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時間と繋がりが
74.姫と王子の
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「ギルドも素敵だったけど宿も素敵ね」
ギルドでは部屋があてがわれていたが、もともと大人数が住めるよう作られた建物は一部屋一部屋のサイズが小さい。それでも姫君2人には一番大きな部屋が用意され、晫斗達が来てからは部屋など関係なくどこでも寛いでいたので4人は不満もなかった。
しかし宿となれば規模が変わってくる。資金はもちろん潤沢、渋る必要もないと清が選んだ宿はこの国一番の大きさと設備を併せ持つ宿だった。
彼らの選択は間違いが無い。
赤い絨毯に天幕の付いた寝室で雛野が笑うと敬紫は微笑んだ。
「この部屋似てる」
雛野たちの家にこの時代の装飾品や部屋の構造はよく似ている。広さは比べ物にならないが。
「なんだかお父様思い出しちゃった。泣いてないかしら」
「いつも雛野にべったりだから少しくらい泣かせておけば良い」
自分の父が雛野を溺愛しているのは良いがたまに敬紫よりも雛野を独占してしまう時がある。雛野がくすくすと笑い出した。
「そんな事言って……でもお母様がいるからきっと大丈夫」
「うん。一番心配なのは胡桃かな」
敬紫が心配する自分の家族。その家族には両親だけでなく弟の存在もある。
「くーちゃん、あんなに男前なのに心配症だからね」
「あれは真面目すぎ」
「そこが良いところでしょ」
どこまでもマイペースな姉と兄をいつも叱るのは弟の胡桃だけで、両親が我が子に、当然自身にも甘い事すらも不満げだった。
「自分に注がれる愛は申し分なく、一生をかけて恩返ししたいがあまりにも甘すぎる」と12歳の弟に言われた時には雛野が感動して頭を撫でたほどだ。
雛野と敬紫の間に血の繋がりは無いが、弟の胡桃は父と母の血を受け継いでいる。その誰も彼も自由な性格の血筋だとというのに真面目な性格はいったい誰から受け継いだのか不思議だ。
「あれが慌てても王牙がいるから」
「うん。優しくて芯が強い良い子……そう言うところは零蘭と晫斗にそっくり」
また小さな花が咲くように雛野が笑った。
雛野の纏っていた服の肩紐は細く、リボンの形で結ばれている。華奢な肩を敬紫は撫で腰まで届く柔らかなミルクティ色の髪を後ろに流すと雛野がその手にすり寄った。見つめ合う同じ色の目、小さい頃はもう少し違いがあったのにいつのまにか同色になっていた。
「ねえ、この世界に来た意味はなんだと思う?」
「なんだって良いよ」
そう答えながら敬紫には雛野がこの世界と自分たちの繋がりについて考えていることは分かっていた。高い魔力に優れ過ぎた力はおそらくこの世界に必要のないものだ。全てをねじ伏せる力は物語としては最悪の展開。
では、何故呼ばれたのだろうか。誰によって、何のために。こぼれ落ちそうな瞳が瞬きをするので邪魔をしないように敬紫はその額に口づけを落とす。
「小さい頃一度向こうに飛ばされた記憶は、思えば私が唯一記憶できなかった事、それはおかしいわ」
「敢えて消された?」
「おそらく、そう」
雛野の答えを口に出した敬紫に雛野が笑う。不可思議なことも楽しげだ。
「今回の旅でそれが分かる気がするの……逆に言えば終わりが近い気もする」
「それでやりたい事……ああ、時間だね」
微笑んだ敬紫に雛野は口付けた。ゆっくりと触れるように。そのまま雛野を抱き上げベッドの端から中央まで運びゆっくりとおろした。ワンピースの寝巻きから覗く足に口付けるとくすぐったそうに体をよじる。
「敬紫」
両手をあげて敬紫の頭を抱きしめた雛野を服の上から撫でる。甘い、この存在が唯一無二の天使だ。
なんだって良い。
この世界で君が笑うなら。
ギルドでは部屋があてがわれていたが、もともと大人数が住めるよう作られた建物は一部屋一部屋のサイズが小さい。それでも姫君2人には一番大きな部屋が用意され、晫斗達が来てからは部屋など関係なくどこでも寛いでいたので4人は不満もなかった。
しかし宿となれば規模が変わってくる。資金はもちろん潤沢、渋る必要もないと清が選んだ宿はこの国一番の大きさと設備を併せ持つ宿だった。
彼らの選択は間違いが無い。
赤い絨毯に天幕の付いた寝室で雛野が笑うと敬紫は微笑んだ。
「この部屋似てる」
雛野たちの家にこの時代の装飾品や部屋の構造はよく似ている。広さは比べ物にならないが。
「なんだかお父様思い出しちゃった。泣いてないかしら」
「いつも雛野にべったりだから少しくらい泣かせておけば良い」
自分の父が雛野を溺愛しているのは良いがたまに敬紫よりも雛野を独占してしまう時がある。雛野がくすくすと笑い出した。
「そんな事言って……でもお母様がいるからきっと大丈夫」
「うん。一番心配なのは胡桃かな」
敬紫が心配する自分の家族。その家族には両親だけでなく弟の存在もある。
「くーちゃん、あんなに男前なのに心配症だからね」
「あれは真面目すぎ」
「そこが良いところでしょ」
どこまでもマイペースな姉と兄をいつも叱るのは弟の胡桃だけで、両親が我が子に、当然自身にも甘い事すらも不満げだった。
「自分に注がれる愛は申し分なく、一生をかけて恩返ししたいがあまりにも甘すぎる」と12歳の弟に言われた時には雛野が感動して頭を撫でたほどだ。
雛野と敬紫の間に血の繋がりは無いが、弟の胡桃は父と母の血を受け継いでいる。その誰も彼も自由な性格の血筋だとというのに真面目な性格はいったい誰から受け継いだのか不思議だ。
「あれが慌てても王牙がいるから」
「うん。優しくて芯が強い良い子……そう言うところは零蘭と晫斗にそっくり」
また小さな花が咲くように雛野が笑った。
雛野の纏っていた服の肩紐は細く、リボンの形で結ばれている。華奢な肩を敬紫は撫で腰まで届く柔らかなミルクティ色の髪を後ろに流すと雛野がその手にすり寄った。見つめ合う同じ色の目、小さい頃はもう少し違いがあったのにいつのまにか同色になっていた。
「ねえ、この世界に来た意味はなんだと思う?」
「なんだって良いよ」
そう答えながら敬紫には雛野がこの世界と自分たちの繋がりについて考えていることは分かっていた。高い魔力に優れ過ぎた力はおそらくこの世界に必要のないものだ。全てをねじ伏せる力は物語としては最悪の展開。
では、何故呼ばれたのだろうか。誰によって、何のために。こぼれ落ちそうな瞳が瞬きをするので邪魔をしないように敬紫はその額に口づけを落とす。
「小さい頃一度向こうに飛ばされた記憶は、思えば私が唯一記憶できなかった事、それはおかしいわ」
「敢えて消された?」
「おそらく、そう」
雛野の答えを口に出した敬紫に雛野が笑う。不可思議なことも楽しげだ。
「今回の旅でそれが分かる気がするの……逆に言えば終わりが近い気もする」
「それでやりたい事……ああ、時間だね」
微笑んだ敬紫に雛野は口付けた。ゆっくりと触れるように。そのまま雛野を抱き上げベッドの端から中央まで運びゆっくりとおろした。ワンピースの寝巻きから覗く足に口付けるとくすぐったそうに体をよじる。
「敬紫」
両手をあげて敬紫の頭を抱きしめた雛野を服の上から撫でる。甘い、この存在が唯一無二の天使だ。
なんだって良い。
この世界で君が笑うなら。
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