上 下
1 / 1

教科書、見せてもいいですか

しおりを挟む
「ふわぁ~あ…。」
    一つ大きなあくびで教室の眠い空気を吸い込み、俺はついでに伸びをした。
    今日は二限目から国語で憂鬱だ。座学の中でも国語なんて特につまらないし、何より眠い。
    俺は今のうちに少し寝ておこうと思い、机に伏せた。
    すると──。
「次はきちんと持ってきてくださいね。」
    若干ピリついた空気が教室を包んだ。どうやらクラスメイトの結月ゆづきが教科書を忘れてしまったようだ。
「はぁ…。」
    明らかに落ち込んだ様子の結月。おまけにため息まで聞こえてきた。
    直球に言うと、結月は俺の好きな人だ。そして席はちょうど隣。
    これは見せるしかないでしょ。
「結月、もしかして教科書忘れた?」
    少し勇気を出して、俺は結月に声を掛けた。すると結月はゆっくりと下を向いて、余計に落ち込んだ様子だった。
    そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな。
    なんだか申し訳ない気持ちになった俺は、何も言わず結月の方に机を寄せた。俺にだって羞恥心くらいある。
「えっ、どうしたの…?」
    戸惑った表情でこちらを見る結月。俺は少し照れくさくて、下手な笑顔を浮かべながらこう言った。
「いや、結月が教科書忘れたなら、俺のを一緒に使えばいいじゃん。」
    恥ずかしいことを言っているということは自分でも分かっている。けれど結月が教科書を忘れたことをいいことに、今日だけはを装わせてほしい。
「おいそこ、うるさいよー。」
    みんなの前で先生に注意をされても、少しも気分は落ちなかった。
    むしろただ嬉しくて、俺は結月と目を合わせながら笑顔を咲かせたのだった。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

すずめ。
2023.06.10 すずめ。
ネタバレ含む
瑞木歌乃
2023.06.11 瑞木歌乃

感想有難う御座います!
こんな青春憧れますよね〜!( *ˊ꒳ˋ* )

解除
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

救いは簡単に

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

7億当てるまで、死ねません!

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

異世界劇団 〜魔王討伐後の平和な世界をヒーローショーでドサ回りします~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

唇は赤ければ赤いほど赤い

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

夜美神威のNEO世界寅話

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。