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第145話 広がる冒険心
しおりを挟む──代々木迷いの森公園。
~461さん~
探索者試験が行われた翌日から、俺達は特訓の為に代々木迷いの森ダンジョンへと入った。長時間ダンジョン内で過ごすことに慣れる為に。
「ジークとミナセは前方のモルデンクロウを頼む!」
「行くぞミナセ!」
「そこの2体は任せて!」
ジークとミナセがモルデンクロウの群へと飛び込み、確実に数を減らしていく。ジークは波動斬を温存し、ミナセも強化魔法を使わず、ジークに隙が生まれないようサポートに徹する。長期戦のことも考えて、魔力を温存しながら敵の数を減らしていく動き……中々分かってるな、2人とも。
横を見ると、アイルは速雷魔法をナイフに帯電させ、杖には電撃魔法用の魔力を溜めていた。俺の思考を先読みして行動している。やっぱ最高の相棒だぜ、アイルは。
で、この状況で俺の取るべき動きは……魔力が溜まるまでアイルを守ることだ。
動きの速い敵や、空を飛ぶ敵と対峙した時は身軽なジークに先行して貰った方が消耗が少ない。新宿でも使えそうな戦術だな。試してみるもんだぜ。
「カアアアアアア!!」
「おっと」
襲いかかってきた2体のモルデンクロウ。その鉤爪攻撃をラウンドシールドでパリィする。皮肉なことに、タイミングを合わせて攻めようとした2体のモンスターは、2体同時に隙が生まれてしまった。
「らぁ!!」
横回転を加えてアスカルオを薙ぎ払う。ギラリと光る聖剣の刃は、2体のモルデンクロウを一撃で真っ二つにした。
後はジーク達の所にいる10体か。
「ヨロイさん! 準備できたわ!」
「よし! ジーク達は下がれ!」
「了解した!」
「分かったよ!」
ジークがミナセを抱き上げ、閃光を発動。大地を蹴って大きく後ろへと飛び退いた。そのタイミングを見計らってアイルがナイフを投擲する。速雷魔法によって帯電したナイフが、モルデンクロウの群の中心……地面へと突き刺さった。
すかさずアイルが杖を向ける。
「電撃魔法!!」
杖から放たれる電撃。それがナイフへと直撃し、速雷魔法の力で増幅。ドーム状に放電された一撃にモルデンクロウ達が巻き込まれてしまう。
「ガアアアアア!?」
「ガッア゛!?」
「ガア!?」
一斉に地面に落下したモルデンクロウ達からレベルポイントの光が溢れ出し、俺達のスマホへと吸収された。
「よし! 周辺にモンスターがいないか確認してくれ!」
俺達が周囲を警戒していると、陣形の中心にいたナーゴがあんぐりと口を開いていた。
「どうしたナーゴ?」
「な、なんかすごいにゃあ……みんな息が合ってるにゃ。ナーゴ何もしなくて申し訳ないにゃあ……」
ショックを受けたようにナーゴが肩を落とす。
「これはナーゴに活躍してもらう為に守ってるんだぜ? ちゃんとナーゴに戦って貰う練習もするって」
「回復役だったにゃ? がんばるにゃ!」
ナーゴは眉をキッと吊り上げ気合いを入れるポーズをした。
戦闘パターンは幅広く選択できるようにしたい。明日は中ボスクラスを探してナーゴにも入って貰うパターンで行こう。
……。
俺がパーティでの戦術を模索するなんてな。昔じゃ考えられなかったな。
◇◇◇
周辺の警戒が終わると、ナーゴが運んでくれたテントを設置し野営の準備。ダンジョンの野営に慣れているナーゴに今度はこちらが教わる番だ。
「ここの杭を打てばテントは固定できるにゃ。間違っても木にテントを固定したらダメ。木の中身が腐ってたりしたら寝てる合間に倒れて来て死んじゃうかもしれないにゃ」
「き、気を付けておこう……」
「寝てる間とか対策できないもんね」
顔面蒼白になるジークとミナセ。その様子を見ていたアイルが手を上げた。
「ねぇナーゴ。テントはいいけど周辺の警戒はどうするの? 寝てる間にモンスターが来るかもしれないし」
「良い質問だにゃ。まず、これを使うのにゃ!」
ナーゴがカバンから取り出したのはビン詰めの茶色い液体だった。あの色は……。
「これはヤムの実をすりつぶしてレモン果汁を加えたものにゃ。ヤムの実は植物のあるダンジョンならどこにでも生えてるけど、モンスターの嫌う臭いを出すのにゃ。レモンを加えるとその臭いが長続きするのにゃ!」
「へぇ~詳しいのねナーゴ! どれどれ……」
「あ! 私も気になるかも~!」
ビンの臭いを嗅ぐアイルとミナセ。2人はなんとも言えない顔をした。
「何これ? ミントみたい」
「え、私は山椒みたいな匂いに感じたよ~!」
ヤムの実は俺も知っている物だったので2人に説明する。
「独特な刺激臭があるんだよ。モンスターの鼻面に投げ付けると戦闘を強制終了させることもできるぜ」
「ヨロさんさすがだにゃ。詳しいにゃ~。ナーゴも食べれるかと思って色々調べてこの使い方を思い付いたのに」
「俺も昔は世話になったからな。でもレモン加えて臭いを長続きさせるっていうのは初耳だな」
「ヨロさんにそう言って貰えると嬉しいにゃ! ジーさん、撒くの手伝ってにゃ~」
「ジーさん」と呼ばれてジークが顔を赤くする。その様子にアイルとミナセが吹き出した。
「放っておいてくれ……」
ジークがナーゴからビンを受け取る。ナーゴはもう1つビンを取り出して、2人で周辺に絞り汁を撒いていく。グルッと一周すると、ナーゴはフゥッと額を擦った。
「これでモンスターはこの近くには近付かない。8時間は効果を発揮するから寝てる間は問題無いにゃ」
ナーゴの説明が終わると全員でスマホを確認する。代々木ダンジョンは時間感覚がおかしくなるからだ。今が夕方の17時であることを確認して夕食の準備に入った。
◇◇◇
焚き火を囲み、ナーゴが作ってくれたキノコとバイトフィッシュのスープを食べていると、ジークが声を上げた。
「本当にこんなキャンプ感覚で新宿迷宮をクリアできるのか?」
「心配すんな。あと2週間ここに滞在してお前達を野営に慣れさせる。残り1週間はコンビネーションの確認とアイテムの準備。攻略前日は休息日だ」
リレイラさんと相談した結果、これが最善だという結論になった。この2週間はみんなにとって必ず力になるだろう。
「ねー鎧さん。なんで野営に慣れないといけないの?」
スプーンを口に運ぶ手を止め、ミナセがポツリと呟く。その顔はどことなく悲しそうな顔。そういや、ミナセって子供の頃ダンジョンに放り込まれたって言ってたな。そのことを思い出しているのかも。
「ミナセなら分かると思うが、数日間野営すると疲れが抜けなくなってくる。その感覚は味わっておいた方がいい」
「ふぅん……みんなは慣れてないからね。それもそうか」
特に不満は言わずミナセがスプーンに口を付ける。平気そうにしていても、生死がかかった状態だとトラウマを思い出すかもしれない。後で精神的なケアについてもみんなで話し合っておくか。
「ヨロイさん」
考えていると、隣に座っていたアイルが俺を見上げた。
「未開のダンジョンってどんな感じなの?」
「昨日話したろ。昔俺がダンジョンに挑んだ時のこと」
「違うの。未開のダンジョンって何もかも初めてなんでしょ? そんな中でヨロイさんがどんな風に感じたのかなって、気になって」
「俺も聞きたい。既に攻略情報が出回っているダンジョンしか知らないからな」
「私も聞きたいかも!」
「ナーゴもにゃ!
アイルを皮切りに口々に聞いてくる。危険性は散々伝えたが……なんでそんなことを聞くんだ?
俺がどう思っているのか、か。
……。
「見たことない敵にトラップ。いつ死んでもおかしくない。そんな所に行くなんてどうかしてる。色んなヤツにそう言われたな。頭おかしいんじゃないかって」
ダンジョンが現れた当時は何をするにも言われた。家を出る時親に言われ、アイテムの売買の時、時には攻略を諦めた同業者にも言われた。
だけど、俺は……。
「最高だと思うぜ。未知の世界への期待、生きている実感、攻略した時の達成感。その全てが……ダンジョンでしか味わえない。未開のダンジョンはその最たるものだ」
アイル達が俺を見て笑みを浮かべる。
「そんな最高なこと、ヨロイさんしか知らないってズルイじゃない!」
「俺も見てみたい、未知の世界という物を」
「達成感か~! 渋谷よりもっとすごそうだよね!」
「みんなとなら楽しい冒険になりそうにゃ!」
口々に新宿について語り出すアイル達。それを見て安心する。昔は……こんな顔をしてくれるヤツはいなかった。だけど今、俺はそんな彼らとパーティを組んで、前人未到の地へ踏み込もうとしている。
いける。このパーティなら、絶対に攻略できる。
何も分からないはずなのに、アイル達の顔を見ていると、そう思えた。
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