優しい檻に閉じ込めて

石月煤子

文字の大きさ
32 / 34

0-2





ヒガンバナの咲き乱れる絶景スポットを時間をかけて探索し、専用駐車場に停めてある車へ戻った。

「もう三時ですか。着いたのは二時だったから、一時間は回って……――」

式は途中で言葉を切る。
いきなり隹にキスされて沈黙を無理強いされた。

助手席のシートベルトを早々と締めていた式の方へ身を乗り出し、その首根っこを掴んで、隹はキスを続けた。
車内とはいえ、いつ誰の目に触れるかもわからない白昼にしては過激な口づけだった。

「ッ……!」

視界の隅に人が映り込んだ瞬間、式は我に返る。
すぐそばに迫っていた隹の胸を全力で突っ返した。

「……なんだ、びっくりするだろ」
「それはこっちの……ッ……まさか、こんなところでするなんて……」

整備されていない駐車場へ人が来たのに隹も気づいたようだが、ケロリとした様子で彼は続けた。

「車でキスしたことあるだろ」
「こんな真昼間は初めてです……」
「本当はヒガンバナの中でしたかった」
「は?」
「あんたが物欲しそうな顔して俺を見てきたから」
「はい?」

正面に向き直った隹は頬を上気させている式を横目で見、声を立てずに笑う。

「人が来るまで拒まなかったな、式」

式は潤んでいた切れ長な目を見開かせた。
助手席で白昼のキスに甘んじていた自分自身に羞恥心と自己嫌悪を一気に募らせた。

(……最悪だ……)

滑らかなハンドル捌きで運転する隹からできる限り顔を背け、快速に流れゆく田園風景に視線を逃がす。

(年上の隹にいいように転がされているのは事実だ)

それに甘えている自分もどうかと式は思う。

幼少期の頃から三歳違いの雛未の面倒を見、母親を喪った後、十代半ばまでは多忙な父の代わりに献身的に家族を支えてきた。

逃げ場がほしかった。
誰かに甘えたかった。
結果、優しかった「先生」との秘密の関係にのめり込んだ。

(これじゃあ何も変わらない)

ペットボトルのミネラルウォーターを一口、込み上げてくる苦々しさと共に式は飲み込んだ。

「……次は断崖絶壁のカフェに連れていってくれるんでしたよね。バイト代も出たし、そこは俺が払います」

対等な関係として肩を並べるのはまだ到底無理そうだが、せめて少しは背伸びしたく、式は言い切ったのだが。

「いや。予定変更だ」

隹にサラリと断言されて、自分に選択肢はないのかと頬を膨らませた。





「……予定変更って……」

隹に連れていかれた先は断崖絶壁のカフェならぬ海沿いのラブホテルだった。

「真昼間のカーセックスは酷だと思ってな」
「そんなことしたら通報される」
「真夜中だったらヒガンバナに囲まれた中でも可だった」
「不可ですよ、それこそ……まさか経験あるんですか?」
「知りたいか?」

(それって経験済みってことなんじゃないのか)

急な予定変更に少々不満を抱き、行先に呆れ、教師らしからぬ過去の行いを匂わせた隹に式は閉口するしかなかった。

「……ここのお風呂、透けてるんですか」

しかも部屋に着いてみればガラス張りの浴室でベッドから丸見えの配置となっていた。

「これって、スイッチを押したらガラスが曇るタイプとかじゃないんですか?」
「へぇ。詳しいな。知識に長けてる」
「……貴方には負けますよ、きっと」
「俺を好色漢扱いするな」
「あながち間違ってないでしょう……あの、自分で脱ぐので、脱がさないでください」
「一緒に入るぞ」
「嫌です」
「ベッドから視姦されるのと大して変わらないだろ」
「嫌です、嫌だ……ちょっと……隹……!」



感想 0

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。

水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。 孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。 固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。 その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。 カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。 しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。 愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。 美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。 胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

さよなら、永遠の友達

万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。 卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。 10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。