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四章
35:ヘレンとエミリーとの出会い
しおりを挟む街の広場から石畳の路地を進み、サリアとミカが約束の家にたどり着いた。
目の前にはこぢんまりとした武器屋が立ち、木製の看板に剣と盾のマークが刻まれている。
店先には磨かれた剣や槍が並び、鉄と革の匂いが漂う。
サリアの胸に、期待と緊張が混じり合い、彼女の深紅の瞳がミカに注がれた。
ミカが地図を懐にしまい、軽く頷いて店の中へ足を踏み入れる。
サリアが「ここだよね…?」と小さく呟き、ミカの後を追った。
(どんな人が待ってるんだろう…ドキドキするな)
サリアが内心で呟き、彼女の微笑みが緊張を隠す。
店内に入ると、ショートカットの女性がカウンターの裏で剣を磨いていた。
彼女が顔を上げ、サリアとミカを見て朗らかに笑う。
ミカが一歩進み出て、落ち着いた声で切り出した。
「あの、文通してた者です。今日、約束通りきました」
ミカの緑の瞳が店主を見つめ、彼女の手が地図を握る。
女性が剣を置いて立ち上がり、「君がミカさんかな?」と明るく問い、カウンターから出てきた。
「店で話すのもなんだから、奥へどうぞ。ちょっと待っててね」
彼女がそう言うと、店の入り口に「閉店中」の札をかけ、奥の部屋へと二人を案内する。
サリアとミカが狭い通路を通り、簡素な木のテーブルと椅子が置かれた部屋に入った。
女性が二人に座るよう促し、自己紹介を始めた。
「私はヘレン。ミカさん…とそのお友達は、魔族に先祖返りした人の話を聞きたいんだよね?」
ヘレンの声に温かみがこもり、彼女がミカに確認するように頷く。
ミカが「はい、そうなんです」と短く答え、サリアが微笑みを浮かべて前に出た。
「私はサリアと言います。よろしくお願いします」
サリアの声が柔らかく響き、彼女の深紅の瞳がヘレンに注がれる。
ヘレンが「よろしく、サリアさん」と返し、軽く笑ってから続けた。
「じゃあ、本人を呼ぶからちょっと待っててね」
ヘレンが部屋の外に向かって「エミリー、きてくれ」と呼びかけると、足音が近づいてくる。
扉が開き、人影が部屋に入ってきた瞬間、サリアとミカが同時に息を飲んだ。
そこに立っていたのは、水色に透き通った身体を持つ女性――ゼリーのような肌が揺れ、スライムの魔族であることが一目で分かる。
サリアの目が丸くなり、ミカの手が無意識に地図を握り潰す。
エミリーが二人を見て、柔らかい声で呟いた。
「驚かせちゃったかな?」
その言葉に、サリアが慌てて我に返り、頬を赤らめて謝った。
「ご、ごめんなさい! スライムの人と会うの初めてで、驚いてしまって…」
サリアの声が震え、彼女が恥ずかしそうに目を伏せる。
エミリーが優しく笑い、穏やかに返した。
「気にしなくていいわよ。そりゃ驚くわよね。私だって最初は自分に驚いたんだから」
エミリーの声に軽いユーモアが混じり、部屋の空気が和らいだ。
ヘレンがエミリーの肩に手を置き、改めて紹介する。
「見て貰えば分かると思うけど、この子がエミリー。昔、スライムに先祖返りしたんだ」
ヘレンの声に誇らしさが滲み、
「昔は普通の人間だったんだけどね」
とエミリーが笑いながら付け加えた。
サリアの胸に、驚きと共感が芽生え、彼女の瞳がエミリーに吸い寄せられる。
ミカが「そうなんですね…」と呟き、彼女の冷静な視線が二人を見つめた。
(この人たちなら…何か分かるかもしれない)
サリアが内心で呟き、彼女の微笑みがエミリーに向けられた。
武器屋の奥の部屋は、木のテーブルを囲むサリア、ミカ、ヘレン、エミリーの四人で静かに満たされていた。
窓から差し込む昼下がりの光が、エミリーの水色に透き通った肌を柔らかく照らし、彼女のゼリーのような姿が穏やかに揺れる。
サリアの胸に、エミリーへの驚きが薄れ、代わりに共感と期待が芽生えていた。
彼女の深紅の瞳がエミリーを見つめ、ミカがテーブルに地図を置いて切り出した。
「それじゃあ…お話を聞かせてもらってもいいですか? 先祖返りについて、詳しく知りたいんです」
ミカの緑の瞳が冷静に二人を捉え、彼女の声が部屋に響く。
ヘレンがエミリーに軽く微笑み、話を始めた。
「見て貰えば分かる通り、エミリーはスライムに先祖返りしたんだ。私たちは恋人同士で、昔はここから遠く離れた国の兵士だった」
ヘレンの声に懐かしさが混じり、彼女の手がエミリーの肩にそっと触れる。
「昔は普通の人間だったんだけどね」
とエミリーが笑い、言葉を引き継いだ。
「ある日突然、こうなっちゃったの。朝起きたら身体が溶けるみたいに変わってて…自分でも何が起きたか分からなかった」
エミリーの声が響き、彼女のゼリーのような指がテーブルを軽く叩く。
サリアが「突然…?」と小さく呟き、ミカが「何か予兆とか原因はなかったんですか?」と冷静に質問を重ねた。
ヘレンが首を振って答える。
「何もなかったよ。医者にも魔術師にも見せたけど、誰も原因を突き止められなかった。先祖返りなんて珍しいし、予兆も分からないままエミリーが変わっちゃったんだ」
「その国じゃ魔族への偏見が強くてね」
とエミリーが続け、彼女の瞳が少し曇る。
「兵士仲間には慕われてたけど、スライムになった途端、みんな距離を取るようになった。結局、国を追われる形になって…二人で出てきたの」
サリアの胸が締め付けられ、彼女の瞳がエミリーに寄り添う。
ミカが「それからどうしたんですか?」と静かに促した。
ヘレンが苦笑いを浮かべ、話を続けた。
「元に戻る方法がないか、何年も探したよ。いろんな国を回って、学者や魔術師に会って…でも、結論は『そんな方法はない』だった。諦めるしかなかったんだ」
「でも、二人で生きていく道は見つけたわ」
とエミリーが笑い、ヘレンが頷く。
「この街に来るまでは傭兵として働いてた。警備や商人の護衛をしてお金を稼いで、兵士時代の蓄えも使って、ようやくここで店を持てたんだ。私たちの新しい居場所さ」
ヘレンの声に誇らしさが滲み、エミリーが「今は平和よ」と穏やかに締めくくった。
「戻る方法がない…」
とサリアが呟き、彼女の顔が曇る。
エミリーの話を聞きながら、自分のサキュバスの姿と重ね合わせ、胸に重いものが沈んだ。
(私も…ずっとこのままなのかな)
サリアが内心で呟き、彼女の手が無意識にテーブルを握る。
ミカがその様子に気づき、心配そうにサリアを見やった。
ミカの緑の瞳が一瞬揺れ、彼女が静かに質問を終える。
「貴重な話、ありがとうございます。すごく参考になりました」
ミカの声が穏やかに響き、彼女が地図を手に持つ。
武器屋の奥の部屋で、サリアとミカがヘレンとエミリーの過去と先祖返りの話を聞き終えた。
ヘレンとエミリーの辛い経験と絆が明らかになり、サリアの胸に共感と不安が混じる。
ミカの質問が話を引き出し、二人の新たな居場所が温かく語られた。
先祖返りの現実が、サリアに静かな影を落としていた――。
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