82 / 88
時間と繋がりが
78.服か剣か
しおりを挟む
首をかしげると淡い色の髪がふわりと肩から降りた。
涼を覗き込むとその小さなくちびるが笑う。
「どれがいいかな?」
「これはどうですか?……雛野さん何を着たってお似合いになりますが」
「嬉しい、ありがとう」
微笑む2人がまるで恋人のようでも、あくまで姫と騎士なのだから周りの人間には理解ができない。それは零蘭と清でも雛野と涼でも、入れ替わったとしても変わらない。
「痛くないですか?」
「ええありがとう」
椅子に座る零蘭の足に品のいいヒールの靴を履かせて清は微笑んだ。その膝が跪くのは後にも先にも4人だけだ。
「デザインも綺麗だしこれと……雛野はそのドレス?」
「あとバックと……私もその靴色違いで履きたいな」
「あら当然よ」
雛野がそういう前から色違いを買うことは決めていた。零蘭は髪をかきあげ立ち上がると店主に綺麗に微笑んだ。
「全て包んで頂ける?」
「は、はい!ではこちらに……」
「俺がいきます」
男の店主がその微笑みに反応する前に清が会計に回る。下手に話させるとどうのぼせ上がるか分からないからだ。雛野の着替えを手伝いながら涼が困った顔をする。
「あまり愛想を振りまかないでください」
「ただの挨拶よ」
零蘭はそう言うが遊んでいる節はある。
雛野と零蘭のことも弱いなんて騎士達が思っているわけではないがそれでも無用な心配は避けたいものだ。
「だいぶ買いましたね」
「荷物持ち、と思っていましたが魔法のお陰でお邪魔させていただいてるだけになりましたが……」
「あら、女の子のお買い物に付き合ってくれるだけでも有難いわ……晫斗だと自分の好みしか言わないもの」
「男とはそう言うものですよ」
「あら、清くんも……?」
零蘭がこう言う遊びの類の会話をする事は清も涼も可愛くすら思っている。にっこり微笑んで言葉を返す。
「俺も例外なく男ですので、でも涼も言うようにお二人に似合わない物がないのは本当です……それに俺は貴方の手であり目であり、皆様を守る機能の一部ですから俺の意見なんて」
「おい、清」
しまった。
涼の声に清はそう思ったがすでに遅い。零蘭も雛野も同じようにその綺麗な顔を心外だと歪ませた。
「大切なものでなければ、こんなに悲しくならないわ」
このひと言で舞い上がるほどの忠誠を誓っていても、全てを捧げたいと思っているために口が滑ったのだ。裏を返せばそれほどの精神で共にいる誓いでもあるのだが、零蘭と雛野はその表現を嫌っている。
この2人にこんな顔をさせてしまっては敬紫と晫斗に立てる顔がない。それにやはり、自分自身が許せない。雛野と零蘭の前に清と涼は膝を折った。
「出来る事なら全てを受け入れて頂き、お側に置いて欲しいと願っています」
「そうよね、全て私たちにくれるのでしょう」
珍しく割って入ったのは雛野だった。続けて零蘭も微笑む。
「一度だって貴方たちのあり方を否定した事はないわ、でも貴方達に何かあれば傷つく心がある事を忘れないで」
その言葉に嘘はなかった。
どうしてこう、自分たちの主人は欲しい言葉をくれるのか。
忠誠心をさらに塗り固められる感覚がたまらなかった。パンと手を叩いて零蘭が空気を切る。
「はい、もう終わり」
「午後はこの街の一番大きな図書館に行くから、その前に美味しいお料理を食べまようね」
ふんわり笑う2人に頭を下げる。ふとあと2人の主人の顔がよぎった。
「晫斗さんも敬紫さんも食事を取っていれば良いんですが……」
「リザがいるしお腹が空けば食べるわよ」
「剣で戦えるのはこの世界くらいだし、楽しんでるだろうね」
それはどうだろう。清は思ったがいつも通り微笑むだけにしておいた。この2人の前では全てが二の次に感じるのだ、おそらく敬紫も晫斗も姫の2人がいなければその剣ですら楽しみは見いだせないだろう。
それはまた自分達も同じになりつつある。
「……俺ら雛野さんたち以外に買い物なんて付き合ったことあるか……?」
「俺たちに相手が勝手に付いてきたことしかありませんね」
「だよな……」
ましてや跪く自分すら想像できなかった。
それほどに自分の主人達がいかに尊いか再確認するのだ。
「あら、こんなに優しいのに不思議ね」
「俺たちは貴方達以外には優しさのかけらもありませんよ……」
清が微笑んでそう言う。
嘘偽りもなく、主人以外はどうでもいい。
それに頷く涼が続ける。
「あなた達の前に優しく無い人間なんて居ないでしょうが」
返事の代わりに意味ありげに微笑んだ2人に清も涼も思わず笑ってしまった。
涼を覗き込むとその小さなくちびるが笑う。
「どれがいいかな?」
「これはどうですか?……雛野さん何を着たってお似合いになりますが」
「嬉しい、ありがとう」
微笑む2人がまるで恋人のようでも、あくまで姫と騎士なのだから周りの人間には理解ができない。それは零蘭と清でも雛野と涼でも、入れ替わったとしても変わらない。
「痛くないですか?」
「ええありがとう」
椅子に座る零蘭の足に品のいいヒールの靴を履かせて清は微笑んだ。その膝が跪くのは後にも先にも4人だけだ。
「デザインも綺麗だしこれと……雛野はそのドレス?」
「あとバックと……私もその靴色違いで履きたいな」
「あら当然よ」
雛野がそういう前から色違いを買うことは決めていた。零蘭は髪をかきあげ立ち上がると店主に綺麗に微笑んだ。
「全て包んで頂ける?」
「は、はい!ではこちらに……」
「俺がいきます」
男の店主がその微笑みに反応する前に清が会計に回る。下手に話させるとどうのぼせ上がるか分からないからだ。雛野の着替えを手伝いながら涼が困った顔をする。
「あまり愛想を振りまかないでください」
「ただの挨拶よ」
零蘭はそう言うが遊んでいる節はある。
雛野と零蘭のことも弱いなんて騎士達が思っているわけではないがそれでも無用な心配は避けたいものだ。
「だいぶ買いましたね」
「荷物持ち、と思っていましたが魔法のお陰でお邪魔させていただいてるだけになりましたが……」
「あら、女の子のお買い物に付き合ってくれるだけでも有難いわ……晫斗だと自分の好みしか言わないもの」
「男とはそう言うものですよ」
「あら、清くんも……?」
零蘭がこう言う遊びの類の会話をする事は清も涼も可愛くすら思っている。にっこり微笑んで言葉を返す。
「俺も例外なく男ですので、でも涼も言うようにお二人に似合わない物がないのは本当です……それに俺は貴方の手であり目であり、皆様を守る機能の一部ですから俺の意見なんて」
「おい、清」
しまった。
涼の声に清はそう思ったがすでに遅い。零蘭も雛野も同じようにその綺麗な顔を心外だと歪ませた。
「大切なものでなければ、こんなに悲しくならないわ」
このひと言で舞い上がるほどの忠誠を誓っていても、全てを捧げたいと思っているために口が滑ったのだ。裏を返せばそれほどの精神で共にいる誓いでもあるのだが、零蘭と雛野はその表現を嫌っている。
この2人にこんな顔をさせてしまっては敬紫と晫斗に立てる顔がない。それにやはり、自分自身が許せない。雛野と零蘭の前に清と涼は膝を折った。
「出来る事なら全てを受け入れて頂き、お側に置いて欲しいと願っています」
「そうよね、全て私たちにくれるのでしょう」
珍しく割って入ったのは雛野だった。続けて零蘭も微笑む。
「一度だって貴方たちのあり方を否定した事はないわ、でも貴方達に何かあれば傷つく心がある事を忘れないで」
その言葉に嘘はなかった。
どうしてこう、自分たちの主人は欲しい言葉をくれるのか。
忠誠心をさらに塗り固められる感覚がたまらなかった。パンと手を叩いて零蘭が空気を切る。
「はい、もう終わり」
「午後はこの街の一番大きな図書館に行くから、その前に美味しいお料理を食べまようね」
ふんわり笑う2人に頭を下げる。ふとあと2人の主人の顔がよぎった。
「晫斗さんも敬紫さんも食事を取っていれば良いんですが……」
「リザがいるしお腹が空けば食べるわよ」
「剣で戦えるのはこの世界くらいだし、楽しんでるだろうね」
それはどうだろう。清は思ったがいつも通り微笑むだけにしておいた。この2人の前では全てが二の次に感じるのだ、おそらく敬紫も晫斗も姫の2人がいなければその剣ですら楽しみは見いだせないだろう。
それはまた自分達も同じになりつつある。
「……俺ら雛野さんたち以外に買い物なんて付き合ったことあるか……?」
「俺たちに相手が勝手に付いてきたことしかありませんね」
「だよな……」
ましてや跪く自分すら想像できなかった。
それほどに自分の主人達がいかに尊いか再確認するのだ。
「あら、こんなに優しいのに不思議ね」
「俺たちは貴方達以外には優しさのかけらもありませんよ……」
清が微笑んでそう言う。
嘘偽りもなく、主人以外はどうでもいい。
それに頷く涼が続ける。
「あなた達の前に優しく無い人間なんて居ないでしょうが」
返事の代わりに意味ありげに微笑んだ2人に清も涼も思わず笑ってしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
207
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる