悪役令息なのにエロトラに好かれてる俺

あまはねまきあ

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幼少期編

婚約者カエメトについて

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  俺の婚約者、カエメトには親密度を上げないと明かされることのない秘密があった。実は極度に女の人に対して不信感を抱き、見下していたこと。というのも当時の彼が幼い時にメイドに強引に行為を迫られハジメテを奪われてしまったという経緯がある。
 メイドもメイドだが、将来の有望株と関係を結べれば確かに玉の輿まっしぐらだ。遅かれ早かれ起きていたことだろう。しかし幸いなことに当時のカエメトは精通しておらず、後に彼との子供を孕んだと主張していた彼女の主張は反故にされた。そもそもが国家反逆罪に近しいもので彼女の実家が元貴族だったために死刑を免れていたがその主張によって死刑が確定することになったそうな。中世なーろっぱ怖い。
 カエメトは上記の一件から極度に女性を嫌い、婚約者すら持ちたくないと言い出し虫除けとして婚約者に充てがわれた男のファルトに心を許していた。そう、許していたんだ。可愛らしい容姿をしているが男だと感じさせるその立ち振る舞いに惹かれたのだろう。ゲームでのファルトは初めは拒んでいたが、段々と打ち解け幼い頃からカエメトの事を愛し続け、関係を迫る。という展開だった。そこに現れたかなたんが女性が誰しも悪いわけじゃない、と優しく説き大切なのは性別ではなく相手を思う心と気付かされたカエメトがかなたんに愛を伝えて結ばれるエンドだ。ファルトの嫉妬による嫌がらせの度にどうして俺にそんなに執着するのだろうかと零しており、お前が始めた物語だろと思いながら攻略した。お前からしたら友情だったかもしれないけど、彼からしたら愛に違いなかったんだろう。
 俺が婚約者に充てがわれたのは単純に男でもやろうと思えば妊娠させることの出来る世界であることと、王家に次ぐ公爵家の長男で女ではなかったからだ。つまり、このカエメトの筆下ろし事件を阻止することが出来れば俺がカエメトの婚約者に充てがわれることがなくなる。俺の安寧、ハッピーエンドって訳だ。
 カエメトは婚約破棄した後ファルトを国外追放にしてかなたんと結婚する。カエメト王妃ルートは必要ステータスがとんでもなく高く、並大抵では王妃にはなれないことをひしひしと感じさせる。特に重要なのは学力と対応力だ。カエメト正妃ルートに突入するには学園のテストで一番を取り続ける必要がある。
 そして今日は、初めて婚約者であるカエメトと顔合わせの日である。この時はまだ明るい少年であったカエメトはこの数日後に長らく心を閉ざすきっかけを強制的に植え付けられてしまう。
 本来、令嬢令息の社交界デビューは七歳からなのだが王子の社交界デビュー時の茶会に限り、下一歳の令嬢令息も茶会に呼ばれる。それも強制的に。だから本来俺は今六歳だから社交界デビューすらしていないのだが例外的に参加できる。
 特に俺の家はこの国でもかなり上位の公爵家ともあり拒否権など存在しないのだ。
「坊っちゃま、そろそろ出発しますよ」
「ちょっと待って、俺まだおやつ食べてない」
「本日は殿下のもとで食べるご予定になられております」
「そっかぁ……俺これ好きなんだけどなぁ」
「坊っちゃま、殿下の前では僕を使ってくださいね」
「はーい」
 気だるげに返事をして、ティーセットを片付けさせる。庭のガゼボは俺の超お気に入りスポットなのだが、屋敷から少し離れているため早めに戻らなくてはいけない。綺麗な煉瓦造りの道をローファーを踏み鳴らして歩いていくとお父様が俺を抱き上げた。
「ルーちゃん……お父さんは多くは望まないから、大きくなってくれよ」
「お父様の身長越えてやりますよ」
「それはかなり嫌だなぁ」
「あははっ、お父様」
 前世の父親と違い清潔感溢れた今世の父親はディズバラン・ピューリティという。現公爵家の当主であり、現王弟殿下と同級生で学友らしい。そして王位継承権第一位に当たるカエメト殿下の初お茶会ともあって公爵家として顔合わせをしなくてはいけないらしい。貴族って大変だなーって思うけど、全然前世より良い父親に恵まれているから不平不満は無い。俺はこの父親の為なら、前世で逃げに逃げまくった勉強だって喜んで出来ると思う。
 爽やかな香りのする首に顔を埋めていると、お父様はそのまま歩き出し俺を馬車に乗せた。どうやら今回は馬車に一緒に乗れないみたいだ。
 体の年齢に引き摺られて、成人男性の癖して俺は寂しいと思った。頼りになる父のもとを離れて、これから一人で社交会で生き抜いていかなければならない。その第一歩が今日。幼い俺には中々に酷な事だ。

 数時間馬車に揺られて、会場に着くと、王子と同年代の令息が集められた机に俺は招待された。全員ソワソワしているし、俺も例に習ってソワソワしていた。だって初めて王子の顔を見るんだ。
 スチルでも見たことの無い幼少期のカエメト。気にならないわけがない。ぶっちゃけかなたんの方が気になるし見たいし写真に撮りたいけど。
「遅れてすまない。何分、初めての茶会故」
「ご機嫌麗しゅうございます。僕はピューリティー公爵家長男のファルトと申します。この度は茶会に招待して頂き誠にありがたき幸せでございます」
 招待された令息の中で一番位の高い公爵家である俺がまず挨拶をする。続けて他の令息達も挨拶をして、最後にカエメトだ。
「紹介ありがとう。俺はデラーク王家第一王子、カエメト・ベロスタンテ・デラークだ。今日は親睦を深める回だ。位など気にせず話しかけて欲しい」
 そうにっこり笑うカエメト。あの事件が起きていないだけあってかなり気さくに話しかけてくる。そんな王子に警戒を解いたのか真っ先にラミレス・ノワールは猫なで声でカエメトに質問した。
「あのぉ、殿下って好きなお菓子とかあるんですか?」
「好きなお菓子かい? 俺は……そうだね、ファルトはなんだと思う?」
「え? えーっと……かなた……カトル・カールでしょうか」
「そう。ふふ、ファルトは当てるなんて凄いね」
「へぇ~ファルト様さっきなんて言いかけたんですか?」
 お黙り!!
 カエメトのプロフィールに好きな食べ物はカトル・カールと書かれていたのを思い出した。なんでも、王宮暮らしの中で親と年相応に触れ合うことが出来ず寂しい思いをしていた時に侍女の一人がカトル・カールという庶民のお菓子を作って食べさせてくれていたという過去話があった。バレンタインにカトル・カールを作ってプレゼントすると問答無用で好感度ぶち上がりの攻略必須アイテムである。
 因みに、コイツはかなたんのパンツが好きなのも本当である。ゲームの中でかなたんは養父の趣味によってヒラヒラのランジェリーに近い下着を身につけている設定がある。それを知ったカエメトが「君の身につけていた装束は何とも馨しい匂いを放つね……」とそのままペロッと舐めた後にかなたんの口に突っ込むイベントがある。好きだったな……あのスチル。
 かなたんの下着がヒラヒラエッチなのが公開されるスチルで俺は大好きだったけどちょっと気持ち悪いムーブをするカエメトに引いてもいた。
 カエメトはこのスチルの影響でファンの間でお前本当はかなたんのパンツが好物なんだろって言われてた。俺も陰でカトル・カールとかカマトトぶんな変態王子!と匙を投げていた一人である。
 俺はティーカップをソーサーに戻してからラミレスの瞳をしっかり見つめ、それ以上は言及するなと圧をかけながらにっこりと笑う。
「気にしなくていいと思うな。ラミレス」
「俺は気になるけど?」
「……俺も気になる」
「い、いいんですよ僕の事は! 今日の主役は殿下ですから!」
 このラミレスという男、ロマラビの攻略者の一人である。ラミレスはよくいる女癖の悪いキャラクターとして登場するが、その一端を担っているのが家族関係だったそう。元々、姉二人を持つラミレスは家を継ぐことの出来ない姉たちから隠れて冷遇を受けていたらしい。その影響も相まって女の子を見下し弄んでいたところにかなたんが本当の愛を教えてくれ、愛を知る。まるで氷の女王のカイとゲルダのような展開に幾度となく心打たれたことか。
 だが実際会ってみるとどうなんだこれは。こいつ絶対冷遇関係なく性根が終わり散らかしていると思う。
「うん。確かにそうだね」
「話逸らしたね? ファルたん」
「ファルたんはおやめ下さい」
 ラミレスは捉えどころのない男だ。それもこれも彼自身が計算高く頭がいいから。俺を探っているんだろう。それにしてもこの距離の詰め方はおかしくないか? 確かに二人は同学年でラミレスルートで見れるスチルではファルトに対して「ファルちゃんとは昔馴染みだけど、こればかりは許せないよ」って言っていたからもしかしたら幼少期からファルトの尻拭いをさせられてきたのかもしれない。同じ公爵家でもあるしな。
 ファルトが尻拭いさせる気持ちも分かる気がしてきた。俺もコイツ苦手かも。
「ファルちゃんは好きな食べ物ないの? 因みに俺はブルーベリーパイね」
「あー……僕、お花摘みしたい気分なので失礼します」
「あっファルちゃん!」
「ラミレス、他の侯爵家の皆も話したがっているし、席を外させてあげよう」
 
 見事王子とラミレスからの拷問にも近い胃の痛い茶会から抜け出した俺は現在茶会の会場である王宮を見て回っている。
 婚約さえ回避出来ればそんなに来ることは無いとは思うが、万が一何かあった時に逃走できる経路くらいは視察しておいて損は無いだろう。
 学生時代、この場に突如現れたテロリストに勇敢に立ち向かい勝利した自分最強クラスのみんな激惚れ妄想は伊達にしてない。
 綺麗に手入れされている王宮の庭園を歩いて、行く当ても無いし、本当にトイレに行きたくなって来てしまったのでトイレを探すことにした。制作が日本なだけあって上下水がきっちり完備されていて良かった。ここがもし史実通りにハイヒールが発達するような環境なら俺はちょっとかなり生きていけなかっただろう。
「すみません、お手洗いってどこですか」
「それなら……」
 一先ずメイドに教えられた通りの道を辿りトイレに行く。メイドの話だとこの王宮に設けられているトイレは庭園を通ると遠回りになってしまうらしい。
 あんまり時間でもかけていると向こうは小学生程度だし大の方をしていると勘違いされそうだ。それだけは何としても避けたい。しかし居心地が悪くて抜け出したのは本当のことだから歩みだけはゆっくりしておこう。走るとトイレが近くなるし。
「おまえ! 今日招待されてないはずだろ!」
「なんでここにいるんだ!」
「まさか僕達貴族をゆうかいしようとしてるんじゃないだろうねっ!」
「……君達、何をしているの」
 トイレの入口が何やら騒がしいのでここぞとばかりに公爵家の権力を使わせてもらう。王家に次ぐ権力者の令息にそうそう太刀打ちできる輩はいないだろう。やりたかったんだよなぁ、こうやって人を尻に敷くの。前世の日本なんかじゃできないし、したところで今のご時世パワハラで訴えられてしまう。
 俺が話しかけると蜘蛛の子を散らすように騒ぎに参加していた令息達が引いた。そんなに大人数では無いから茶会に影響は無いけど、トイレにこんなに溜まられたら出せるものも出せないだろう。日本人としても、隣で話してるのに用を足すなんて真似出来ない。せめて一つ、いや二つ分くらい便器を離して貰わないと安心してズボンを下ろせない。恥ずかしいし。
 令息達に囲まれていた、騒ぎの中心の男の子はくるりとしたくせっ毛にストロベリーブロンドの髪の毛、宝石を閉じ込めたような煌めかしい瞳と縁取る長いまつ毛。これは……かなたん!?
「な、なんで、かなた……ん」
「ファルト様、コイツは王宮に招待されていないはずなのに何故かこの場にいるんです」
「……」
「ファルト様?」
 生の幼少期かなたんと初めて会った。艶やかな陶器のような肌に心奪われそうだ。この令息達も、直ぐに警備に突き出してないことからして凡そこの男子トイレで……って事なのかな。イケナイこと、その事自体は分からなくても、後ろめたさから隠す方向へ……。
 ま、BLゲームの世界だしな。何があってもおかしくない。エロトラップダンジョンが存在する世界だしご都合えろがあるに決まってる。
 その点からすればモブおじさんにかなたんの純潔が犯されるよりかは令息たちの方がマシか。いや、マシも何も無いけど。
「この子、招待されてないの?」
「そうです! 僕は招待名簿も名前もちゃんと覚えてきたのに、知らない顔なんです!」
「ぼ、ぼくも」
「へぇ……」
 口々に令息達は言う。お勉強してて偉いね君達。この茶会に参加するにあたって王子様の顔と名前だけじゃなくて、将来有力になるであろう参加者の名簿と顔を一致させるために努力してきたのがありありと伺える。かく言う僕は王子以外に挨拶する必要が無いため、他の公爵家のみしか勉強させられてないが、ここにいる侯爵、伯爵、男爵令息の何れかあろう彼らは将来のコネクションの為に俺の顔もきちんと覚えさせられてきた、ということか。
 じゃあなんでかなたんはここに?
「君、ここは王宮だ。返答次第では君の家族諸共牢に入れなければならない。正直に答えてくれ。どうしてここに?」
「あっ……秘密の、抜け道なんです」
「秘密の抜け道?」
 あー……イベントで聞いたような、聞いてないような。
 かなたんの言う秘密の抜け道ってのは、その名の通り平民街から王宮への抜け道で万が一のクーデター時の逃走経路となるように予め仕込まれていた隠し通路の一つだ。
 ゲーム中では過去の思い出回想として、茶会を振り切って逃げ出したカエメトが、たまたま抜け道から出てきて庭園に出たところ迷子になってしまったかなたんと出会うのだった。だがそんな逢瀬も一年で終わる。かなたんがこっちの世界に送られてしまうからだ。
 かなたんの能力に気づいた隣国の神官が、秘密裏にかなたんを異空間へ送るという話が極秘で進んでおり、女神の代行者を消す為に送られてしまうのだ。
 女神の代行者は基本的に死なない。死んでも女神の寵愛で生き返るのだ。それが、ゲーム世界のセーブとロードになっている。だから異空間に送ることになったらしい。
 しかしそれにしてもかなたんの顔面は可愛いなぁ。まだメガネをしていないかなたんは誰でも魅了する魔性の顔面と言っても差し支えない。
 座り込むかなたんに膝を着いて話しかける。本来令息としてはトイレの床に膝を着くなんてふざけてるのかと言いたいが、あのかなたんを目の前にして王子様ムーブしたいに決まっているだろう。かなたんかわいい。
「……君の見た目は賊に見えない。見逃してあげるから、今日はお家へお帰り。君達も今日は他の人と仲良くなる回だろ?」
「はい……」
「でもファルト様、ここは王宮です。それに今日は茶会で、警備兵に見つかるかもしれないです」
「大丈夫。君達が何とかしてくれるよね?」
 威圧をかけるように言ってやる。思えば初めて悪役っぽいことが出来たかもしれない。これが、権力の正しい使い方。推しを守るために、盾として使う。
 俺が言い終わると令息たちはそそくさとその場を立ち去った。ちゃんと働いてくれるみたいで、警備兵の姿も見当たらない。いい仕事するじゃん。
「いい? ここは危ないからね。ちょっと待ってて」
「えっ?」
 カエメトを呼んでこなくちゃ。二人の運命の出会いを邪魔してしまったのだからここで取り返さないと。でも、ゲームの時はかなたんが令息達に見つかるなんてこと無かったはずだけど……若干違うのかな。
 茶会の会場に戻って、カエメトに声をかける。
「あの。殿下」
「なにかな」
「俺と……来てください」
「いいよ」
 いいんだ。
 自分で誘っておいてなんだけど結構怪しいと思うんだけどな。カエメトの腕を掴んで、庭園を通りトイレへ向かう。かなたんの姿をきっちり確認してから殿下へと引き渡すことにした。
「王宮内に迷い込んでしまったみたいなんです。殿下、ここに一番詳しいのは貴方です。ですから」
「案内を肩代わりして欲しいんだね? いいよ」
 俺の言うことを先回りして言うなんてコイツ結構イラつくな。まぁ概ねその通りだから放任して大丈夫かと思いひとしきり遠目で二人が初めて出会う様子をこの目のフィルムにがっちりと焼き付けてから茶会の会場に戻る。
「なーなー、殿下と二人でなにしてたん?」
「うるさい」
 ラミレスはやっぱり苦手だったけど、その後は恙無く茶会を終えることが出来た。

 茶会を終えて公爵家に帰ると、早々に父上から呼び出された。
「いいな、ファルト……お前に、義兄さんが出来ることになった。仲良くしてくれるな?」
 ……えっ?
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