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それでも美しい
19.騎士か王子か
しおりを挟む強いて数えるなら4人だ。
「さっき飲み物って言ってたけど」
「旅には必要かなと思いまして」
にっこりと笑った清の手には飲み物ではなく剣と大きな黒いリュック。その剣に敬紫は見覚えがあった。父の雅が集めた骨董品の中にあった中世時代の本物の剣。綺麗に磨かれたそれは切れ味がよすぎるため厳重に仕舞われていたはずだ。
「貸していただきました」
「お前も行くの……?」
「お2人が止めないのならば」
清と涼が部屋を出て少しでその用意をしてきたのだから、断られることなど考えていないはずだ。いつも通りのにこやかな清に敬紫が笑い返したりはしない。
「どこまで俺たちのこと信じてるのか知らないけど、地獄まで落ちてくれそうだね」
「あなた達の下に着くと決めていますから。行き先が地獄だって構わないです」
「……涼も?」
いつもなら敬紫と清の言葉遊びに付き合わない晫斗が何故か涼まで引き入れる。焦っているのか、昂ぶっているのか晫斗の目を見ても判断は出来なかった。
「もちろん地獄でもどこでも許しが出るのなら行きますよ。まあでもダメだと言われても1人でもついていきます。それは貴方達が愚かな選択などしないとわかっているからですが」
「そう、好きにしたら」
ソファに寄りかかりながら静かに肯定するといつものように目をつぶってしまった。晫斗から長時間の会話を引き出すことは側にいることを許された涼でも難しい。
座っていた敬紫が立ち上がり、相変わらず無表情のまま口を開いた。
「じゃあ、一緒に行くなら連れて行って。あの子達帰る気がないみたいだから」
「え?」
理由を聞く前に、ぽいっと晫斗と敬紫に同時に投げられた本を同じように同時に受け取る清と涼。
ここで弄ばれるとは思ってもみなかった。今その役目をやるのはいわゆる王子の役目ではないのか。
「……まさか俺たちに読めと?」
「他に誰が?」
「……」
清が珍しく狼狽えていたのに涼は笑ってしまった。この人たちはやはりどこか変わっている。
こんな時に昂ぶらせてくれる人間はきっと他にいない。言われたページを探し清に赤い本を開いたまま渡す。
「これくらいやらなきゃ一緒には行けねえらしいよ」
「……全く、ほんとに予想ができない」
こんな重要なことやらせるなんて、それが最高だ。清も口角が上がったのを感じた。
指で文字をたどりながら、2人同時に息を吸う。
「月と太陽が寄り添うように、そしていつか重なるように。この願いに力を!」
輝き出した本を見て清と涼は手を挙げて叩き合った。
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