461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第9話 461さん、きっかけを与える

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 ~天王洲アイル~

 配信が終わり、ボスを倒した後に現れた転移魔法の魔法陣へと向かう。マンホールの蓋ぐらいの魔法陣は、赤い光を放ちながら点滅していた。

 ちょ、ちょっと怖い……これに乗って本当に大丈夫なのかな……ちゃんと転移できるかも心配だし、私だけまた森の中に跳ばされたら……。

「どうした?」

 ヨロイさんが不思議そうに首を傾げる。

「べ、別に……? 何でもないわよ」

「んん?」

 私の顔と魔法陣を交互に見たヨロイさんが何かに気付いたかのように「あぁ」と呟く。

「転移魔法初めてだったのか。ほら」

 差し出された手。その手のひらは、私よりもずっと大きい男の人の手だった。

「何よこの手……?」

「心配なんだろ? 手握っててやるよ」

「は、はぁ? セクハラ!?」

「いや、実際効果あるぜ。転移物が1つとみなされると間違い無く同じ所に飛ばされるからさ。跳んだ先で何かあっても俺が一緒だったら何とかしてやれるだろ?」

「馬鹿にしないで」

「それはすまん」

 ヨロイさんが差し出した手を引く。それを見た瞬間、不安が急に大きくなってしまう。体が震えてるのを見られないようにさりげなくローブで自分の体を包んだ。

 ダンジョンでの戦闘や見たことのないボス。それと戦った恐怖心が今になって襲いかかってくる。

「……」

 ヨロイさんに近付いて、その手を握る。さっきも思ったけど大きな手。それが私の手をギュッと握り返す。その力がすごく強くて、でも安心して……体の震えが止まるのを感じた。

「怖かったのか?」

「ボスと戦う時は……その、怖かったわ」

 本音が出てしまう。私どうしたんだろう? 今までこんなことを言ってしまうことなんて、無かったのに。

「そっか」

「でも、やめたくない。ダンジョン配信はずっと続けたいの。私がトップ配信者になるまでは……」

 思わず個人的な事情を話してしまいそうになって、顔を背けた。

「どうした?」

「うっさいわね。な、なんでもないわ」

「……まぁいいや。じゃ、転移するぞ~」

 ヨロイさんが転移魔法の中央を足で踏みつけると、目の前が白い光に包まれた──。


 ……。


 ──次に目の前に広がったのは大きな鳥居の前だった。足元は綺麗にサイズの揃った白い砂利。それだけでさっきの場所とは違うのだと分かる。

 ヨロイさんが私の手を離し、キョロキョロと辺りを見渡した。なんとなく、本当になんとなくだけど……その手が離れたことが残念な気がしてしまう。

「お? 『明治神宮』って書いてあるな。代々木公園と繋がってたのか」

 立てかけられている看板から視線を戻すと、ヨロイさんはリュックの中からアイテムを広げ始める。

「よっし! 今回のアイテムを分配しようぜ!」

「え……分配? ほとんどヨロイさんが戦ってたのに?」

「一緒に探索したんだから当たり前だろ?」

 私の腕を軽く叩くヨロイさん。彼の少年のような仕草に、遠慮する方が失礼な気がした。

「ええと琥珀の指輪に、風のアミュレット……反響の結晶に……ゴシックダガーっと」

 並べられた装飾品に小さな袋。ヨロイさんが私の顔を真っ直ぐ見る。

「アイルの好きな物持っていけよ。どれも結構性能いいぜ」

「ほ、本当に? 私がやったのって配信ぐらいなのに……」

「アイルの電撃魔法無かったらボスはもっと苦労したぜ? 遠慮すんなよ」

「う、うん……」

 どれにしようかな。

 今までこんなにちゃんとアイテムを持って帰ってきたことがなかったから迷ってしまう。アミュレットやダガーもかれるけど、私はキラリとオレンジの光を放つ指輪が気になった。

「じゃあ……この指輪にする」

「お、琥珀こはくの指輪な。その軽さで防御力3%増加だからな。中々使い勝手いいと思うぜ。他には? 欲しい物はあるか?」

「1つで……いいわ。メインで動いてくれたのヨロイさんだし」

「そっか。じゃあ~ありがたく貰っておくぜ」

 アイテムをいそいそと鞄にしまうと、ヨロイさんが神宮出口を見た。

「ここはモンスターの気配が無いな。じゃ、帰ろうぜ」



◇◇◇

 帰る頃にはすっかり夕方になっていた。

 461さんは送っていくと言ってくれたけど適当な理由を告げて1人で帰ることにした。どうして1人になりたいのか分からなかったけど……。

 適当なトイレに駆け込んでローブを脱ぎ、それで杖をクルクル巻いた。持っていたヒモで固定する。その後マスクとサングラスをしてから原宿駅へと向かった。

 山手線に揺られて30分。御徒町駅で降りて線路沿いを歩く。常に満席で有名なカフェの前を通り過ぎ、次の角を右に曲がる。その通りにある白黒模様のマンションが私の自宅だ。


 周囲に人がいないことを確認する。チャンネル登録者数はそこまでだけど、家バレはやっぱり避けたい。周囲を見渡して人がいないのを確認してから私はマンションへ入った。

 エレベーターで3階へ。通路奥の部屋へ入り、鍵をかける。

 靴を脱いだ瞬間、体がズシリと重くなる。そのまま、電気も付けずにベッドに倒れ込んだ。

「はぁ……疲れたぁ」

 今までずっと難易度低いダンジョンに行ったり、強い敵がいる所は入り口の周辺をウロウロするばっかりだったもんな……ファンのみんなは「そのままでいい」って見守ってくれてたけど……。

「私……役に立ったのかな……?」

 くやしい。ボスでは魔法を使ったけど、ほとんどヨロイさんに頼ってばっかり。

 今まで配信のためにダンジョンに挑んでたから割り切ってたのに、こんな気持ちになるなんて……。

 でも。それと同じくらい「楽しかった」っていう気持ちがある。自分が成長して、ダンジョンで野営して、倒せないと思ったボスを倒して。

「……」

 ヨロイさんに貰った琥珀こはくの指輪を見る。カーテンの隙間から差し込む光に照らされて、琥珀の指輪がキラリと光る。

「ヨロイさん。すっごく楽しそうだったわね」

 純粋にダンジョンに潜る探索者ってみんなあんな感じなのかな?


 私を残していなくなったお父さんも……。


 ……。

 急にヨロイさんの姿が頭に浮かぶ。

 ダンジョンでも色んなこと教えてくれて、野営する時も私のこと気遣ってくれて。でも、全然わざとらしくなくて……。


「ヨロイさん。優しかったな」


 こんなことを言う自分が急に恥ずかしくなって、ブンブンと首を振った。


「次はもっと上手くやれるようになってみせる。ヨロイさんの相方にふさわしいように」

 いつもなら配信についてのことばかり考えてたけど、今日は頭の中がダンジョンのことでいっぱいになってる。新しい魔法やボスのことや……ヨロイさんのこと。次の挑むダンジョンについても相談しないと。

「もっともっと成長してみせる! でも今は……」

 布団に潜り込む。

「眠ぅ……」

 お風呂に入ることも忘れて泥のように眠ってしまった。その疲れ、無事に帰って来られた安心感……やり切った達成感。色々な物が入り混じって……。


 ヨロイさんがどうしてダンジョンが好きなのか、少し分かった気がした。


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