儚くて痛くて青い

第二章

2 一ノ瀬茉莉奈

「私、一ノ瀬さんと話したことがない…。」
　私は自分のコミュニケーション能力のなさに驚きつつ困っていた。するとなんと、
「もう全員帰った？」
　なんと寝ていたはずの一ノ瀬さんが顔を上げ、そんなことを言ったのだ。
　なんと発言していいかわからない私は、彼女がこの教室を出るまでただ待つしかない。そんな困りはてた状況の中、一ノ瀬さんはまたもや衝撃の発言をした。
「手紙を書いたのは私。誰かからの告白だとでも思った？」
　思った。正直思いましたよ！情けないことに、私は誰かからの告白なんてものまで期待していた。
　だが嘲笑いながらそう言った彼女の視線は、氷のように冷たかった。
「えっと、一ノ瀬さんが私に何の用でしょうか…？」
　一ノ瀬さんはいわゆる陽キャだ。クラスメイトの女子たちを遠目から指示するような、そんな立ち位置。他クラスの女子たちからも恐れられるような、そんな存在だ。だから私は話したことがなかった。
「本当に心当たりがないんだ？」
　今日初めて話してみて分かったことだが、一ノ瀬さんの目の圧は尋常じゃない。まるでナイフで心臓を一突きされるような、そんな苦しさがある。
「あ、えっと、ないです…。」
「そんくらい考えなよ、陰キャ。」
　恐る恐る言った私に、一ノ瀬さんはそのひとこと。そのような辛辣な言葉を言われなれていないせいか、私の瞳には微かに涙が浮かんでいた。
　怖い。痛い。苦しい。

　逃げたい。

　私は本能に従ってその教室を飛び出した。あとのことを考えている余裕なんて、私には存在しなかったのだった。