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第九章 戦役
幕間 エゼル王国 VS シーレッド王国 終
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ブラドの首から多量の血液が宙に舞った。
諦めと捉えられるその行動に、周囲の人々は俄かに色めき立った。
だが、その顔は途端に、不思議な物を見る驚きの表情に変わった。
何故ならば、彼らの視線の先では、吹き上がった血液が空中に留まったままだったからだ。
その光景に驚いたアルンは、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「な、何ですか、これっ!? あっ、もしかして、アーティファクト?」
アルンは空中に留まる血を見て、自分のアーティファクト【天水の杖】に似ていると感じた。
「あまり出血すると、幾ら何でも死にますからね。これは我が 家に代々伝わっているアーティファクトの一つですよ」
ブラドがそう言いながら、手の甲をアルンに見せた。
そこには、真っ赤な血を固めたような宝石が埋め込まれた指輪があった。
この【真紅の誓約】は、自身の血液に限り自由自在に操れるアーティファクトだ。性能的には【天水の杖】に似ている。だが【真紅の誓約】には他にも特徴がある。例えば、血液を凝縮する事で、その強度を増す事が可能であり、他者の血液を取り込む事も可能になる。
また、その性質上、出血により自らを危険に晒す事になるのだが、体外で操る血液は凝固する事がない。また、体外に出ていても操作が途切れない限りは、体内にあるのと同じように働くのだ。
【真紅の誓約】はシラールドが父から受け継いでいたのだが、驚異的な回復能力を与えてくれるアーティファクトを手にしてからは、次期当主であったブラドに譲り渡していた。
アーティファクトの力を使った事により、ブラドの出血は止まった。それどころか、ブラドの周りを円を描くように漂いだした。
「チッ! ヴァンパイアが血を操るか! 飲むだけで足りないとは、強欲なジジイだ!」
レキウスはそう言うと、歯ぎしりをしながら【豪勇の壁盾】を構えた。
その赤い盾は、巨漢のレキウスを覆い隠すほど巨大だ。ゴツゴツとした岩のような表面は、アーティファクトには珍しく装飾が一切ない。何も知らない人間が見たら、派手な壁の一部だと思うだろう。
大きさも然る事ながら、その厚みも凄まじい。大人の手でも掴めないほど分厚い。
まるで持ち運びを考えていないような壁盾を、レキウスは難なく持ち上げる。
それはシーレッド兵達からすると、戦いの合図だ。
今まで隙なく敵を見据えていたシーレッド兵達は、握る武器に力を込めた。
「あぁっ! もう面倒だ! 俺が直接殺してやる! ヴォロディアッ! 黒っ! リースッ! お前らはアーティファクト持ちを優先にやれ!」
思っていた通りにならず苛立ちを隠さずにレキウスが叫ぶと、シーレッド兵達が動き出した。
それは少しの間時が止まっていた戦場に再開を告げる合図だった。
シーレッド兵達は周囲を取り囲むエゼル兵から、自身の主を守る陣形を取る。
その主たる将軍達はレキウスの言葉通り、自分達の相手をしようとしているアルン達を見据えて動き出した。
レキウスは壁盾を肩に担ぎながら数歩進み勢いを付けると、その場で飛び上がった。そして、壁盾を振りかぶると、落下に合わせて地面に叩きつけた。その瞬間、地面が爆ぜる。その衝撃は方向性を持っており、レキウスの前方を一本の道を築くかの如く地面を巻き上げていく。
「散開しろ!」
素早く反応していたウィレムが叫ぶと、衝撃波の延長上にいたアルンやエゼルの兵士たちが飛び退いた。だが、数人は逃げ遅れてしまい、巻き上げられた土砂とともに空に舞い上がる。そこに数本の飛来する物が迫った。ヴォロディアが持つ、弓のアーティファクト【スターシューター】から放たれた矢だ。必中の二つ名を持つヴォロディアが放った矢は、一本たりとも外さずに、全てエゼル兵の胸元へと飲み込まれていた。
そして、その弓矢はさらに続いた。
衝撃波で兵士の壁が崩れてしまい、わずかではあるが、今まで隠れていたエリアスへの視線が開いたのだ。
「やれるか……?」
そう呟いたヴォロディアからは、既に矢が離れていた。
彼が放った矢は特別な物だった。それは金属ではなく白い矢じりだ。まるで動物の牙のようにも見える。これは、以前彼が空から撃ち落とした古竜の骨から作り上げた物だった。白い鱗を持つ古竜にとどめを刺す事は出来なかったが、それでもヴォロディアとレキウス、そしてリースの三人によって、古竜の手足を斬り落とす事が出来た。それは、ヴォロディアにとって、過去最大の狩りの成果でもあった。
そんな彼の戦利品が弓矢となってエリアスを襲う。既に数人の人間は放たれた矢の動きに気付いていたが、それを阻止するには矢は速く遠かった。
エリアスの脇には、【ガーディアン・ファング】で生み出された金虎がいた。金虎は反応を見せてはいたが、矢はそれより早かった。
そんな中、一人の女性が動いていた。茶色の髪を振り乱したエレクトラが、矢の射線へと飛び出す。王を守るための身を挺した行動に、周囲の者は驚いた様子を見せたが、それと同時に彼女の死を予感していた。
何故ならば、エレクトラは両手を広げてエリアスの前に立ったからだ。
次の瞬間、矢は彼女に到達した。
矢はちょうど胸の真ん中に突き立った。だが、エレクトラはその衝撃を全く受けていないように手を広げたまま立っていた。そして、おもむろに腕を曲げると、自分の胸元で停止している矢を掴んでその場に投げ捨てた。
「な、何度やっても怖い……死ぬかと思った……もうやだ帰りたい……でも、帰ったら絶対にお仕置きされる……お、お仕置き……? アルン君からのお仕置きなの? それとも、王からの? やだ、そんなの駄目じゃない。えっ、まさか二人から!? そんな……なにされちゃうの私……」
矢を捨てた手を震わせながらエレクトラは、恐怖のあまり心の底から漏れ出た思いを呟いていた。だが、それは突如始まった妄想により、別の物へと変化していった。それは、彼女なりの恐怖に対する対処方法なのだ。
そんな場違いな行動をしているエレクトラだったが、守られたエリアスからすると、その身を挺した行動に感動していた。
「た、助かったぞ、エレクトラ殿!」
「はっ! お、お怪我はありませんか、王!?」
エリアスが肩に手を掛けて声をかけると、エレクトラは体に電気が走ったかのようにびくりとして振り返った。その、今目が覚めたかのような様子に、エリアスは一瞬何事かと思ったが、すぐに気を取り戻して言葉を続けた。
「その短杖がアーティファクトだな。素晴らしい力だ。もし、次があったら済まないが頼むぞ」
「それは……少しお時間を頂かないと……」
「……連続では使えないのか?」
「お守りするために力を使い果たしてしまいました……。少しお時間を頂かないと……」
エレクトラが右手に持つアーティファクト【タイムルーラー】は、わずかな間、時間を止める事が出来る力を持っている。そして、もう一つの力として自身の周囲の物体の動きを止める事も可能だった。
非常に強力なアーティファクトだが、使用制限がある。二度分の使用回数しか貯められず、一度使えば再度使用するには一時間置かなければならないのだ。
もし彼女が万全な状態で一対一をしたならば、同等な力を持つものにはまず負ける事なく、格上を相手したとしても、勝機を見いだせるほどの力を持つだろう。
しかし、エリアスに駆け寄る時に一度。そして、弓矢を止めるためにもう一度力を使ったエレクトラは、この時点で単なる妄想癖のある騎士クラスの力を持つお嬢様と化していた。
「そうだったのか……。いや、エレクトラ殿はよくやってくれた。アーティファクトの力が使えないのであれば、今後は危険だろう。私の後ろで戦ってくれ。……エレクトラ殿、本当に助かったぞ」
エリアスは申し訳なさそうな表情をするエレクトラに、出来る限り優しい言葉をかけた。
「王が優しい……はっ! まさか、私を気に入ったの!? 嘘……そんな事って……戦場で生まれた恋……?」
だが、それは彼女の妄想を引き起こす切っ掛けでしかなかった。
一方、アルン達は必死の形相で襲い掛かる将軍達を相手していた。
アルンとウィレムの二人は、ヴォロディアの矢を防ぎつつ徐々に距離を詰める。
だが、戦奴に囲まれ守られるヴォロディアは、ケンタウロスの機動力を生かしながら、一定距離を保っているために近づけない。
アルンはスレイプニールに跨り追いかけるが、正確無比な弓を前に、速度が乗ったと思った瞬間射られ、追いつく事が出来なかった。
一方的に射られるだけの展開に、段々と疲れと苛立ちを募らせ始めていた。
フリッツはリースを中心とした一団を、騎士達を率いて相手取っていた。
遠距離攻撃が出来るフリッツは、【閃光の剣】を何度も振るってはいるが、リースを取り囲む一団が自らを投げ打ってそれを防いでいた。
そして、遠距離攻撃が出来るのは、リースも同じだった。彼がアーティファクト【閃闇の杖】を掲げると、先端にある黒い球体から、それと同じ色をした黒い一筋の線が放たれる。それはまさに黒い光で、レーザー光線のような動きを見せていた。
フリッツはこの戦いが始まってから何度目かの舌打ちをした。そこには、普段の演技をしている彼はいなかった。
「チッ! また女が盾になってんのかよ。戦場でそんな事は気にしねえが、気分は良くねえ!」
フリッツが言うように、彼が放った光の刃は、リースに届く前に彼を取り囲む女たちに当たり防がれていた。
そして、対するリースもフリッツ同様に苛立ちを見せていた。
「お前達、さっきのは危なかっただろ! 僕に当たったらどうするんだよ! ねえ、母様、そうだよね!?」
リースは隣で微笑む母親ジョアンナに顔を向けた。
すると、ジョアンナは母性を感じさせる微笑みで持って、リースに話しかける。
「そうよ、この娘たちは勇者である貴方に尽くすためにいるの。大功を成すには犠牲も付き物。替えは幾らでもいるのだから、貴方は気にしたら駄目よ」
ジョアンナの言葉を聞いて、リースは笑みを浮かべると、【閃闇の杖】を掲げて闇の光をフリッツへと向けた。だがこれは、フリッツに避けられ近くにいた騎士を切り裂いた。
この二人の戦いも、決着が付くのはまだ時間がかかりそうだった。
ブラドとレキウスは一対一の形となっていた。壁盾で殴るため、接近戦に持ち込もうとするレキウスと、血液を操り少し距離を取って戦うブラドは、激しく動き回りながら戦っている。
「いい加減土に帰れジジイが!」
「小僧が舐めた口を叩くな!」
二人は激しく言い争いながらも、戦いを繰り広げる。
レキウスが壁盾を背負い飛び上がり、それを叩きつけようと迫ると、ブラドは素早く後方へと逃れ、レキウスの着地点に血のトゲを生やして返り討ちにしようとした。しかし、それを食らうレキウスではなく、壁盾を地面に叩きつけると、血のトゲを四散させて防いでいた。
この二人も決め手に欠けて、短時間で勝負は付きそうではなかった。
この場にはまだ二人のアーティファクト持ちがいた。
一人は【影歩の外套】を持つヴィンスだ。今この場で行われている戦いで、彼の存在は大きかった。彼が姿を現さない限り、エリアスや諸侯に危険があるため、エゼル側は積極的に攻める事が出来ない。それが囲まれているはずのシーレッドをいまだに押しつぶせない原因だった。
そして、もう一人のアーティファクト持ちであるエリアスは、目の前で行われている戦いよりも、前線にいる兵士に盾の力を送る事に力を入れていた。それは、臨機応変に兵を動かすメルレインに振り回されていると言っていいだろう。
しかし、それでもエリアスは意識を集中して、何とか対応をしていた。数の劣勢がある戦場を膠着状態に持って行っているのは、エリアスの力だったのだ。
戦いからしばらくすると、次第に力の差が出始めた。
追う一方のアルンとウィレムは、濃い疲労の色を顔に滲ませ、今は一方的に矢を打たれてそれに耐えている。今も、アルンが作り出した水の壁を突き抜けた矢を、ウィレムが【誘眠の矛】で弾いて防いでいる。
フリッツは優勢だと言えるだろう。悩んでも仕方がないと光斬を撃ちまくり、人の壁を排除したからだ。ある程度手加減をしているので、壁になった者は死んではいない。だが、その場に打ち捨てられているので、時間が経てば危ないだろう。
そして、ブラドとレキウスの戦いの場では、膝を突いたブラドの姿があった。
彼の両足は叩き潰されており、わき腹からは大量の出血をしていた。
「一対一をやってた訳じゃねえ、悪く思うな?」
「……二度目の刃を受けるとは、私もまだまだだったようですね。勝負は付きました、好きにしなさい」
「そうだな……気が変わった。お前は生かしておこう。今からお前の王を殺すから、それを見て俺に盾突いた事を後悔しろ」
レキウスは下卑た笑い顔をしながら、ブラドからは距離を取りそう言った。
諦めの言葉を発したブラドだが、その目は死んでいない事をレキウスは気付いていたからだ。
近付けば何かをされる。レキウスはそう感じていた。
「さて、黒。お前はリースに手を貸してやれ。エゼルの勇者には勝てないだろう。あれは経験が違う」
「旦那は本当に人使いが荒い。ヴァンパイアの旦那には反撃を食らってるんですぜ?」
レキウスの言葉に、溜息を吐きながら答えたヴィンスは、ブラドの腹を刺して現した姿を【影歩の外套】の力で消した。その体には出血が見られていたが、アーティファクトの力はそれすらも隠してしまった。
両足をつぶされ動けないブラドは、歯ぎしりをしながらレキウスの動きを見る。
レキウスの進む先には、盾の力を操り続けるエリアスがいた。
エリアスの周りを取り囲む騎士達は、ブラドの敗北とレキウスの接近に気付いている。だが、戦いの様子を見てしまったからか、動き出すには足が重くなっていた。
レキウスがまた一歩エリアスに近付いた。
アルン達は状況を把握しているが、動き出そうにもヴォロディアとリース、そしてヴィンス達がそれをさせないでいた。
数人のエゼル兵がレキウスに立ち向かったが、攻撃は全て壁盾に防がれ、反撃を受けて吹き飛んだ。
諸侯の一人が家臣を引き連れレキウスに挑むが、今度も余裕を持って排除され、壁盾に押しつぶされた。
その頃になると、遠方を見ていたエリアスは、自分に迫るレキウスに気を取られ、盾の力を送る余裕がなくなってきた。そしてそれは、メルレインに即座に察知され、前線が段々と後退する状況を生んだ。
レキウスの通る道に死体の列が出来ていた。
その全てが無残にも壁盾に押しつぶされたり、弾き飛ばされたりしてむごい状態だ。
やがて、レキウスはエリアスと諸侯が固まる場所までたどり着いた。
「結局、バイロンをやった奴は来なかったか。まあ、来たところで俺達は止められないだろうけどなっ!」
そう言ったレキウスは、高く飛び上がると大地に【豪勇の壁盾】を叩きつけて、エリアス目掛けて衝撃波を発生させた。衝撃波は壁となって立ちはだかっていた兵士を吹き飛ばす。辛うじてエリアスは直撃を逃れる事が出来たが、彼とレキウスとの間には遮る物がなくなっていた。
エリアスは急いで体勢を立て直し剣を抜く。だが、その時にはレキウスの二度目の衝撃波がエリアスを襲っていた。今度はアーティファクト【扶翼の盾】を構えて身を守る。盾の力のお蔭か直撃をしたがエリアスは耐えた。だが、全くの無傷ではない。盾から外れていた場所には、負傷が見られた。
「グッ! シーレッドの将軍はここまでの強さなのか!」
エリアスは痛みに耐えながらそう言った。剣を握る手に力を入れて、こちらにゆっくりと進んでくるレキウスを睨む。
エリアスを守ろうと、騎士達はレキウスへ立ち向かうが、また一人また一人と倒される。
王の危機を知らせる報を受け、駆けつけていた兵士たちは多くいたが、戦場は広く間に合う様子はなかった。
前線からは明らかに劣勢を知らせる声を聞こえ出してきた。だが、今のエリアスは、レキウスと戦う騎士達に力を送っており、そちらに向ける余裕はなかった。
そんなエリアスの下へ、突然複数の騎士が駆け寄ってきた。
「エリアス様ッ! お逃げください! お前達、早くお連れしろ!」
そう言った彼は近衛騎士であり、フリッツからいざという時には王を逃がせと命を受けていた。彼は自分の行動が遅かった事を後悔しながらも、その役目を果たそうと必死だった。
「み、皆を置いてなどいけるか!」
エリアスは目の前で倒されていく騎士たちを見ながら、否定の言葉を上げる。だが、騎士たちに即座に拘束され後方へと運ばれる。
しかし、それを許すレキウスではなかった。
「今更逃げられると思ってるのか? そんな掴んだら、そいつは盾を使えないぞ」
鼻で笑いながらそう言ったレキウスは、すでに高く飛び上がっていた。
それを見た騎士達や、駆け寄ってきたエレクトラがエリアスの前に出るが、振り下ろされた壁盾の衝撃で弾き飛ばされる。
そして、レキウスは衝撃で倒れたエリアスを見下ろす形で、手を伸ばせば届く範囲に接近したのだった。
「終わりだ若王。少し手こずったがここまでだな」
レキウスはそう言いながら、振り下ろすために壁盾を担いだ。
周囲からは駆け寄る者たちが迫っているが距離がある。
エリアスは何とかそれを防ごうと【扶翼の盾】を体の前に差し出した。
その時、空を見上げるエリアスの目には、上空から落ちてきた何かが見えた。
振り下ろされようとしている壁盾よりも、それに気を取られ視線を送ってしまう。
その様子にレキウスは突如、壁盾を振り下ろそうとしていた体勢から体をひねり、エリアスの視線の先へと壁盾を構えた。
その瞬間、一本の槍が壁盾に激突した。崩れた体制だったレキウスは、その衝撃で地面に押しつぶされそうになる。それは天から振り下ろされた神の拳のような衝撃だ。激しい衝撃音が戦場に鳴り響き、何事かと全ての視線が集まった。
そして、一人の男が降りてきた。その落下は猛烈なスピードを持っていたが、地面に激突する前に一羽の鳥に掴まれると、その速度はほぼなくなっていた。鳥は苦しそうな声を上げたが、それでも掴んだ男が余程大事なのか、決して離す様子はない。
「ふぅ……危ねえぜ……。助かったよ、ポッポちゃん」
男はそう言うと、自分を掴んでいた白い鳩を一撫でして労をねぎらった。白い鳩は嬉しそうに撫でられた手に絡みついていた。
地上に降り立った男は、膝を突いているレキウスを一瞥すると、尻を突いて倒れているエリアスに手を伸ばした。
「よう、大分危なかったみたいだな。遅れてすまん」
「ゼ、ゼンッ! 助かったが、遅いぞ!」
エリアスは咎めるつもりはなかったが、状況からつい言葉が強くなってしまった。
だが、そんなエリアスの声に、ゼンは笑いながら返事をした。
「悪いな、少し色々とやり過ぎて遅れた。まあ、助かったんだから怒るなよ」
その全く悪びれていない様子にエリアスは、あぁ、こいつはこんな奴だったわと、呆れながら笑みを浮かべたのだった。
諦めと捉えられるその行動に、周囲の人々は俄かに色めき立った。
だが、その顔は途端に、不思議な物を見る驚きの表情に変わった。
何故ならば、彼らの視線の先では、吹き上がった血液が空中に留まったままだったからだ。
その光景に驚いたアルンは、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「な、何ですか、これっ!? あっ、もしかして、アーティファクト?」
アルンは空中に留まる血を見て、自分のアーティファクト【天水の杖】に似ていると感じた。
「あまり出血すると、幾ら何でも死にますからね。これは我が 家に代々伝わっているアーティファクトの一つですよ」
ブラドがそう言いながら、手の甲をアルンに見せた。
そこには、真っ赤な血を固めたような宝石が埋め込まれた指輪があった。
この【真紅の誓約】は、自身の血液に限り自由自在に操れるアーティファクトだ。性能的には【天水の杖】に似ている。だが【真紅の誓約】には他にも特徴がある。例えば、血液を凝縮する事で、その強度を増す事が可能であり、他者の血液を取り込む事も可能になる。
また、その性質上、出血により自らを危険に晒す事になるのだが、体外で操る血液は凝固する事がない。また、体外に出ていても操作が途切れない限りは、体内にあるのと同じように働くのだ。
【真紅の誓約】はシラールドが父から受け継いでいたのだが、驚異的な回復能力を与えてくれるアーティファクトを手にしてからは、次期当主であったブラドに譲り渡していた。
アーティファクトの力を使った事により、ブラドの出血は止まった。それどころか、ブラドの周りを円を描くように漂いだした。
「チッ! ヴァンパイアが血を操るか! 飲むだけで足りないとは、強欲なジジイだ!」
レキウスはそう言うと、歯ぎしりをしながら【豪勇の壁盾】を構えた。
その赤い盾は、巨漢のレキウスを覆い隠すほど巨大だ。ゴツゴツとした岩のような表面は、アーティファクトには珍しく装飾が一切ない。何も知らない人間が見たら、派手な壁の一部だと思うだろう。
大きさも然る事ながら、その厚みも凄まじい。大人の手でも掴めないほど分厚い。
まるで持ち運びを考えていないような壁盾を、レキウスは難なく持ち上げる。
それはシーレッド兵達からすると、戦いの合図だ。
今まで隙なく敵を見据えていたシーレッド兵達は、握る武器に力を込めた。
「あぁっ! もう面倒だ! 俺が直接殺してやる! ヴォロディアッ! 黒っ! リースッ! お前らはアーティファクト持ちを優先にやれ!」
思っていた通りにならず苛立ちを隠さずにレキウスが叫ぶと、シーレッド兵達が動き出した。
それは少しの間時が止まっていた戦場に再開を告げる合図だった。
シーレッド兵達は周囲を取り囲むエゼル兵から、自身の主を守る陣形を取る。
その主たる将軍達はレキウスの言葉通り、自分達の相手をしようとしているアルン達を見据えて動き出した。
レキウスは壁盾を肩に担ぎながら数歩進み勢いを付けると、その場で飛び上がった。そして、壁盾を振りかぶると、落下に合わせて地面に叩きつけた。その瞬間、地面が爆ぜる。その衝撃は方向性を持っており、レキウスの前方を一本の道を築くかの如く地面を巻き上げていく。
「散開しろ!」
素早く反応していたウィレムが叫ぶと、衝撃波の延長上にいたアルンやエゼルの兵士たちが飛び退いた。だが、数人は逃げ遅れてしまい、巻き上げられた土砂とともに空に舞い上がる。そこに数本の飛来する物が迫った。ヴォロディアが持つ、弓のアーティファクト【スターシューター】から放たれた矢だ。必中の二つ名を持つヴォロディアが放った矢は、一本たりとも外さずに、全てエゼル兵の胸元へと飲み込まれていた。
そして、その弓矢はさらに続いた。
衝撃波で兵士の壁が崩れてしまい、わずかではあるが、今まで隠れていたエリアスへの視線が開いたのだ。
「やれるか……?」
そう呟いたヴォロディアからは、既に矢が離れていた。
彼が放った矢は特別な物だった。それは金属ではなく白い矢じりだ。まるで動物の牙のようにも見える。これは、以前彼が空から撃ち落とした古竜の骨から作り上げた物だった。白い鱗を持つ古竜にとどめを刺す事は出来なかったが、それでもヴォロディアとレキウス、そしてリースの三人によって、古竜の手足を斬り落とす事が出来た。それは、ヴォロディアにとって、過去最大の狩りの成果でもあった。
そんな彼の戦利品が弓矢となってエリアスを襲う。既に数人の人間は放たれた矢の動きに気付いていたが、それを阻止するには矢は速く遠かった。
エリアスの脇には、【ガーディアン・ファング】で生み出された金虎がいた。金虎は反応を見せてはいたが、矢はそれより早かった。
そんな中、一人の女性が動いていた。茶色の髪を振り乱したエレクトラが、矢の射線へと飛び出す。王を守るための身を挺した行動に、周囲の者は驚いた様子を見せたが、それと同時に彼女の死を予感していた。
何故ならば、エレクトラは両手を広げてエリアスの前に立ったからだ。
次の瞬間、矢は彼女に到達した。
矢はちょうど胸の真ん中に突き立った。だが、エレクトラはその衝撃を全く受けていないように手を広げたまま立っていた。そして、おもむろに腕を曲げると、自分の胸元で停止している矢を掴んでその場に投げ捨てた。
「な、何度やっても怖い……死ぬかと思った……もうやだ帰りたい……でも、帰ったら絶対にお仕置きされる……お、お仕置き……? アルン君からのお仕置きなの? それとも、王からの? やだ、そんなの駄目じゃない。えっ、まさか二人から!? そんな……なにされちゃうの私……」
矢を捨てた手を震わせながらエレクトラは、恐怖のあまり心の底から漏れ出た思いを呟いていた。だが、それは突如始まった妄想により、別の物へと変化していった。それは、彼女なりの恐怖に対する対処方法なのだ。
そんな場違いな行動をしているエレクトラだったが、守られたエリアスからすると、その身を挺した行動に感動していた。
「た、助かったぞ、エレクトラ殿!」
「はっ! お、お怪我はありませんか、王!?」
エリアスが肩に手を掛けて声をかけると、エレクトラは体に電気が走ったかのようにびくりとして振り返った。その、今目が覚めたかのような様子に、エリアスは一瞬何事かと思ったが、すぐに気を取り戻して言葉を続けた。
「その短杖がアーティファクトだな。素晴らしい力だ。もし、次があったら済まないが頼むぞ」
「それは……少しお時間を頂かないと……」
「……連続では使えないのか?」
「お守りするために力を使い果たしてしまいました……。少しお時間を頂かないと……」
エレクトラが右手に持つアーティファクト【タイムルーラー】は、わずかな間、時間を止める事が出来る力を持っている。そして、もう一つの力として自身の周囲の物体の動きを止める事も可能だった。
非常に強力なアーティファクトだが、使用制限がある。二度分の使用回数しか貯められず、一度使えば再度使用するには一時間置かなければならないのだ。
もし彼女が万全な状態で一対一をしたならば、同等な力を持つものにはまず負ける事なく、格上を相手したとしても、勝機を見いだせるほどの力を持つだろう。
しかし、エリアスに駆け寄る時に一度。そして、弓矢を止めるためにもう一度力を使ったエレクトラは、この時点で単なる妄想癖のある騎士クラスの力を持つお嬢様と化していた。
「そうだったのか……。いや、エレクトラ殿はよくやってくれた。アーティファクトの力が使えないのであれば、今後は危険だろう。私の後ろで戦ってくれ。……エレクトラ殿、本当に助かったぞ」
エリアスは申し訳なさそうな表情をするエレクトラに、出来る限り優しい言葉をかけた。
「王が優しい……はっ! まさか、私を気に入ったの!? 嘘……そんな事って……戦場で生まれた恋……?」
だが、それは彼女の妄想を引き起こす切っ掛けでしかなかった。
一方、アルン達は必死の形相で襲い掛かる将軍達を相手していた。
アルンとウィレムの二人は、ヴォロディアの矢を防ぎつつ徐々に距離を詰める。
だが、戦奴に囲まれ守られるヴォロディアは、ケンタウロスの機動力を生かしながら、一定距離を保っているために近づけない。
アルンはスレイプニールに跨り追いかけるが、正確無比な弓を前に、速度が乗ったと思った瞬間射られ、追いつく事が出来なかった。
一方的に射られるだけの展開に、段々と疲れと苛立ちを募らせ始めていた。
フリッツはリースを中心とした一団を、騎士達を率いて相手取っていた。
遠距離攻撃が出来るフリッツは、【閃光の剣】を何度も振るってはいるが、リースを取り囲む一団が自らを投げ打ってそれを防いでいた。
そして、遠距離攻撃が出来るのは、リースも同じだった。彼がアーティファクト【閃闇の杖】を掲げると、先端にある黒い球体から、それと同じ色をした黒い一筋の線が放たれる。それはまさに黒い光で、レーザー光線のような動きを見せていた。
フリッツはこの戦いが始まってから何度目かの舌打ちをした。そこには、普段の演技をしている彼はいなかった。
「チッ! また女が盾になってんのかよ。戦場でそんな事は気にしねえが、気分は良くねえ!」
フリッツが言うように、彼が放った光の刃は、リースに届く前に彼を取り囲む女たちに当たり防がれていた。
そして、対するリースもフリッツ同様に苛立ちを見せていた。
「お前達、さっきのは危なかっただろ! 僕に当たったらどうするんだよ! ねえ、母様、そうだよね!?」
リースは隣で微笑む母親ジョアンナに顔を向けた。
すると、ジョアンナは母性を感じさせる微笑みで持って、リースに話しかける。
「そうよ、この娘たちは勇者である貴方に尽くすためにいるの。大功を成すには犠牲も付き物。替えは幾らでもいるのだから、貴方は気にしたら駄目よ」
ジョアンナの言葉を聞いて、リースは笑みを浮かべると、【閃闇の杖】を掲げて闇の光をフリッツへと向けた。だがこれは、フリッツに避けられ近くにいた騎士を切り裂いた。
この二人の戦いも、決着が付くのはまだ時間がかかりそうだった。
ブラドとレキウスは一対一の形となっていた。壁盾で殴るため、接近戦に持ち込もうとするレキウスと、血液を操り少し距離を取って戦うブラドは、激しく動き回りながら戦っている。
「いい加減土に帰れジジイが!」
「小僧が舐めた口を叩くな!」
二人は激しく言い争いながらも、戦いを繰り広げる。
レキウスが壁盾を背負い飛び上がり、それを叩きつけようと迫ると、ブラドは素早く後方へと逃れ、レキウスの着地点に血のトゲを生やして返り討ちにしようとした。しかし、それを食らうレキウスではなく、壁盾を地面に叩きつけると、血のトゲを四散させて防いでいた。
この二人も決め手に欠けて、短時間で勝負は付きそうではなかった。
この場にはまだ二人のアーティファクト持ちがいた。
一人は【影歩の外套】を持つヴィンスだ。今この場で行われている戦いで、彼の存在は大きかった。彼が姿を現さない限り、エリアスや諸侯に危険があるため、エゼル側は積極的に攻める事が出来ない。それが囲まれているはずのシーレッドをいまだに押しつぶせない原因だった。
そして、もう一人のアーティファクト持ちであるエリアスは、目の前で行われている戦いよりも、前線にいる兵士に盾の力を送る事に力を入れていた。それは、臨機応変に兵を動かすメルレインに振り回されていると言っていいだろう。
しかし、それでもエリアスは意識を集中して、何とか対応をしていた。数の劣勢がある戦場を膠着状態に持って行っているのは、エリアスの力だったのだ。
戦いからしばらくすると、次第に力の差が出始めた。
追う一方のアルンとウィレムは、濃い疲労の色を顔に滲ませ、今は一方的に矢を打たれてそれに耐えている。今も、アルンが作り出した水の壁を突き抜けた矢を、ウィレムが【誘眠の矛】で弾いて防いでいる。
フリッツは優勢だと言えるだろう。悩んでも仕方がないと光斬を撃ちまくり、人の壁を排除したからだ。ある程度手加減をしているので、壁になった者は死んではいない。だが、その場に打ち捨てられているので、時間が経てば危ないだろう。
そして、ブラドとレキウスの戦いの場では、膝を突いたブラドの姿があった。
彼の両足は叩き潰されており、わき腹からは大量の出血をしていた。
「一対一をやってた訳じゃねえ、悪く思うな?」
「……二度目の刃を受けるとは、私もまだまだだったようですね。勝負は付きました、好きにしなさい」
「そうだな……気が変わった。お前は生かしておこう。今からお前の王を殺すから、それを見て俺に盾突いた事を後悔しろ」
レキウスは下卑た笑い顔をしながら、ブラドからは距離を取りそう言った。
諦めの言葉を発したブラドだが、その目は死んでいない事をレキウスは気付いていたからだ。
近付けば何かをされる。レキウスはそう感じていた。
「さて、黒。お前はリースに手を貸してやれ。エゼルの勇者には勝てないだろう。あれは経験が違う」
「旦那は本当に人使いが荒い。ヴァンパイアの旦那には反撃を食らってるんですぜ?」
レキウスの言葉に、溜息を吐きながら答えたヴィンスは、ブラドの腹を刺して現した姿を【影歩の外套】の力で消した。その体には出血が見られていたが、アーティファクトの力はそれすらも隠してしまった。
両足をつぶされ動けないブラドは、歯ぎしりをしながらレキウスの動きを見る。
レキウスの進む先には、盾の力を操り続けるエリアスがいた。
エリアスの周りを取り囲む騎士達は、ブラドの敗北とレキウスの接近に気付いている。だが、戦いの様子を見てしまったからか、動き出すには足が重くなっていた。
レキウスがまた一歩エリアスに近付いた。
アルン達は状況を把握しているが、動き出そうにもヴォロディアとリース、そしてヴィンス達がそれをさせないでいた。
数人のエゼル兵がレキウスに立ち向かったが、攻撃は全て壁盾に防がれ、反撃を受けて吹き飛んだ。
諸侯の一人が家臣を引き連れレキウスに挑むが、今度も余裕を持って排除され、壁盾に押しつぶされた。
その頃になると、遠方を見ていたエリアスは、自分に迫るレキウスに気を取られ、盾の力を送る余裕がなくなってきた。そしてそれは、メルレインに即座に察知され、前線が段々と後退する状況を生んだ。
レキウスの通る道に死体の列が出来ていた。
その全てが無残にも壁盾に押しつぶされたり、弾き飛ばされたりしてむごい状態だ。
やがて、レキウスはエリアスと諸侯が固まる場所までたどり着いた。
「結局、バイロンをやった奴は来なかったか。まあ、来たところで俺達は止められないだろうけどなっ!」
そう言ったレキウスは、高く飛び上がると大地に【豪勇の壁盾】を叩きつけて、エリアス目掛けて衝撃波を発生させた。衝撃波は壁となって立ちはだかっていた兵士を吹き飛ばす。辛うじてエリアスは直撃を逃れる事が出来たが、彼とレキウスとの間には遮る物がなくなっていた。
エリアスは急いで体勢を立て直し剣を抜く。だが、その時にはレキウスの二度目の衝撃波がエリアスを襲っていた。今度はアーティファクト【扶翼の盾】を構えて身を守る。盾の力のお蔭か直撃をしたがエリアスは耐えた。だが、全くの無傷ではない。盾から外れていた場所には、負傷が見られた。
「グッ! シーレッドの将軍はここまでの強さなのか!」
エリアスは痛みに耐えながらそう言った。剣を握る手に力を入れて、こちらにゆっくりと進んでくるレキウスを睨む。
エリアスを守ろうと、騎士達はレキウスへ立ち向かうが、また一人また一人と倒される。
王の危機を知らせる報を受け、駆けつけていた兵士たちは多くいたが、戦場は広く間に合う様子はなかった。
前線からは明らかに劣勢を知らせる声を聞こえ出してきた。だが、今のエリアスは、レキウスと戦う騎士達に力を送っており、そちらに向ける余裕はなかった。
そんなエリアスの下へ、突然複数の騎士が駆け寄ってきた。
「エリアス様ッ! お逃げください! お前達、早くお連れしろ!」
そう言った彼は近衛騎士であり、フリッツからいざという時には王を逃がせと命を受けていた。彼は自分の行動が遅かった事を後悔しながらも、その役目を果たそうと必死だった。
「み、皆を置いてなどいけるか!」
エリアスは目の前で倒されていく騎士たちを見ながら、否定の言葉を上げる。だが、騎士たちに即座に拘束され後方へと運ばれる。
しかし、それを許すレキウスではなかった。
「今更逃げられると思ってるのか? そんな掴んだら、そいつは盾を使えないぞ」
鼻で笑いながらそう言ったレキウスは、すでに高く飛び上がっていた。
それを見た騎士達や、駆け寄ってきたエレクトラがエリアスの前に出るが、振り下ろされた壁盾の衝撃で弾き飛ばされる。
そして、レキウスは衝撃で倒れたエリアスを見下ろす形で、手を伸ばせば届く範囲に接近したのだった。
「終わりだ若王。少し手こずったがここまでだな」
レキウスはそう言いながら、振り下ろすために壁盾を担いだ。
周囲からは駆け寄る者たちが迫っているが距離がある。
エリアスは何とかそれを防ごうと【扶翼の盾】を体の前に差し出した。
その時、空を見上げるエリアスの目には、上空から落ちてきた何かが見えた。
振り下ろされようとしている壁盾よりも、それに気を取られ視線を送ってしまう。
その様子にレキウスは突如、壁盾を振り下ろそうとしていた体勢から体をひねり、エリアスの視線の先へと壁盾を構えた。
その瞬間、一本の槍が壁盾に激突した。崩れた体制だったレキウスは、その衝撃で地面に押しつぶされそうになる。それは天から振り下ろされた神の拳のような衝撃だ。激しい衝撃音が戦場に鳴り響き、何事かと全ての視線が集まった。
そして、一人の男が降りてきた。その落下は猛烈なスピードを持っていたが、地面に激突する前に一羽の鳥に掴まれると、その速度はほぼなくなっていた。鳥は苦しそうな声を上げたが、それでも掴んだ男が余程大事なのか、決して離す様子はない。
「ふぅ……危ねえぜ……。助かったよ、ポッポちゃん」
男はそう言うと、自分を掴んでいた白い鳩を一撫でして労をねぎらった。白い鳩は嬉しそうに撫でられた手に絡みついていた。
地上に降り立った男は、膝を突いているレキウスを一瞥すると、尻を突いて倒れているエリアスに手を伸ばした。
「よう、大分危なかったみたいだな。遅れてすまん」
「ゼ、ゼンッ! 助かったが、遅いぞ!」
エリアスは咎めるつもりはなかったが、状況からつい言葉が強くなってしまった。
だが、そんなエリアスの声に、ゼンは笑いながら返事をした。
「悪いな、少し色々とやり過ぎて遅れた。まあ、助かったんだから怒るなよ」
その全く悪びれていない様子にエリアスは、あぁ、こいつはこんな奴だったわと、呆れながら笑みを浮かべたのだった。
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