悪役令息に転生した従兄弟は、オレの死亡フラグ回避に必死だっちゃ!

二月こまじ

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一方通行の道

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「急にごめんね。でも、どうしても、もう一度君と二人で会いたかったんだ」
「はあ……」
 
 パトリック王子の言葉を聞くともなしに聞きながら、ルディはジャックが消えていった屋敷の方角を見つめた。
 ルディを王子に引き渡した後、ジャックはすぐに屋敷へと帰っていった。どうやら元々そういった取り決めだったらしい。ルディだけが知らなかった。知らずに、ジャックから愛の告白を受けるんじゃないかなんて馬鹿げた妄想で盛り上がっていたのだ。
 それが実際はどうだ。冗談でもルディと結婚したい、なんて言う男と二人きりにされたのだ。
 ジャックにとっては、昨日の出来事なんて軽いお遊びのようなものだったに違いない。貴族特有の遊びなのだろう。じゃなければ、こんな状況あり得るわけがない。ジャックはむしろ王子とルディの結婚を望んでさえいるのかもしれない。ルディが勘違いしないように。先に手を打たれた可能性さえある。

(本当、馬鹿みたいだっちゃ)

 死んでしまうなら、いっそ早く死んでしまいたい。
 自暴自棄にそう思っていると、王子が静かに問いかけてきた。

「──ジャック君が気になるのかい?」
「……」

 無言の答えは、肯定として王子に届いたようだ。

「ジャック君の事が、好きなの?」
「──なんで王子は、オレなんかと結婚したいなんて言ったんですか? 冗談にしても悪趣味です」

 質問を質問で返すのは失礼に当たると分かってはいるが、この苛々を王子にぶつけずにはいられなかった。

「むしろ、君しかいないと思ったんだよ。冗談なんかじゃ無い。初めて会った時、私は確信したよ。君こそが、私の番(つがい)だってね」

 怒るでもなく、王子は真摯に答えてくれたが、それは到底ルディが納得できる様な答えではなかった。
 不満そうな様子のルディを見て、王子が続ける。

「宮殿の周りに馬車道があったろう。あれを見てどう思った?」
「別に、綺麗だと思いました」
「そうだね。とても綺麗だ。あの道は宮殿の周りをぐるりと一周囲ってる。私の人生は、丁度そんな感じだと思ってたんだ」

 いつも自分を演じていると言っていた話だろうか。
 ルディは顔を上げた。
 柔らかく微笑む青い瞳と目が合う。
 王子はもしかしたら、ずっとこちらを見ていたのかもしれない。

「中身の人間なんてどうでもいい。立派に装飾された馬車に乗り込んで、決まったコースの決まった景色を永遠とぐるぐる回る人生。そう思っていた。だけど、君が現れた。私の世界は全く違うものになったんだ」

 そんな劇的な出会いだったようには思えないが、王子が嘘を言っている様には見えない。
 それにルディにも分かった。
 特別な人と出会う事で、それまでと全く違う世界が見えるようになる感覚を。
 ジャックと出会って、世界は全く違うものになった。
 変わり映えしない毎朝見る朝焼けが、特別な景色に変わったのだ。

「私の世界に、君が必要なんだ」

 王子の顔が、どんどん近くなる。

(あれ、これまた口付けされるっちゃ?)

 嫌だ、と思ったが、ジャックに愛されていない自分の口付けの一つや二つ、どうでもいいじゃないかとも思った。目を固く瞑り、やり過ごせばいいのだ。
 王子の前髪が、僅かに額に触れる。
 その瞬間、大木の横で大人しく佇んでいた馬が、急に大きく嘶いて暴れ出した。

「えっ、ど、どうしたっちゃリュミ。落ち着いて」

 慌てて止めに入ると、馬はすぐに大人しくなった。なんとなく口付けを邪魔された形になって、どこかホッとしている自分がいる。

「うーん、これは。ちょっと約束が違うんじゃないかなジャック君?」

 王子が馬を見ながら呟いた。

「え?」
「いや、なんでもない。目を閉じたルディ君の可愛さに免じて今回は許してあげることにするよ。でも、忘れないで。私は本気だよ。本気で、君と結婚しようと思っている」

 王子はルディに歩み寄り、そっと両手で手を握ってきた。

「知ってる? 竜王の耳を持つものは、癒しの力を持つ聖人と愛しあうと、ドラゴン・アイという宝石によって竜になるという伝説がある」

 それはジャックに聞いた事がある。真実の愛によってそうなる、と言っていたが今のルディには自分から一番遠い雲の上の様な話に感じた。

「そんなのお伽噺だと思っていたが、君を見ていると自分の中にある未知の力を感じるんだ。私の中の竜が、君こそが運命の番だと言っている。私は、決して諦めないよ」

 王子の瞳はルディを見ている様で、なぜかもっと遠くを見ているように見えた。
 なんと答えていいか分からないルディに、王子は穏やかに笑って言った。

「さぁ、ジャック君がいるはずの屋敷まで競争して帰ろうか。早すぎてジャック君はいないかもしれないけど」

 意味深にウィンクする王子に、意味が分からず頷いた。
 乗馬の型など気にせず好きに走るといいと王子が言われ、ルディは久しぶりに気軽な乗馬を楽しんだ。
 素直に、王子はいい人だなぁと思う。
 だが、自分も王子のことを番のように思えるかと言えば、そんな日は決して来ないだろう。
 
 王子の道も、ルディの道も、全部一方通行だ。ジャックの道は、どこに続いているのだろうと思いながら帰路に着いた。
 勝負はほぼほぼ互角だっだが、ぴしりと姿勢を崩さないままあれだけ早く駆けたのだから乗馬の腕では王子の方が上ということだろう。
 ジャックも乗馬は得意そうだったが、今の競争に加わっていたらどうなっていただろう。
 そんな事を思いながら息を切らして屋敷に帰ると、何故かルディ以上に息を切らしたジャックに出迎えられたのだった。



 



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