優しい檻に閉じ込めて

石月煤子

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予想を上回るクオリティの高さで驚きと恐怖の連続だった。
お化け屋敷を出た後、式はしばらく廊下の壁にもたれて放心していた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

雛未に頭を撫でられると苦笑した。

トートバッグに入れていたペットボトルのミネラルウォーターを飲み、一息ついたつもりが、血文字風の看板が立てかけられた教室から悲鳴が聞こえ、またしても恐怖を煽られた。

「黒髪ロングの白塗りは反則だよな」

隹に笑われて、むっとして、言い返そうとしたら再び悲鳴が聞こえて式は首筋を粟立たせる。

「もう帰ります」
「可愛いペットの写真展にあんたの写真も飾ってもらうか」
「どういう意味ですか、それ」
「隹先生、お兄ちゃん、静かな場所で休ませてあげてください」

お化け屋敷の中を一人先頭切って進んでいた雛未は、顔色が悪い式の両手を握った。

「お兄ちゃん、今日は来てくれてありがとう。夏休み中、お父さんもママもお兄ちゃんに会いたがってた。星(きらり)ちゃんはよくわからないけど」
「雛未、もう行くのか」
「うん、隹先生。お兄ちゃんのことお願いします」

こどもじみた高い体温、柔らかな両手。
それでもサイズは昔と比べ当然変わっていた。
少し伸びた爪の先からは大人の兆しが仄かに匂い立っていた。

「……冬休みには帰ろうと思う。でも、それまでにまた二人でどこか出かけよう、雛未」

式の言葉に雛未は笑顔を浮かべた。

「お兄ちゃん、変わった。私の選択、間違ってなかった」

式に手を振って、隹に小さく会釈して、雛未は二人の元から走り去っていった。

角を曲がって見えなくなるまで兄は妹の背中を見送り、教師は見えなくなってからも生徒が駆けていった方向へしばらく視線を送り続けた。

「雛未は、左手首、どうかしたんですか……やたら触って気にしていませんでしたか?」
「おまじない」
「おまじない、ですか」
「俺が雛未に、な。ところで。あんた歩けるのか。ひょっとして腰が抜けてるのか?」
「……抜けてません」
「それじゃあ我が校飛び切りの恐怖スポットに連れていってやる」

そう言うなり隹は歩き出した。
無視するわけにもいかず、式はしぶしぶ彼の後をついていく。

白衣を羽織った姿、生徒に頻繁に声をかけられる様子を目の当たりにし、本当に教師なのだと実感させられた。
自分が通っていた共学の学校とは雰囲気が異なるミッションスクールの女子高。
それでも学び舎はどこか懐かしく、脳裏に鮮やかに蘇る高校時代の記憶に気をとられ、歩調が遅れがちになっていたら。

「式」

隹に呼ばれた。

「置いていくぞ」

渡り廊下を進んで校舎が変わり、急に静かになった廊下の真ん中で立ち止まって振り向いた隹の隣に、不服そうにしながらも式は追い着いた。

(……同じ教師でも全く違う)

ついつい比べてしまった自分に呆れ返り、そういえば学校一の恐怖スポットに連れていくとか言っていたけれど、あれは冗談なのか本気なのか。

今頃になって不安になってきた式は隹に尋ねようとした。

「ここだ」

隹はガラリと扉を開いた。
理科実験室だった。

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