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しおりを挟む氏次の望みは――
「願わくば、女の首を所望いたす」
というものだった。
「仔細を申せ」
その家康の問いに対して、
「……わが父氏勝には男子が嫡男のそれがしかおらず、それがしが死んだ場合、丹羽家の継ぎがいなくなると危惧しておりました。それがしの子がまだ幼いこともあり、その間の繋ぎとして氏重がいることにしたのでございます」
氏次の言い分はわかりにくいものだったが、家康には察するものがあった。
家臣に似たような家系があることを思い出したからだ。
その家には嫡男がいなかったため、末子の姫を男として……
「そなたの弟御はもしや?」
「重という名の妹でございました」
「なんと」
岩崎城の顛末はすでに聞いている。
氏次の弟が城代となり、池田と森の中入り部隊が過ぎ去ろうとするのを阻止したのだと。
代わりに三百余人の城兵悉く死に、生き残りは城内の木に登って逃れた寺子屋の師匠だけだったという。当然、城代も戦死している。
つまり、氏次の言葉が正しければ……
「城代であった氏重どのは最後まで勇敢に戦い亡くなったという。まさに武士の鑑のような死に様であったそうだ」
「そう、聞いております」
家康はそれで思い出した。
春日与八郎将吉が持ち込んできた池田兵の持っていた女首のことを。
「……城にはないはずの女の首があれば、それは重姫のものだということだな、氏次」
氏次は頷いた。
話を奥で聞いていた本多正信がそっと現れた。
先ほどの美しい女の首が板の上に乗せられているのを差し出す。
血は拭き取られ、新たな死化粧が施されており、この世のものとは思えないほどに美しかった。
氏次は目を開き、それからそっとかき抱く。
声にならない慟哭が漏れる。
武士として死んだ妹への想いに溢れていた……
◇◆◇
皮肉なことに、この岩崎城攻めのために、池田恒興と森長可の乾坤一擲の中入り作戦はとん挫してしまう。
それどころか、こののちの小牧・長久手の合戦の際、この二人の猛将はともに戦死し果てることになるのだ。
徳川本陣を狙う長可率いる隊はことごとく丹羽氏次によって侵攻を妨害され、彼自身井伊直政の隊と対峙していたところを、水野勝成の配下の杉山孫六の狙撃で眉間を撃ち抜かれてしまうのである。
果たして、武士の死に様として、長可にとっては満足できるものであったのであろうか……
完
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