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第280話 赤い通り魔
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パララもん達がリザードマン達と戦っている頃。
──駅ビル「秋葉原UDX」近隣。
「ギギャ!!」
「ギギアグ!」
「ギギアギ!!」
「ギギッギ!」
大通りである都道437号線から10体のアヴィゴブリンがUDX方面へ移動していた。彼らは自分達より体格の良いリザードマンの影に隠れてひっそりと移動し、探索者達が戦うエリアから逃げ出そうとしていたのだ。
彼らは時空の歪みによってどこかの時代から呼び出された存在。異世界ルガトリウムの魔物であった。
「ギ~……」
「ギギ!!」
「ギッギッギ」
異世界においての彼らは何度も人間の村を襲い、人々を一方的に蹂躙する事に悦びを感じる群れであった。それはこの大都会東京に飛ばされても変わらない。
彼らは探索者達を突破すればその先に弱い人間が暮らす地域があると考えていたのだ。彼らにとって、村を襲う時はいつもそうだった。
村を守る兵士を囮を使って掻い潜り、村に忍び込む。そこで女子供を人質に兵士を一方的に殴り殺す。
そうして残された者達を後で散々痛めつけてから殺すのだ。今回も同じ。例え探索者達が強くとも、ここさえ突破してしまえば全てが上手くいく。ここはどうやら人間の住居が頑丈なようだ。どこかに押し入り、その家の主を殺せばそこを中心に人間狩りができる……彼らはそう考えていた。
が。
彼らの考えは甘かった。
路地裏を進み、UDXを通り抜け、高架下を潜ろうとした時、妙な音が聞こえた。
ザクッザクッザクッ……。
何かを突き刺すような音。リーダーのゴブリンがよく目を凝らすと、前方にガウルベアが倒れているのを発見した。
他の個体よりも一際大きなガウルベア。3メートルはあろうかという巨体の上に、人間の男が乗っているのが見えたのだ。
既に息絶えたはずのそれを、赤い槍で何度も突き刺す男。噴き上がる血飛沫を浴びて、その体は真っ赤に染まっていた。
「ギ……?」
ゴブリン達が一斉に足を止める。それほどまでに、男の漂わせるオーラは異常だった。とても強そうには見えない男。くたびれた様相の男。その男がユラリと立ち上がり、ゴブリン達を見た。その眼を見た瞬間、ゴブリン達は思わず後退りしてしまう。
異様なのだ。その眼が。
意思があるのか無いのか、目の前の存在をただ「殺す」という殺気だけを漂わせた眼。自分達の殺人衝動とは明らかに違う何か。もっと本能的な……捕食だろうか? いや……捕食とも違う。本能よりももっと根源的な「何か」がそこにあった。
リーダーゴブリンに少しずつ恐怖が湧き上がる中、男は何事かを叫んだ。
「勝者ファイッ!!」
男……勝者マンが叫んだ瞬間、一気にこちらへ向かって走り出す。リーダーのゴブリンは仲間達へ指示を出した。2体のゴブリンが散開し、左右から男に襲いかかる。
「ギギ~!!」
「ギギギ!!」
「……!?」
左右から挟み込まれるように襲われる勝者マン。ゴブリンの粗雑なナイフが勝者マンを貫こうとした時、彼は半歩後ろへ後退した。攻撃直前で回避されたゴブリン達は勢い余って激突し、地面へと転がった。
「勝者アロー!!!」
勝者マンが地面に転がった2体のゴブリンへ赤い槍を突き刺す。
「ギア゛!?」
「カ゛ギ……!?」
槍が突き刺さりグッタリと力を失うゴブリン達。それを横目に勝者マンが走り出す。その手にはいつの間にかナイフを持っていた。
「勝者ナイフッッ!!」
嘘のように刃渡の長いナイフ。幅広のそれは一瞬玩具のような印象を抱くが、勝者マンが1体のゴブリンを一閃すると、その体から鮮血が舞った。明らかに殺傷力の高い武器。リーダーゴブリンは仲間達を一斉に勝者マンへと差し向けた。
「勝者ナイフ!!」
「ギアアアアアアア!!?」
「勝者アロー!!!」
「ギギョバアアア!!?」
ことごとくやられて行く仲間達。リーダーゴブリンは困惑する。何故だ、村を守る兵士達ですら我々と戦う時はもっと必死だった。なぜこの男はここまで無心になって戦闘できるのだ。ヤツに恐怖心は無いのか? それとも自分達は弱かったのか? 今まで襲っていた人間達は運良く弱い者達だったということだったのか……?
彼の自信喪失も無理は無い。アヴィゴブリンは決して弱い種族では無いのだ。異世界にいる数あるゴブリン種の中でも種族内闘争に勝ち残り、強者であるはずの異世界人達を蹂躙するほどの知能と統率、そして肉体的強さを持っていたのだから。それが目の前の男に軽く捻られるなどあってはならない。そのプライド故か、いつの間にかリーダーゴブリンは怒りを抱いていた。
「ギギギ!!! ギギッギ!!!」
仲間達を叱咤するリーダーゴブリン。そのおかげか、残り4体のゴブリンは連携を駆使して勝者マンを押し始める。1体が攻撃をいなし、残り3体が攻撃を仕掛ける。勝者マンはそれをナイフで防御するが、やがて逃走を始めた。
「ギギ~!!」
リーダーゴブリンがトドメを刺すように指示を出す。勝者マンがUDXの2階へ続く階段を登り、それを残りのゴブリンが追いかけた。
「ギッ!!」
「ギギ!!」
先行した2体のゴブリンが勝者マンへ飛びかかる。そのすぐ背後にはもう2体が。4体の攻撃に勝者マンはあっけなく惨殺された──
──ハズだった。
「勝者フォール!!!」
勝者マンが襲いかかった2体のゴブリンの足元へ滑り込み、その足を鷲掴みにしてUDXの2階から放り投げる。地面へ落下していくゴブリン。さらに、続いて攻撃を仕掛けていたゴブリンの攻撃を躱し、その頭を掴んで先程落としたゴブリンに向かって投げ落とす。
「ギエ!?」
「ギグゥ!?」
「ギャ!?」
「ギィヤ!?」
4体のゴブリンが地面に落ち、揉み合うようにその場から逃れようとする。2階からその様子を見ていた勝者マンが両手を掲げる。
「勝者アロー!!」
両手に現れる2本の槍。勝者マンは、それをもつれ合うゴブリン達に全力で投擲した。
「ギ!?」
「ギア!?」
「ギギ!?」
「ギギア!?」
4体の体を貫通する槍。
次の瞬間。
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!?」」」
勝者アローが大爆発を起こし、4体のゴブリンは爆発四散した。
「ギ……ギ……ギ……」
リーダーゴブリンが腰を抜かしたように後ずさる。爆発を起こしたのは勝者マンの爆槍魔法によるものなのだが……一瞬にして仲間を全員失ったリーダーゴブリンは錯乱状態に陥り、何故爆発したかも分からなくなっていた。
腰を抜かし、動けないリーダーゴブリン。勝者マンが、ゆっくりとリーダーゴブリンに向かって歩いていく。
「勝者チェック!」
倒したゴブリン達が死んでいるかチェックしながら、時折勝者アローでゴブリンの死骸を突き刺しながら勝者マンが向かって来る。
「ギィ……」
目の前にやって来る赤い槍を携えた男。リーダーゴブリンは両手を組んで命乞いをした。もう女子どもを痛ぶるようなことは致しません。殺すのは男だけに……いや、人間を殺すような事は……。
「ギィギィ~ギギギ~!」
男の目を見つめて必死に訴える。例え言葉は通じなくとも誠意を見せればきっと通じるはず。この男の関係者に自分達はまだ何もしていないのだから。
ウルウルと目を潤ませるリーダーゴブリンに、勝者マンは初めて笑顔を見せた。朗らかな優しい笑顔。きっとこのような戦闘狂になる前には優しい一般人であったような笑顔。彼は、笑顔のままリーダーゴブリンにこう答えた。
「勝者ファイッッ!!」
◇◇◇
全てのモンスターが倒された後。
「にゃ~回復が必要な人はいるかにゃ~?」
探索者達がモンスターの討伐を終えた頃、ナーゴは回復薬と自身の特製回復ドリンクを持って秋葉原中を駆け回っていた。ほとんどの探索者は命に別状は無いものの、少しでも役に立ちたい。その一心から。
〈ナーゴちゃんは優しいにゃ♡〉
〈さすがナーゴちゃんにゃ!〉
〈心が洗われるにゃ!〉
〈きっと美少女にゃ!〉
〈ナーゴファンはそんな事言わないにゃ!〉
〈ファンの偽物にゃ!〉
〈なりすましにゃ!〉
〈ど、どうしてばれたんだお!?〉
〈僕も前にバレたんだ!〉
〈ファンは簡単には騙せないものよ♡〉
〈ネキが言うと説得力ありすぎて草w〉
和やかなコメントがナーゴの目の前を流れていく。彼女は彼女なりに461さん達を応援しようと配信しながら2日後の決戦の事を告知していた。
そうして彼女がUDX付近にやって来た時、妙な音が聞こえた。
ザクッザクッザクッ……。
何かを突き刺すような音。コメントにも疑問の声が流れた。
〈変な音にゃ〉
〈何の音にゃ?〉
〈料理中かにゃ?〉
〈こんな街中でするはず無いにゃ〉
〈戦闘中かお?〉
〈不気味なんだ!〉
〈まだモンスターがいるのかしら?〉
ナーゴとドローンがヒョコッと物陰から覗き込んだ時、勝者マンが一心不乱にゴブリンを突き刺しているのが見えた。
「にゃ!? 勝者マン!?」
ナーゴのドローン、そのカメラに勝者マンが戦った後の光景をしっかりと捉えられる。それは、とてもモザイク無しでは見られないような光景だった。
〈ヴォエにゃ!!!?〉
〈グログロにゃ!!!!〉
〈見られないにゃ!!!〉
〈キッツイお!?〉
〈ん?なんかあるんだ?〉
〈みんな見ちゃう前に早く退出しなさ──〉
ナーゴの前に流れているコメントが、突然ブツリと途切れた。
「にゃ!? なんでコメントが……!?」
慌ててスマホで配信サイト「Dチューブ」に繋ぎ直すナーゴ。自分のチャンネルを見た時、彼女は叫び声を上げた。
「にゃあああああああああああ!? ナーゴのチャンネルがアカウントB A Nされてるにゃああああ!?」
それは、その光景があまりに凄惨な事によりDチューブの規約を違反してしまっていたのだ。意図せず映してしまったナーゴの「ネコネコナーゴちゃんねる」。Dチューブのアルゴリズムは厳格。常軌を逸したその光景に温情の余地も無く即刻アカウントBANされたのであった。
「フギャアアアアアアアアア!!!」
「……!?」
勝者マンが彼女の存在に気付く。怒りのあまり絶叫するナーゴ。その両眼がビカリと光り、全身から蒸気が発生する。ブシュリと頭が持ち上がり、その隙間から人の両腕がニュッと伸びた。その手がナーゴスーツをガシリと掴む。
「ゆ゛る゛さ゛ん゛……!!!」
メキメキとナーゴスーツの隙間が広がり、その中から少女が現れた。
黒いショートヘアに黒いインナースーツを着た美少女。ナーゴの本当の姿、名護友香里が。
「勝者マァァァァァンン……ッ!!!」
本来なら誰もが振り返るような美少女……だが彼女は、アカウントBANによって全身に怒りを漂わせていた。
「しょ、勝者ダッシュッッ!!!」
そのオーラは凄まじく、先ほどまで修羅の如き活躍を見せていた勝者マンは身の危険を感じて逃げ出した。
「逃すかあああああああ!!!! フギャアアアアアアアアア!!!!」
誰もいないUDX周辺にナーゴこと名護友香里の怒声が響く。その後、怒り狂った名護友香里に勝者マンはボコボコにされ、ナーゴの元に永久就職。今後全ての探索で食材集めをさせられる事になるのだが……。
それはまた、別のお話。
──駅ビル「秋葉原UDX」近隣。
「ギギャ!!」
「ギギアグ!」
「ギギアギ!!」
「ギギッギ!」
大通りである都道437号線から10体のアヴィゴブリンがUDX方面へ移動していた。彼らは自分達より体格の良いリザードマンの影に隠れてひっそりと移動し、探索者達が戦うエリアから逃げ出そうとしていたのだ。
彼らは時空の歪みによってどこかの時代から呼び出された存在。異世界ルガトリウムの魔物であった。
「ギ~……」
「ギギ!!」
「ギッギッギ」
異世界においての彼らは何度も人間の村を襲い、人々を一方的に蹂躙する事に悦びを感じる群れであった。それはこの大都会東京に飛ばされても変わらない。
彼らは探索者達を突破すればその先に弱い人間が暮らす地域があると考えていたのだ。彼らにとって、村を襲う時はいつもそうだった。
村を守る兵士を囮を使って掻い潜り、村に忍び込む。そこで女子供を人質に兵士を一方的に殴り殺す。
そうして残された者達を後で散々痛めつけてから殺すのだ。今回も同じ。例え探索者達が強くとも、ここさえ突破してしまえば全てが上手くいく。ここはどうやら人間の住居が頑丈なようだ。どこかに押し入り、その家の主を殺せばそこを中心に人間狩りができる……彼らはそう考えていた。
が。
彼らの考えは甘かった。
路地裏を進み、UDXを通り抜け、高架下を潜ろうとした時、妙な音が聞こえた。
ザクッザクッザクッ……。
何かを突き刺すような音。リーダーのゴブリンがよく目を凝らすと、前方にガウルベアが倒れているのを発見した。
他の個体よりも一際大きなガウルベア。3メートルはあろうかという巨体の上に、人間の男が乗っているのが見えたのだ。
既に息絶えたはずのそれを、赤い槍で何度も突き刺す男。噴き上がる血飛沫を浴びて、その体は真っ赤に染まっていた。
「ギ……?」
ゴブリン達が一斉に足を止める。それほどまでに、男の漂わせるオーラは異常だった。とても強そうには見えない男。くたびれた様相の男。その男がユラリと立ち上がり、ゴブリン達を見た。その眼を見た瞬間、ゴブリン達は思わず後退りしてしまう。
異様なのだ。その眼が。
意思があるのか無いのか、目の前の存在をただ「殺す」という殺気だけを漂わせた眼。自分達の殺人衝動とは明らかに違う何か。もっと本能的な……捕食だろうか? いや……捕食とも違う。本能よりももっと根源的な「何か」がそこにあった。
リーダーゴブリンに少しずつ恐怖が湧き上がる中、男は何事かを叫んだ。
「勝者ファイッ!!」
男……勝者マンが叫んだ瞬間、一気にこちらへ向かって走り出す。リーダーのゴブリンは仲間達へ指示を出した。2体のゴブリンが散開し、左右から男に襲いかかる。
「ギギ~!!」
「ギギギ!!」
「……!?」
左右から挟み込まれるように襲われる勝者マン。ゴブリンの粗雑なナイフが勝者マンを貫こうとした時、彼は半歩後ろへ後退した。攻撃直前で回避されたゴブリン達は勢い余って激突し、地面へと転がった。
「勝者アロー!!!」
勝者マンが地面に転がった2体のゴブリンへ赤い槍を突き刺す。
「ギア゛!?」
「カ゛ギ……!?」
槍が突き刺さりグッタリと力を失うゴブリン達。それを横目に勝者マンが走り出す。その手にはいつの間にかナイフを持っていた。
「勝者ナイフッッ!!」
嘘のように刃渡の長いナイフ。幅広のそれは一瞬玩具のような印象を抱くが、勝者マンが1体のゴブリンを一閃すると、その体から鮮血が舞った。明らかに殺傷力の高い武器。リーダーゴブリンは仲間達を一斉に勝者マンへと差し向けた。
「勝者ナイフ!!」
「ギアアアアアアア!!?」
「勝者アロー!!!」
「ギギョバアアア!!?」
ことごとくやられて行く仲間達。リーダーゴブリンは困惑する。何故だ、村を守る兵士達ですら我々と戦う時はもっと必死だった。なぜこの男はここまで無心になって戦闘できるのだ。ヤツに恐怖心は無いのか? それとも自分達は弱かったのか? 今まで襲っていた人間達は運良く弱い者達だったということだったのか……?
彼の自信喪失も無理は無い。アヴィゴブリンは決して弱い種族では無いのだ。異世界にいる数あるゴブリン種の中でも種族内闘争に勝ち残り、強者であるはずの異世界人達を蹂躙するほどの知能と統率、そして肉体的強さを持っていたのだから。それが目の前の男に軽く捻られるなどあってはならない。そのプライド故か、いつの間にかリーダーゴブリンは怒りを抱いていた。
「ギギギ!!! ギギッギ!!!」
仲間達を叱咤するリーダーゴブリン。そのおかげか、残り4体のゴブリンは連携を駆使して勝者マンを押し始める。1体が攻撃をいなし、残り3体が攻撃を仕掛ける。勝者マンはそれをナイフで防御するが、やがて逃走を始めた。
「ギギ~!!」
リーダーゴブリンがトドメを刺すように指示を出す。勝者マンがUDXの2階へ続く階段を登り、それを残りのゴブリンが追いかけた。
「ギッ!!」
「ギギ!!」
先行した2体のゴブリンが勝者マンへ飛びかかる。そのすぐ背後にはもう2体が。4体の攻撃に勝者マンはあっけなく惨殺された──
──ハズだった。
「勝者フォール!!!」
勝者マンが襲いかかった2体のゴブリンの足元へ滑り込み、その足を鷲掴みにしてUDXの2階から放り投げる。地面へ落下していくゴブリン。さらに、続いて攻撃を仕掛けていたゴブリンの攻撃を躱し、その頭を掴んで先程落としたゴブリンに向かって投げ落とす。
「ギエ!?」
「ギグゥ!?」
「ギャ!?」
「ギィヤ!?」
4体のゴブリンが地面に落ち、揉み合うようにその場から逃れようとする。2階からその様子を見ていた勝者マンが両手を掲げる。
「勝者アロー!!」
両手に現れる2本の槍。勝者マンは、それをもつれ合うゴブリン達に全力で投擲した。
「ギ!?」
「ギア!?」
「ギギ!?」
「ギギア!?」
4体の体を貫通する槍。
次の瞬間。
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!?」」」
勝者アローが大爆発を起こし、4体のゴブリンは爆発四散した。
「ギ……ギ……ギ……」
リーダーゴブリンが腰を抜かしたように後ずさる。爆発を起こしたのは勝者マンの爆槍魔法によるものなのだが……一瞬にして仲間を全員失ったリーダーゴブリンは錯乱状態に陥り、何故爆発したかも分からなくなっていた。
腰を抜かし、動けないリーダーゴブリン。勝者マンが、ゆっくりとリーダーゴブリンに向かって歩いていく。
「勝者チェック!」
倒したゴブリン達が死んでいるかチェックしながら、時折勝者アローでゴブリンの死骸を突き刺しながら勝者マンが向かって来る。
「ギィ……」
目の前にやって来る赤い槍を携えた男。リーダーゴブリンは両手を組んで命乞いをした。もう女子どもを痛ぶるようなことは致しません。殺すのは男だけに……いや、人間を殺すような事は……。
「ギィギィ~ギギギ~!」
男の目を見つめて必死に訴える。例え言葉は通じなくとも誠意を見せればきっと通じるはず。この男の関係者に自分達はまだ何もしていないのだから。
ウルウルと目を潤ませるリーダーゴブリンに、勝者マンは初めて笑顔を見せた。朗らかな優しい笑顔。きっとこのような戦闘狂になる前には優しい一般人であったような笑顔。彼は、笑顔のままリーダーゴブリンにこう答えた。
「勝者ファイッッ!!」
◇◇◇
全てのモンスターが倒された後。
「にゃ~回復が必要な人はいるかにゃ~?」
探索者達がモンスターの討伐を終えた頃、ナーゴは回復薬と自身の特製回復ドリンクを持って秋葉原中を駆け回っていた。ほとんどの探索者は命に別状は無いものの、少しでも役に立ちたい。その一心から。
〈ナーゴちゃんは優しいにゃ♡〉
〈さすがナーゴちゃんにゃ!〉
〈心が洗われるにゃ!〉
〈きっと美少女にゃ!〉
〈ナーゴファンはそんな事言わないにゃ!〉
〈ファンの偽物にゃ!〉
〈なりすましにゃ!〉
〈ど、どうしてばれたんだお!?〉
〈僕も前にバレたんだ!〉
〈ファンは簡単には騙せないものよ♡〉
〈ネキが言うと説得力ありすぎて草w〉
和やかなコメントがナーゴの目の前を流れていく。彼女は彼女なりに461さん達を応援しようと配信しながら2日後の決戦の事を告知していた。
そうして彼女がUDX付近にやって来た時、妙な音が聞こえた。
ザクッザクッザクッ……。
何かを突き刺すような音。コメントにも疑問の声が流れた。
〈変な音にゃ〉
〈何の音にゃ?〉
〈料理中かにゃ?〉
〈こんな街中でするはず無いにゃ〉
〈戦闘中かお?〉
〈不気味なんだ!〉
〈まだモンスターがいるのかしら?〉
ナーゴとドローンがヒョコッと物陰から覗き込んだ時、勝者マンが一心不乱にゴブリンを突き刺しているのが見えた。
「にゃ!? 勝者マン!?」
ナーゴのドローン、そのカメラに勝者マンが戦った後の光景をしっかりと捉えられる。それは、とてもモザイク無しでは見られないような光景だった。
〈ヴォエにゃ!!!?〉
〈グログロにゃ!!!!〉
〈見られないにゃ!!!〉
〈キッツイお!?〉
〈ん?なんかあるんだ?〉
〈みんな見ちゃう前に早く退出しなさ──〉
ナーゴの前に流れているコメントが、突然ブツリと途切れた。
「にゃ!? なんでコメントが……!?」
慌ててスマホで配信サイト「Dチューブ」に繋ぎ直すナーゴ。自分のチャンネルを見た時、彼女は叫び声を上げた。
「にゃあああああああああああ!? ナーゴのチャンネルがアカウントB A Nされてるにゃああああ!?」
それは、その光景があまりに凄惨な事によりDチューブの規約を違反してしまっていたのだ。意図せず映してしまったナーゴの「ネコネコナーゴちゃんねる」。Dチューブのアルゴリズムは厳格。常軌を逸したその光景に温情の余地も無く即刻アカウントBANされたのであった。
「フギャアアアアアアアアア!!!」
「……!?」
勝者マンが彼女の存在に気付く。怒りのあまり絶叫するナーゴ。その両眼がビカリと光り、全身から蒸気が発生する。ブシュリと頭が持ち上がり、その隙間から人の両腕がニュッと伸びた。その手がナーゴスーツをガシリと掴む。
「ゆ゛る゛さ゛ん゛……!!!」
メキメキとナーゴスーツの隙間が広がり、その中から少女が現れた。
黒いショートヘアに黒いインナースーツを着た美少女。ナーゴの本当の姿、名護友香里が。
「勝者マァァァァァンン……ッ!!!」
本来なら誰もが振り返るような美少女……だが彼女は、アカウントBANによって全身に怒りを漂わせていた。
「しょ、勝者ダッシュッッ!!!」
そのオーラは凄まじく、先ほどまで修羅の如き活躍を見せていた勝者マンは身の危険を感じて逃げ出した。
「逃すかあああああああ!!!! フギャアアアアアアアアア!!!!」
誰もいないUDX周辺にナーゴこと名護友香里の怒声が響く。その後、怒り狂った名護友香里に勝者マンはボコボコにされ、ナーゴの元に永久就職。今後全ての探索で食材集めをさせられる事になるのだが……。
それはまた、別のお話。
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命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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