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大人の
大人の
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かちゃりとVIPルームの部屋を開けるとドアの隙間から本を読む手が見えた。綺麗な指の動きが止まると彼は微笑む。
「暮刃先輩はお兄さんなんですよねぇ?」
「うん、そうだね」
兄弟というものがおれには居ないので今までお兄ちゃん、と言えば秋だったのだ。爽やかで面倒見が良くてノリが良い。だけど暮刃先輩はお兄ちゃんじゃなくて、お兄さんって言いたくなるよね。
「暮刃先輩お兄さんだったら、おれずっと自慢しながら横歩きますね~」
「それは嬉しいな。俺もこんな可愛い弟がいるなら大々的にお披露目するよ」
にっこり笑った暮刃先輩。
こんな兄にお披露目される弟ならば相当な努力をしようと思うほど、その笑顔が眩しくて恐れ多い。
「君達と違って可愛げが無いんだよね俺の弟……真面目で器用でなんでも出来るから淡々としてるし。要領が良い分会話は楽しいけど」
言葉選びは淡白だけど暮刃先輩が人のことをこんな風に語るのは珍しいので兄弟仲は悪くは無さそうだ。ふんふんと頷きながら読書中の暮刃先輩を横から眺める。視線がページの最後に向き、次はめくるのかと思ったらおれの方に顔を上げた。
「どうしたの?突然」
「いえ、大人の魅力はお兄ちゃんからくるのかなぁと」
「ん?」
にっこり微笑んでどう言う意味だと首をかしげ、綺麗な髪の毛が少し揺れた。ソファに座る暮刃先輩の斜め前に立ったままなのが気になったのか腕を引かれて横に座る形になる。
「じつは色気をもう少し上手に使えと式に怒られて。秋も優もそうだ!とか便乗して……そもそも使えも何も持ってないものは活用ができないからどうしようと思いながらここにきた訳です」
「そして部屋に戻って居たのが俺だったと…」
「まさしく適任が」
にやりと笑ったら愛犬でも撫でるようにおれの頭を手が行ったり来たり。
静かなこの人は優と2人きりだと少し変わるのだろうか。
「使い方ねえ……」
「だって持ってないですからね」
「秋も優ももちろん唯も持ってるよ、それぞれ」
あの2人は分かるけど、自分にはそうは思えない。だって持ってるなら大体の初見の一言が「可愛い」な筈がないのだ。
「納得いかない?そうだな……色気にもさ種類があると思うんだよね」
微笑んで膝に置いたままの本を閉じる暮刃先輩に首を傾げた。
「種類?」
「うん。例えば余裕、遊び、ギャップとかに分けられるかな」
分かるような、分からないような。ああでもこれを女の子とか知り合いで例えたらわかりやすいのかもしれない。
「秋はどうですか?」
「彼は余裕かな。ちゃんと周りを見た上でやるべきことがわかってるよね。実際瑠衣が何をしてもそんなに動じないでしょう」
普段から見ても確かにと頷ける。恥ずかしがる時もあるけど同等のお返しをできる愛情表現をしている筈。
「唯はそうだね、ギャップだから本人も分かりづらいのかもね」
「ギャップ……」
「こんなに可愛い君がさ、大人みたいな顔するんだよ」
「そうですか?」
母さんがいつも唯斗は世界一可愛い息子よの一点張りなのは親バカだからかもしれないけど、男の人も女の人からも可愛いとか元気とかそんな言葉がおれにかけられる。
もし大人なんて要素が少しでもあるならば、女の子の前だろうか。エスコート側に立つならば自分のこの容姿関係なく、いつだって不安にさせずに穏やかに優雅に相手に合わせた態度を心がけるから心持ちが違う。
でももしそれが式の言う色気が使えてない、を指すのだとしたら絶望的だ。あれはもはや、おれのアイデンティティに近い。精神論の根底に叩き込まれたフェミニストとレディーファーストは多分これから先も揺るがない筈だ。
「ううん……」
再び悩み始めるおれに暮刃先輩がくすくすと笑いだす。
「いいじゃないか、分からなくてもこれだけ可愛いし素の君が魅力的だし……それに式は色気もそうだけど警戒心を持てって意味だと思うよ」
「ああ、それはもう耳が痛くなるほど言われますね……」
「俺も警戒心に関してはそう思う」
「う……ごめんなさい」
「氷怜だって、ね」
意味ありげに微笑まれては思いっきり頷くほかなかった。よろしい、と安心感のある笑みで撫でられるとふいに気になったことがある。
「優 はどんな感じの色気ですか?」
クール美人優様が色気があるのはおれとしても最初からなのだ。優の女の子人気の理由は女の子友達が多いおれはもちろん耳にしている。
特にあの目が人気なのだと、あの涼しげな目が相手に興味を持つと少し印象が変わり色が乗るのだ、とリアルな回答を頂いた事がある。
おれはお茶目に笑う優も何も言わなくても優しい行動にキュンとするけど。きっとあの子は優が好きだったからそんな事をおれに話してくれてのだろう。
だからこそ、そんな優が大好きな暮刃先輩にはどうなのだろうと思わず純粋に聞いてしまった。
「優は頭がいいから暮刃先輩の言葉を借りるなら遊びですか?」
「そうだね」
「やった!」
理解ができれば大人の色気講座を受けた甲斐もある。喜ぶおれに暮刃先輩が少し考えるように顔に指を添えた。
やっぱり違ったのだろうかと見ていると、視線を少しだけずらした。その長い睫毛から覗くグレーの瞳に星が光り、そして美しい獣が垣間見える。
「俺で、遊んでくれるよ」
嘘で本当みたいな答えの急激な色気にやられながらも小さく手をあげる。いつもの穏やかな微笑みに戻ったので、出されたお題に答えてみた。
「これこそ遊び、ですね……」
「正解」
やっぱりおれはまだ、大人にはなれない気がするのです。
「暮刃先輩はお兄さんなんですよねぇ?」
「うん、そうだね」
兄弟というものがおれには居ないので今までお兄ちゃん、と言えば秋だったのだ。爽やかで面倒見が良くてノリが良い。だけど暮刃先輩はお兄ちゃんじゃなくて、お兄さんって言いたくなるよね。
「暮刃先輩お兄さんだったら、おれずっと自慢しながら横歩きますね~」
「それは嬉しいな。俺もこんな可愛い弟がいるなら大々的にお披露目するよ」
にっこり笑った暮刃先輩。
こんな兄にお披露目される弟ならば相当な努力をしようと思うほど、その笑顔が眩しくて恐れ多い。
「君達と違って可愛げが無いんだよね俺の弟……真面目で器用でなんでも出来るから淡々としてるし。要領が良い分会話は楽しいけど」
言葉選びは淡白だけど暮刃先輩が人のことをこんな風に語るのは珍しいので兄弟仲は悪くは無さそうだ。ふんふんと頷きながら読書中の暮刃先輩を横から眺める。視線がページの最後に向き、次はめくるのかと思ったらおれの方に顔を上げた。
「どうしたの?突然」
「いえ、大人の魅力はお兄ちゃんからくるのかなぁと」
「ん?」
にっこり微笑んでどう言う意味だと首をかしげ、綺麗な髪の毛が少し揺れた。ソファに座る暮刃先輩の斜め前に立ったままなのが気になったのか腕を引かれて横に座る形になる。
「じつは色気をもう少し上手に使えと式に怒られて。秋も優もそうだ!とか便乗して……そもそも使えも何も持ってないものは活用ができないからどうしようと思いながらここにきた訳です」
「そして部屋に戻って居たのが俺だったと…」
「まさしく適任が」
にやりと笑ったら愛犬でも撫でるようにおれの頭を手が行ったり来たり。
静かなこの人は優と2人きりだと少し変わるのだろうか。
「使い方ねえ……」
「だって持ってないですからね」
「秋も優ももちろん唯も持ってるよ、それぞれ」
あの2人は分かるけど、自分にはそうは思えない。だって持ってるなら大体の初見の一言が「可愛い」な筈がないのだ。
「納得いかない?そうだな……色気にもさ種類があると思うんだよね」
微笑んで膝に置いたままの本を閉じる暮刃先輩に首を傾げた。
「種類?」
「うん。例えば余裕、遊び、ギャップとかに分けられるかな」
分かるような、分からないような。ああでもこれを女の子とか知り合いで例えたらわかりやすいのかもしれない。
「秋はどうですか?」
「彼は余裕かな。ちゃんと周りを見た上でやるべきことがわかってるよね。実際瑠衣が何をしてもそんなに動じないでしょう」
普段から見ても確かにと頷ける。恥ずかしがる時もあるけど同等のお返しをできる愛情表現をしている筈。
「唯はそうだね、ギャップだから本人も分かりづらいのかもね」
「ギャップ……」
「こんなに可愛い君がさ、大人みたいな顔するんだよ」
「そうですか?」
母さんがいつも唯斗は世界一可愛い息子よの一点張りなのは親バカだからかもしれないけど、男の人も女の人からも可愛いとか元気とかそんな言葉がおれにかけられる。
もし大人なんて要素が少しでもあるならば、女の子の前だろうか。エスコート側に立つならば自分のこの容姿関係なく、いつだって不安にさせずに穏やかに優雅に相手に合わせた態度を心がけるから心持ちが違う。
でももしそれが式の言う色気が使えてない、を指すのだとしたら絶望的だ。あれはもはや、おれのアイデンティティに近い。精神論の根底に叩き込まれたフェミニストとレディーファーストは多分これから先も揺るがない筈だ。
「ううん……」
再び悩み始めるおれに暮刃先輩がくすくすと笑いだす。
「いいじゃないか、分からなくてもこれだけ可愛いし素の君が魅力的だし……それに式は色気もそうだけど警戒心を持てって意味だと思うよ」
「ああ、それはもう耳が痛くなるほど言われますね……」
「俺も警戒心に関してはそう思う」
「う……ごめんなさい」
「氷怜だって、ね」
意味ありげに微笑まれては思いっきり頷くほかなかった。よろしい、と安心感のある笑みで撫でられるとふいに気になったことがある。
「優 はどんな感じの色気ですか?」
クール美人優様が色気があるのはおれとしても最初からなのだ。優の女の子人気の理由は女の子友達が多いおれはもちろん耳にしている。
特にあの目が人気なのだと、あの涼しげな目が相手に興味を持つと少し印象が変わり色が乗るのだ、とリアルな回答を頂いた事がある。
おれはお茶目に笑う優も何も言わなくても優しい行動にキュンとするけど。きっとあの子は優が好きだったからそんな事をおれに話してくれてのだろう。
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「やった!」
理解ができれば大人の色気講座を受けた甲斐もある。喜ぶおれに暮刃先輩が少し考えるように顔に指を添えた。
やっぱり違ったのだろうかと見ていると、視線を少しだけずらした。その長い睫毛から覗くグレーの瞳に星が光り、そして美しい獣が垣間見える。
「俺で、遊んでくれるよ」
嘘で本当みたいな答えの急激な色気にやられながらも小さく手をあげる。いつもの穏やかな微笑みに戻ったので、出されたお題に答えてみた。
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