リズムが合わない2人はワルツを踊れるか。

仔犬

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華の消える金曜日

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「初めまして。奥野れんです」


アカネが紹介した人物はやはりアカネの彼氏同様穏やかで優しげな印象だった。若そうに見えるがさゆの数個上だと言う。服装はスーツだがすらりとしていてスタイルもいい。

「こちらこそ、白春しらはるさゆです」

今日という日があまりにも嫌だったさゆとしてはその爽やかさに毒気を抜かれ、自然に笑い返すことが出来たから助かった。
れんの隣ではあおいがいつも通りの笑顔で話し出す。

「原島あおいです。奥野さんよろしくお願いします。それからアカネさんの彼氏さんもいきなり参加させていただいてありがとうございます……あのお名前は……」

「ああ、紹介が遅れたな、アキラだ。瀬野アキラ。コイツは成海なるみアカネって知ってるか……」


「当たり前でしょ私の職場の人間なんだから。まあ、でもアキラは花村さんもしらないよわね。花村ミユさんよ」

話を振られたミユは視線を彷徨わせテーブル向こうのあおいを見る。何も考えてもいなそうな反射的な微笑みで返すあおいに顔を赤くしながらもミユは小さく全員に向け会釈をした。

「あ、あの、初めまして」

「こちらこそ」

この場で1番年上だけありアキラは落ち着いていた。話し方こそ男らしいが目の前でアカネとアキラを見ているとお似合いという言葉意外には探せない。いつでも落ち着いていて、今日も急なメンバー追加にもいつも通りの態度だ。

自分には到底真似できない。そう思いながらさゆは目線をテーブルに置かれたキャンドルに移した。この日が来ないことをどれほど願ったか、だか神様も男女の飲み会ごときでは出番はない。

金曜日になり、いつの間にか予約されていたお店はチーズが美味しく、雰囲気も良く、並ぶワインはさゆのお気に入りも多い。アカネやアキラとだけならもちろん良かったが、結局どうにも不思議なメンバーで集まってしまった。

「奥野さんと瀬野さんは職場が一緒、なんですか?」

「ああコイツ俺のチームに最近異動してきた期待のエース」

「ちょっと、アキラさんハードルあげないでくれますか」

「本当の事だ」


軽口を叩き合う2人に話を振ったあおいはにこにこと頷いた。初対面でも億しないところはあおいもれんも同じようでそこが少し似ている。

メニューを取り出したアカネがこっそりと耳打ちした。

「彼もなかなか美形でしょう?」

「私スパークリングでお願い」

「……もう少し興味持ちなさいよ」


仕方なく、さゆは2人をちらりと見比べた。
スッキリとした目に、薄い唇のバランスが良く、笑った顔は今朝ニュースで賞を取った俳優に似ていた。紹介などされなくても女性が絶えないだろうに不思議だとさゆは首をかしげる。
あおいも含めきっと整っていると評価される部類。
れんが2枚目俳優なら白い肌と大きな目がクオーターのようなあおいはまた違った派手さがあった。

アカネが一通り注文を終え微笑む。

「そうよ、そこは営業マン同士話が合うかもしれないわね」

れんがあおいに向くと人受けのいい笑顔を見せた。お互い営業マンらしい愛想の良さだ、。

「営業なんですか?それは話が合いそうです」

「あおいくんうちの会社でトップの成績なんだから」

「それはすごい!それじゃあコツなんてのも教えてもらえたり?」

「いえいえ、楽しみながらやっていただけなので。僕の方こそエースに聞きたいくらいです」


果たしてこの会になんの意味があるのだろうか。ああ、早く帰りたい。そうぼんやり考えながらさゆはどうにか利点を探していた。ここのメニューに間違いは無いのだから、せめて飲食だけは楽しまなくては。追加でワインを頼み、緊張しているミユのグラスが空けば一緒に頼んでいく。

「それにさゆさんが力になってくれますから」

「……え?」

あおいに微笑まれいつの間にか全員の注目が集まっていた。さゆはすぐに笑って返し耳だけが聞いていた情報を呼び起こし会話を紡ぐ。

「いえ、私はサポート業務をこなしているだけなので特別な事は」

もはや謙遜と言うよりは当たり障りのない定型分を返したさゆにアカネが密かに横腹をつついた。もう少し盛り上げなさいよ。表情すら変えず押し返すさゆ。勝手に誘っといて私が来ただけ奇跡と思いなさい。

「お前ら何つつき合ってんだよ」

ケラケラと笑うアキラ。
その横でれんがグラスをあおり、置いたと思えばさゆを見つめる。

「営業にこんな風に言われるのって意外と有りませんよ。原島くんが羨ましい限りだ」

意味ありげな視線にさゆは笑顔を返した。このパターン、危ないのではないか。

「あげませんよ」

「貴方のものでもないわ」

あおいのおふざけに突っ込みながら過去が蘇る。いつも最初は上手くいくのだ。相手がさゆを褒め、受け入れる。かと思えば褒めたところが結局嫌になったなどと言い始めるのだから救いがない。考えると嫌になってくる。投げ出して最後の一口を飲み干した。

「それに私は仕事が好きだから、好きな事をしているだけ」

「真面目でしょこの子」

れんのさゆへの目線をいち早く察知したアカネは密かに燃え出していた。正直さゆの見た目ならば誰を連れて来たとしても落とすことは可能だが、こちらとしてもいい加減良い男を捕まえて欲しい。さゆは相変わらず人間への興味が薄いがれんを完全否定してはいない。それにモテるさゆはなんやかんや男は作るのだから一度付き合ってみる始まりだって構わない。
れんはここ最近出会った人間で1番のおすすめできる人物だ。それこそ今推すしかない。

「こんな美人で有能な子なかなかいないわよ。れんくん」

「それにれんはさゆの見た目、ジャストでタイプだぜ」 

「はは、こればっかりはバラして行った方が得策な気がしますね」

「だろ?」

出会って数十分だと言うのにこの男もなかなか図太いかもしれない。見た目に関しては慣れてしまうほど褒められてきたさゆにその作戦の効果は怪しいが。

「嬉しいです」

丁度運ばれてきたお酒をのみながら笑って適度に返事をしたさゆは視線をあおいしか見ていないミユに向けた。同じ有能ならば可愛げのある者にサポートされた方がいいのではと。

「私は花村さんのサポートは丁寧だしおすすめです。ほかの営業の間でも人気でしょう」

「……え?」

どんなにこの後輩に嫌われていたとしてもさゆの評価は一定していた。あおいに異常な執着があったとしてもそれは変わらず、同じサポート業務の中ではさゆはミユを高く評価していた。スピードこそまだないが言った事に対しては的確に動けるし、かつ丁寧だ。それがあおいを介した競争心であったとしても仕事上問題はない。

それに自分とは正反対の女性らしい気遣いもある。癒しとは彼女のような人間から生まれるのだろうとさゆは思う。


「良かったね、花村さん。さゆさんに褒められるなんて羨ましい」

「あ、ありがとう、ございます」


とは言え、褒めたと言うのに心底嫌そうな顔をしたミユ。あおいの方が嬉しそうだ。
ひきつった笑顔を見てさゆは失敗したなとしみじみ感じるが今更これ以上嫌われることもないだろうともはや諦めの境地である。

「随分と、原島さんは白春さんと仲がいいんですね」

「まだまだ、僕はもっと仲良くなりたいですが」

「もう結構です」

ぴしり言い放つさゆにあおいは軽やかに笑った。


「これがまた手強くて」

「そのようだ」

ふと2人がこの時間までグラスしか持っていない事に気がつく。甲斐甲斐しくミユが取り分けているのに美味しい料理が勿体無い。気にするのもやめてアカネに聞く。

「ラクレット頼んでくれた?」

「もちろん。もうすぐくるんじゃないかしら……あ、ほらきたわよ」


食べて飲む事しか今は考えていない。
運ばれてきた大きなチーズの表面を上品な店員が焼いていく。パンとジャガイモやウィンナーにもかけられていくチーズ、その頃には良い香りが鼻をくすぐった。

「ほらお食べ」

待ち望んでいたさゆにアカネが苦笑気味に促す。言われずとも指はパンを取っていた。

「美味しい……」

ようやく、生きた心地がする。
こんな事で馬鹿みたいだが、普段から自分のプロポーション維持のため食事も気をつけているさゆにとって美味しいお店で美味しいものを選んで食べる事が堪らないご褒美である。

「さゆさん、可愛いなぁ……」

「私は良いから食べて下さい」

異様に視線を感じると思えばにこにことあおいがさゆを見つめていた。しかも何故かれんまで同じような顔をしている。せっかくの料理を邪魔しないでくれと言いたいが、思わぬ発言によりさゆは固まる。

「……あの、原島さんはなんで白春さんの事をそんなに気に入っているんですか?」

ミユだった。
心底、納得いかない。そんな顔でさゆを睨みながら。さゆですらその原因はよくわかる。何かあればと期待して好きな男がいる飲み会に参加したのにも関わらずほかの女をずっと褒めているのだから、沸点に達したのだろう。

だからと言って何故今それを爆発させるのだ。チーズを食べろ。

アカネとアキラが視線を交わし、さゆはパンを飲み込んだ。答えなくて良い答えなくて良い答えなくて良い。心の中で流れ星よりも早く唱えたと言うのに願いはいつも届かない。

あおいはすでに口を開いていた。



「世界で1番、可愛いから」



何故この男は、
こう言う時だけ悪い顔をするのだろう。




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