花冠とベールの君よ、黒き勇者と誓いのキスを

石月煤子

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2-1-白亜の島へ

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 三日三晩かけて森を抜けた。
 三日三晩かけて荒野を突き進んだ。

「わぁ! すごい、すごいよ、勇者様!」

 辿り着いた港町。ステュは生まれて初めて海を見た。
 見ただけではない、どこまでも果てしなく続きそうな海の上を船に乗って渡った。

「ひいおじいちゃんに教えてもらった通りだ! 広くて大きい! 涼しくて気持ちいい!」

 ステュが甲板ではしゃいでいられたのも最初だけ、だった。

「うぇぇ……頭がグラグラする……これ、何かの呪いかなぁ……ずっと海、海、海、もう飽きてきたぁ……ゴツくて、勇者様よりイカツイ顔も、もう見飽きたぁ……」

 その船はたくさんの荷を積んだ貿易船で、船員は屈強で強面な大男ばかりであった。
 大国や地方の中心都市の港間を航行する船は、海賊と魔物対策で武装していた。海に巣食う荒くれ共と引けを取らない、大砲の扱いや腕っぷしに自信のある猛者が守備についているわけだ。

「ん……あれ!? あれってクジラ!? サメ!?」
「ありゃあイルカだぜ、お嬢ちゃん」
「イルカ! へー! 可愛い!」
「お嬢ちゃんも相当別嬪じゃねぇの」
「イルカなんかより可愛いぜ」
「えっ? あんな可愛い生き物より俺の方が可愛い!? そーかな!」

 甲板の手摺りにもたれるステュに船員は矢鱈とくっつきたがった。酒臭く、暑苦しく、どれだけフレンドリーなのかとステュは首を傾げる。

(それにしても、お嬢ちゃん、か)

 港町で着替えだと渡された服は、可愛らしいドレス一式だった。
 移動の途中、雨が降れば頭と体は洗っていたが、いい加減、着っぱなしの服ともオサラバしたかった。
 命の恩人の厚意に対して「何でドレスなんだ!」と文句をぶつけるのも躊躇われ、胸元にリボン、フリルがふんだんにあしらわれた膝丈のドレスをステュは仕方なく着用していた。

「いっぱいいる……きっと群れなんだ……家族かなぁ……」

 太陽の元、キラキラと輝く紺碧の海。群れを成したイルカがジャンプしながら大型帆船のそばを泳いでいる。
 まだ気分が悪く、二人の船員が両隣から密着してきても然して警戒せず、ステュは大海原をぼんやり眺めた。

「お前等、船長がお呼びだ」

 ディナイがやってきた。
 顔に傷だったり、刺青だったり、物騒なルックスの男二人を平然と「お前等」呼ばわりし、呼ばれた方はそそくさと去っていく。
 ディナイは彼等と入れ代わるようにステュのそばに立つと、海面から次々とジャンプするイルカの群れを共に見下ろした。

「次の港町に着いたら船を乗り換える」
「はぃぃ……」
「お前な、ドレスの裾が捲れてる。下着が見えそうだぞ」
「はぃぃ……? いいっす、いいっす、パンツくらい……減るもんじゃないし……」
「……」
「ちょッ! ほっぺた抓んないで!」

 無言で片頬を抓られ、ステュは慌ててドレスの乱れを直した。


 ――生まれ育った地を去る前、ステュは人気のない宵の口の墓地をこっそり訪れた。

『村、ぶっ壊さなくてよかったのか』
『ほんといいです、必要ないです。どうせ近い内に、こんな村なくなるだろうし……あ』

 絵本。
 ずっと昔にもらった、大切にしていた絵本に、ステュは唯一後ろ髪を引かれた。燃やされた家からは持ち出していたはずだ。納屋のどこに仕舞ったんだったか……。

『どうした、ステュ』
『絵本……』
『絵本?』
『あ、いや、いいです……もう戻りたくないし……』

 道端で引っこ抜いた花を両親と、曾祖父の墓に最後に手向け、サヨナラをしてきた――。

(そういえば、一つだけ持っていたあの絵本、あれは誰にもらったんだっけ……?)


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