16 / 24
5-1-体育祭
しおりを挟む五月晴れの元、神渡島で一番の生徒数を誇る翠塚(みどりづか)高等学校の体育祭は盛大に開催された。
「なんか人がいっぱいいる」
「島の人達が来てるんだよ~」
「丞君の活躍見たい島民が押し寄せてきてるってわけ」
芝恵と白洲の説明を受けて夕汰はグラウンドをぐるりと見渡す。
トラック沿いにずらりと建てられたパイプテント。
開始早々、来客向けゾーンにはたくさんの人がいた。
クラス名の書かれたゼッケンをつけ、二年生用となる水色のハチマキを巻いた夕汰は、中学のときとは比べ物にならない盛況ぶりに圧倒されていた。
「え、ゆーたん、そんなとこに絆創膏つけちゃってんの?」
半袖シャツに膝丈の半ズボンを履いた夕汰は、首筋に貼った絆創膏を白洲から指摘されると反射的に片手で隠した。
「え、まさか。うっそ。あのおっちょこちょいゆーたんが?」
「な、なに、白洲くん。どういう意味?」
「それってキスマ隠すために貼ってんじゃないの?」
「ぶはっっっ」
一番目の競技が始まり、生徒らは応援だったり友達同士ではしゃいだり、賑やかなグループから一歩身を引いていた夕汰は赤面する。
「そそそそそ、そんなわけ」
「おい~、白洲め~、ゆーたんはここんとこずっと絆創膏貼ってんの~、野良猫に引っ掻かれちゃったんだよ~」
「え、そーなの? 首とかあっぶな。マジで気をつけなよ、ゆーたん」
白洲に本気で心配される。
憤慨する芝恵の、自分より小柄な友達の背後に隠れた夕汰は、うんうんうんうん過剰に頷いてみせた。
(断じてキスマークじゃない、これは過失によるアクシデントだ……うん)
「御社先輩と写真撮りたいなぁ」
「だめだめ。そーいうの、お断りしてるってよ」
「隠し撮りなら……」
「やめとけやめとけ、絶対本人にばれるから」
近くにいた一年生の会話が耳に入り、夕汰は、彼等の視線を追う。
その先にはジャージ姿の丞がいた。
水色のハチマキをしっかりと結び、燦々と降り注ぐ朝の日差しに柔らかく輝く眼差し、普段以上に凛々しさの増した姿には多くの注目が集まっていた。
「丞さん、男っぷりが倍増してらっしゃる」
「この間、うちのおばあちゃんの荷物を持ってくれたどころか、ウチまで送ってくれたみたいで」
「まるで絵巻物に出てくる若武者みたいだわぁ」
島民も遠巻きに眺めており、拝んでいるお年寄りまでいた。
(保護者以外の地域の皆さん、全員、ガチで御社くん目当てなんだ……)
大賑わいの体育祭は顕著なハプニングもなく順調に進行していった。
「し、芝恵くん、ハードルってどう飛ぶんだったっけ?」
「え~? ダッて走って、ぴょんってすればいいじゃん~? ゆーたんはジャンプ得意でしょ~?」
「別に得意じゃないっ」
「オレは午前の部で終わったから気が楽だ~、あ~、ゆーたんのお弁当の牡蛎の天ぷら~、おいしそ~」
「あげる……もうお腹いっぱい」
「わ~、やった~」
昼休憩、教室で祖母手作りのお弁当を芝恵と食べていた夕汰は何気なく室内を見回す。
今日は体育館などで家族と一緒に過ごしている生徒が多く、いつもより人数が少ない。
普段はコンビニでパンを購入し、教室で食べている夕汰だが、丞を見かけたことはなかった。
「御社くんの家族って来てるのかな、今日」
「いやいやいやいや~、来てないよ。小学校から一回も来たことないよ~」
「え? 小学校から?」
元妻と個人事務所を切り盛りしていた父親の春貴は夕汰が参加できた小学校、中学の体育祭には必ず顔を出していて、来なくてよかったのにと強がりながらも夕汰は嬉しく思ったものだった。
(そういえば御社くんって兄弟いるのかな、どんなお父さん・お母さんなんだろう)
「御社君は午後イチの種目に出るよね~」
「えっ? そうなんだ?」
「ゆーたん、忘れっぽい~」
「ううう……ぷぅぅ……」
教室で食事を終えた夕汰は芝恵と一緒に校庭へ戻り、午前よりも明らかに増加した人出にぎょっとした。
丞効果に違いない。
来客向けのテントは島民で溢れ返っており、かき氷のキッチンカーには行列ができていた。
当の丞はトラックの内側に、同じ種目に出る生徒たちと共にすでに整列していた。
遠くからでも十二分に目立つシルエット。
上のジャージを脱いでおり、皆と同じゼッケンつきの半袖シャツ姿は爽やかな初夏の訪れを具現化しているかのようだった。
『御社に嫁ぐこと、考えてくれただろうか』
未だに丞は嫁に来い的な発言を繰り返していた。
(そんなことできないよ、御社くん)
0
あなたにおすすめの小説
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる