容姿端麗文武両道なカップルは異世界でも悠々自適だが少し特殊だ。

仔犬

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それでも美しい

13.仮想と幻想と

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異変に気付いたのは街を目の前にした時だった。
時間にして2時間半の経過で額に汗が滲んだことだ。歩いただけで汗を掻くことなどあり得なかった。たかだか2時間半だ。気温も寒くもなく暑くもない。人によってはこれくらいの疲労に値するのかもしれないが、雛野と零蘭にしてみればウォーミングアップにもならない。見た目に反してその体力は一般男性よりも高い。それなのに感じる疲労をお互い察知すると零蘭が苦笑した。

「やだ、雛野まで」

「重力が強いのかな」

何か元の世界とは違う力が動いているのかもしれない。雛野はスキャンするように辺りを見回すが特に見当るものがない。
雛野の方がいささか疲労が大きいのか白い肌に汗が流れる。小さなハンカチで拭えばいつもと変わらない可憐な笑顔が返ってきた。

「ありがとう零蘭。大丈夫、お花も元気よ」

ほおの横に持っていった花は見つけた当初と変わらず強い色を消していない。それどころかより濃く鮮やかになっている。

「その花、色味が濃くなってきてない?はあ、せめて原色の並びならいいのに茶色に紫に赤に緑……好きじゃないわ」

「でもますます調べたいなぁ。それになんだかぞわぞわする感覚が大きくなってて」

「捨てた方がいいんじゃないの?」

「落ち着かない以外は害がないから」

「……まあ雛野の好きにしなさい。ようやくゴールに着いたんだから」


やっと目の前に見えてきた街は高く、白い城壁に覆われていた。両端に門番がみえる。

「こんなに高い城壁が必要なのかしら」

「格好も武器と防具。兵士なのかな」

「いやね。世界が物騒なのかと疑ってしまう」

「それよりもお話ができるかな?」

たしかに明らかに日本語ではなさそうだった。そもそも入れるのだろうか。

大きな扉は開いたまま。出入りする人は特に門番に声をかけることはしていなかった。同じように2人も通る。

真正面を見ていた門番の目が2人に移った。2人はすぐに笑顔を作った。

「お前たちその格好、新しい防具か?」

「ええ」

防具?これが防具に見えるのか、学生服が。思考とは真逆に零蘭は微笑んだまま肯定した。

「また珍しい服を作るものだなあの人は……」

「お揃いなの、可愛いでしょう?」

「ああ、とびきりの美人さんによく似合っているよ」

さわやかな返事に手を振りまた歩き出した。門番からの視線がなくなり雛野と零蘭は目を合わせる。

「防具?目立つのかしら制服」

「でも私達よりも……」


この町の人の方がよっぽど派手だ。明らかに日本人でない、髪の色が鮮やかなのだ。まるであの花のように。たまに黒髪や茶髪もいるが圧倒的に派手な色が多い。格好もまた中世ヨーロッパのようで仰々しくどこを向いても目が移る。


「こんなに落ち着かないのは始めてよ。色取り取りなのは花だけだから花道が際立つのに……」

「零蘭ったらまたお花から物事を見てる」

「好きなんだから仕方ないでしょ」


握り直した手が恋人つなぎになり、また雛野に手を引かれて歩き始めた。のんびりしてるがこう言う時は人一倍行動する。

「昔から未知の探求に関しては無表情で突き進んでたものね」

腰まで伸びたロイヤルミルクティ色の髪が柔らかく揺れる。昔とは全く違う綺麗な笑顔を返してくれた。

「零蘭と晫斗のおかげ」

「そうねぇ、そのせいか自分の子供のように目に入れても痛くないわ」

「台詞がお母様のよう」

ふざけ合いながら人通りの多い場所に出るとマーケットがやっていた。簡易的な屋根の下に地べたに座る者、見たこともない食べ物や、衣服。特に目につくのは当たり前のように並ぶ武器や防具だ。

「ここはやっぱり争いがあるのかな……でも戦争じゃなさそう。街は豊かだし、兵隊さんも門だけだしね」

「そうねぇ……個人の自由で買えるものみたいだし、あまり重く見ない方が良いかもしれないわ」


武器屋を過ぎれば日用雑貨、装飾品、と種類ごとに並んでいるようだった。雛野も零蘭も思わず服に目がいってしまう。女の子としては当然新しいものに目がない。2人にとって買えないものなど今までなかった、恵まれすぎている環境の有難さが身にしみる。

「お金がないってもどかしい。でも初めて味わうから楽しいわ」

楽しそうに手を合わせた雛野に零蘭は苦笑する。

「そのセリフ聞く人によれば恨まれるわよ……でもまあ当面の予定はお金を稼ぐ、かしら」

「綺麗なお嬢さん、何かお探しで?」


にこにこと笑う店主は蝶ネクタイに白のワイシャツ、サスペンダーにスラックス。シンプルだが彫りの深い顔によく似合う。

「素敵なお洋服に思わず目が。でも申し訳ないのだけどここに着いたばかりで手持ちがないの」

「ああ、もしかしてギルドに向かっているのか?それならこの通りで合ってるよ。すぐにわかる。1番大きな門だよ」

「ギルドね……ありがとう助かったわ」


ギルドとは何の?と聞くにはまだ情報が足りなかった。知っていることが当たり前なのだとしたら不自然だ。怪しまれずにここの情報を得たい、というのが今の心情である。

「魔法使いのギルドだったらとっても素敵なんだけどなぁ」

「……そうだとわかってて言ってるんでしょう?」



零蘭の問いに悪戯な笑顔が返ってきた。









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