7 / 40
誓い
しおりを挟む
ゲームも漫画も存在しないこの世界で、ストレス発散といえば乗馬だ。この体はなんでも器用にこなし、乗馬の腕もかなりのものだと自負している。
丘に向かって更にスピードをあげようとしたところで、後ろから馬蹄の激しい音が聞こえてきた。なにごとかと振り返ると、そこには鞍も手綱もつけずに馬の背に覆いかぶさるように跨って駆けてくるルディがいた。
「ジャック様っ! やっと追いついたっちゃ」
「ルディ⁉ お前、なんで……」
「乗馬は、得意だっちゃっ!」
そういうことではない。手綱を引き、慌てて立ち止まると、ルディの馬もジャックの馬の横にぴたりと止まった。
「窓を見たら、ジャック様が馬に乗っているのが見えて。馬に乗っているジャック様格好いい! と思ってたら思わず追いかけてきちゃったちゃ、じゃなくて、きちゃったんです」
ルディが頬を染めながら全開の笑顔でそう言うのを、ジャックは宇宙人でも見るような気持ちで呆然と見つめた。
昨日確かにジャックは自分と一緒にいると死ぬと伝えた筈なのに。なんでコイツはこんなにニコニコと寄ってくるのだろう。
「それにしても、昨日はびっくりしたっちゃ、です」
やっと昨日の話題をだされ、なんとなくホッとした。こいつも普通の人間なのだ。ゲームの中の嘘っぱちな人間だと思っているのに、人間らしい感情を見せられたことになぜかホッとする。
「ジャック様って、顔もいいのに声までいいっちゃ、ですね」
「──は?」
「あまりにも声が良すぎて、ちゃんとお返事出来ずにすいませんでした」
上目遣いで照れくさそうに謝ってきた。可愛いかよ。いや、そうではない。ルディと自分は本当に昨日同じ空間にいたんだろうか。根本的な温度差を感じる。
「あ、でも。あれが、よく分からなくて。ジャック様の為にオレが死ぬとか言ってたやつ」
やっとか。そう思いルディを見ると思っていた表情と全く違った。
「ジャック様の為に死ぬから、オレはジャック様の為に生きられない。みたいなこと言ってた気がするんですけど、それってジャック様の為に生きてますよね。死ぬまでは。じゃあ、良くないですか?」
一点も曇りのない爽やかな笑顔のままルディは無邪気にそう告げた。
「はあ?」
思わず素の声が出る。何を言っているんだろうコイツは。
「だから、俺といるから、お前は死ぬんだよ。俺の前から消えれば、お前は多分死なずに済む。悪いこと言わないから早く田舎に帰れ」
なんで俺がたかだかゲームの中の人間に向かって必死に説得しなくてはいけないのだろう。ゲームだったら選択肢がでて、どちらかを選べばたいてい予想通りに事が運ぶ。
今までジャックとして生きてきた人生も、自分で選択肢を予想して行動を起こせば、大体予想通りに事が進み上手くいってきたのに。どうもこのルディだけはうまくいかない。行動も言動も予想外過ぎるのだ。
「ええ、でもぉ」
でもぉ、じゃないっ! と叱りたくなったが、ぐっと我慢して続きを聞く。ルディは馬ごと更に一歩ジャックに近づいた。ジャックの馬は何故か嫌がらず佇んでいる。
ぐっと下から顔を覗き込まれる。琥珀色の猫目が真っ直ぐにジャックを見た。
「オレは昔からジャック様の為に生きているんで、ジャック様といないと生きている意味がないっちゃ、です」
ちゃ、の後のですって。あざとい選手権ぶっちぎり優勝かよ。じゃあ仕方ないか、とか言い出しそうな自分を必死に抑える。
「だから、昨日も言ったけど、オレは普通の日本人だったんだよ。それが、転生してゲームの世界のジャックになっていただけ。オレは言わば、偽物だよ。お前にとっては」
自分にとっては、お前の方が偽物だ。という言葉は、なぜかルディには言えなかったが。
「う~んと、昔お庭でオレたち会った事があるっちゃ、ですよね」
「ああ、昔な」
あの時のルディはくそ可愛かった。いまも可愛いけど。いや、そうじゃない。
「覚えてくださってるんだ! じゃあ、その時のジャック様は、今のジャック様なんですね」
「あ、ああ……いや、今のジャックは一応ずっと俺ではあるから」
「なんだ! じゃあ、偽物じゃないじゃないですか」
「いや、でも、本来のゲームの中のジャックは、もっと、こう、貴族な感じで」
ムカつく感じで、とは言えなかった。
「本来とかよくわかりませんけど、オレは今のジャック様とお庭で会ったときから、この方の支えになりたいって生きてきたんです。オレの人生にはジャック様が必要だけど、ジャック様にオレの生き方を決めて欲しくないっちゃ、です」
(こいつは……)
ジャックは言葉を失った。
ゲームの中の偽物の世界。夢の中の世界。
それでも──。
(コイツの世界は、俺が全てなんだ)
手が震える。恐怖のようなものが背中をかすめ、そして、それは抗いきれない歓喜に飲み込まれていった。ルディの言葉は酷く甘美で麻薬のようだ。
ここは偽物の世界。こいつもただのそういったキャラクター。分かっている。それでも。
(両親にだって、こんなに求められたことない)
前世も、今も、だ。ジャックはそっとルディの肩に手を伸ばす。それは予想以上に薄くて、そして温かかった。
「生きてんだな」
「え?」
意味が分からないと言ったようにルディが首を傾げる。可愛い。じゃなくて。
「決めた。俺が絶対お前を死なせない」
ポカンとした顔でルディがジャックを見つめる。くそっ!可愛いものは可愛いんだから仕方ない。ジャックは肩においた手にぐっと力を入れて言った。
「お前の死亡フラグ全部回避して、俺もお前も死なないスペシャルハッピーなエンディングを迎えてみせるぞっ」
丘に向かって更にスピードをあげようとしたところで、後ろから馬蹄の激しい音が聞こえてきた。なにごとかと振り返ると、そこには鞍も手綱もつけずに馬の背に覆いかぶさるように跨って駆けてくるルディがいた。
「ジャック様っ! やっと追いついたっちゃ」
「ルディ⁉ お前、なんで……」
「乗馬は、得意だっちゃっ!」
そういうことではない。手綱を引き、慌てて立ち止まると、ルディの馬もジャックの馬の横にぴたりと止まった。
「窓を見たら、ジャック様が馬に乗っているのが見えて。馬に乗っているジャック様格好いい! と思ってたら思わず追いかけてきちゃったちゃ、じゃなくて、きちゃったんです」
ルディが頬を染めながら全開の笑顔でそう言うのを、ジャックは宇宙人でも見るような気持ちで呆然と見つめた。
昨日確かにジャックは自分と一緒にいると死ぬと伝えた筈なのに。なんでコイツはこんなにニコニコと寄ってくるのだろう。
「それにしても、昨日はびっくりしたっちゃ、です」
やっと昨日の話題をだされ、なんとなくホッとした。こいつも普通の人間なのだ。ゲームの中の嘘っぱちな人間だと思っているのに、人間らしい感情を見せられたことになぜかホッとする。
「ジャック様って、顔もいいのに声までいいっちゃ、ですね」
「──は?」
「あまりにも声が良すぎて、ちゃんとお返事出来ずにすいませんでした」
上目遣いで照れくさそうに謝ってきた。可愛いかよ。いや、そうではない。ルディと自分は本当に昨日同じ空間にいたんだろうか。根本的な温度差を感じる。
「あ、でも。あれが、よく分からなくて。ジャック様の為にオレが死ぬとか言ってたやつ」
やっとか。そう思いルディを見ると思っていた表情と全く違った。
「ジャック様の為に死ぬから、オレはジャック様の為に生きられない。みたいなこと言ってた気がするんですけど、それってジャック様の為に生きてますよね。死ぬまでは。じゃあ、良くないですか?」
一点も曇りのない爽やかな笑顔のままルディは無邪気にそう告げた。
「はあ?」
思わず素の声が出る。何を言っているんだろうコイツは。
「だから、俺といるから、お前は死ぬんだよ。俺の前から消えれば、お前は多分死なずに済む。悪いこと言わないから早く田舎に帰れ」
なんで俺がたかだかゲームの中の人間に向かって必死に説得しなくてはいけないのだろう。ゲームだったら選択肢がでて、どちらかを選べばたいてい予想通りに事が運ぶ。
今までジャックとして生きてきた人生も、自分で選択肢を予想して行動を起こせば、大体予想通りに事が進み上手くいってきたのに。どうもこのルディだけはうまくいかない。行動も言動も予想外過ぎるのだ。
「ええ、でもぉ」
でもぉ、じゃないっ! と叱りたくなったが、ぐっと我慢して続きを聞く。ルディは馬ごと更に一歩ジャックに近づいた。ジャックの馬は何故か嫌がらず佇んでいる。
ぐっと下から顔を覗き込まれる。琥珀色の猫目が真っ直ぐにジャックを見た。
「オレは昔からジャック様の為に生きているんで、ジャック様といないと生きている意味がないっちゃ、です」
ちゃ、の後のですって。あざとい選手権ぶっちぎり優勝かよ。じゃあ仕方ないか、とか言い出しそうな自分を必死に抑える。
「だから、昨日も言ったけど、オレは普通の日本人だったんだよ。それが、転生してゲームの世界のジャックになっていただけ。オレは言わば、偽物だよ。お前にとっては」
自分にとっては、お前の方が偽物だ。という言葉は、なぜかルディには言えなかったが。
「う~んと、昔お庭でオレたち会った事があるっちゃ、ですよね」
「ああ、昔な」
あの時のルディはくそ可愛かった。いまも可愛いけど。いや、そうじゃない。
「覚えてくださってるんだ! じゃあ、その時のジャック様は、今のジャック様なんですね」
「あ、ああ……いや、今のジャックは一応ずっと俺ではあるから」
「なんだ! じゃあ、偽物じゃないじゃないですか」
「いや、でも、本来のゲームの中のジャックは、もっと、こう、貴族な感じで」
ムカつく感じで、とは言えなかった。
「本来とかよくわかりませんけど、オレは今のジャック様とお庭で会ったときから、この方の支えになりたいって生きてきたんです。オレの人生にはジャック様が必要だけど、ジャック様にオレの生き方を決めて欲しくないっちゃ、です」
(こいつは……)
ジャックは言葉を失った。
ゲームの中の偽物の世界。夢の中の世界。
それでも──。
(コイツの世界は、俺が全てなんだ)
手が震える。恐怖のようなものが背中をかすめ、そして、それは抗いきれない歓喜に飲み込まれていった。ルディの言葉は酷く甘美で麻薬のようだ。
ここは偽物の世界。こいつもただのそういったキャラクター。分かっている。それでも。
(両親にだって、こんなに求められたことない)
前世も、今も、だ。ジャックはそっとルディの肩に手を伸ばす。それは予想以上に薄くて、そして温かかった。
「生きてんだな」
「え?」
意味が分からないと言ったようにルディが首を傾げる。可愛い。じゃなくて。
「決めた。俺が絶対お前を死なせない」
ポカンとした顔でルディがジャックを見つめる。くそっ!可愛いものは可愛いんだから仕方ない。ジャックは肩においた手にぐっと力を入れて言った。
「お前の死亡フラグ全部回避して、俺もお前も死なないスペシャルハッピーなエンディングを迎えてみせるぞっ」
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
転生×召喚
135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。
周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。
これはオマケの子イベント?!
既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。
主人公総受けです、ご注意ください。
魔王の求める白い冬
猫宮乾
BL
僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。
竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。
溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。
みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。
囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。
サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。
真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。
☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正
⭐残酷表現あります。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる