ、君の番は子供がいる事は?」

「もちろん知りませんよ。
教える気も無いし!
向こうの家族に分かったら、
陽ちゃんどうなっちゃうか、
考えただけでも怖いし!」

「そっか、何だか僕だけが苦しんでいるんじゃないと分かったら、
凄く勇気が出てきました!」

「どうします?
ポールに会って行きますか?
僕は学校の後はバイトなんですけど、
その後だったら……

多分その頃だったら
ポールも帰って来てる頃だと思いますよ?」

「ありがとう。
でも良いんだ。

君の話を聞いて、
凄く勇気が湧いたって言うのは、
これから一人でも生きていけそうって事だよ!」

「え…… でも……
ポールには付き合ってる人はいないんですよ?
それに多分今でもリョウさんの事……」

「良いだよ。
僕から分かれて連絡を絶って、
今更おこがましいでしょう?」

「あの……失礼ですけど……
婚約者の方とはどうなったんですか?」

かれは僕を見て大きく微笑んだ。

「僕は親子の縁を切って、
家を出たよ。
その時、婚約も解消した!
今は凄く清々しい気持ちだよ。
要君と話せてよかったよ」

「そんな……
是非、一目だけでも……」

「そうしたい事は山々だけど、残念ながら、
夕方のフライトで日本へ帰るんだよ」

「え? そんなに早く?」

「まあ、無理して有休取って来たからね。
そんなに仕事も休めないし……

早くポールを尋ねなかった僕が悪いし……

是非ポールに宜しく伝えて」

そう言って彼はまた深々とお辞儀をすると、
ここは僕が払っておくからと、
会計票を持って立ち去った。

そこに一人残された僕は、
どうしよう、どうしようと言う思いばかりが、
グルグルと頭の中で回っていた。
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