優しい檻に閉じ込めて

石月煤子

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3-雛未と式-

フルボリュームで体育館中に鳴り響く音楽。
文化祭当日、午後のプログラムの後半、雛未のクラスのダンスが終わり、また別のクラスの創作ダンスがステージ上で始まった。

晴れ舞台を終えて興奮気味でいるクラスメートの輪から逸れた雛未は体育館の端っこを一人歩く。
だだっ広いフロアの中央にずらりと並ぶ観客用のパイプ椅子は半分ほど埋まっていた。
ステージ前には一部の生徒や一般客らが押し寄せて歓声を上げている。

文化祭企画委員の指定通り、制服のワンピースに体育館シューズで躍った雛未は出入り口へ向かっていたのだが、見知らぬ客に声をかけられて立ち止まった。

「さっき××の曲でダンスしてたコですよね?」
「名前とか、教えてもらってもいいですか?」

年上と思しき私服姿の男性グループだった。
雛未が「折戸雛未です」と馬鹿丁寧にフルネームを告げると、互いに顔を見合わせて「やばい」と口々に交わした。

何が「やばい」のだろう。
雛未は首を傾げた。

質問には答えたので通り過ぎようとすれば「何年生ですか?」「もしかして芸能活動してる系ですか?」「SNSやってますか?」と一斉に新たな質問を投げかけられた。

騒々しい音楽でいまいち聞き取れずに雛未がぼんやり突っ立ったままでいたら。

「当校の生徒に何か御用でしょうか」

隹がやってきた。
雛未と男性グループの間にすっと割って入り、長身で鋭い目をした教師に威圧された彼らは気まずそうに観客席へと戻っていった。

「先生」
「お前、端っこじゃなかったんだな。ほぼセンターだったじゃないか」
「練習のし過ぎで足首を痛めた子がいて交代させられた」
「ふぅん。お疲れさま。かっこよかったぞ」
「先生、授業ないのに今日も白衣着てるの?」
「学校ではコレ着てないと落ち着かなくてな」

雛未と話していた隹に他の生徒が立て続けに声をかけてきた。
音楽にも負けない、よく通る声で教師は返事をし、スマホによる写真撮影をせがまれると屈んで応じてやっていた。

上級生に囲まれた隹から無言で離れ、雛未はその場を後にした。
本日、何かとステージで出し物が行われる体育館。
開放された出入り口付近には他校の制服を着た中高生や一般客が遠目にステージを眺めていた。
軽食を摘まんで談笑しているグループもいる。

一人、壁際に立つ人物を視界に捉えて雛未は……思わず駆け足になった、ワンピースの裾をふわりと翻して彼の元へ、ステージでは始終出されなかった全力を尽くして走った。

「ヒナ」

雛未は迷わず式に抱きついた。

「お兄ちゃん」

久し振りに会う兄に無心になってしがみついて妹は甘えた。
周囲も憚らず、大好きな家族の温もりに夢中になった。
式はただ受け止める。
人前だろうと、思春期に突入しようと、いつまで経っても小さい頃と同じ甘え方をする雛未の好きなようにさせてやった。

「ああ、来てくれたんだな、式」

写真撮影を一通り終えた隹がやってくると式は一瞬だけ表情を強張らせた。

「雛未のクラスがステージに出る時間帯は貴方から聞いていたので、見計らって来ました」
「随分と熱烈なスキンシップだな」
「いつものことです。雛未、ちょっと痩せたかな」
「昼はマフィンしか食べてないからな」
「だって、それが一番たくさん並んでるから」

式の胸に顔を埋めたままの雛未がくぐもった声で答える。

「お兄ちゃんも痩せたみたい」
「式、食費を無理に抑えた節約は体を壊すぞ」
「別に無理してません」
「餌付けの回数を増やさないとな」
「その言い方やめてください、俺は飼育されてる動物じゃありません」

雛未はもぞもぞと顔を上げた。
いつになく険のある目つきで隹を睨んでいる式に忙しげに瞬きし、二人を交互に何度も見やった。

「お兄ちゃん、怒ってるの?」
「そうだな、お前の兄さんは何かと俺に真っ向から文句をぶつけてきては威嚇してくる」
「貴方が変なこと言うからです」
「怒ってるお兄ちゃん、初めて見る。二人とも仲良くなってくれた?」

雛未の言葉に式は険しい顔つきのまま赤面した。

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