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第一章【初々しい恋心は】

3 手と手を繋ぐ、心を繋ぐ

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 華と付き合ってから早一週間が経った。俺は未だに華と付き合えたことに喜びを感じている。
 あれから特に変わったことはないし、華とはいつも通り教室でも話せている。
 一週間経ったのだ。一段階目のスキンシップにチャレンジしてもいいのではないだろうか。例えば手を繋いだりとかバグをしたりとか(自分で言っておいてめっちゃ恥ずかしい)。
 華は90日(三ヵ月)という短い時間しか命が保たないのだ。最期は絶対に「幸せな人生だった」と思えるように、俺が未来を変えていきたい。
 改めて華の余命のことを考えると涙が込み上げてきたが、なんとかもちこたえた。華の方が辛くてたまらないに決まっているのだから、俺がメソメソしている場合ではないのだ。
 俺は放課後、勇気を出して華のところに向かった。
「ちょっと提案があるんだけど。」
「またー?」
 確かに「また」だ。華は女子グループと一緒にいたため、華以外の女子はヒソヒソと何かを話している。
 どうやら俺と華のことはちょっとした噂になっているらしい。多分俺と華が「付き合ってる?」という質問に対して否定しなかったからだろう。きっと南斗の仕業だ。
「まただ。」
「じゃあ一緒に帰ろー!」
 俺たちは二人で教室を後にする。
「それで、提案って何かな?」
 若干「期待」の色を帯びた瞳を俺に向ける華。いや、「手を繋ぎたいです」?そんな発言、あまりにも気持ち悪い。
「えっと、一回黙ってあっち向いて。」
「…ん?」
 あまりにも不自然なことは分かっている。でもこうするしかなかったのだ。
 華は言った通りに俺と反対方向を向いてくれる。これで繋ぎやすい。
 おらっ!俺は目を瞑って、勇気を振り絞って華の手を取った。
「えっ…?」
 俺は華を一瞥する。すると華は真っ赤になっていて俺にもその真っ赤が移る。
「れ、蓮…?」
 華は明らかに動揺していた。
「いや、もう付き合って一週間経ったし、そろそろ手くらい繋いでもいいかなって。」
 俺は華に向かって、「俺は決してキモいわけじゃないぞ」と主張する。
「もう一週間経ったんだ…!ちょっと恥ずかしいけど…。」
 華はそう言って、俺の手を掴む力を強める。俺もそれに応えるようにギュッと握り返す。
「ていうか、下校中にやること…?」
 …俺は慌てて華から手を離す。
「ふふっ。蓮、また今度やろうねー?」
「さあな。」
 確かに同級生に見られたりでもしたら大変だ。一応俺と華の関係性はだから、もし手を繋いでいるところを見られたりでもしたら恥ずかしすぎる。
「じゃあ私、こっちだから。」
「送ってくよ?」
「いいよ。お母さんに、蓮と付き合ってるってこと言ってないし。」
 そうか。確かに俺も両親にお付き合いのことは報告していない。でも両親が余命三ヵ月の子と交際しているなんて聞いたら、きっと否定されるだろう。
「俺は華がいいのに…。」
「え?蓮、今何か言った?」
「いや、気をつけて帰れよ。」
「うん!ありがとう!また明日ねー!」
 華に手を振ってから背を向け、自分の家に向かう。
 華と繋いだ右手は、まだ温かかった。
 
「蓮っ!」
 華と手を繋いだ翌日、華は教室で堂々と俺に話しかけてきた。
「えっ?あぁ、華か。どうした?」
「メアド交換しようよ!」
「えっ…?」
 華とメールアドレスを交換…!それは普通にありがたいため俺は了承する。
「やったー!これでいつでも蓮とやり取りできるねっ!」
 嬉しそうに笑う華の横顔は、なんだか今にも崩れそうで守ってあげたくなる。
「でも、そんなにやり取りする内容特にないだろ?」
「そうかな~?でも嬉しいっ!」
 あぁ、この華の笑顔を見れるのも、俺だけがいいな。そんな独占欲に囚われながら、俺は呟く。
「好きだなぁ…。」
「へっ!?」
 真っ赤になる華はやっぱり可愛くて、俺は華から顔を背けた。こんな幸せが、いつまでも続けばいいのにな…。
 俺のそんな甘い願望は、余命三ヵ月の彼女相手には通用しないのだった──。
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