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第二章 二節。
閑話 小さな聖女のおウチの事情。
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クロエと言う名の小さな女の子は、ある日いきなり聖女にされてしまった。
まだ五歳になったばかり。そう言えば、ミセリ様が聖女になったお歳も五歳だったとジャン=ベネディクト司祭様が仰られていたんだ。
可愛いらしい姿絵の娘が、ミセリ様だと言う。
ウチのクロエとは花と毛虫程違う。気品、振る舞い、知性、美しさ。違い過ぎる。
「調子に乗ってやってしまった。今は反省している。」
と、陛下は仰られて居たけど、本当に家の娘で良かったのだろうか?
大体家何て、只の食堂だよ?一般庶民で都民で臣民の平民。お貴族様の言う民草だよ?
陛下のお噂は、良く訊く。平民を怒鳴った騎士様を酷く叱った。とか、労働者の募集について質問されて、懇切丁寧にお教えした。とか、朝早くから商店街の人々と挨拶を交わしている。とかいろいろ。
良いお噂しか訊かないんだよ?これ何かあるヤツだ。そう思う。
「いらっしゃい!―――どこでもいいよぉ空いてる席座んなー!注文、すぐ出来る?」
「―――――良く分から無いから、お奨めのランチでお願いします。」
「おお、あいよぉー!随分丁寧な娘だねぇ。何処の子ぉ?」
「市場の方に住んでいますの。」
「そぉかい。嬢ちゃん、もう少し待っててな。今日のお奨め『ニシンのチーズ香草蒸し焼き』ってヤツだよぉ!」
「美味しそうですね。」
薄茶のワンピースに羽織って居たコートは地味な灰色、……こんなお嬢さんが持つような剣じゃ無さそうな剣何てぶら下げて。何だ、あれ腕に巻いてる黒いの?
「はい、お待たせ!黒パンはご自由にってヤツだぁ。」
「……黒パン。。。いただきます。
天にまします我らの神よ今日の糧を頂くことに――――――」
「あんたどうしたぃ?」
「いやぁ、この子お祈り始めちゃって……。食べ始めた。―――――ああ、そおか、ナイフ探して、いいんだよ?それスプーンとフォークで食べなー。」
「そうなのですね?失礼しました。――――美味しいです。」
「うんうん、そうだろうそうだろう。ゆっくり、食いな!」
「かーさん、とーさんただいまっ。」
「お帰り。神殿迄一人で行けそうかい?」
「大丈夫だったクロエ?」
「―――――クロエさん?」
「せいじょさま。なの?」
「あら?ここ、クロエさんのおうちでしたのね?これは失礼致しました。ですが、先にお食事を済ませて仕舞いますね?」
聖女様が聖女様が聖女様が陛下が陛下が目の前に居るとか何なの何て冗談!ここここ、これは何が何やらってヤツだ!
「そこに居る?」
「はっ!」
「………やっぱり居るのね?ローズ、ジャン=ベネ枢機卿ここに呼んで下さる?」
「御意!……」
「もう少ししてから、枢機卿も来るわ。クロエさんの今後をお話し合い致しましょう。」
驚いた、この少女が陛下で竜帝で聖女で女神だったんてなんて!
うん、良く見なくても分かる。何処からどう見てもミセリ様だった。
「お待たせ、ミセリちゃん!………失礼、陛下。。。お、イイナー!私も食べたい。それを私にも一つ!」
「ジャン=ベネ枢機卿。時間は大丈夫ですの?」
「………大丈夫ですよぉ?」
こ、この人達とお話しをするらしい。お、お店、閉めないと。
「おーい、親父ぃ、メシ出せやぁ!何時ものように只だけどなぁー。」
「ぐっへっへへえー。」
「只で食うぜぇぇぇ。」
「生憎と今日は店、仕舞いでして………。」
「ウソこくなよお?殺すぜー!?おー、何だぁ、女居んじゃねーかぁ。おい相手しろ!」
へ、陛下が…………絡まれる。
「ギャンッ!」
破落戸、三人倒れてる?
「警吏か衛士を。」
「はっ、御意!」
何だ何なのだ?陛下は、剣を抜くところも三人切り伏せたところも見えなかったんだけど!?陛下ってこんなにお強いの?ウソでしょ?
なんか凄いことに巻き込まれたのかしら私達親子は?
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