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りゅう
水戦
(竜の祟りか―――)
船首の水押に足をかけて、前方の海を睨みつけながら権藤は考えた。
鯨獲りのときのように襦袢は着込まず、いつものままの着流し姿だ。
そのせいか、鯨を獲りに行くような高揚感もなく、海賊相手のいくさをするという華々しさもない。
ただ単に煩わしい。
それもこれもあの時化の日の竜退治のせいである。
あのときからこの世の理が壊れたような気がしていた。
彼にも告げずに和田吉右衛門たちが隠していた竜珠とかいう得体のしれぬものを巡って、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。
ずっと、これから先も何事もなく命がけで鯨捕りをしていくだろうと楽観していたのは、ついこの間のことだ。
もし死ぬとしても鯨と戦っているときに海で死ぬものだと決めていた。
まだ若い彼にとって、それは覆ることのない未来のはずだった。
「―――追いつくのか?」
権藤の暗澹たる気持ちを遮るように、すぐ後ろの木曾野蔵之介が聞いてきた。
左右四名ずつが櫓をこぎ、滑るように海面を行く船の上でまだ船酔いには襲われていないようだ。
あと少しの間持ってくれればいいが。
木曽野の腕を知っている権藤としては、この頼もしい同門が船酔いで戦闘不能にならないことを願うしかない。
はっきりしない将来のことよりも、まずは目の前のいくさだ。
頭を激しく振って、気を取り直す。
「こちらは慣れない船で、あちらが先行している。とはいえ、姿は見えているので時化が来なければなんとかなるだろう」
「見えるものなのか?」
「鯨捕りになれば慣れてくる。水軍よりもよっぽどいい」
「そうか」
敵は水軍崩れだが、海の武士と鯨猟夫では目星を付ける場所が違う。
戦うべき舟を探す目の付け所と、潜行もする鯨とではもちろん後者の方が感覚が鋭くならざるを得ない。
その猟夫としての権藤の眼は、先に行く小早舟とさらにその先にある関船を認めていた。
関船は、中型のいくさ用の和船である。
船上に矢倉という甲板を張った構造物があり、艪の数はだいたい40~80挺あるもののことをいう。大型のいくさ船の安宅船と違って、一本の水押が尖った船首をもつため、細長く速いのが特徴である。
今、権藤たちの乗っている小早を大きくした形態というとわかりやすい。鯨捕りの勢子舟にも似ていた。
中には取り外し可能な帆柱もあるため、巡航時には帆走し、必要となったら帆柱を矢倉の上に倒して艪に進むこともできる。
近寄ってくる船に対しては、総矢倉には狭間と呼ばれる銃眼が設けられていて、そこから鉄砲で射撃することも可能だが、幕府の取締りが厳しい昨今の風潮に従って鉄砲はないだろうと権藤はあたりをつけていた。
(斬り込めるか?)
崖の上からの奇襲ならばいざ知らず、この追跡劇で自分たちは敵に存在を知られている。
たとえ追いついてもお汐を奪還できるかは難しいし、鵜殿のことを考慮すると、せめて山川久三郎だけでも斬り殺しておきたい。
竜珠とやらは後回しだ。
そんなものは場合によっては海の藻屑と消えても構わない。
「権藤はん、荒れてきたぜ!」
弥多が叫んだ。
すでに確執は腹にしまい込んでいる。
二人ともなんとしてでもお汐を取り戻したいし、鵜殿を焼いた落とし前をつけさせたいのだ。
「すぐに時化が来るか。木曽野、おぬし、死んだかもしれんぞ」
「溺れて死ぬことになるとは思ってもいなかったよ」
「なに、そんなに辛くはないそうだ」
溺れて死んだことのない人間にわかるはずもない気休めを口にする。
「見ろ、関船だ!」
陸から四里(16キロメートル)のところに、関船が停泊していた。
錨を下ろしていないのでふらふらしている。
しかも、周辺にははっきりとわかるぐらいに雨がぱらついているようだった。
潮の早い海特有の部分的なスコールである。
まるで海賊たちの関船を狙ったかのように、そこだけが雨に降られていた。
「はまった。奴ら、これでは関船には近づけない」
「強引にいくのではないか?」
「海賊どもだけならばともかく若白髪にはそんな真似は出来まい。かといって、海賊どもが面倒くさがって、やつをここで始末するつもりならばさっきの浜で殺しておる。ご家老の親戚のあやつにはさすがに手は出せないはずだ。さらにいえば、十中八九、竜珠とやらは奴が持っているだろうしな」
追うものと追われるもの。
二艘の小早舟の距離は徐々に狭まっていく。
あの関船が海賊どもの母船だとしても、あそこまで荒れ果てた海に踏み入れるのは度胸がいるし、乗り移るのも不可能なので意味がない。
そして、もう陸に戻っている時間はなかった。
海賊どもとしては、追手と戦うしか道はないのだ。
「くそ、ここでやるしかねえかよ。おい、てめえら、気合入れろ! 同心と漁師なんぞぶち殺してやれ!」
かたや追われる方の犬一をはじめとした海賊どもも、櫓をこぐのを止めると、船上で振るえる短めの刀や槍を引き抜いた。
雨の中に飛び込んで転覆するよりもやりあった方がマシだと判断したのだ。
海賊とはいえ、水軍崩れ。
船酔いはまったくなく、揺れる船で刀を振るえる平衡感覚の持ち主ばかりである。
どいつも海に落ちることすらも恐れない水練の達者揃いだ。
いざとなればさっきのような陸での戦いなど比べ物にならないしぶとさを発揮できる。
ついさっき仲間たちを膾のように切り刻んだ二人の化け物を相手にしても、船上でならやりあえるだろうと覚悟を決めた。
犬一も得意の三又の槍を手にして柄をしごく。
「……権藤ぉ、木曽野ぉ。邪魔なやつらめ!」
山川も脇差を抜く。
年齢のせいか体力がなくなっいることもあるが、舟の上で大刀を振り回すほどの力は山川にはなかった。
とはいえ、脇差も木立の要領で扱えば十分に役に立つ。
山川は舟の後尾に気絶して転がっている女の傍へとにじり寄った。
安定して立っていられる場所はそこしかなかった。
こんな沖での人間同士の争いなど無茶にも思えるが、双方退くことはすでにできない。
鵜殿衆は、小早舟の舵を右に目一杯とって、進行方向を全力で右に向けた。海賊の舟の左側面から襲うことにしたのだ。
逆に犬一は取り舵を選択し、左に舵を取った。
大きく回って後背を突くつもりなのだ。
だが、舟を小器用に動かすということでは、水軍よりも鯨捕りの方が上だ。
船同士でのいくさなど、すでに絶えて久しい日本では、水軍が培った技術も錆びついている。
存在するだけで危険な鯨を相手にして、縦横無尽に海上を漕ぎまわる勢子舟に慣れた鯨捕りの位置取りの上手さには及ばない。
「くそがっ! なんなんだよ! てめえら、尻をとられんな!」
犬一が槍を振って喚くが、これは無理というものだ。
舟の最後尾で舵を握る艫押役の弥多の操船についていけない。
背後を取ろうとしていたのに、右斜め前に正面からつっかけられることになった。
そして、正面の船首の水押の壇上には早矢銛を抱えた権藤がいた。
「ふん!」
全身の筋肉を振り絞って打った銛が海賊船めがけて飛んでいく。
まっすぐに雷のように飛んだ銛の穂先は舟に突っ込み、櫓を握っていた一人の胸に刺さった。
「おお!」
船首に立っていた犬一に命中しなかったのは偶然だった。
実際、権藤は狙いをつけていたのだから。
踏み込んだ時に大きな波が来た影響でわずかに指先が狂ったのである。
槍を構えていた犬一は震え上がった。
まさか、あんな非常識な位置から銛が飛んできて、水夫を貫いて惨殺できるとは思っていなかった。
海賊たちも恐慌状態に陥りかけた。
鉄砲でもなければ敵船となった小早舟の船首に立つあの大男に敵わないのが勘でわかったのだ。
「ぶつかれぇ! ぶつかって、奴を海へ振り落とすんだ!」
山川が叫んだ。
何もできないので船尾で攫ってきた女―――お汐であった―――の様子を見ていた山川からすれば、その程度のことしか思いつかない。
権藤伊左馬の化け物ぶりはよく知っている。
ついさっきも目撃したばかりだ。
しかし、それは剣においてのこと。
鯨捕りになっている間に、あんな銛をふるう化け物ぶりを発揮しているとは想定すらしていなかった。
(まずい!)
それしか思いつかない。
鵜殿の女を盾にという発想がないのは、この時代の女性の価値というものにあるのだが、そもそも山川はお汐と権藤の関係を知らなかった。
海賊どもの慰み者になる予定の女という認識しかないのだ。
ゆえに、舟同士をぶつけて権藤を海に突き落とすしかこの場での解決法はでてこなかった。
犬一もそれに乗った。
乗るしかなかった。
小兵のいくさ人として接近戦をする自負はあったものの、あの艫にいる大男―――あいつは、浜辺での苛烈な剣の腕前、先ほどのとてつもない銛の狙い、まともに相手にしてはいけない。
せっかく竜珠を手に入れてでかい大金とともに逃げ出そうとしていた矢先に、まさかあんなものに噛みつかれる羽目になるとは……
「てめえら、気張るで!」
突撃を指示した。
ぽつぽつと雨粒が降りつつある中、海賊どもは力いっぱいに櫓を漕いだ。
「こっちにやってくるぞ!」
形は奇しくもいくさでの一騎打ちのようになっていた。
二艘の舟の正面激突。
権藤と木曽野は激突の際、いつでも相手側に飛び移れるように身体を撓める。
ぶつかったときが勝負だった。
おそらく数瞬で勝負は決まるだろう。
多く落水した方が負けだ。
ズバァズバァと波を切り裂き、一気に加速した小早舟がもうすぐ互いに激突しようとした瞬間―――
大きな黒い影が海中でぐんぐんと広がっていく。
気泡がいくつもあがってくる。
見知った衝撃が盛り上がってきた。
海底にいた巨大なものが浮上してきたのだ。
鯨猟夫の足の裏がよく知っている感触だった。
―――下に生物がいる!
「転覆すんぞぉ!」
誰よりも最初に深海からの接近に気が付いた弥多が叫んだ。
船首の水押に足をかけて、前方の海を睨みつけながら権藤は考えた。
鯨獲りのときのように襦袢は着込まず、いつものままの着流し姿だ。
そのせいか、鯨を獲りに行くような高揚感もなく、海賊相手のいくさをするという華々しさもない。
ただ単に煩わしい。
それもこれもあの時化の日の竜退治のせいである。
あのときからこの世の理が壊れたような気がしていた。
彼にも告げずに和田吉右衛門たちが隠していた竜珠とかいう得体のしれぬものを巡って、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。
ずっと、これから先も何事もなく命がけで鯨捕りをしていくだろうと楽観していたのは、ついこの間のことだ。
もし死ぬとしても鯨と戦っているときに海で死ぬものだと決めていた。
まだ若い彼にとって、それは覆ることのない未来のはずだった。
「―――追いつくのか?」
権藤の暗澹たる気持ちを遮るように、すぐ後ろの木曾野蔵之介が聞いてきた。
左右四名ずつが櫓をこぎ、滑るように海面を行く船の上でまだ船酔いには襲われていないようだ。
あと少しの間持ってくれればいいが。
木曽野の腕を知っている権藤としては、この頼もしい同門が船酔いで戦闘不能にならないことを願うしかない。
はっきりしない将来のことよりも、まずは目の前のいくさだ。
頭を激しく振って、気を取り直す。
「こちらは慣れない船で、あちらが先行している。とはいえ、姿は見えているので時化が来なければなんとかなるだろう」
「見えるものなのか?」
「鯨捕りになれば慣れてくる。水軍よりもよっぽどいい」
「そうか」
敵は水軍崩れだが、海の武士と鯨猟夫では目星を付ける場所が違う。
戦うべき舟を探す目の付け所と、潜行もする鯨とではもちろん後者の方が感覚が鋭くならざるを得ない。
その猟夫としての権藤の眼は、先に行く小早舟とさらにその先にある関船を認めていた。
関船は、中型のいくさ用の和船である。
船上に矢倉という甲板を張った構造物があり、艪の数はだいたい40~80挺あるもののことをいう。大型のいくさ船の安宅船と違って、一本の水押が尖った船首をもつため、細長く速いのが特徴である。
今、権藤たちの乗っている小早を大きくした形態というとわかりやすい。鯨捕りの勢子舟にも似ていた。
中には取り外し可能な帆柱もあるため、巡航時には帆走し、必要となったら帆柱を矢倉の上に倒して艪に進むこともできる。
近寄ってくる船に対しては、総矢倉には狭間と呼ばれる銃眼が設けられていて、そこから鉄砲で射撃することも可能だが、幕府の取締りが厳しい昨今の風潮に従って鉄砲はないだろうと権藤はあたりをつけていた。
(斬り込めるか?)
崖の上からの奇襲ならばいざ知らず、この追跡劇で自分たちは敵に存在を知られている。
たとえ追いついてもお汐を奪還できるかは難しいし、鵜殿のことを考慮すると、せめて山川久三郎だけでも斬り殺しておきたい。
竜珠とやらは後回しだ。
そんなものは場合によっては海の藻屑と消えても構わない。
「権藤はん、荒れてきたぜ!」
弥多が叫んだ。
すでに確執は腹にしまい込んでいる。
二人ともなんとしてでもお汐を取り戻したいし、鵜殿を焼いた落とし前をつけさせたいのだ。
「すぐに時化が来るか。木曽野、おぬし、死んだかもしれんぞ」
「溺れて死ぬことになるとは思ってもいなかったよ」
「なに、そんなに辛くはないそうだ」
溺れて死んだことのない人間にわかるはずもない気休めを口にする。
「見ろ、関船だ!」
陸から四里(16キロメートル)のところに、関船が停泊していた。
錨を下ろしていないのでふらふらしている。
しかも、周辺にははっきりとわかるぐらいに雨がぱらついているようだった。
潮の早い海特有の部分的なスコールである。
まるで海賊たちの関船を狙ったかのように、そこだけが雨に降られていた。
「はまった。奴ら、これでは関船には近づけない」
「強引にいくのではないか?」
「海賊どもだけならばともかく若白髪にはそんな真似は出来まい。かといって、海賊どもが面倒くさがって、やつをここで始末するつもりならばさっきの浜で殺しておる。ご家老の親戚のあやつにはさすがに手は出せないはずだ。さらにいえば、十中八九、竜珠とやらは奴が持っているだろうしな」
追うものと追われるもの。
二艘の小早舟の距離は徐々に狭まっていく。
あの関船が海賊どもの母船だとしても、あそこまで荒れ果てた海に踏み入れるのは度胸がいるし、乗り移るのも不可能なので意味がない。
そして、もう陸に戻っている時間はなかった。
海賊どもとしては、追手と戦うしか道はないのだ。
「くそ、ここでやるしかねえかよ。おい、てめえら、気合入れろ! 同心と漁師なんぞぶち殺してやれ!」
かたや追われる方の犬一をはじめとした海賊どもも、櫓をこぐのを止めると、船上で振るえる短めの刀や槍を引き抜いた。
雨の中に飛び込んで転覆するよりもやりあった方がマシだと判断したのだ。
海賊とはいえ、水軍崩れ。
船酔いはまったくなく、揺れる船で刀を振るえる平衡感覚の持ち主ばかりである。
どいつも海に落ちることすらも恐れない水練の達者揃いだ。
いざとなればさっきのような陸での戦いなど比べ物にならないしぶとさを発揮できる。
ついさっき仲間たちを膾のように切り刻んだ二人の化け物を相手にしても、船上でならやりあえるだろうと覚悟を決めた。
犬一も得意の三又の槍を手にして柄をしごく。
「……権藤ぉ、木曽野ぉ。邪魔なやつらめ!」
山川も脇差を抜く。
年齢のせいか体力がなくなっいることもあるが、舟の上で大刀を振り回すほどの力は山川にはなかった。
とはいえ、脇差も木立の要領で扱えば十分に役に立つ。
山川は舟の後尾に気絶して転がっている女の傍へとにじり寄った。
安定して立っていられる場所はそこしかなかった。
こんな沖での人間同士の争いなど無茶にも思えるが、双方退くことはすでにできない。
鵜殿衆は、小早舟の舵を右に目一杯とって、進行方向を全力で右に向けた。海賊の舟の左側面から襲うことにしたのだ。
逆に犬一は取り舵を選択し、左に舵を取った。
大きく回って後背を突くつもりなのだ。
だが、舟を小器用に動かすということでは、水軍よりも鯨捕りの方が上だ。
船同士でのいくさなど、すでに絶えて久しい日本では、水軍が培った技術も錆びついている。
存在するだけで危険な鯨を相手にして、縦横無尽に海上を漕ぎまわる勢子舟に慣れた鯨捕りの位置取りの上手さには及ばない。
「くそがっ! なんなんだよ! てめえら、尻をとられんな!」
犬一が槍を振って喚くが、これは無理というものだ。
舟の最後尾で舵を握る艫押役の弥多の操船についていけない。
背後を取ろうとしていたのに、右斜め前に正面からつっかけられることになった。
そして、正面の船首の水押の壇上には早矢銛を抱えた権藤がいた。
「ふん!」
全身の筋肉を振り絞って打った銛が海賊船めがけて飛んでいく。
まっすぐに雷のように飛んだ銛の穂先は舟に突っ込み、櫓を握っていた一人の胸に刺さった。
「おお!」
船首に立っていた犬一に命中しなかったのは偶然だった。
実際、権藤は狙いをつけていたのだから。
踏み込んだ時に大きな波が来た影響でわずかに指先が狂ったのである。
槍を構えていた犬一は震え上がった。
まさか、あんな非常識な位置から銛が飛んできて、水夫を貫いて惨殺できるとは思っていなかった。
海賊たちも恐慌状態に陥りかけた。
鉄砲でもなければ敵船となった小早舟の船首に立つあの大男に敵わないのが勘でわかったのだ。
「ぶつかれぇ! ぶつかって、奴を海へ振り落とすんだ!」
山川が叫んだ。
何もできないので船尾で攫ってきた女―――お汐であった―――の様子を見ていた山川からすれば、その程度のことしか思いつかない。
権藤伊左馬の化け物ぶりはよく知っている。
ついさっきも目撃したばかりだ。
しかし、それは剣においてのこと。
鯨捕りになっている間に、あんな銛をふるう化け物ぶりを発揮しているとは想定すらしていなかった。
(まずい!)
それしか思いつかない。
鵜殿の女を盾にという発想がないのは、この時代の女性の価値というものにあるのだが、そもそも山川はお汐と権藤の関係を知らなかった。
海賊どもの慰み者になる予定の女という認識しかないのだ。
ゆえに、舟同士をぶつけて権藤を海に突き落とすしかこの場での解決法はでてこなかった。
犬一もそれに乗った。
乗るしかなかった。
小兵のいくさ人として接近戦をする自負はあったものの、あの艫にいる大男―――あいつは、浜辺での苛烈な剣の腕前、先ほどのとてつもない銛の狙い、まともに相手にしてはいけない。
せっかく竜珠を手に入れてでかい大金とともに逃げ出そうとしていた矢先に、まさかあんなものに噛みつかれる羽目になるとは……
「てめえら、気張るで!」
突撃を指示した。
ぽつぽつと雨粒が降りつつある中、海賊どもは力いっぱいに櫓を漕いだ。
「こっちにやってくるぞ!」
形は奇しくもいくさでの一騎打ちのようになっていた。
二艘の舟の正面激突。
権藤と木曽野は激突の際、いつでも相手側に飛び移れるように身体を撓める。
ぶつかったときが勝負だった。
おそらく数瞬で勝負は決まるだろう。
多く落水した方が負けだ。
ズバァズバァと波を切り裂き、一気に加速した小早舟がもうすぐ互いに激突しようとした瞬間―――
大きな黒い影が海中でぐんぐんと広がっていく。
気泡がいくつもあがってくる。
見知った衝撃が盛り上がってきた。
海底にいた巨大なものが浮上してきたのだ。
鯨猟夫の足の裏がよく知っている感触だった。
―――下に生物がいる!
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