転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
217 / 362
* 死神生活ニ年目 *

第217話 死神ちゃんと金の亡者③

しおりを挟む
 死神ちゃんは〈担当のパーティーターゲット〉を求めて五階を彷徨さまよっていた。すると、前方で見慣れた男が四つ這いになって、石ころを拾っては捨てを必死に繰り返していた。死神ちゃんはこっそりと近づいていくと、彼の背中に腰を下ろした。彼は驚いて悲鳴を上げると、背中のものを跳ね飛ばすように勢い良く起き上がった。そして、目の前でふよふよと浮いている死神ちゃんを見て苦い顔を浮かべた。


「またお前かよ。事あるごとにいちいち現れて、本当に迷惑なやつだな!」

「そういうお仕事なんです」


 死神ちゃんがにっこりと微笑むと、男――金の亡者はフンと鼻を鳴らした。死神ちゃんは目をパチクリとさせると、首を傾げた。


「お前、よく一人で、ここまで降りて来られたな。お前の腕じゃあ、まだまだ無理だろうに」

「ふふん。金の匂いのするところに、僕は現れるのさ」


 彼は五階では希少な魔石や宝石類が産出されるという話を聞いて、〈姿くらまし〉の術を駆使して必死に降りてきたのだという。先ほど這いつくばっていたのも、宝石の原石が落ちてやしないかと目をサラにしていたのだそうだ。死神ちゃんは頬を引きつらせると「さすが、金の亡者だな」とポツリと呟いた。金の亡者は死神ちゃんを一層睨みつけると、死神ちゃんに〈お前のせいで、今までいくらの損失があったのか〉というようなことを捲し立てた。
 死神ちゃんに対して訴えを起こしたくても受理されるはずがないということも、動く鎧が超絶合身したせいで持ち帰れなかったのも、怪しげなおっさんと手を組んで〈自分の言いなりになる、無給の労働力〉を手に入れつつ資金源を得ようと画策したものの失敗に終わったのも、死神ちゃんを責めるのはお門違いも良いところだった。しかし彼は、怒り顔で捲し立てつつも、どこか嬉しそうだった。死神ちゃんは、思わず顔をしかめた。


「お前、文句を垂れ流している割に、何でそんなに嬉しそうなんだよ」

「ハッ、しまった! つい癖で! いつもなら、たたみかけるようにクレームをつければ、最終的にはオイシイ思いができるから!」

「ゴネ得ってやつか、さもしいな」

「うるさいな! 一銅貨を笑うものは、一銅貨に泣くんだよ! だから一銅貨でも少なく済むように努力することの、何が悪いっていうんだ!」

「それ、言葉の使い方、間違ってるから。ていうか、ますますもってさもしいぞ」


 死神ちゃんが軽蔑するように金の亡者を見下げると、彼は不服げに地団駄を踏んだ。しかし一転してニヤリと笑うと、死神ちゃんは考え違いをしていると言い出した。死神ちゃんが訝しげに眉根を寄せると、彼はポーチの中から大切そうにリングケースを取り出した。――中に収められていたのは、なんとダイヤモンドリングだった。


「僕だって、金を使うべきところでは使うんだよ」

「……すごく、奇特な女性だな。大切にしろよ」


 死神ちゃんはキラキラと輝きを放つ指輪を不憫そうに見つめながら、とても気の毒そうにポツリと言った。金の亡者は驚いてギョッと目を剥くと、素っ頓狂な声を上げた。


「何言ってるんだよ! これがなわけないだろう!? 僕は結婚するのなら、僕の金に一切興味のない女とって決めているんだ。だから、指輪も式も、望むなら自分で用意させるし!」

「中々に最低だなあ。――じゃあ、それは何だ、投資用か?」


 死神ちゃんが苦い顔でそう言うと、彼は当然とばかりに頷いた。投資と言っても〈相場変動を見極めて、いい頃合いで売り払う〉ということではなく、別の金稼ぎに使用するらしい。死神ちゃんが首を傾げると、彼は意気揚々と話し始めた。


「この階層のどこかで、ドッペルゲンガーというモンスターと遭遇できるんだろう? そいつと召喚契約を結ぶのさ。この指輪は、召喚師でなくてもそういうことが可能になる、素晴らしいアイテムなんだ」

「ああ、それ、ダンジョン産の特殊なやつだったのか」

「そうとも。ちなみに、この指輪ひとつだと、一体のモンスターと契約が可能だ。――で、ドッペルゲンガーと契約できたら、そいつを使ってビジネスをひとつ立ち上げようと思っていてね。ドッペルゲンガーを街で見かけた〈うちの会社の利用者でないヤツ〉に変身させて、契約書にサインさせるんだ。そして、それを持って支払い請求をしに行くのさ、〈あなた、サインしてますよね?〉ってね」

「……それ、完全に詐欺行為じゃあないか。お前、逮捕されて、会社も潰れると思うぞ」


 死神ちゃんは呆れ返って口をあんぐりとさせた。金の亡者はグッと息を飲みつつも「だったら、そいつの年いった両親や祖父母を狙って……」と呻くように言った。死神ちゃんはため息をつくと、たかしのばあちゃんについて話した。すると、金の亡者はがっくりと膝を折り、地面に手をついた。


「巷のお年寄りが、そんな凶悪な強さを有しているだなんて……。もしも騙したってバレた日には、通報されるだけじゃあ済まないじゃあないか。絶対にボッコボコにされるだろ、それ……」

「残念だったな。だからもう、諦めて真っ当に働けよ。一攫千金なんて、運良くレアアイテムを手に入れたとか、宝くじが当たったとか、そういうの以外では普通ありえないことなんだから」


 死神ちゃんは彼の肩にポンと手を置いた。悔しそうに顔を上げた彼は、何故か驚いて顔をしかめた。訝しげに「どうしたんだ」と尋ねる死神ちゃんに、彼は小さな声で「後ろ」と繰り返した。死神ちゃんが振り返ると、そこには金の亡者そっくりの何かが立っていた。


「これ、もしかして、噂のドッペルゲンガーさんじゃあないですかね?」

「だよな? だよな!?」


 金の亡者は喜々として立ち上がると、いそいそと指輪を指に嵌めた。どうやら、召喚契約を試みるつもりらしい。死神ちゃんは顔をしかめると「詐欺は諦めたんじゃあないのか」と尋ねた。すると、彼はニヤニヤと笑って答えた。


「僕はタダでは起き上がらない男なんだ。他に使い道があるかもしれないから、とりあえず契約しておくのさ」


 一度何かしらと契約を交わしてしまうと、召喚契約の可能枠が消費されてしまう。しかし、その枠が何らかの理由で増えないことには契約不能というわけではなく、契約中の者との契約を解除すれば、また新たな者と契約が可能になるそうだ。だから、今その契約枠を使ってしまっても損はないのだという。
 彼はさっそく、ドッペルゲンガーと交渉に入った。彼は自分と契約した際のメリットを得意げに語った――しかし、どうやらそのほとんどがでっち上げのようだった――のだが、ドッペルゲンガーはちっとも興味を示そうとはしなかった。どうしたら契約に到れるかと金の亡者が考えあぐねいていると、ドッペルゲンガーはニヤリと笑って言った。


「その指輪をくれるなら、考えても良い。それ、ダイヤモンドだろう? いい金になるじゃあないか。今日の買取相場は昨日・一昨日と比べてとてもいいと聞く。今が売りどきのようだから、それを報酬にもらえたら、さっそく売りに行くよ」

「いや、これは譲るわけにはいかないんだが。お前、いくら僕の姿を真似ているとはいえ、そういうところまでは真似なくていいんだぞ」

「じゃあ、他には何か、金目のものは持っていないのか? 金になるような情報でもいい。さあ、契約したいなら早くよこせ」

「だから、そういうところまでは真似なくていいんだよ!」

「何でだよ。渡る世間はギブアンドテイク。何でも、金次第でどうにかなるんだろう? ――ほら、早くよこせよ」


 金の亡者は「嫌だ!」と叫ぶと、踵を返して走り出した。それを、ドッペルゲンガーが血走った目で「金、金」と呻きながら追いかけた。しかし、ドッペルゲンガーから懸命に逃げていたはずの金の亡者は何かを察知して、戻り道とは違う道に進んでいった。


「わあい、金だー!」


 そして金の亡者とドッペルゲンガーは、空飛ぶ金貨クリーピングコインの群れに笑顔で突っ込んでいき自滅した。死神ちゃんは亡者達の末路に目を向けることなく、とっとと退散したのだった。



   **********



 死神ちゃんは待機室に戻ってくると、げっそりとした面持ちで疲れを吐き出した。


「新年早々、すごくさもしいものを見せられて、すごく気分が落ち込んだわ……」

「じゃあ、気前よくパアッと食べに行こうか。私が奢るからさ」


 ケイティーがにっこりと笑ってそう言うと、死神ちゃんは嬉しそうに表情を明るくした。そしてハッと我に返ると、死神ちゃんは彼女を睨みつけた。


「それは先日の〈お願いごと〉とは別カウントだよな」

「うん、そうだよ」

「てことは、お前、何か企んでいるだろう」


 ニヤリと笑ったケイティーに、死神ちゃんは愕然とした顔を浮かべた。そして死神ちゃんは「この、可愛いもの亡者が!」と叫んだのだった。




 ――――なお、新たなお願いごとは〈お姉ちゃんと呼ぶ日に、天狐ちゃんとお揃いでフリフリのワンピースを着ること〉でした。天狐はすでに承諾済みとのことでした。天狐がすでに乗り気である以上は断れないと悟った死神ちゃんは、何も言わずに奢られることを選択したのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...