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しおりを挟む「どうして、こんなこと」
「兄様、このままではつらいだけ、この半狐を助けてあげないと」
「さぁ、兄者」
「でも彼には……伴侶が……」
「ほしいと言ったじゃありませんか」
「兎と相談して決めたではないか」
『あの子がほしい』
『相談しましょう』
『そうしよう、兄者』
互いに強く願い合えば巡り会う、巡り愛の宿。
今宵は誰と誰が逢瀬を果たすのでしょう。
「うう、クソッ……うううう~~……ッ」
離れの寝室。
緻密な装飾が施された重厚感ある木製の天蓋つき寝台の上で意地悪お兄さんは呻きっぱなしでした。
『風呂ぉ? 俺ぁ、部屋付きので充分だしーー』
『さぁ、ご一緒しましょう』
にこやかながらもおっかない朱の迫力に押され、琥珀に強引に引っ張られて連れて行かれた先は。
からくり宿に気紛れに出現すると噂されている「桃花源の湯」でした。
迷路のように複雑怪奇に入り組んだ館内、朱の携えた道案内なる提灯おばけに従って進み、美しい桃林の描かれた襖の前へ、よーく目を凝らしてみれば桃の花は揺れ、枝はしなり、まるで風に吹かれているような……?
襖を開けば、その向こうには、本物の桃林が広がっていました。
屋内のはずが、夜の帳がおりかけて、頭上には三日月まで浮かんでいました。
度肝を抜かれた意地悪お兄さんでしたが、何らリアクションするでもない朱と琥珀に連れられて、逢魔が刻に色っぽく咲き乱れる桃林の奥へ。
鬱蒼と茂る竹藪に囲まれた、滾滾と温泉の湧いていた岩風呂へ、仙人までウキウキ浸かりにきそうな「桃花源の湯」へ。
とろとろと白濁していて、ほんのりまじる桃色、そして世にも甘ったるい匂いがしていました。
『……あ、れ……れ……?』
湯に入って、あれよあれよという間に気を失って。
気がつけば離れの寝室、寝台の上で寝具に素っ裸で包まって、尋常ならない火照りに犯されていたというわけです。
「大丈夫……?」
心配そうに覗き込んでいたのは黄金でした。
自分と湯に浸かっていたはずの朱と琥珀は見当たりません。
……ここ、離れか。
……あの妙に甘ったるい風呂ん中で気ぃ失ったのか。
「ここまで……朱と琥珀が運んでくれたのか……?」
「うん」
「へぇ……そっかぁ……お前が言ってたこと疑って悪ぃな……」
「え?」
「あいつら、根はいいこだって……いやいや、そりゃあねぇだろって思ってたけどよ……ほっぽっていかねぇで、運んでくれる常識くらいは、持ち合わせてたんだな……」
「……」
……つぅか。
……勃ってんだろ、これ。
「ううう……」
苦しげに呻いた、高熱でも出ていそうな発汗ぶりの、顔面まっかっかな意地悪お兄さん。
「大丈夫?」
もう一度黄金は尋ねます。
真っ白な寝具に包まっている意地悪お兄さんの頬にそっと触れてみました。
ゾクゾクゾクゾク
「う」
すでに喘ぎがちだった意地悪お兄さんは目を見開かせます。
ちょっと触られただけで、下半身にズシリと響いて、さらに熱が増したような。
「はーーー……ッ……はーーー……ッ……?」
「……ごめん」
「ッ……は? な、んで……黄金が謝んだ……?」
黄金は。
弟二人の魂胆を包み隠さず打ち明けました。
「あなたが入った<桃花源の湯>は媚湯(びとう)なんだ」
「び……びとう……?」
「えっちなことが……したくなる……温泉」
「……」
「おれが早く気づいて止めればよかった」
「あ……あいつら……やっぱ、性悪虎じゃ、ねぇ、か……」
黄金と会話をしている間にも容赦なく上昇する下肢の熱。
体中がジンジンムズムズ、頭の中はぐーるぐる、独りでに揺れる腰、ヨダレまで溢れ出す始末。
「はぁ……っ……はぁ……っ……はぁ……っ」
敷布団をぎゅっと握り締め、寝具から顔だけ出して息苦しそうに喘ぐ意地悪お兄さんに、黄金は……ゴクリと喉を鳴らします。
<桃花源の湯>の甘ったるい残り香が鼻先を掠めます。
ひどく切なそうにしている意地悪お兄さんの顔に視線を奪われます。
「グルルルル……」
はぁはぁしていた意地悪お兄さんですが、剣呑そうな唸り声をかろうじて聞き取って、やたら重たい目蓋を持ち上げてみましたらば。
黄金が自分に覆い被さっていました。
「……どうしよう、おれ……」
意地悪お兄さんよりも切なげな表情を浮かべた黄金。
横向きに丸まった、鼻孔でふーふー息をする意地悪お兄さん、超絶色気を醸す美男子妖虎に横目で釘付けになりました。
また頬を触られると、ビクビクビクッ、過剰に震えてしまいます。
しかも今度は優しく撫でられて、灰色の狐耳をそっとつねられて……それだけで「んッッッ」と悩ましげに声を詰まらせてしまいます。
やべぇ……。
流されそうだ……。
頭も体も湧くだけ湧いて、優しい愛撫に下半身は愚直なまでに反応して、このままぐちゃぐちゃにされたい、そんなイケナイ欲求まで頭を擡げてきて、恐るべし媚湯効果に成す術もなくて。
意地悪お兄さんの枕元に両手を突かせた黄金は、ゆっくり、頭を落としていきました。
発情する余り涙目になった意地悪お兄さんは、その兆しを察して、ついつい唇を明け渡そうとしましたが。
『君って。本当に。最高のお嫁さん』
その声を思い出した意地悪お兄さんは……頭ごと寝具の中に潜り込みました。
「だめだッ……俺……九じゃねぇと、アイツじゃなきゃ……」
興奮の大波に攫われかけていた思い出に縋りついて、情けなく涙して、かっこわるく足掻きました。
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