優しい檻に閉じ込めて

石月煤子

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ヒガンバナの咲き乱れる絶景スポットを時間をかけて探索し、専用駐車場に停めてある車へ戻った。

「もう三時ですか。着いたのは二時だったから、一時間は回って……――」

式は途中で言葉を切る。
いきなり隹にキスされて沈黙を無理強いされた。

助手席のシートベルトを早々と締めていた式の方へ身を乗り出し、その首根っこを掴んで、隹はキスを続けた。
車内とはいえ、いつ誰の目に触れるかもわからない白昼にしては過激な口づけだった。

「ッ……!」

視界の隅に人が映り込んだ瞬間、式は我に返る。
すぐそばに迫っていた隹の胸を全力で突っ返した。

「……なんだ、びっくりするだろ」
「それはこっちの……ッ……まさか、こんなところでするなんて……」

整備されていない駐車場へ人が来たのに隹も気づいたようだが、ケロリとした様子で彼は続けた。

「車でキスしたことあるだろ」
「こんな真昼間は初めてです……」
「本当はヒガンバナの中でしたかった」
「は?」
「あんたが物欲しそうな顔して俺を見てきたから」
「はい?」

正面に向き直った隹は頬を上気させている式を横目で見、声を立てずに笑う。

「人が来るまで拒まなかったな、式」

式は潤んでいた切れ長な目を見開かせた。
助手席で白昼のキスに甘んじていた自分自身に羞恥心と自己嫌悪を一気に募らせた。

(……最悪だ……)

滑らかなハンドル捌きで運転する隹からできる限り顔を背け、快速に流れゆく田園風景に視線を逃がす。

(年上の隹にいいように転がされているのは事実だ)

それに甘えている自分もどうかと式は思う。

幼少期の頃から三歳違いの雛未の面倒を見、母親を喪った後、十代半ばまでは多忙な父の代わりに献身的に家族を支えてきた。

逃げ場がほしかった。
誰かに甘えたかった。
結果、優しかった「先生」との秘密の関係にのめり込んだ。

(これじゃあ何も変わらない)

ペットボトルのミネラルウォーターを一口、込み上げてくる苦々しさと共に式は飲み込んだ。

「……次は断崖絶壁のカフェに連れていってくれるんでしたよね。バイト代も出たし、そこは俺が払います」

対等な関係として肩を並べるのはまだ到底無理そうだが、せめて少しは背伸びしたく、式は言い切ったのだが。

「いや。予定変更だ」

隹にサラリと断言されて、自分に選択肢はないのかと頬を膨らませた。





「……予定変更って……」

隹に連れていかれた先は断崖絶壁のカフェならぬ海沿いのラブホテルだった。

「真昼間のカーセックスは酷だと思ってな」
「そんなことしたら通報される」
「真夜中だったらヒガンバナに囲まれた中でも可だった」
「不可ですよ、それこそ……まさか経験あるんですか?」
「知りたいか?」

(それって経験済みってことなんじゃないのか)

急な予定変更に少々不満を抱き、行先に呆れ、教師らしからぬ過去の行いを匂わせた隹に式は閉口するしかなかった。

「……ここのお風呂、透けてるんですか」

しかも部屋に着いてみればガラス張りの浴室でベッドから丸見えの配置となっていた。

「これって、スイッチを押したらガラスが曇るタイプとかじゃないんですか?」
「へぇ。詳しいな。知識に長けてる」
「……貴方には負けますよ、きっと」
「俺を好色漢扱いするな」
「あながち間違ってないでしょう……あの、自分で脱ぐので、脱がさないでください」
「一緒に入るぞ」
「嫌です」
「ベッドから視姦されるのと大して変わらないだろ」
「嫌です、嫌だ……ちょっと……隹……!」



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