神亡き世界の異世界征服

三丈夕六

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社畜。魔王軍知将となる編

第1話 エリュシア・サーガ

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 ゲーム機を起動する。真っ暗な画面から開発会社のロゴが表示される。その後に映るのは「エリュシア・サーガ」通称「ES」のタイトルロゴ。

 一昔前に「何でもできる」オープンワールドゲーで話題になった本作。その反面、時代を先取りし過ぎた為か、この「何でもできる」は当時受け入れられなかった。できることが多すぎる、難易度が高すぎると困惑するゲーマーが続出したからだ。

 発売1週間後には何をして良いか分からず、プレイを投げ出したゲーマーから「クソゲー」との評価を受けてしまった不運な作品でもある。なんて嘆かわしい。あの時もっと評価されていれば、今頃は続編が出ていたかもしれないのに。

 ……評価、か。

 会社の俺と重ねてしまって余計に愛着が湧いてしまう。

 俺の上司……社長の息子。中小のオーナー企業だからって好き勝手しやがって。俺の手柄を横取りした上、ミスは俺のせいにしやがる。こんなにも俺は頑張っているのに認められないなんて……。

 一時期は必死になって学んだのに。成果だってあげたのに。上司ガチャに外れたばっかりに全て無駄な努力になった。


 俺も誰かに認められたかったな……。


 あ、いかんいかん。せっかくエリュシア・サーガをやってるのに暗い気持ちになるなんてな。

 画面に目を向ける。王都「ヒューメニア」では住民が生き生きと生活していた。開始当初は問題だらけだったこの世界も、メイン、サブ含めた全てのクエストをクリアした今は平和そのものだ。

 やり込んだ甲斐がある。やり込みすぎて装備から魔法から地形まで、全て暗唱できるくらいだ。

 俺はこの世界が好きだ。愛している。美しい景色に助け合う人々。何度プレイしても癒される。この世界にいる時だけは、俺は救われている気がする。もう誰もプレイしていなかったとしても、俺だけはこの世界を見捨てない。

 王都のグラフィックを満喫しながら歩き回る。すると、一人の兵士の会話ウィンドウに見たことのない名前・・・・・・・・が表示された。


『魔王デモニカ・ヴェスタスローズが現れる』


 は?


「なんだよデモニカ・ヴェスタスローズって。そんなヤツ聞いたことも無いぞ」


 その名前を口にした瞬間——。


 モニターからが伸びて来た。

 「え……っ!?」

 頭が真っ白になる。状況を把握する間も無く胸ぐらが掴まれ、強烈な力で体が引き寄せられる。


「貴様は我に選ばれた」


 聞こえたのは女の声・・・だった。画面が暗転し、その奥から緋色ひいろの瞳が現れる。

「な、なんだよこれ!?」

 引き剥がそうとしても全く振り解けない。紫色の肌に鋭利な爪。その手は明らかに人のそれとは違う物だった。


「我が元へ来い」


 俺はそのまま、暗闇へと引き摺り込まれた——。


◇◇◇

 気が付くと森の前に立っていた。何か見覚えがある場所。特徴的な木々に小動物モンスター達が駆け回ってる。

 あ。

 そうだ。ここは俺のよく知っている場所だ。

「ここは……エルフェリアの近く、か?」

 何度も何度も往復していたから分かる。俺がプレイしていたエリュシア・サーガ。その中の大国の1つ。エルフの国「エルフェリア」へと続く森の入り口だ。

 自分の頬をつねってみる。痛い。夢じゃない。

 お、俺はエリュシア・サーガの世界に来てしまったのか。異世界転生ってヤツか? いや、この場合だと転移か……。

 恐る恐る森に足を踏み入れてみる。ゲームの記憶があるから迷わずにエルフェリアへの道を歩いていける。

 すごい……っ!? 獣系のモンスターが駆け回ってる。

 1人で異世界に放り出されたはずなのに、俺の内心は好奇心で満たされていた。夢にまで見た世界。そこに来ることができたんだから。

 そこからは本当に夢のような時間だった。小動物モンスターに擦り寄られたり、道行く行商人に話しかけてみたり。見る物全てが懐かしくもあり、新鮮だった。

 そうしてしばらく進むと、森の奥から女の子の声が聞こえた。


「や、やめてよ……村に戻らないと」

「反逆者のガキが。テメェ隠し持ってる物あんだろ?」

「グレディウス様に隠して村へ持ち込む行為、許されない」


 それは獣人種だった。見た目は人間だけど猫科の耳と尻尾を持ち、物理戦闘力が高い種族。その女の子が2人の鎧装備の獣人に詰め寄られている。

 それにしても……反逆者? 村に関するクエストでそんな物は無かったはずだ。

「……ぼ、僕がやった訳じゃ、無い」

「あぁ? 親父の責任は娘の責任だろ? ちゃあんと罪は償わねぇとなぁ」

「グレディウス様に逆らった罪。お前の罪でもある」

「やめてよ……僕は……」

 彼女が何かを言おうとした所で、片方の男が舐め回すように彼女を見た。

「おい、お前いくつになった?」

「え……えと、じ、17」

「へぇ。ん~どうする?」

「ま、それもアリか」

 嫌な予感がする。まさか……。

「脱げ。許して貰う方法、分かるよな?」


 その言葉を聞いた瞬間、勝手に体が動き、男に飛びかかっていた。


「うぉっ!? なんだコイツ!?」

 胸の中で激しい憎悪が湧き上がる。俺の愛してやまない世界で下衆なことをしようとするこの2人が許せなかった。

「逃げろ!!」

「え……でも……」

「早く!!」

 女の子は戸惑った様子で数度振り返ったが、そのまま走り去っていった。

「んだよお前はよぉっ!!」

 振り落とされそうになるのを堪え、辺りを見渡す。視線の先に強い匂いを放つ植物系アイテム、「アオリバナ」があった。獣人は鼻が良いが、それが弱点にもなる。


 あれを使えば……。


 獣人から飛び降りて真っ直ぐ花を目指す。

「逃げんじゃねぇ!」

 背中に鋭い痛みが走って地面に倒れ込む。振り返ると、獣人が血を滴らせた剣を握っていた。

「クッソお前のせいで逃しちまったぜ」
「最悪だ。ムカつく」

 俺、殺されるのか。これって夢だったのかな。いや、死ぬほど痛いしやっぱり現実か。異世界まで来て死ぬなんて。普通逆だろ……。

「さっさと死ね」

 獣人が剣を振り上げる。


 あぁ……俺、終わった。


 死を覚悟した瞬間。あの声がした。


「戦闘力は皆無。人の身ではその知識は活かせぬか」


 それと同時に獣人の1人が青い炎・・・に包まれる。


「な、熱っ……あ"あぁああぁあ"!? だ、誰かああああああああっ!」


 一瞬の内に獣人が灰になる。振り上げられていた剣だけが、虚しく地面へと転がった。

 突然のことにもう1人の獣人は放心した様子だったが、すぐに炎の出所へと殺意に満ちた瞳を向ける。その視線の先へ無理矢理顔を向けると、そこには女が立っていた。

 紫の肌を露出した黒い鎧。背中には悪魔のような翼、長い髪は暗い赤色。頭には羊のような2本の角。そして、黒い眼球には緋色の瞳が光っている。エリュシア・サーガで見たことの無い造形。まるで、悪魔か、そう魔王・・のような姿じゃないか……。

 仲間が殺されたことを理解した獣人が、剣を引き抜き女へと走り出す。

「テメェッ!!」

 しかし。

 女はその獣人を一瞥すると。その指先を天へと向けた。それに合わせて地面から青い火柱が上がり、半身へと直撃する。

 瞬きをする間に獣人の半身は消えて無くなっていた。残った半身の断面は真っ黒に焼け焦げ、彼が燃やされた・・・・・ことだけは理解できた。

「弱い。そして……なす術なく倒された貴様も弱い」

 緋色の瞳が真っ直ぐとこちらを見つめる。殺意と軽蔑と慈悲が混ざったような視線。その目に一切目を逸らせ無くなる。

「しかしその行動は評価に値する。貴様を我好みに調整・・してやろう」

 女がこちらに手をかざす。その手のひらに先ほどと同じ青白い炎が灯る。

 う、嘘だろ!? 助けてくれる訳じゃないのか!?


まずは・・・死ね・・


 その青い炎が、俺へと向かって放たれた。
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