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「その身体・魂、全てを私にくれませんか?」
ものすごい金髪の美形の男性が私にそう尋ねてくる。



嗚呼、失敗したのね。
生まれた時からアサシンとして育てられた私・ライラは、ターゲットのウィリアム・サカーティス伯爵を狙い、寝ている間に「仕事」をしようと寝室に忍び込んだ。
伯爵の寝顔は見惚れるくらい美しかったが、「仕事」はしないといけない。

いつものように感情を殺し、
愛用の睡眠ガスとナイフで、すぐに「仕事」は終わるはずだった。

しかし、次の瞬間ナイフを首にあてられていたのはライラ。
「私は少し特異な体質でね。毒物は効かないんだ。」
金色に輝く髪、赤い眼、透き通るように白い肌、まるで精巧な人形のように整った顔。その持ち主の伯爵が流れるような速さでライラを制圧していた。

「・・・・・」
失敗してしまったわ。これでおしまいね。
組織は失敗者を許さない。これまでの仲間も何人も命を奪われてきた。
最後にこんなに美しい男性のお顔を見られて眼福だったわ。

「君の命を奪うことは容易い。だけどね、私はそんなことはしたくない。」
何かを愁うようにため息をつきながら伯爵はそう言った。

でも、次はないのよ。
「任務に失敗したので。あなたを殺せずに帰還すれば、明日は我が命がないでしょう。仲間に殺しをさせるのは気が進まないので、ここであなたが殺してくれませんか?」
最期にこんなにも美しい男性に見つめてもらえるならそれもいいとすら思う。

「私も手を汚したくはなくてね。もし君が帰還しなければどうなるの?」
柔らかな声で伯爵は尋ねるが、その眼は驚くほど冷たい。

「3日組織に帰還しない場合は、殺されたものとして扱われます。我らはアサシン、戸籍などもありませんし、最初からいなかったことになっておしまいです。ターゲットには新たな刺客が向けられることになります。」

伯爵は顎に手を当て、なにやら考えこむ。
赤い瞳で宙を眺めると、遠くにいる何かに暗号のようなものを送り、私の方を見つめた。
「決めたよ。君に選ばせてあげる。私に服従するか、このまま此処を去るか。去るものは追わないが、次の追手が来るもの面倒だから多少君の記憶に細工する。でももし私に服従するなら、世界が変わる様子を見せてあげるよ。」

元々捨て子であったライラにはアサシンとして生きるしか選択肢がなかった。この生活に未練はないし、大切な人もいない。
世界が変わる?伯爵の言っていることの意味が分からない。でもその言葉に、どうしようもなく心が躍った。

「その身体・魂、全てを私にくれませんか?」
鳥肌がたった。

「世界を変えるために我が命を使っていたただけるのであれば、喜んで貴方様に忠誠を誓います。我が剣はウィリアム・サカーティス伯爵様のために。」

これが私と伯爵の出会いである。

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スロー更新の予定です。気長にお付き合いいただけますと嬉しいです!
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