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平穏が

65.別れと新たな行き先

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「あたしは北を目指すよ」


早朝、リザが町の外よりも遙か遠くに目を向けた。依頼書の束を持っているのを見ると当分戻るつもりがないのは全員が分かっている。

「北な……やっぱり変化出てるか」

「依頼の数も桁違いだしね、まああたしが行けば半分は減るさ」


イガルの返事にユニコーンに乗ったリザが胸を張った。なんの誇張もない事実だろう。


いつもより短期間の滞在だったが元々居着かないリザを誰も止めたりはしなかった。
各地を回っては強いと噂の魔物狩っているのは昔も今も変わらない。それでもいつもよりスッキリした顔をしているのは異世界から来た3人のお陰だろう。
門まで見送りにイガルに着いてきた雛野と零蘭が微笑む。

「また会いましょう」

「ぜひその時は手合わせ願いたいね」

「ええ、もちろん」

「次はもっと人が全くいないところでやってくれ……」


ため息交じりのイガルにケラケラと笑うと馬体を翻した。


「どうせなら北にみんなで来なよ!待ってるよ!」



リザがそう叫ぶと振り返ることもなく颯爽とユニコーンが駆け出した。あっという間にその姿は小さくなり見えなくなる。


それまでずっと手を振っていた雛野と零蘭が少し寂しそうにイガルに向いた。

「リザまた会えるかしら」

「気まぐれに戻ってくるだろ」

「あら北に行けばいいんでしょ?」

「おいおいオレは世話しねぇからな」

「ええーー!」


不満な声を被らせた2人をイガルはグイグイと引っ張ってギルドに向かっていく。
王子2人は何も言わなかったが無言で早く戻らせろとロビーのソファでだらけ、目だけでそう語っているようにイガルには見えた。

「ていうか自分で行けばいいのによ!たくっ!!」

「朝嫌いなのよ」

くすくすとイガルの手を片方ずつ繋いだ零蘭と雛野が笑う。後ろ向きで引っ張るように前に出る姿に本当に自分の子供みたいだと錯覚してしまう。


「あれでもイガルの事信用してるのよ、晫斗も敬紫も」

「清くんたち以外に私達を任せたりしないもの」

そうなのかもしれない。だいぶ柔らかい表情をするようになったとも思う。それでも普通の人間に比べたら微々たる差だ。


「それは有り難いね……」


ギルドが見えてきたその時、人影に気付いた。
数人いる。そのうちの1人の青色髪の男に雛野が一足先に駆け寄った。

「カイン」

「雛野か」

「なんだか久しぶりね」

くすりと笑った雛野だがカインの後ろに目を向けて首を傾げた。軍服を身につけたその男達は雛野に頭をさげる。

「だあれ?」

「王の使いだ」

カインの答えにイガルがめんどくさそうに頭をかく。となりの零蘭も不思議そうに見ているとギルドのドアが開いた。

「雛野、零蘭おかえり」

「ただいま敬紫」

「……誰?」

ギルドの入り口から晫斗と敬紫が2人には笑顔をむけるも、他人には相変わらず愛想のない表情で人だかりを見た。

「ああ、昨日言ってた王様のお迎えね」

零蘭が思い出したのかイガルの腕を突く。

「お早い到着だな」

「国王の代わりに我が連れて行く」

「なるほどな。じゃあオレもか」

頷いたカインにへーへー着替えてくると部屋に戻るイガル。王の謁見とあればさすがに正装が必要なのだ。

「あら、じゃあ私達も着替えないと」

ギルドのロビーに戻れば清と涼が4人に駆け寄った。


「2人もお着替えが必要みたい」

「わかりました!」


なんの説明がなくとも清も涼すぐに状況を飲み込んだ。外の軍服の男達をチラリと見ただけだったが、カインがいる事で納得した。

雛野がふと、敬紫の裾を引っ張った。

「リザが北に行くらしいの」

「……ここから北にあるのは確か」


2人はあの赤と青の2冊の本を久しぶり思い出した。あの物語が進んでいく場所はここから北にある標高が高く月と太陽がよく見える王都。

その会話に零蘭と晫斗も2人を振り返った。


「行きたいの?」

「それよりも前に、きっと導かれる」



雛野が可憐に微笑むと、そう、と敬紫も同じく微笑む。美しいその光景に清と涼が笑い頭を下げた。


「どこまでもお供しますよ」





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