461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第38話 鳴石達、永遠の恐怖を味わう。

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 ~九条商会 幹部 鳴石~


「はい、はい。殺さず・・・に対処します。ありがとうございます。え……特級・・魔法の使用を許可、ですか? ですがそれは……はい。分かりました……部長」


 朦朧もうろうとしていた意識が戻って行く。目の前では魔族の女が誰かと通話していた。

 周囲を見回すと、仲間達がいた。俺も含めて10人……。ダンジョンの警備をさせていた者達が。


 もがいてみるが、動けない。全員がジャケットを脱がされ、体に巻き付けられていた。解こうにも袖がキツく結ばれピクリともしない。461の仕業か? だが……。


 ふっ。


 ふはははは。


 甘い。甘いな461……殺せるチャンスを逃しやがった。生かしたってことは今ここで殺す気はないということだ。なら、何とでもなる。生きてさえいればな。

 そうだ、この魔族から暴行を受けたと流布すればいい。国民の中で魔族への反感はくすぶっている。今回の件がキッカケとなり、他の者達を扇動できれば……クク。


「部長から対処指示が出た」

「リレイラさん大丈夫ですか?」

「……大丈夫。封印シールの効果も切れたようだ。これから特級魔法・・・・を使う。だから、ヨロイ君は離れて」


 ん?


 特級魔法? 上位魔法より上ということか? そんな魔法は聞いた事が無いぞ。


 461が後ろへ下がる。女が我らの前に立つと、真っ直ぐにこちらを見下ろした。クソ。ひざまずかされるなど……屈辱だ。


「目が覚めたか」


 長い髪に羊の様な角の女。薄暗い中でもその輪郭だけはハッキリと分かる。


 ……隙を見て逃げ出してやる。今回の件で真の革命を起こす。そして次は確実に殺す。この女も、461も。絶対にだ。


照明魔法ルミナス


 461が照明魔法を空中へと打ち上げ、目の前が眩さで包まれる。それをキッカケに部下達が一斉に喚き出した。


「おい! なんだよこれは!?」
「ふざけやがって!!」
「殺してやる!」
「ぜってぇ復讐してやるからなぁ!」


 部下達が口々にののしる。女はそれを意に介さないようにスマホをこちらへと向けた。

「お前達は九条商会と言うそうだな。ダンジョン管理局のデータベースと照合したところ、確かに該当する探索者組織があった。九条商会……ダンジョン製アイテムを企業へ卸す半企業組織。代表は九条くじょうアラタ」

 女が俺の眼を覗き込む。

「今回の件はボスの命令か?」

「どうだろうな。俺はそもそも九条商会を語ってるだけかもしれないが?」

 バカが。さっきの通話は全部聞こえてんだよ。殺されないと分かって自白するヤツがいるかよ。


「そうか。そういうことにしておこう」


「悪いな。散々痛めつけられて情報も得られないなんて魔族も大変だねぇ」


「……気にするな。今からお前達は死より恐ろしい人生を歩むことになるのだから」


「は?」


「部長からの伝言だ。『探索者・・・の力を秩序の破壊に悪用する愚か者共よ。我ら魔族が人に対しどれほどの慈悲を持っているのか、その身を以て教えてやろう』……とのことだ」


 慈悲? 何を言ってるんだこの女は?


 頭の中で浮かんだ疑問符。その答えを探す様に461を見る。壁に寄りかかっていた鎧の男は顔を背けた。


 なんだ? 今から何が起こるんだ?


「では、これより君達10名の処置・・を行う。君達の担当が不在の為……私、ダンジョン管理局探索担当課、課長リレイラ・ヴァルデシュテインが魔法・・を発動する」


「な、なんだよ。何を言って……」


「私としては大変不本意だが、君達に魔族の使うの魔法を見せてやろう」


「真の魔法……?」
「何する気だよ!」
「ど、どうせハッタリだ!」
「こんな女に大層な魔法が使える訳……」


 リレイラという女がゆっくりと両手を開く。僅かだが、その手が震えているような気がする。


 何の魔法を使う気だ? 


 女が目を閉じると、全身から魔力が湧き上がる。しかしこれは……魔力……本当に魔力なのか?


 通常、魔力が湧き上がったとしても視認できる程度の物だ。それが、この女の魔力は周囲の景色を歪めるほどの密度を持っている。

 周囲に広がる歪みのカーテン。その膨大な魔力量……それに俺も、その場にいた他の者も、皆一様に黙り込んでしまう。


「我ら魔族の保有する魔力は君達のそれとは密度も、量も違う。故に、扱える魔法も全く異なっている」


 待て。待て待て待て。この魔力……俺達を殺す気か? 先程の通話は嘘なのか? 言葉は? 直々に魔族が手を下す為に俺達は生かされたのか……? 管理局が人間を殺したとなれば……本当に暴動が起きるぞ。魔族はダンジョン探索させる「人」が必要だからやり返さない。この国は絶妙のバランスの上で成り立っていると九条様は……じ、実際そうだった……だから今まで……俺達は……。


「君達は庇護ひごの境界を越えた」


 女の両手から漆黒の塊が現れる。


 それが2つ3つと現れていき、空中へと浮き上がり円を形作る。


「なんだこれは……っ!?」


 その1つ1つに青白い炎が灯り、時計の文字盤のような文字を描いて行く。


「四元素でも、状態異常でもない。君達の魔法とは理を異にする力。人の精神に感応し、感情を肥大化させる、力」


 感情を、肥大化?


 意味が分からない。状態異常と何が違う? これは……。


『消えぬ悪夢を、貴様達に』


 女の口調が変わる。なぜだかそれが、先程女が言った『部長』の言葉だと理解してしまう。ダンジョン管理局直々の『処置』なのだと。


 読めない魔族の文字。それが魔法陣のような模様を描く。震える手を俺達へと向け、女は魔法名を告げた。


呪言魔法『恐怖』カース・オブ・フィアー


 直後。


 魔法陣から巨大な手が現れる。肉の無い、骨だけの手が。それがダンジョンの壁をガシリと掴むと、無理矢理に魔法陣から現れる。巨大な骸骨がいこつ……が。



「ォォオオオオォォオオオオオオオオオオオォォ!!!」



 巨大な骸骨は不快なほど高音な雄叫びを上げると、我らをジッと見つめた。

 その節穴のような目から赤い光がチカチカと点滅する。それと視線が合った滝田たきたが異様な声を上げた。


「あ゛っ!?」


「ど、どうした滝田?」

「ひ、ひいぃぃぃ……た、助け……あ゛ぁぁああ……」

 怯えるように地面をのたうち回る滝田。他の者も困惑した表情でその様子を見つめる。


「……っ!!」


 巨大な手が仲間達の顔を掴み、強制的に目を合わせて行く。目を合わせた者が口々に叫び声を上げ始める。


「う、うわああああああ!?」
「ひぃぃ……!?」
「殺……され……」
「あ゛、ああああぁぁ……」
「助け……っ!?」


「な、なんだお前達!? 何が起こっている!?」


『瞳を交わした者は「恐怖」の感情が肥大化し、永遠に続く恐怖に囚われる。全てに怯え、全てに震えろ』


 魔族の女の冷酷な声。


 恐怖心が、永遠に続くだと……?


 先ほど感じたあの感情……アレが続く……? 


 永遠に?



 部下達を見渡すが、皆半狂乱となってのたうち回るだけ。もはやその姿は人とは呼べなかった。


「ひ……っ!?」


「後悔か? もう遅い。君達には命以外の全て・・・・・・を捧げて貰う」


「ま、待て。聞きたい情報があるなら」


「不要だ」


「……え?」


「部長からの命令だ。『尋問の類いは不要。処置だけせよ』とな」


 その言葉に目の前が真っ暗になった。


 何だそれは? 俺は……俺達は眼中にも無いってことか?


 庇護……この女は庇護の境界と言った。ま、魔族は、その気になれば簡単に俺達なんて根絶やしにできるんだ……。

 後悔が湧き上がる……1番大事なことを忘れていた。俺達人は、圧倒的なまでに、完膚なきまでに叩きのめされたじゃないか。何が戦争だ。戦争にもならなかった。この想像を絶する魔法の力で俺達は武器を全て取り上げられ、抵抗すらできずに降参したじゃないか……っ!!


 俺は……俺は……分かっていなかった。当事者じゃない俺は分かっていなかった。ただニュースで、ネットで、仲間内だけで、分かった気になっていた。無様に降伏した政府を、馬鹿にして……っ!! 分かろうともしていなかった!! 忘れていた。あまりにも安穏とした日々が、いつもの日常が続いて、やり返され無いから……忘れていたんだっ!!


 今日まで「革命ごっこ」を許されていた・・・・・・圧倒的な力の差を……。


 なぜ俺は……魔族などに手を出そうとしたのか。こんな、こんな最後は……。


 項垂れていた頭を、骸骨ガイコツの手がガシリと掴む。逃げられない。ゆっくりと、無理矢理に顔が上げられていく。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ!!!


「嫌だあああああぁあああああああああああああああぁぁあ!! お、俺が悪かった!! 分かっていなかったんだ!! 許してくれ!!」


「私にはどうすることもできない。諦めてくれ」


「あ゛、あああああぁぁぁ許して!! 誰かぁ!! 滝田ぁ!! 誰かいないのか!! 」


 もがいても逃れることができない。俺の体は恐怖によって完全に支配されていた。


「ォォォォォォオオオオオォォォォオオオ!!!」


 その骸骨の節穴を目に焼き付けてしまう。


「さようなら。私を襲った哀れな人間達。せめて天寿を全うする瞬間だけは安らぎが訪れるといいな」


 骸骨から目が離せない。赤い光が明滅する。こ、怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!


「オオオオオォォォォォォォオオオ!!!」


 光が流し込まれる。嫌だ! 怖い! 誰か!!


「あ゛」





































◇◇◇


 ~九条商会 幹部 鳴石~


 あれからどれだけ時間が経ったのか、分からない。


 俺はダンジョンから必死に逃げ出した。悪魔の様な女から逃れる為に必死で走った。


 怖い。怖い。怖い。


 走り続けて、裏路地へと座り込む。何も考えたくない。考えると不安と恐怖で頭がどうにかなりそうだから。

 道路を見つめていると道行くカップルが見えた。その片方……男が俺に話しかけて来た。

「あの……大丈夫、ですか?」


「な、何をする気だ!? 俺をこ、殺すつもりか!?」


 男の手を振り払い腕で顔を守る。蹴られるかもしれない。殴られるかもしれない。もしかしたら刃物を持っているかも……。


 怖い怖い怖い!


「ねぇ。この人変だよ。そっとしておこうよ」

「う、うん」


 怖い怖い怖い。仲間を呼びに行ったのかも! 俺を痛めつける気かもしれない。こ、ここから逃げないと……っ!


 この街にいたら……殺される!



 恐怖心から逃れるように走り続け、俺は東京から逃げ出した。



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