女子高生と白い粉【JSS.01】

わたがし

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JapanSecretService

諜報部員になるために

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桧山悠希は聡明な青年である。

年齢は、22歳。

元々のポテンシャルと、鍛えられた身体で運動神経は抜群、JSSの特別教育により、博識で桧山は正に文武両道であった。


そんな桧山が出頭命令を受け、横浜ランドマークタワーに到着したのは、23時を過ぎてからのことだった。

23時にもなると、仕事を終えたサラリーマンたちが、職場から帰るところで、桧山はその流れに逆流していた。

横浜ランドマークタワーは、オフィス行きのエレベーターホールが5つあり、それぞれA~Eのアルファベットが振られている。

エレベーターホールひとつにつき、4台~8台のエレベーターがあり、エレベーターホールごとにそれぞれ行ける階層が異なる。

桧山はAとあるエレベーターホールに向かい、ちょうど来たエレベーターに乗り込んだ。

今から上の階に行くのは桧山しかおらず、大きなエレベーターに一人ぼっちで乗ることになる。

Aのエレベーターは全て、ただ14階のボタンを押しても反応しないような造りになっている。

エレベーターが14階に止まるには、操作盤の前で腕時計をかざしてから14階のボタンを押さなければならない。

腕時計に埋め込まれたチップが操作盤に埋め込まれた電子スイッチを操作している。

誰か他に人が乗っていれば、自然を装い腕時計をかざすが、今は他に人がいないので堂々とかざして14階のボタンを押した。


14階に着いてエレベーターのドアが開いた。

横浜ランドマークタワーの14階は、全てJSSのフロアとなっている。

フロアの中心部はC、D、Eのエレベーターの通り道とトイレがあり、その周りに口の字に廊下がある。

C、D、Eのエレベーターは1・3・5階と35階より上の階に止まるエレベーターなので、14階には止まらないし、エレベーターホールもない。

AとBのエレベーターは、中心部ではなく北西側にあり、口の字の廊下とは少しだけ離れている。

Bのエレベーターも14階のボタンは反応しないので、このBのエレベーターホールはお飾りでしかない。

桧山はエレベーターを降りると、細い廊下を抜け、口の字の廊下に合流した。

静かな廊下をスタスタと歩き、南西側のオフィスに入った。

「あ、来た来た。すぐに局長室へ行ってね。局長が待ってるの」

入室したのに気がついた春松星乃が歩み寄ってきてそう言った。

彼女は桧山と同い年、若くして局長秘書である。

桧山がカチッとしたスーツ姿なのに対して、彼女はグレーのパンツに白いシャツ、ブラックのジャケットというカジュアルな格好をしている。

オフィスカジュアルというやつだ。

オフィスに人は彼女以外見当たらない。

「わかった。夜遅くまでお疲れ様」

桧山はコートを脱いで春松に預けると、オフィスの更に奥の部屋に向かった。

「失礼します、桧山悠希です」

ノックの後にそう言って中に入る。

ここはJSS局長室。

暗い茶のフローリング、ダークレッドのシングルソファが3つ、ブラウンのテーブル。

その奥に局長のデスクがあるが、デスクは木製で、壁紙はダークレッドとブラウンのツートーン。

日本のオフィスとは思えない内装だ。

窓は時間を問わず全てブラインドが下ろしてある。

明かりは明る過ぎず、少し暗いと感じる。

「夜遅くに呼び出して悪いわね」

久保典子JSS局長が桧山に言った。

白髪混じりの中年女性で、目つきは鋭く気の強い芯のある女性だ。

孤児の桧山からすると、母のような存在であり、尊敬する上司でもある。

桧山は問題ありませんと建前を言いながら、3つあるシングルソファの内の一つに腰を下ろした。

「あなたに任せてみたいことがあるの」

局長はデスクから立ち、桧山に角2封筒を渡すと、また自分のデスクに戻った。

「今、高校生の間で覚醒剤の乱用が相次いでいるのは知ってるわよね」

「はい。秋頃から横浜市内の高校で。捕まった高校生は絶対に売人を言わないらしいですね」

局長からの問いに答えつつ、封筒の中を確認する。

中には今日の夕刊と、数枚の写真が入っていた。

新聞の一面には《高城高校の女子生徒、屋上から飛び降り自殺か》とある。

「あなたが今言った通り、薬物を乱用して逮捕した高校生は誰も売人を話さない。そして今朝、1人死んだ」

「この新聞の女子高生のことですか?」

局長が頷く。

「女子生徒の名前は山本綾音。新聞には書いてないけど司法解剖により、ついさっき遺体から覚醒剤反応が出ていたことがわかったの」

桧山は局長の話を聞きながら、テーブルの上に新聞の記事を広げ、写真を並べた。

写真は全部で5枚。

それぞれ写真の左上には手書きで数字が振られている。

①山本綾音の遺体
②現場のプール
③屋上のフェンスの前に置かれた革靴とスクールバッグ
④スクールバッグの中身を全て並べたもの
⑤山本のスマートフォン

「『ごめんなさい』ですか」

桧山は⑤の写真を見て言った。

写真には、「ごめんなさい」の文字が打ち込まれたスマートフォンが写っている。

「遺書らしいわよ」

桧山は写真を注意深く眺めた。

局長もそれを察して、しばらく喋らなくなった。



4分か5分経っただろうか。

写真を見ていた桧山だが、ふと疑問が湧いた。

「局長、なぜこれを俺に見せるんです?俺は情報部の人間で、しかも下っ端の中の下っ端です。見せるのなら情報部長に見せるべきでは?俺に任せるとは?なにを?」

局長に目線を移すと、普段笑わない局長が小さく笑った。

「情報部にあなたをやっていたのは、諜報部の仕事のサポートを通して、諜報部員の働きを体感させるため。情報部でありながら、諜報部の訓練を受けていたでしょう。この件を解決することができたら、あなたを諜報部に異動させよう考えているの。あなたは現場向きだから」

JSSの花形は諜報部だ。

事件解決のため派遣され、現地で情報収集や必要であれば殺しもする。

現場にいる諜報部員をこのオフィスからサポートするのが情報部である。

桧山は孤児になってJSSの世話になって以来、ずっと諜報部を希望してきた。

18歳から現在まで桧山は、情報部で諜報部員のことをサポートしてきた。

時に、諜報部員の死も見てきた。

「それで、あなたはこの事件をどう思うの。ただの自殺?それとも裏があるかしら」

局長が尋ねる。

「裏があります。まずこの遺書、山本綾音本人がタイピングしたものなのか確信的なものがありません。次に屋上の写真。革靴というのが納得いきません。校内を歩いて屋上に行ったのなら、上履きでなければならないはずです」

写真を指差しながら桧山は答えた。

「なら調べて。逮捕された高校生たちと同じ黒幕にたどり着く可能性が高い。絶対に口を割らないということは、それだけ危険があると言うことよ」

局長はそう言ってから、桧山にデスクの前まで来るよう手招きした。

桧山が立ち上がってデスクの前で姿勢を正すと、局長はデスクの引き出しから拳銃を出して桧山の前に置いた。

「シグザウェルP230。これからのあなたの相棒よ。撃たなければならない時のみ撃ちなさい。ホルスター等は兵器開発部から受け取って」

はい、と短く返事をして、桧山はP230を手に取った。

シグザウェル社の拳銃で、全長169mmと小型な拳銃だ。

このP230は9mm拳銃弾を使用し、装弾数は7発、日本で採用しているP230JPより弾が少し大きい代わりに装弾数が1発だけ少ない。

バレルの内側にネジが切ってあるところを見るに、サプレッサーの取り付けができるのだろう。

そしてなにより、年季が入っているように見えた。

「ありがとうございます」

桧山はP230の安全装置を確認して、局長室を出ようとした。

オフィスに繋がるドアに手をかけたとき、局長が桧山を呼び止める。

「明後日の夜、山本綾音の通夜が執り行われるらしいわ。場所は北部斎場よ、まずそこから行ってみることね。後のことは追って伝えるわ」

「わかりました」

桧山は局長室を出た。

念願の、諜報部だ。
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