56 / 126
九
揺れる心-7
しおりを挟む
――――時は遡り、数日前。
旧市街、いつもの日暮れ時。
「いい加減道も分かってるし、毎回付き合ってくれなくても大丈夫だよ。特にこういう、馬車のいない時とかはさ」
のんびりと坂道を下りながら、ゲオルグが言った。
「そういうわけには参りません。これも……仕事ですから」
「本当、律儀だね、リゼット」
「カルサス様がいい加減すぎるのです」
いつもの如く冷たいリゼットに、ゲオルグはニコニコ笑ったまま返した。
「僕ってそんなにいい加減?」
「そうです! カルサ……」
「あー、ちょっと」
そして、唐突に台詞を遮る。
「は?」
「僕がリゼット、なのに、君がカルサスさま、なんて、冷たくない?」
「何がですか?」
「友達なのに」
「ともっ……!?」
「驚くとか傷つく」
眼鏡の奥の、人懐っこそうな瞳に覗きこまれ、少女はうろたえ、目を泳がせる。
「わ……私は、友達になった覚えはありません!」
「ええっ? そうなの?」
「当たり前です! だいたい、殿下からお出迎えとお見送りを仰せつかっているだけで、と……友達らしいことなんて、何も……」
怒っているのか、困っているのか、それ以外なのか。リゼット自身、分かっていなかったのかもしれない。
「じゃあ、友達っぽい話をしながら帰ろうよ」
ゲオルグは食い下がる。
「そ……そんなに、私と友達になりたいと?」
「そりゃあそうさ」
「どうして……」
「どうしてって、それは……その……」
ゲオルグが見せた、少しだけ恥ずかしそうなその表情に、リゼットは心が浮き立つのを止められなかった。目の間のこの少年が、自分に興味を持っている。それがどうして嬉しいのだろう。嫌いなはずなのに。
そこまで考えて、リゼットは唐突に思い知る。
好きなのだ。この少年が。
けれど――ゲオルグは何も知らず、残酷なその続きを口にした。
「せっかく知り合えたんだから、仲良く出来たほうが楽しいし、それに……これはちょっと個人的なことだけど、もっと色々な話も聞きたいしさ……アーシュラ様のこと」
「え……」
「だから、実はちょっと、自分でも大それたことをって、驚いてるんだけど」
ゲオルグは一瞬言葉を区切って、少しだけ改まって続ける。
「僕、彼女のこと、好きになってしまったよ」
自覚したばかりの恋心を、叩き潰すような告白だった。少女は息を呑んで、軋むように落胆に塗りつぶされていく心をやり過ごした。
旧市街、いつもの日暮れ時。
「いい加減道も分かってるし、毎回付き合ってくれなくても大丈夫だよ。特にこういう、馬車のいない時とかはさ」
のんびりと坂道を下りながら、ゲオルグが言った。
「そういうわけには参りません。これも……仕事ですから」
「本当、律儀だね、リゼット」
「カルサス様がいい加減すぎるのです」
いつもの如く冷たいリゼットに、ゲオルグはニコニコ笑ったまま返した。
「僕ってそんなにいい加減?」
「そうです! カルサ……」
「あー、ちょっと」
そして、唐突に台詞を遮る。
「は?」
「僕がリゼット、なのに、君がカルサスさま、なんて、冷たくない?」
「何がですか?」
「友達なのに」
「ともっ……!?」
「驚くとか傷つく」
眼鏡の奥の、人懐っこそうな瞳に覗きこまれ、少女はうろたえ、目を泳がせる。
「わ……私は、友達になった覚えはありません!」
「ええっ? そうなの?」
「当たり前です! だいたい、殿下からお出迎えとお見送りを仰せつかっているだけで、と……友達らしいことなんて、何も……」
怒っているのか、困っているのか、それ以外なのか。リゼット自身、分かっていなかったのかもしれない。
「じゃあ、友達っぽい話をしながら帰ろうよ」
ゲオルグは食い下がる。
「そ……そんなに、私と友達になりたいと?」
「そりゃあそうさ」
「どうして……」
「どうしてって、それは……その……」
ゲオルグが見せた、少しだけ恥ずかしそうなその表情に、リゼットは心が浮き立つのを止められなかった。目の間のこの少年が、自分に興味を持っている。それがどうして嬉しいのだろう。嫌いなはずなのに。
そこまで考えて、リゼットは唐突に思い知る。
好きなのだ。この少年が。
けれど――ゲオルグは何も知らず、残酷なその続きを口にした。
「せっかく知り合えたんだから、仲良く出来たほうが楽しいし、それに……これはちょっと個人的なことだけど、もっと色々な話も聞きたいしさ……アーシュラ様のこと」
「え……」
「だから、実はちょっと、自分でも大それたことをって、驚いてるんだけど」
ゲオルグは一瞬言葉を区切って、少しだけ改まって続ける。
「僕、彼女のこと、好きになってしまったよ」
自覚したばかりの恋心を、叩き潰すような告白だった。少女は息を呑んで、軋むように落胆に塗りつぶされていく心をやり過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる