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* 死神生活一年目 *
第45話 ケイティーの幸せ★One day
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「いやだ、寝込みを襲いに来るだなんて。薫ちゃんの破廉恥」
恥ずかしそうにもぞもぞと布団の底へと沈んでいくマッコイを、死神ちゃんは布団の上から必死に叩いた。
「ちょっと待てよ! 襲われたのは俺のほうなんだって! 正確には、ただ添い寝されてただけだけど! 何でケイティーさんが俺と一緒に寝てるんだよ!」
マッコイが静かに動かなくなったのをいいことに、死神ちゃんは掛け布団を勢い良く剥ぎとった。すると、彼は何事もなかったかのように布団をかけ直し、気まずそうに寝返りを打って死神ちゃんに背中を向けた。
「ごめんなさいね。でも、アタシも被害者なのよ? おもてなしした後、そのまま夜勤なんだもの、せめて朝くらいはのんびりしたかったのに叩き起こされて……」
「いや、そんな、追い返せばよかっただろう!?」
死神ちゃんが非難がましくそう言うと、マッコイはごろりと死神ちゃんのほうを向き、布団にくるまったまま困り顔を浮かべた。
「もちろん『帰れ』って言ったわよ。でも、『起床ラッパの時間は過ぎてるんだし、問題ないでしょ』ってゴネられて。ここは軍隊じゃないんだから、ラッパなんて鳴らないっていうのにね」
死神ちゃんが押し黙ると、マッコイは起き上がって苦笑いを浮かべた。
「アタシ、もう起きるから、まだ眠たいならベッド使ってもいいわよ。それとも、ケイティーにハグされに戻る?」
「いや、俺ももう目ぇ覚めちまったよ……。だからさ、朝飯、食いに行こう……」
「ええ、いいわよ。――あ、あの子のことは起こさなくていいから。楽しみすぎて興奮しちゃって、夜ほとんど寝てないんですって」
死神ちゃんは乾いた笑みを浮かべると「着替えてくる」と言ってがっくりと肩を落とした。マッコイはしょんぼりとうなだれる死神ちゃんの背中を見送ると、溜め息をひとつついてベッドから降りた。
**********
朝食から戻ってきた二人が死神ちゃんの部屋に戻ってみると、テディベアを抱えたケイティーがベッドの隅で体育座りをしていた。彼女はいじけ顔で二人を見つめると、不服そうな声でボソボソと言った。
「何で起こしてくれなかったのさ。一緒に朝ごはん食べたかったのに。ケチ!」
「そもそも、早朝から押しかけて来ないでください」
死神ちゃんが顔をしかめると、ケイティーが「だって」と呟いた。
本日はケイティーが待ちに待った〈第三死神寮でのお泊りの日〉だった。死神課の監督業務は彼女の他にも権限を持つ者がいるのでどうにかなるのだが、第一死神寮の管理権限は彼女だけが有している。そのため、寮長仕事のほうはひとまず代役を立てようということになり、天狐の世話役を難なくこなす有能なおみつが〈一日寮長〉に抜擢された。
しかし、おみつがやって来るのはお昼すぎからの予定となっていた。何故なら、天狐が午前中に〈お勉強〉の予定が入っていたからだ。だから、ケイティーが午前中から第三にやって来るというだけでも早過ぎるのだが、これが早朝には既に来ているとなると〈早過ぎ〉どころの騒ぎではない。
「そんなに楽しみだったんですか」
「うん……」
呆れ顔の死神ちゃんに、ケイティーはくまをギュッと抱きしめながらコクリと頷いた。死神ちゃんとマッコイが〈仕方ないな〉と言わんばかりに苦笑すると、しょんぼり顔のケイティーが俯かせていた顔を上げてポツリと言った。
「怒らないの?」
「今さら怒ってもねえ? ほら、朝ごはん食べに行くなら、行きましょう。デザートを食べるくらいの余裕は残しておいたから、付き合うわよ」
そう言ってマッコイが笑うと、死神ちゃんもニッと笑みを浮かべた。ケイティーは嬉しそうに勢い良く頷くと、二人を伴って死神ちゃんの部屋をあとにした。
**********
ケイティーは朝食をとりながら、死神ちゃんの部屋の可愛さに感動した旨をキラキラとした目で捲し立てた。死神ちゃんとマッコイはそれを笑顔で聞きながら、デザートと珈琲を口に運んだ。
天狐とおみつがやって来たのは、昼食ついでに夕飯の食材を買い出しに行って帰ってくるのとちょうど同じころだった。ケイティーがおみつに本日の礼を述べていると、天狐が嬉しそうに死神ちゃんに抱きついて頬にチューをした。そして、天狐はマッコイにも同じく抱きつきチューをした。その様子を見ていたケイティーが愕然とした表情で唸るように言った。
「これは、一体、どういうことなの……」
「ああ。アタシとアリサが挨拶してるのをどこかで見たらしくてね。それ以来、天狐ちゃんのマイブームになっているみたいで」
「いや、アレはあんなガッツリとチューするもんじゃないだろう……」
天狐は硬直するケイティーを笑顔で見上げると、両手を広げながら言った。
「練習したのじゃがの、これが中々上手くいかなくてのう。嫌でないなら、おケイにも挨拶させて欲しいのじゃが」
「あ~ん! 嬉しいに決まってるじゃな~い!」
ケイティーは天狐を抱きしめると、頬に挨拶のキスをした。そして、天狐からチューをしてもらうと、彼女は嬉しそうにデレデレとしながら「天狐ちゃんが私にもチューしてくれた」と繰り返していた。
天狐は挨拶を済ませると、マッコイに駆け寄って入館者名簿を催促した。そしてミミズののたくったような字で一生懸命に自分の名前を書くと、〈上手に書けた? ちゃんとルールを守って、自分で名簿に名前を書いたよ!〉と言いたげなキラキラとした瞳で一同を見渡した。
天狐は以前、無断入館した際にマッコイとおみつに「権力者だからといってルールを守らなくていいというわけではない」と怒られた。それ以来、自分できちんと名簿に名前を書いている。一同は笑顔を浮かべて〈反応待ち〉をしている天狐に相好を崩すと、かわるがわる頭を撫でてやった。
**********
死神ちゃんの部屋に移動すると、死神ちゃんとケイティー、天狐はのんびりと会話を楽しんだ。ふと天狐が不思議そうな面持ちで首を傾げ、死神ちゃんとケイティーがどうしたのかと尋ねると、天狐は死神ちゃんをきょとんとした顔で見つめて言った。
「どうしてお花はおケイには敬語なのじゃ?」
「いやだって、ケイティーさんは上司だし」
「それ言ったら、マッコイだって上司だろう。ていうか、その見た目で敬語使われるの、さすがにモヤモヤするからタメ口でいいよ。それに、お前のほうが年上なんだし」
ケイティーの言葉に死神ちゃんがぎょっとすると、ちょうどドアをノックする音がした。動揺する死神ちゃんに代わってケイティーが返事をした。すると、マッコイが開けたドアの隙間から顔を覗かせて「誰か、手伝ってくれない?」と声をかけてきた。ケイティーは目を輝かせると、パタパタと部屋を出て行った。
しばらくして、マッコイとケイティーが三人分の料理を運んできた。頂きますの挨拶をしたあと、早速料理を一口パクリと口に放り込んだケイティーが俯いてふるふると震えだした。死神ちゃんと天狐が心配そうに彼女を見つめると、ケイティーは俯いたままポツリと言った。
「私、マッコイん家の子になる……」
「いらないわよ。こんな、自分よりも年上の娘なんて」
ケイティーは勢い良く顔を上げると、顔色一つ変えずに即答したマッコイを睨みつけた。そして彼女はお決まりの文句である「マッコイのケチ!」を口にし、マッコイは何故か楽しそうにクスクスと笑った。
そのやり取りに死神ちゃんは驚愕の表情で固まった。マッコイが不思議そうに首を傾げると、ケイティーがケラケラと笑いながら言った。
「あんたさ、小花に私達の年齢、言ってないでしょ。私達が年下だと知って、びっくりしているみたいよ」
「あら、別にわざわざ言うこともないかと思ってたけど、そんな驚くくらいなら教えておいたほうが良かったのかしら」
「あ、いや、何ていうか、その……クレイジーフォックスの噂は俺がまだ若いころから耳にしてきたものだったから、まさか年下とは思わなくて……」
しどろもどろにそう言う死神ちゃんに、ケイティーは楽しげに何度も頷いた。
「やっぱそこ、びっくりするよね。私もびっくりしたもん。ちなみに、私がお前よりひとつ下で、こいつはお前の五歳下。――二十代のうちに死んだから、見た目はピチピチなんだけどね~」
いまだ吃驚中の死神ちゃんが目をパチクリとさせていると、マッコイが苦笑いを浮かべた。
「でもね、この中で一番年上なのは、実は天狐ちゃんなのよね」
天狐は口の中にいっぱい詰め込んだものを一生懸命飲み下すと、得意気に笑って「うむ!」と胸を張った。ケイティーは天狐に笑みを向けると、べったりと汚れた彼女の口の周りを嬉しそうに拭ってやった。
**********
夜勤のマッコイを見送ると、三人はそのままお風呂へと向かった。マッコイから拝借した〈マッコイ使用中〉の札を暖簾にかけて〈お風呂貸し切り〉の準備が整うと、ケイティーは嬉しそうに暖簾をくぐっていった。
〈三人で頭を洗い合い、背中を流し合おう〉という提案に、死神ちゃんは一瞬頬を引きつらせた。いつぞやのマッコイの悲劇を思い出したからだ。しかし、ケイティーはとても優しく、そして丁寧に死神ちゃんと天狐を洗ってくれた。
湯に浸かりホッと一息つくと、天狐が「もうすぐ夏休みじゃのう」と呟いた。たまにはしっかりと休みたいという思惑なのか、冒険者ギルドは夏と冬に長期休暇を儲けている。それに伴いダンジョンも閉鎖されるため、裏世界の住人もその期間中はのんびりとバカンスを楽しんでいた。「お前は里帰りするのか」と死神ちゃんが質問すると、天狐は嬉しそうに頷いた。そして少し申し訳なさそうに笑うと、手にしていたアヒルのおもちゃをにぎにぎしながら言った。
「夏休みにお泊りできたらの、マッコも一緒に四人でお風呂に入れていたのじゃが。でも、里帰りせぬと、父上がしょんぼり拗ねてしまうのじゃ」
「気にしないでよ、天狐ちゃん。また時間作ってさ、今度は四人で一緒に入ろう」
ケイティーは天狐を抱きしめ、頬ずりしながらそう言った。嬉しそうに何度も頷く天狐とニコニコと笑うケイティーを眺めながら、死神ちゃんもほっこり暖かな気持ちになった。
**********
ケイティーの希望通り、死神ちゃんと天狐は彼女を間に挟む形でベッドに寝転んだ。眠たくなるまでおしゃべりしようということになり、三人はとめどない会話をのんびりと楽しんだ。
その中の話題で、〈夏休みには一日、社員総出で海水浴に行く日がある〉というのを死神ちゃんは知った。天狐は水着にこだわりがあるそうで、「見てからのお楽しみ」と言って不敵に笑った。
天狐が寝落ちすると、ケイティーは感慨深げに息をつき、そして天井をぼんやりと見つめながらしみじみと言った。
「あー……幸せ……。私、幸せすぎて、もう転生してもいいかもしれない」
死神ちゃんが戸惑いの声を上げると、彼女は死神ちゃんの方を向いてにこやかに笑った。
「ただの例えだよ。まだ、お前や天狐ちゃんやマッコイやみんなと、楽しいこといっぱいしたいもん。当分転生なんてしないよ。そもそも、転生資金が貯まるのだってまだ先だしね」
ケイティーは死神ちゃんのほうにごろりと寝返りを打つと、嬉しそうに目を細めて言った。
「小花、今日は朝っぱらからずっと、私の我が儘に付き合ってくれてありがとうね。おかげで、本当に幸せな一日だったよ」
死神ちゃんは照れくさそうにフッと笑った。するとケイティーは死神ちゃんの後頭部に腕を回して、そして死神ちゃんのおでこに軽くキスをした。
ケイティーは驚き顔の死神ちゃんにニヤリと笑うと楽しそうに声を弾ませた。
「これでお礼になるかは分からないけど。あ、マッコイには内緒ね」
「何でマッコイに内緒なんだよ」
ケイティーは死神ちゃんの質問に答えることなく「さ、早く寝よう寝よう」と言いながら、ごろりと天狐側へと寝返りを打って天狐にぴったりとくっついた。しかめっ面を浮かべつつも、死神ちゃんも眠りについたのだった。
――――なお、寝相の悪い天狐と一緒に寝ると毎回掛け布団を丸々奪われる死神ちゃんですが、ケイティーもそこそこ寝相が悪かったため、死神ちゃんは今回、起きたらベッドから落とされていたそうDEATH。
恥ずかしそうにもぞもぞと布団の底へと沈んでいくマッコイを、死神ちゃんは布団の上から必死に叩いた。
「ちょっと待てよ! 襲われたのは俺のほうなんだって! 正確には、ただ添い寝されてただけだけど! 何でケイティーさんが俺と一緒に寝てるんだよ!」
マッコイが静かに動かなくなったのをいいことに、死神ちゃんは掛け布団を勢い良く剥ぎとった。すると、彼は何事もなかったかのように布団をかけ直し、気まずそうに寝返りを打って死神ちゃんに背中を向けた。
「ごめんなさいね。でも、アタシも被害者なのよ? おもてなしした後、そのまま夜勤なんだもの、せめて朝くらいはのんびりしたかったのに叩き起こされて……」
「いや、そんな、追い返せばよかっただろう!?」
死神ちゃんが非難がましくそう言うと、マッコイはごろりと死神ちゃんのほうを向き、布団にくるまったまま困り顔を浮かべた。
「もちろん『帰れ』って言ったわよ。でも、『起床ラッパの時間は過ぎてるんだし、問題ないでしょ』ってゴネられて。ここは軍隊じゃないんだから、ラッパなんて鳴らないっていうのにね」
死神ちゃんが押し黙ると、マッコイは起き上がって苦笑いを浮かべた。
「アタシ、もう起きるから、まだ眠たいならベッド使ってもいいわよ。それとも、ケイティーにハグされに戻る?」
「いや、俺ももう目ぇ覚めちまったよ……。だからさ、朝飯、食いに行こう……」
「ええ、いいわよ。――あ、あの子のことは起こさなくていいから。楽しみすぎて興奮しちゃって、夜ほとんど寝てないんですって」
死神ちゃんは乾いた笑みを浮かべると「着替えてくる」と言ってがっくりと肩を落とした。マッコイはしょんぼりとうなだれる死神ちゃんの背中を見送ると、溜め息をひとつついてベッドから降りた。
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朝食から戻ってきた二人が死神ちゃんの部屋に戻ってみると、テディベアを抱えたケイティーがベッドの隅で体育座りをしていた。彼女はいじけ顔で二人を見つめると、不服そうな声でボソボソと言った。
「何で起こしてくれなかったのさ。一緒に朝ごはん食べたかったのに。ケチ!」
「そもそも、早朝から押しかけて来ないでください」
死神ちゃんが顔をしかめると、ケイティーが「だって」と呟いた。
本日はケイティーが待ちに待った〈第三死神寮でのお泊りの日〉だった。死神課の監督業務は彼女の他にも権限を持つ者がいるのでどうにかなるのだが、第一死神寮の管理権限は彼女だけが有している。そのため、寮長仕事のほうはひとまず代役を立てようということになり、天狐の世話役を難なくこなす有能なおみつが〈一日寮長〉に抜擢された。
しかし、おみつがやって来るのはお昼すぎからの予定となっていた。何故なら、天狐が午前中に〈お勉強〉の予定が入っていたからだ。だから、ケイティーが午前中から第三にやって来るというだけでも早過ぎるのだが、これが早朝には既に来ているとなると〈早過ぎ〉どころの騒ぎではない。
「そんなに楽しみだったんですか」
「うん……」
呆れ顔の死神ちゃんに、ケイティーはくまをギュッと抱きしめながらコクリと頷いた。死神ちゃんとマッコイが〈仕方ないな〉と言わんばかりに苦笑すると、しょんぼり顔のケイティーが俯かせていた顔を上げてポツリと言った。
「怒らないの?」
「今さら怒ってもねえ? ほら、朝ごはん食べに行くなら、行きましょう。デザートを食べるくらいの余裕は残しておいたから、付き合うわよ」
そう言ってマッコイが笑うと、死神ちゃんもニッと笑みを浮かべた。ケイティーは嬉しそうに勢い良く頷くと、二人を伴って死神ちゃんの部屋をあとにした。
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ケイティーは朝食をとりながら、死神ちゃんの部屋の可愛さに感動した旨をキラキラとした目で捲し立てた。死神ちゃんとマッコイはそれを笑顔で聞きながら、デザートと珈琲を口に運んだ。
天狐とおみつがやって来たのは、昼食ついでに夕飯の食材を買い出しに行って帰ってくるのとちょうど同じころだった。ケイティーがおみつに本日の礼を述べていると、天狐が嬉しそうに死神ちゃんに抱きついて頬にチューをした。そして、天狐はマッコイにも同じく抱きつきチューをした。その様子を見ていたケイティーが愕然とした表情で唸るように言った。
「これは、一体、どういうことなの……」
「ああ。アタシとアリサが挨拶してるのをどこかで見たらしくてね。それ以来、天狐ちゃんのマイブームになっているみたいで」
「いや、アレはあんなガッツリとチューするもんじゃないだろう……」
天狐は硬直するケイティーを笑顔で見上げると、両手を広げながら言った。
「練習したのじゃがの、これが中々上手くいかなくてのう。嫌でないなら、おケイにも挨拶させて欲しいのじゃが」
「あ~ん! 嬉しいに決まってるじゃな~い!」
ケイティーは天狐を抱きしめると、頬に挨拶のキスをした。そして、天狐からチューをしてもらうと、彼女は嬉しそうにデレデレとしながら「天狐ちゃんが私にもチューしてくれた」と繰り返していた。
天狐は挨拶を済ませると、マッコイに駆け寄って入館者名簿を催促した。そしてミミズののたくったような字で一生懸命に自分の名前を書くと、〈上手に書けた? ちゃんとルールを守って、自分で名簿に名前を書いたよ!〉と言いたげなキラキラとした瞳で一同を見渡した。
天狐は以前、無断入館した際にマッコイとおみつに「権力者だからといってルールを守らなくていいというわけではない」と怒られた。それ以来、自分できちんと名簿に名前を書いている。一同は笑顔を浮かべて〈反応待ち〉をしている天狐に相好を崩すと、かわるがわる頭を撫でてやった。
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死神ちゃんの部屋に移動すると、死神ちゃんとケイティー、天狐はのんびりと会話を楽しんだ。ふと天狐が不思議そうな面持ちで首を傾げ、死神ちゃんとケイティーがどうしたのかと尋ねると、天狐は死神ちゃんをきょとんとした顔で見つめて言った。
「どうしてお花はおケイには敬語なのじゃ?」
「いやだって、ケイティーさんは上司だし」
「それ言ったら、マッコイだって上司だろう。ていうか、その見た目で敬語使われるの、さすがにモヤモヤするからタメ口でいいよ。それに、お前のほうが年上なんだし」
ケイティーの言葉に死神ちゃんがぎょっとすると、ちょうどドアをノックする音がした。動揺する死神ちゃんに代わってケイティーが返事をした。すると、マッコイが開けたドアの隙間から顔を覗かせて「誰か、手伝ってくれない?」と声をかけてきた。ケイティーは目を輝かせると、パタパタと部屋を出て行った。
しばらくして、マッコイとケイティーが三人分の料理を運んできた。頂きますの挨拶をしたあと、早速料理を一口パクリと口に放り込んだケイティーが俯いてふるふると震えだした。死神ちゃんと天狐が心配そうに彼女を見つめると、ケイティーは俯いたままポツリと言った。
「私、マッコイん家の子になる……」
「いらないわよ。こんな、自分よりも年上の娘なんて」
ケイティーは勢い良く顔を上げると、顔色一つ変えずに即答したマッコイを睨みつけた。そして彼女はお決まりの文句である「マッコイのケチ!」を口にし、マッコイは何故か楽しそうにクスクスと笑った。
そのやり取りに死神ちゃんは驚愕の表情で固まった。マッコイが不思議そうに首を傾げると、ケイティーがケラケラと笑いながら言った。
「あんたさ、小花に私達の年齢、言ってないでしょ。私達が年下だと知って、びっくりしているみたいよ」
「あら、別にわざわざ言うこともないかと思ってたけど、そんな驚くくらいなら教えておいたほうが良かったのかしら」
「あ、いや、何ていうか、その……クレイジーフォックスの噂は俺がまだ若いころから耳にしてきたものだったから、まさか年下とは思わなくて……」
しどろもどろにそう言う死神ちゃんに、ケイティーは楽しげに何度も頷いた。
「やっぱそこ、びっくりするよね。私もびっくりしたもん。ちなみに、私がお前よりひとつ下で、こいつはお前の五歳下。――二十代のうちに死んだから、見た目はピチピチなんだけどね~」
いまだ吃驚中の死神ちゃんが目をパチクリとさせていると、マッコイが苦笑いを浮かべた。
「でもね、この中で一番年上なのは、実は天狐ちゃんなのよね」
天狐は口の中にいっぱい詰め込んだものを一生懸命飲み下すと、得意気に笑って「うむ!」と胸を張った。ケイティーは天狐に笑みを向けると、べったりと汚れた彼女の口の周りを嬉しそうに拭ってやった。
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夜勤のマッコイを見送ると、三人はそのままお風呂へと向かった。マッコイから拝借した〈マッコイ使用中〉の札を暖簾にかけて〈お風呂貸し切り〉の準備が整うと、ケイティーは嬉しそうに暖簾をくぐっていった。
〈三人で頭を洗い合い、背中を流し合おう〉という提案に、死神ちゃんは一瞬頬を引きつらせた。いつぞやのマッコイの悲劇を思い出したからだ。しかし、ケイティーはとても優しく、そして丁寧に死神ちゃんと天狐を洗ってくれた。
湯に浸かりホッと一息つくと、天狐が「もうすぐ夏休みじゃのう」と呟いた。たまにはしっかりと休みたいという思惑なのか、冒険者ギルドは夏と冬に長期休暇を儲けている。それに伴いダンジョンも閉鎖されるため、裏世界の住人もその期間中はのんびりとバカンスを楽しんでいた。「お前は里帰りするのか」と死神ちゃんが質問すると、天狐は嬉しそうに頷いた。そして少し申し訳なさそうに笑うと、手にしていたアヒルのおもちゃをにぎにぎしながら言った。
「夏休みにお泊りできたらの、マッコも一緒に四人でお風呂に入れていたのじゃが。でも、里帰りせぬと、父上がしょんぼり拗ねてしまうのじゃ」
「気にしないでよ、天狐ちゃん。また時間作ってさ、今度は四人で一緒に入ろう」
ケイティーは天狐を抱きしめ、頬ずりしながらそう言った。嬉しそうに何度も頷く天狐とニコニコと笑うケイティーを眺めながら、死神ちゃんもほっこり暖かな気持ちになった。
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ケイティーの希望通り、死神ちゃんと天狐は彼女を間に挟む形でベッドに寝転んだ。眠たくなるまでおしゃべりしようということになり、三人はとめどない会話をのんびりと楽しんだ。
その中の話題で、〈夏休みには一日、社員総出で海水浴に行く日がある〉というのを死神ちゃんは知った。天狐は水着にこだわりがあるそうで、「見てからのお楽しみ」と言って不敵に笑った。
天狐が寝落ちすると、ケイティーは感慨深げに息をつき、そして天井をぼんやりと見つめながらしみじみと言った。
「あー……幸せ……。私、幸せすぎて、もう転生してもいいかもしれない」
死神ちゃんが戸惑いの声を上げると、彼女は死神ちゃんの方を向いてにこやかに笑った。
「ただの例えだよ。まだ、お前や天狐ちゃんやマッコイやみんなと、楽しいこといっぱいしたいもん。当分転生なんてしないよ。そもそも、転生資金が貯まるのだってまだ先だしね」
ケイティーは死神ちゃんのほうにごろりと寝返りを打つと、嬉しそうに目を細めて言った。
「小花、今日は朝っぱらからずっと、私の我が儘に付き合ってくれてありがとうね。おかげで、本当に幸せな一日だったよ」
死神ちゃんは照れくさそうにフッと笑った。するとケイティーは死神ちゃんの後頭部に腕を回して、そして死神ちゃんのおでこに軽くキスをした。
ケイティーは驚き顔の死神ちゃんにニヤリと笑うと楽しそうに声を弾ませた。
「これでお礼になるかは分からないけど。あ、マッコイには内緒ね」
「何でマッコイに内緒なんだよ」
ケイティーは死神ちゃんの質問に答えることなく「さ、早く寝よう寝よう」と言いながら、ごろりと天狐側へと寝返りを打って天狐にぴったりとくっついた。しかめっ面を浮かべつつも、死神ちゃんも眠りについたのだった。
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