3 / 8
3
しおりを挟む「ここがセンセェんち」
まさか。
本当にシマ先生のおうちに招待されるなんて思ってもみなかったミサキは繁々と室内を見回した。
繁華街から徒歩三十分以内で到着した三階建てマンション上階の角部屋。
間取りは2LDK。
最低限の家具のみ置かれているリビングはその分ゆったりしていた。
玄関から近い洋室は、了解もとらずにドアを開いてみればパソコンデスクや本棚が並んでいた、どうやら仕事部屋のようだ。
「ミサキ、手洗いとうがい」
手洗い、うがいを先に済ませたシマ先生はリビングと隣接する和室に進んだ。
布団を敷き始めた担任にミサキは吊り目と唇をこれみよがしに尖らせる。
「センセイ、まだ十時前だぞ。しかも金曜なのに。もう寝んのかよ」
おうち訪問に内心ワクワクしながらも、もう寝る準備を始めたのかと機嫌を損ねていたら。
畳の上に敷布団と枕をセットしたシマ先生は居場所に迷って突っ立っているミサキの真ん前にやってきた。
「性教育、実践してほしいんだろ」
え。
「その前に。お父さんに連絡しなきゃな」
「え、あ、オヤジは仕事だし、電話しても出ねーから」
「留守電に残しておく。夜間に街を彷徨っていた息子さんを保護してます、一日預かりますって」
「オレはノラ猫か!!」
父子家庭であるミサキは毛を逆立てて威嚇する野良猫みたいに肩をいからせた。
それから言われた通りに洗面所で手洗い、うがいをし、何となく鏡に写る自分を見た。
「私、ミサキくんの担任をしております、シマと申します……」
電話をしているシマ先生の声が聞こえてくる。
タオルや洗剤などが整理整頓された洗面所を繁々と見回し、また、鏡の中の自分をぼんやり見た。
え?
なにこれ?
これって現実?
夢とかじゃないよなー?
「性教育……」
どっくん、どっくん、心臓が荒ぶり出した。
体中、どこもかしこも熱くなった。
頭の奥が痺れるみたいにツーンとなった。
「ミサキ」
洗面台の前で棒立ちになっていたミサキの元へシマ先生がやってきた。
過剰にビクリとし、おっかなびっくり目線をやれば、両腕を組んだシマ先生は首を傾げるようにして教え子の顔を覗き込んできた。
「別に健全なお泊まりでもいいよ」
「え」
「お前が怖いのなら無理強いしない」
そんなことを言われて。
より一層、全身をポカポカ熱くさせて、ミサキはムキになって言い返した。
「怖くねーもん!!!!」
シマ先生は小さく笑った。
「じゃあ、おいで、お前にだけ特別に教えてあげる」
ーー誰にもナイショだからな。
ずっとこっそりなりたがっていたシマ先生の特別。
蜜の味がするような秘密の共有。
自ら同罪を欲したミサキは素直にコクンと頷いた。
「……センセェ……」
かつてない角度で目にするシマ先生にミサキは緊張でガチガチになった。
ふかふかな敷布団に仰向けにされたかと思えば。
すぐさま真上にやってきたシマ先生。
頭の両脇に両手を突かせて、覗き込まれて、全身が心臓になったみたいに鼓動した。
「お前がこんなに大人しいなんて貴重かも」
眼鏡レンズ越しにその眼差しを独り占めして猛烈に高鳴る胸。
「甘えたがりの飼い猫みたい」
そんな胸を暴くようにシャツのボタンを一つずつ外していった長い指。
「あ、えっと」
途中でミサキが恥ずかしさと緊張で耐えられずに声を上げれば、ぴたりと、シマ先生は手を止めた。
「ぬ、ぬ」
「ぬ、ぬ?」
「脱がさなくていいッ……シャツ……こんままでいい」
ほんとに。
ほんとに今からセンセェとえろいこと……。
「……センセェ?」
外したばかりのボタンを、一つずつ、順々にかけ始めたシマ先生にミサキは吊り目を丸くさせた。
「やっぱり怖いんだろ」
シマ先生から中断する気配を嗅ぎ取ると、咄嗟に、その両手をぎゅっと握りしめた。
「や、やっぱ脱がしていい」
「無理しなくていいよ」
自分より大きな手。
関節が浮き出た五指の感触に改めてドキドキした。
「ムリなんかしてねーもん……センセェこそムリしてんじゃねーよ……オレにえろいことしたいくせに……」
シマ先生は、教え子らに死んだ魚の目としばしば揶揄される目を意味深に細めた。
「俺の方がお前にえろいことしたがってるって?」
「そ、そーだよ、だからさせてやるって言ってんだよ」
「かなりの上から目線だな」
「た、たまってんだろ、オトナだから」
「うん?」
「仕方ねーからオレが相手してやるって言ってんの」
「オトナの俺をこどものお前が満足させてくれるわけか」
「さ……させてやるよっ、それにオレこどもじゃねーもんっ、来年で中学だし! そこそこ家事やれるしっ、ゴミ捨てだってできるしっ、分別完ぺきだし!? それにもう剥けてっから!!」
「ふぅん」
緊張をどうにかしたくてのべつ幕なしに喋りまくっていたミサキは……突然、口をかたく閉ざした。
服越しに、いきなり、秘められるべき場所を触られた。
ゆっくり、優しく、ソコを撫でられた。
「ミサキの、もう剥けてるのか」
身長161センチ、痩せても太ってもいないバランスのとれた体つき。
担任に対して極端に口は悪いが他の先生やクラスメートには割りとマトモな態度、女子にそこそこ人気がある男子生徒。
「っ……っ……っ」
初めて他人の手に触れられて動揺しているミサキにシマ先生はさらにのしかかった。
ついさっきまで虚勢を張っていた、今は頑なに張り詰めている唇に、キスをした。
2
あなたにおすすめの小説
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
学園の卒業パーティーで卒業生全員の筆下ろしを終わらせるまで帰れない保険医
ミクリ21
BL
学園の卒業パーティーで、卒業生達の筆下ろしをすることになった保険医の話。
筆下ろしが終わるまで、保険医は帰れません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる