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聖夜は光る
聖夜は光る
しおりを挟む「氷怜先輩……?」
クリスマスは怒涛だった。
カフェでもクリスマスフェアだし、先輩達もクラブでのイベント。朝から晩まで働いて、それでも夜に時間を作ってシェアハウスでお祝いしたのだ。
バイトから帰ってきたら驚き、リビングに見たこともない高さのツリーが輝いていていた。あんぐりしているうちに運ばれるケーキにハッとして、負けてはいられないとサンタの格好をして美味しい料理にプレゼントを渡して。
先輩達はいつも通りお酒をこれでもかと飲んでたし、おれたちも楽しみすぎて動けないくらい食べてしまって、いつのまにかリビングでみんなして寝ちゃっている。
当然おれも寝ていたんだけどふと目が覚めて、氷怜先輩がいないことに気づいたのだ。静かにリビングを動きながら秋を抱き枕にしている瑠衣先輩のふたりと、暮刃先輩の腕を枕にする優達にもブランケットをかけてあげる。
「なんか、本当にサンタの気分」
誰かが消してくれたのか暗いリビングを抜けて階段を上がると奥の部屋から灯りが見えた。ドアを開けたままの部屋に入ればベランダに氷怜先輩がいる。
広い夜空を見上げて静かにそこにいる姿を観ると自分の恋人だと言うのが不思議に見えた。彼が1人でいる姿が余計に別次元の人間のような気がしてしまって、いつもならそんな事思わないのにこの静かな夜のせいだろうか。
それとも特別な夜がそうさせるのだろうか。
氷怜先輩はベランダに置かれた椅子に腰掛けていて、その手元にはタバコが見えた。声をかけようとガラスを開けるとすぐにおれに気づいた彼は火を消そうとする。
「ストップ、そのままで大丈夫です」
おれが笑ってそう言うと、なんとも言えない顔で目線だけをずらし結局、灰皿の上で火が消えてしまう。
「良いのにー」
「変なやつ」
不満そうなおれに氷怜先輩がくつりと笑う。
ふいに風が吹いて身体をさすると立ち上がる氷怜先輩。
「部屋戻るか……」
「あ、待ってください」
おれの言葉に首を傾げるがとにかくそのまま座って貰って、おれは部屋にあった大きめのふわふわ毛布を引きずる。氷怜先輩にそれを被せ足の間を広げて自分を入れ込む。何も言わずに先輩はおれごと毛布を被せて包み込んだ。
「満足か?」
「とっても~」
「そうかよ」
鼻で笑われたけど頭を撫でてくれたのでよしとしよう。毛布の中、さらに氷怜先輩の体温で一瞬でポカポカになる。
それに夜空を見上げたら綺麗な星空に一瞬呼吸を忘れた。何百と輝く星が静かな夜を彩っていた。
「すごいキラキラ……」
「お前の目、なんか取れそうだな」
「おれじゃなくて星見てくださいよ~きらきらですよ」
「星よりこっちの方が面白い」
ほっぺをつままれて見上げれば綺麗な顔が上機嫌で笑っている。暗くてもよく見えるのは星のおかげだろうか。
「星、見てたから好きなのかなって思ったのにー」
「嫌いでも好きでもねぇな。これ見て喜んでるお前の方が良い」
間近でそんなこと言うから急激に恥ずかしくなって毛布に潜り込むと体の振動で笑っているのが分かる。赤くなっていたとしても暗いから分からないかも知れないけど隠したくなる。それにしてもなんでこんな乙女みたいになってしまう時があるのか自分でも不思議だ。
「……今日楽しかったですね」
「ん、そうだな」
「またプレゼントたくさん貰っちゃたし」
「嬉しくねぇのかよ」
「な!」
ガバッと顔を出したらおれの反応など予想済みの良い笑顔。それがわざとだとは分かっていても思わず膝立ちで向かい合い猛抗議。毛布から出てしまうと一瞬で寒くなるが、ふんっと怒り表示。
「嬉しくないわけないですが……?」
「分かった、分かってるから。くくっ……ほら、冷える」
宥めるように頬を撫でられゆっくりと足の間に座らされる。毛布を丁寧にかけ直した彼はポンポンとおれの背中を叩く。
「お前が作った飯もこれも嬉しい」
今日おれが先輩にプレゼントしたのはネックレスだった。もうこれ売ってるの見た瞬間、氷怜先輩の首が見えたと言ったら何故か瑠衣先輩が大爆笑してたけど。
大好きなブランドで確かに良いもので、自分が納得してあげたものに後悔はないがやはり先輩からもらうものはすごいものばっかりで嬉しくて毎回叫びそうになるほど。
「なんかやっぱり負けた気分になるんですよお……もっとこうどれだけ感謝を込めてるかを示したいんですぅ」
「へえ、感謝だけか?」
「もちろん全おれの愛もです」
「そこは照れねぇんだよな……」
また変なやつと言われてしまったが素直なのは初めからです。たまに先輩の愛に溶けそうになるから照れちゃうんだきっと。
先輩はおれの頭に顎を乗せ静かに話し出した。
「毎回気にしてるけどあげたそれを持ってお前が喜ばなけりゃ意味ねぇんだよ。ただの物に一瞬で成り代わる。物の果てにお前らがいるから価値があんだ。だから嬉しそうにしてろよ。それだけで良い」
毎回この男の言う言葉に言い返す術もないわけだがこの優しさに溺れるだけではダメなのだ。もっと、もっと、たくさん色んなことをしてあげたい。
そう意気込んだとき、夜空に光が走った、
「わ、流れ星!氷怜先輩!流れましたよ今!」
「さっきから結構流れてんぞ」
「え?!」
なんでそれを言ってくれないのだ。しかも雨降ってきたぞ的なノリの報告。驚くおれに彼は笑った。
静かに、それでいて光る瞳に星と間違うほど吸い込まれる。
「プレゼントも、星も、お前がいなきゃ意味ねぇよ」
おれだってこんなに眩しいほどの暖かい光を他に知らない。
成り代わるものなんて絶対に存在しない、そんな人のキスが降り注ぐ聖夜は誰だって特別になるだろう。
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