神亡き世界の異世界征服

三丈夕六

文字の大きさ
15 / 109
ルノア村奪取編

第15話 心の傷

しおりを挟む
 グレディウス達を倒し、一夜が明けた。村人の願いによってデモニカが村の新たな支配者となり、レオリアや俺の黒い眼は、解放の象徴として村人からは受け入れられた。

 それと俺が逃した子供達。

 俺に話しかけた少年。あの子が特徴的な獣耳をしていたことによって村のルカという少年だと特定された。

 昨夜からレオリアがリーダーとなって捜索が続けられている。子供の体力、そしてレオリアの嗅覚があれば程なく見つかるだろう。後はモンスターの被害に遭っていないかを願うばかりだ。


 一見すると大団円のような結末。


 しかし……。


「ヴィダルさん」

 振り返ると杖を付いた壮年の男性……村人のカイルが立っていた。

「デモニカに伝言を頼まれまして。屋敷に来るようにと」

「あぁ。ありがとうカイル」

「ヴィダルさん・・じゃマズイですか? やっぱり様付けじゃないと。いや、俺たちゃ学が無いんで」

 カイルが頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「いや、呼び捨てでも良いくらいだ。デモニカ様にだけ敬意を払ってくれればそれで良い」

 カイルに礼を言い屋敷への道のりを歩いて行く。

 獣人達が農作業を行う姿は以前と同じだが、俺を見かけると必ず話しかけてくれる。そして、どの者も皆一言添える。「デモニカ様」への感謝を。

 ……俺がやったことは、村の解放などでは無い。

 レオリアを使って村人を立ち上がらせた。そして、レオリアを屋敷に呼び寄せることでその彼らを作為的に危機へと陥れた。

 デモニカ・ヴェスタスローズの力を見せ付ける為に。

 敵を殲滅せんめつする彼女の姿。その絶大な力を持って危機を脱した彼らは何を思うのか?

 エリュシア・サーガをプレイしていた俺だからこそ分かる。俺の知らない魔王という存在……本来この世界に・・・・・・・存在しないはずの姿・・・・・・・・・を持つ彼女を見て、村人達はどう思うのか?

 その彼女から慈悲を与えられた村人達は彼女をどのように捉えるのか?

 きっと神聖な存在だと認識にんしきし、信仰の対象とするだろう。そして、生まれた信仰心を持って彼女の支配を望む。

 この村は恐怖による支配から信仰による支配体制へと変わっただけだ。彼らは自由になどなっていない。


◇◇◇

 小川を渡り、誰もいなくなった屋敷へと辿り着く。昨日まで兵士達の鮮血で染められていた地面も、廊下も、その全てが真新しい様相へと変わっていた。まるで彼らが元からいなかったかのように。

 屋敷の中を2階へと向かって歩いていく。デモニカは、多くの部屋の一室。窓から村を一望できる部屋にいた。

 窓際に置かれたテーブルと椅子。その片方にデモニカは座っており、俺に気付くと向かいに座るよう促した。


「状況を教えよ」


 デモニカは微笑みを浮かべて俺の瞳を覗き込む。

「レオリアは子供達の捜索。村人達は怪我人の手当てと農作業。警備は貴方が傀儡くぐつにした兵士達にやらせている」

「傀儡の数は?」

「先日のヒューメニア兵5体を合わせて308体。現在の警備は100体で行わせ、不要な者は土の中で眠らせている」

「エルフェリア軍の前では塵芥ちりあくたごとき数だな」

「ああ。エルフェリアは人口数十万を超える大国だ。今回と同じ方法を取るしかない。より大きな規模で」

「内部からの崩壊を誘う。か」

「デモニカの力でエルフェリアは制圧できるか?」

破滅させる・・・・・。という意味であれば可能だ。しかし、その結末は我の望む覇道はどうには無い」

 あくまでも目的は征服か。

 窓の外を見る。そこにはのどかな風景が広がっており、とてもこの村の中で侵攻の算段が行われているとは思えなかった。

「少し時間をくれ。この村の体制を整えてから動きたい」

「良かろう。我はこの地に潜むダロスレヴォルフを狩らせてもらう。良い傀儡くぐつとなるであろうしな」

 ダロスレヴォルフを? 流石魔王だな。

「しかし、良くやった。貴様の働き、我の望む以上の成果を上げてくれた」

「ありがとうございます」

 彼女が満足そうな笑みを浮かべる。俺が成し遂げられた事を評価され、認められる。それだけのことなのに、そこには言葉に出来ないほどの喜びが詰まっていた。


 だけど俺は……俺の中にはそれだけじゃ……。


「時にヴィダルよ」


 デモニカが頬杖ほおづえを付き、その緋色の瞳で俺の顔を覗き込む。


「我には貴様が泣いておるように見えるが?」

 
 突然胸の内を読まれたことに、息が止まりそうになった。

「ここには我ら2人しかおらぬ。申してみよ」

 迷う。こんな弱さを口にして良いのか? 

「案ずるな。貴様がどのようなことを申しても、ヴィダルという男を見る目……それを変えることは無い」

 その言葉に、胸の奥で渦巻いた感情が溢れ出すのを感じた。


「お、俺は……人を殺し、村の者を騙し、そして、純粋なレオリアを変えてしまった……。もう、あのレオリアはいない。俺の、エゴのせいで……」


 全て俺が計画したことだ。後悔は無い。だがその反面、胸が張り裂けるほどの悲しみが渦巻いている。例え、この先あの娘にどれほど尽くそうとも、俺が「こちら側」へと引き入れたことに変わりは無い。

「ヴィダルよ」

 デモニカのその手が俺の頬を優しくなぞる。

其方そなたの魂は美しい。どれほどその手を血に染めようとも、どれほど冷酷となろうとも、きっとそれは変わらぬであろう」

 デモニカのその顔はいつもの冷酷な物では無かった。そして、「其方」と呼ばれたことで、少しだけ心が軽くなるのを感じる。

「だからこそ、その心に傷を残すであろうな。この先も、ずっと。だが、それは全て我の責任だ。其方を今の役目へと導いた我の……」

 デモニカのその表情。恐らく、彼女が「血族」と呼ぶ者にしか見せないその優しげな顔が、俺を包んでくれる。

「其方がレオリアのことを受け止めるように、其方の苦しみは我が受け止めよう」


 彼女がその両手を開く。


「我が元へ、おいで」


 まるで子供に声をかけるような口調。優しげな声。それに惹かれるように、デモニカの側へと膝をつく。すると、彼女は優しく俺のことを抱きしめた。

「ヴィダル。我が愛しのヴィダルよ。其方を苦しめる我を許しておくれ。そして、これからも我を導いて欲しい」

 デモニカへ抱きしめられ、心の傷が軽くなっていく。そして、彼女の懺悔ざんげにも聞こえる声に、俺は決意を新たにした。


 これからも俺は、人を騙し、落とし入れ、闇へと引き込み続ける。きっとそれは「悪」とされる行為だろう。


 しかしそれは美しき世界を作る為。


 デモニカの為。


 それは俺のエゴ。俺の独りよがり。


 だが、俺はこの手を汚し続けよう。


 俺は……。


 その為なら俺は。



 「悪」であっても構わない。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...