紫灰の日時計

二月ほづみ

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剣と太陽の誕生日-3

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   親愛なるアーシュラ様、お手紙ありがとうございます。
   お元気になさっていると聞いて、安心いたしました。
   ですが、くれぐれもお体を労り、ご無理の無いようにお過ごしください。
   じきにクリスマスですね。今年は妻が息子と一緒に大きなツリーを用意するのだといって張り切っています。
   ロディスも物心がついてきたようで、次々と言葉を憶え、子供の成長の早さに驚かされます。そろそろ思い出を残せる年頃になりますから、短い子供時代の間に、楽しい記憶を多く作ってやれるようにと思っています。
   ツリーの飾りはたぶん妻任せになってしまうので、今度、息子と星を見ようと思っています。こぐま座流星群という、一年の最後にやって来る流星群です。今年は月齢条件も良く、数多くの流れ星が見えることと思います。
   アヴァロンでも、晴れたらさぞかし美しく見えるはずですから、体調が良ければ空を見上げてみることをおすすめします。
   きっと、同じ空を見られることを祈りつつ。

セルジュ・カスタニエ





 十八歳になったアーシュラは、ますます輝くように美しくなっていた。長く体調が安定していることと、何より、初めての恋が彼女を魅力的にしていた。
 しかし、彼女は自分の想いをゲオルグに告げることはなかった。
 自分が、皇女という立場で愛を告白することが、少年を遠ざける、もしくは縛ってしまうことになりかねないことを、よく分かっていたからだ。
 けれど、恋愛経験の無い彼女は、ゲオルグもまた同じ気持ちでいるということについては、少しも気付いていないようだった。
 そんな、彼らの日常は穏やかだった。

 十二月に入り、外が寒くなってからも、ゲオルグは変わらず城を訪れていた。
 そして、ふとした会話から、ある日、奇妙な事実が判明することになる。
「二十日……!? お誕生日が?」
 誕生日の話だった。ゲオルグが、今月十七歳になるのだと、雑談のついでに話したのだ。アーシュラはもちろん、彼の誕生日を知りたがった。そして彼が答えたその日が、偶然――
「同じね」
「え?」
「エリンと」
 エリンのそれと、同じ日だったのだ。
「ええっ!?」
「そうよね? エリン」
「まぁ……」
 エリンは、どことなく居心地の悪そうな返事をする。
 別に、ゲオルグと一緒なのが嫌だというわけではない。今まで、誰にも自分の誕生日についてなど話す機会は無く、十二月二十日のことはアーシュラと二人だけで共有される、小さな秘密のようなものだったからだ。
 剣の誕生日が祝われることは無い。けれど、アーシュラはいつもその日の朝、おめでとうの言葉をくれるのだ。それが、子供の頃からずっと、エリンにとっての誕生日だった。
「ふふ、面白いわ。じゃあ今年は、二人分のお祝いをしましょう」
 アーシュラは、悪戯の計画でも思いついたように言う。ゲオルグはパッと嬉しそうな顔をしたけれど、エリンは戸惑ったように口を挟んだ。
「殿下、私の分は一緒にしていただかなくて結構です。祝われるなら、カルサス様のお誕生日を」
「どうして?」
「それは……その……」
 何とも説明のしづらい感情だった。返答に窮していると、そもそもエリンの意見など聞くつもりはなかったらしいアーシュラは、さっさと次の話題に移ってしまう。
「ねぇ、ゲオルグ、二十日ってここに来られる?」
「もちろん。来ますよ、何があっても!」
「ふふふふ、良かった。じゃあ、クヴェンにケーキを頼んでおかなくちゃ。リゼットも休ませて、皆でパーティにしましょう」
「殿下……!」
 まだ不満そうに口を開く従者を、アーシュラが怖い顔で睨む。
「エリン、ゲオルグのお祝いに水をさすなんて、許さないから」
 そう言われてしまうと、エリンには返す言葉は無いのだった。
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