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そう、今は新年を迎えたばかり、どのお宅も目出度いお祝いモードに包まれているというのに。
食べられるかもしれない、この狐姿でお尻を貫かれるかもしれない、不安、恐怖。
あやかし伴侶と新年を一緒に過ごすことができない淋しさ。
九と一緒にいたくないけれど、一緒にいたい意地悪お兄さん狐、どうしようもなくってコンコンしておりましたならば。
「あらあら。可哀想に。余程アレに虐げられておいでなのでしょう」
聞こえてきたお色気ボイスにぎょっとしました。
優男お兄さんのおうちに、まさか、九の元嫁である夜叉小町がいるなんて夢にも思わず、襖をすらりと開いてやってきた雪鬼女をただただ凝視しました。
「そんなに不思議なこと? ここは我が子の九九が娶られたおうち。母のわたくしがいたって何の問題もありませんわ」
相変わらず薄い着物姿で悩ましげボディをひけらかした夜叉小町、強張っていた意地悪お兄さん狐を抱き上げます。
「ブス狐でしゅ」
「これ、九九。作り物じみた歪み一つない美しさより、どこか欠けて崩れている方が愛着が湧くというもの」
「……崩れた狐で悪かったなぁ」
夜叉小町はクスクス笑って意地悪お兄さん狐を抱っこし直します。
ぼいんぼいんが鼻先に当たって意地悪お兄さんは気が気がじゃあありません、しかし悲しいかな、あやかしの嫁になろうと男の性は捨てきれず、どんどんデレデレ伸びていく鼻の下。
九九は呆れ、優男お兄さんは甘酒を手酌、穏やかな昼下がりがのんびり続くかと思われましたが。
「君は余程僕に呪われたいみたいだね」
修羅場の予感、到来。
縁側の戸がガラリと開かれて余所様のお宅に九が堂々と上がり込んできました。
途端に怯える意地悪お兄さん狐、元夫をからかってやりたいがために現嫁をより大胆に抱きしめる夜叉小町、元嫁の挑発にころりと乗って怒れる妖気を立ち上らせる九、優男お兄さんは甘酒を手酌……。
「怒るでしゅよ」
末恐ろしい修羅場を回避したのは九九でした。
「とと様もかか様も。みっともないでしゅ。ここはぼくとだんな様のおうち。牙や爪で引っ掻こうものなら許さないでしゅ。それにとと様。ブス狐が怯えてるでしゅ。元は人間、壊れやすいもの、ちゃんと匙加減して愛してあげるでしゅ」
手酌し続けていた優男お兄さんに改めて寄り添い、盃に甘酒をとくとく注いでやりながら、九九は言いました。
聡明な我が子に夜叉小町は微笑みます。
ガチガチに強張っていた意地悪お兄さん狐を床に放してやり、お色気ボイスを奏でました。
「お好きなところへお行きなさい」
強張っていた意地悪お兄さん狐はきょろりと夜叉小町を、九九と優男お兄さんを見、そして。
白百合の如く凛とした立ち姿の九の元へさも罰が悪そうな足取りで歩み寄りました。
「勝手に抜け出して悪ぃ、九」
差し伸べられた両腕に、ふてぶてしい仏頂面ながらも、素直に抱かれました。
「あんまりにも簡単にムキになるものだから、楽しくって、ついつい調子に乗っちゃったわ」
「とと様、ほんとはどのあやかしよりも執念深いでしゅ。意地悪お兄さんを見つけて千の愛憎に目覚めたでしゅ」
「九九、さぁ、お前も飲んだらどうだい」
「きゅるるんっ」
「前はとっかえひっかえだったのにねぇ、あの人」
「かか様、いつまでいるつもりでしゅか」
人里より遠く離れた山の奥の奥。
「おっ? マジかよ、やったぁ……ッ」
藁葺き屋根の我が家で元の人間の姿に突拍子もなく戻った意地悪お兄さん。
「あ、でも耳はこのままかよ、クソ」
狐耳は相変わらずぴょっこんしていましたが、獣姿から解放されて、ほっと一息つく……暇もなしに。
「おかえりなさい」
あやかし伴侶なる九の千の愛に捕まりました。
食べられるかもしれない、この狐姿でお尻を貫かれるかもしれない、不安、恐怖。
あやかし伴侶と新年を一緒に過ごすことができない淋しさ。
九と一緒にいたくないけれど、一緒にいたい意地悪お兄さん狐、どうしようもなくってコンコンしておりましたならば。
「あらあら。可哀想に。余程アレに虐げられておいでなのでしょう」
聞こえてきたお色気ボイスにぎょっとしました。
優男お兄さんのおうちに、まさか、九の元嫁である夜叉小町がいるなんて夢にも思わず、襖をすらりと開いてやってきた雪鬼女をただただ凝視しました。
「そんなに不思議なこと? ここは我が子の九九が娶られたおうち。母のわたくしがいたって何の問題もありませんわ」
相変わらず薄い着物姿で悩ましげボディをひけらかした夜叉小町、強張っていた意地悪お兄さん狐を抱き上げます。
「ブス狐でしゅ」
「これ、九九。作り物じみた歪み一つない美しさより、どこか欠けて崩れている方が愛着が湧くというもの」
「……崩れた狐で悪かったなぁ」
夜叉小町はクスクス笑って意地悪お兄さん狐を抱っこし直します。
ぼいんぼいんが鼻先に当たって意地悪お兄さんは気が気がじゃあありません、しかし悲しいかな、あやかしの嫁になろうと男の性は捨てきれず、どんどんデレデレ伸びていく鼻の下。
九九は呆れ、優男お兄さんは甘酒を手酌、穏やかな昼下がりがのんびり続くかと思われましたが。
「君は余程僕に呪われたいみたいだね」
修羅場の予感、到来。
縁側の戸がガラリと開かれて余所様のお宅に九が堂々と上がり込んできました。
途端に怯える意地悪お兄さん狐、元夫をからかってやりたいがために現嫁をより大胆に抱きしめる夜叉小町、元嫁の挑発にころりと乗って怒れる妖気を立ち上らせる九、優男お兄さんは甘酒を手酌……。
「怒るでしゅよ」
末恐ろしい修羅場を回避したのは九九でした。
「とと様もかか様も。みっともないでしゅ。ここはぼくとだんな様のおうち。牙や爪で引っ掻こうものなら許さないでしゅ。それにとと様。ブス狐が怯えてるでしゅ。元は人間、壊れやすいもの、ちゃんと匙加減して愛してあげるでしゅ」
手酌し続けていた優男お兄さんに改めて寄り添い、盃に甘酒をとくとく注いでやりながら、九九は言いました。
聡明な我が子に夜叉小町は微笑みます。
ガチガチに強張っていた意地悪お兄さん狐を床に放してやり、お色気ボイスを奏でました。
「お好きなところへお行きなさい」
強張っていた意地悪お兄さん狐はきょろりと夜叉小町を、九九と優男お兄さんを見、そして。
白百合の如く凛とした立ち姿の九の元へさも罰が悪そうな足取りで歩み寄りました。
「勝手に抜け出して悪ぃ、九」
差し伸べられた両腕に、ふてぶてしい仏頂面ながらも、素直に抱かれました。
「あんまりにも簡単にムキになるものだから、楽しくって、ついつい調子に乗っちゃったわ」
「とと様、ほんとはどのあやかしよりも執念深いでしゅ。意地悪お兄さんを見つけて千の愛憎に目覚めたでしゅ」
「九九、さぁ、お前も飲んだらどうだい」
「きゅるるんっ」
「前はとっかえひっかえだったのにねぇ、あの人」
「かか様、いつまでいるつもりでしゅか」
人里より遠く離れた山の奥の奥。
「おっ? マジかよ、やったぁ……ッ」
藁葺き屋根の我が家で元の人間の姿に突拍子もなく戻った意地悪お兄さん。
「あ、でも耳はこのままかよ、クソ」
狐耳は相変わらずぴょっこんしていましたが、獣姿から解放されて、ほっと一息つく……暇もなしに。
「おかえりなさい」
あやかし伴侶なる九の千の愛に捕まりました。
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