461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第137話 厄介なファン

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 探索者試験当日。

 ~461さん~

 管理局の通知に従って駒沢公園ダンジョン周辺エリアに入った俺とアイル。オリンピック公園とも呼ばれるそこは、テニスコートなどのスポーツエリアがいくつも設置された場所だった。

「ジーク達とは中央広場で合流だったよな?」

「うん、ミナセさんから今向かってるってメッセージ来たわ。ナーゴももうすぐ到着するって」

 合流したら最終チェックしないとな。どんな試験になるのかは明かされていないが、準備は念入りに。

 歩きながら自分の装備を確認する。いつものフリューテッドアーマーに聖剣アスカルオ、ダガーにナイフ……そして、パーティの戦闘用に新調したラウンドシールド。小ぶりで、装備していても剣の両手持ちができる盾。これなら、アスカルオの能力も使えるはずだ。

 野球場とサッカーコートを見ながら進み、中央広場に行くと、見知った顔を見かけた。


 黒い鎧に大剣を背負った男、武史だった。


 彼は俺に気付くとブンブンと手を振る。


「おーい! ヨッさんも来ると思ってたで~!」


 武史の元まで行くと、2人の探索者が目に入る、オレンジ髪の少女、パララもんと緑メッシュ髪の男が。

 武史が2人を紹介してくれる。方内武器店で聞いた通り、武史はパララもん・ポイズン社長コンビとパーティを組んだらしい。

 ポイズン社長と挨拶を交わし、パララもんを見ると、彼女はポイズン社長の後ろにサッと隠れて俺のことをチラチラと見た。

「おいパララ~、何恥ずかしがってんだよ?」
「ポイ君は黙ってて欲しいのだ! ボクのペースがあるのだ!」

 ペース? 何言ってんだ?

 不思議に思っていると武史が耳打ちしてくる。なぜか分からないがパララもんには優しくしてやってくれということだった。なんでだ?

 不思議に思っていると、パララもんがおずおずと右手を差し出して来る。

「461さん……アイルちゃんも、今日はライバルなのだ!」

「ああ、お互い新宿に挑めるといいな」
「パララもん達も頑張ってね」

「うん!」

 パララもんの手を握り返すと、彼女は顔を真っ赤にしてまたポイズン社長の後ろに隠れてしまう。ポイズン社長が苦笑してパララもんに耳打ちすると、また顔を真っ赤にするパララもん。ついにはポイズン社長をポカポカと殴り始めてしまった。そんな様子を見て武史が頭を掻く。

「ま、ヨッさん達についていけるように俺らも頑張るわ~」

 そう言うと、武史は2人を連れて噴水近くの仮設ステージへと歩いて行った。あ、大剣借りた礼言えなかったな。今度飯でも奢るか。


「ねぇヨロイさん」

 武史達を見送っていると、アイルが俺の手を握ってきた。

「何だよ?」

「良い人といっぱい知り合いになれてよかったね」

 アイルが嬉しそうに笑う。

  ……お前のおかげでもあるけどな。

 そう言おうとした時、後ろから声をかけられる。一瞬ジーク達かと思ったが、振り返ると知らない男が立っていた。パーティメンバーであろう男女6人を引き連れて。




「アイルちゃんっ! アイルちゃんだろ!?」



 長髪に2本のショートソードを携えた男。妙に整った顔に、宝石のあしらわれた鎧。如何にも好青年という見た目の男だった。

「……そうだけど、何?」

「先日の浅草攻略を見たよ。あの真龍を倒すなんてやはり相当な力を持っているね。さすが天王洲アイルだ」

「はぁ? アレはヨロイさんが倒したんだけど」

 男は爽やかな笑みを浮かべる。

「謙遜しなくていいよ。戦闘スタイルを見ていれば分かる。この男は特殊スキルの無い凡庸な男だ。アレは君のサポートのおかげさ」

 特殊スキルの無い凡庸な男って、酷いこと言うヤツだな。まぁ、その通りだけど。

「ヨロイさんのこと、バカにしたら許さないから……っ!」

 アイルのツインテールが逆立ち、今にも殴りかかりそうな雰囲気。流石にマズイと思い、2人の間に割って入った。

「悪いがナンパならよそでやってくれ」

 俺の顔を見た男が顔を歪める。なんだ? 俺そんなに気に障るようなこと言ったか?

「……君こそ、才能ある少女を飼い殺しているんじゃないのか? 利用するために」

「別に利用なんてしてないが?」

「嘘だな。何か弱みを握っているに違いない。でなければお前のような男をあの・・天王洲アイルが相棒にするはずがない!!!!」

 急に大声で叫ぶ男。何だコイツ……目が血走ってるじゃん。

 男は、突然興奮し、周囲に訴えかけるように叫び出す。アイルもヤバいと思ったのかオレの後ろに隠れてしまった。彼女が俺の手をギュッと握る。その手は少し震えていた。

「手を握るなああああ!!! 推しに手を出された者の気持ちが分かるか!? 境界があるんだ!! 配信者とファンの間には超えてはいけない境界線がある!!! それをお前は無視しやがって!!! そうだ。アイルちゃんはコイツに騙されてるんだ。すごいと思うよう仕向けられているんだ。聖剣だってハンデがあったから手に入れられたんだろ? こんな運だけの男に騙されているんだ! だから──」

 物凄い勢いで叫ぶ男。完全に自分の世界に入り込んでいるな。仲間も怯えた顔してるし……大丈夫かこの男。

「え、えっと……私のファンの人ってこと?」

 アイルが困惑した表情を浮かべる。それと対照的に男はニコリと優しく笑った。自分を認識されて嬉しかったのだろうが、さっきまでのギャップが怖い。

「そうだよアイルちゃん。俺はA級探索者のオーヴァル……聞いた事ないかな? これでも界隈では有名で。どうだろう、オレのパーティに入らないか?」

「嫌よ。アンタなんか知らないし」

「な゛っ!?」

 ビシリと固まるオーヴァル。彼の取り巻き達が冷や汗を掻きながら彼を励ます。その中の1人。十代ほどの少年がキッとアイルを睨みつけた。

「お前……ッ!! オーヴァルさんになんて言い方するんだ!」

「お前?」

 急にオーヴァルの雰囲気が変わる。先程までよりもずっと危険な眼。それは、モンスターと戦う時のような冷たさを感じる眼をしていた。

「シン……? お前はいつ俺の推しをお前呼ばわりできる身分になったんだ?」

「え、あ、すみません……オーヴァルさんが、その、不憫だと思って……」

「不憫だと……? ふざけるなぁ!!」

 突然激昂したオーヴァルが少年の頬を殴り付ける。シンとよばれた少年はうめき声を上げてへたり込んでしまう。

「す、すみません……っ!? でも」

「オレに意見してんじゃねぇ!!」

 顔を真っ赤にしたオーヴァルが再びその手を振りかぶった。

「おい」

 振り下ろされた拳を止める。オーヴァルは先ほどアイルへ向けていた顔からは信じられないような殺意を俺に向けた。

「なんだお前……? 人のパーティの問題に口出しするのか?」

「お前がアイルのファンなのは自由だが……理不尽に仲間に手を上げるようなヤツにアイルは渡せねぇな」

 
「へぇ……やるのか? ここはダンジョン周辺地域。スキルも武器も使用可能。殺されても文句は言えないが?」

 コイツ……こんなことで武器使う気かよ。イカれてやがるな。

「後悔しても遅い!!」

 地面を蹴り、オーヴァルが距離を取る。そして、2本のショートソードを引き抜き突撃して来た。

「オーヴァルさんがキレたぞ!」
「ひぃ!?」
「シン! こっちに来なさい!」
「巻き込まれるぞ!」

 彼の仲間は巻き込まれまいと慌てて離れていく。中にはシンを引きずっていく者もいる。仲間を巻き込むことに躊躇ためらいが無い。コイツら本当にパーティか?

「アイル、下がってろ」

「うん」

 アイルが離れたのを確認し、アスカルオを引き抜く。身構えると同時にオーヴァルが技を放った。

乱撃斬らんげきざん桜花おうか!」

 オーヴァルが二対の剣を交差させる。乱撃斬は過去に戦ったボスが使っていた。その強化系か。

「オラオラオラァ!!」

 ヤツが連続で剣撃を放つ。基本モーションは乱撃斬と同じ。だが、時折挟まれる横回転の一撃。それが通常の乱撃斬よりも重い攻撃だ。普通に受ければ盾が弾き飛ばされそうになる。

「ハハハハ!! 防御しかできんとは! やはりその程度だったか!」

 高速で放たれる斬撃を盾で防御しつつ次のタイミングを待つ。さっきの一撃。また仕掛けられるはずだ。その時を見極めろ。

「死ね!!」

 オーヴァルが横回転のモーションに入る。ここだ。ラウンドシールドを構え、ヤツの斬撃に合わせる。その二対の剣の斬撃が揃う瞬間を狙い──


 ──ヤツの攻撃をパリィする弾き返す


「なに!?」

 ガラ空きになるオーヴァル。そこへアスカルオを一閃する。オーヴァルは紙一重でアスカルオの剣撃を躱し、後ろへと飛び退いた。

「クソ。マグレでパリィするとは運のいいヤツ……」

「マグレって……あ、あの男……目が腐ってるんじゃないの?」

 アイルが呆れたように声を漏らす。彼女の様子に、オーヴァルは悲しげな顔をした。

「アイルちゃん……可哀想に……きっとその男に洗脳されているんだね……」

「ひぃ!?」

 アイルがまた俺の後ろに隠れてしまう。

「なぜ隠れるんだい? オレのパーティにおいでよ。君がいればパーティも明るくなる」

「嫌よ! アンタの所なんか絶対行きたくないわ!」

「君なら特別待遇で迎えるよ? オレと来ればすぐにA級に上がれる」

「気持ち悪いぃ……ヨロイさん助けてぇ……」

 気持ち悪いとまで言われているのにオーヴァルは意にも介さずアイルへ笑みを向ける。


「何をやっているんだ!!」
「試験以外の戦闘はやめなさい!!」


 騒ぎに気付いたダンジョン管理局員達が駆け寄って来る。オーヴァルは舌打ちすると俺達へ背を向けた。

「フン。この勝負は預けた。お前の化けの皮を剥いで、アイルちゃんに相応しくないと皆に見せ付けてやる。いくぞ」

 ゾロゾロと去っていくオーヴァル達。ふと周囲を見ると、他の探索者達が騒ぐ声が聞こえた。

「おい……アレ、オーヴァルじゃねぇか?」
「え、オーヴァルって暴食のハイドラを倒したっていう?」
「今、461さんと揉めてたよな?」
「461さんを運だけの男って言ってなかった?」
「ハンターシティでハンデあったからそれを言ってんじゃね?」
「真龍倒したのも天王洲アイルのサポートのおかげで言ってたぞ」
「ホントに?」
「でも実力者のオーヴァルが言ってたんだぜ?」
「ならそうなのかも……」


 怪訝そうな顔で俺を見つめる探索者達。後ろに隠れていたアイルが大声を上げながら地面をガンガンと踏み締めた。

「461さんが活躍した映像残ってるのにあんなヤツの言う事信じるの!?」

 あのオーヴァルってヤツ、界隈じゃ有名と言っていたが、それは本当みたいだな。

 アイルが怒り散らすと周囲の探索者達はサッと目を逸らしてしまう。信じて貰えないと分かったアイルは余計に怒ってしまい、その内周囲から人がいなくなってしまった。

「なんで、信じてくれないのよ……」

「別にいいって」

「よくないもん!!」

 アイルの怒りはジーク達と合流するまで治らなかった。


 
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