遥かなる物語

うなぎ太郎

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第1章

始まり

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「シャルル様ー!起きてください、学校に遅れますよ!」
「うん…!?もうこんな時間か…」
ジャンに起こされた僕は、ベッドの上で目を覚ます。

大慌てで着替え、髪を梳かし、歯を磨いて朝食の席に着く。
言い遅れた。僕の名はシャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。この家に住んでいるのは僕と執事のジャンのみ。父上と母上はいつも領地で忙しいので、都のこの家にはいない。妹のルネはまだ小さいし、弟のイザークは赤ちゃんなので領地に住んでいる。

朝食を済ませた僕は、鞄を肩に掛け、家を飛び出す。
「それじゃ行ってくるよ!」
「お気をつけて!」

大通りに出て僕はひたすら走る。金持ちの貴族の子は馬車で登校しているが、うちには流石にそんなお金は無い。エラルトの街の中央にある塔は、朝日の光を受けて輝いていた。

なんとか間に合った僕は教室に滑り込む。
「おいシャルル、早く用意しないと授業始まるぜ」
話しかけて来たのは隣の席のアダン。僕の友人の一人だ。
「ああわかった…ところで今日歴史のレポートの提出だろ?完成した?」
「昨日図書館で閉館までやったからなんとか終わった…けど出来はイマイチだな」

先生が入ってきて一気に教室が静かになる。1時間目は歴史だ。今日は歴史のレポートを提出する日だった。僕は前夜遅くまでレポートを仕上げたが、ぎりぎりの時間で提出したため、少し心配だった。

授業が進むにつれて、先生は生徒たちに各自のレポートを読み上げるように指示した。僕は緊張しながらも自分の番が来るのを待っていた。

「シャルル、あなたの番ですよ」と先生が言った。

僕は深呼吸をして立ち上がり、自信を持ってレポートを読み始めた。内容はしっかりと調べた甲斐あってクラスメイトたちからも評価された。授業が終わると、先生からも「良く調べたね、シャルル」と励ましの言葉をもらった。

時間は流れ4時間目の地理の授業になった。今日は先生が大陸北部の気候について解説した。この世界を知らない人のために、少し説明しておこう。
この世界は、一つの巨大な大陸と、周りのいくつかの島々で構成されている。大陸には無数の国があって、その中で最大なのがこのスラーレン帝国だ。

4時間目が終わり、僕は友達と一緒に学校の食堂に向かった。食堂に着くと、生徒たちが賑やかに食事を楽しんでいた。僕たちもランチをとりながら、日常の話題で盛り上がった。「明日の午後、運動場でサッカーの試合があるんだ。シャルルも来る?」と友達のアンドレが誘ってきた。
「うん、行くよ!楽しみだな」と僕は笑顔で答えた。

昼休みが終わり、5時間目の戦術の時間になった。運動場で実際に剣と魔法を使った戦闘訓練を行う。戦争が絶えないこの世界で、貴族には国を守るために戦争に参加することが求められるからだ。普段着だと魔法で負傷してしまう恐れがあるので、革製の専用の服で行う。
「あれ、僕余っちゃったかな?あっ、マリー、やろう!」
「いいわよ」
「わぁ、シャルルの相手マリーだ。良いなあ。」
マリーはこのクラスで多分一番可愛い女の子。ギャスパー・モロー侯爵の長女。実は僕の恋人だが、そのことが知られたら学年中の嫉妬の対象になってしまうので皆んなには秘密にしている。

「はじめ!」先生の合図で、全てのペアで一斉に対戦が始まった。
僕は剣を構えて、慎重にマリーに近づいていく。

僕は貴族の息子として戦闘訓練には慣れているが、マリーもその腕前はさることながら、彼女の技術に挑むことは常に刺激的だった。
「マリー、今日はどんな攻撃を見せてくれるのかな?」軽い口調で言いながら、本気の戦いに臨んだ。
「うおおおお!」

次の瞬間、マリーは美しく優雅な動きで僕の攻撃をかわし、その間に巧みな剣技で反撃する。自分の剣を使ってマリーの剣を止めた僕は、二、三歩下がると再び小走りに寄っていき、思い切り剣を振りかぶって振り落とした。
「おりゃあああああ!」マリーの左肩に剣が当たった。この剣は模造なので実際に切れることは無い。

「よっしゃ!僕1点!」
「まだまだよー!」僕の体勢が整っていないうちに今度はマリーの剣先が飛んできた。間一髪で避けようとしたが、たちまち右腕に衝撃が走る。

その時だった。「ライトニング・フューリー」
マリーが手をかざして唱えた瞬間、手の平から青白い雷が発せられた。
たちまち僕の全身に電気が走り、いつのまにか空を見上げていた。
雷魔法だ。人によって使える魔法は違うが、彼女は雷魔法が大得意。一方僕の得意な魔法は炎魔法だった。

僕は立ち上がると、マリーの立つ方に向けて手をかざした。「ファイア・ウィンドウ・バースト」
僕の目の前に大きな魔法陣が現れ、真っ赤な激しい炎が飛び出した。マリーの姿が一瞬見えなかったが、炎が消えると彼女の運動服はすでに真っ黒に焦げ、ビリビリに破けていた。訓練だから手加減しているので、マリーが火傷するような事はないが。

「ご、ごめんやり過ぎちゃった、、」僕は焦って謝ったが、マリーは笑って頭を振った。
「大丈夫よ、シャルル。それに私も本気で戦ってるんだから。」彼女は言い、少し息を整えてから再び構えた。

その時、「終わり!」と先生が合図した。二人とも剣を下ろす。
「やっぱりシャルルとの戦いは楽しいわね」とマリーが言った。
「そうだな、お互いに切磋琢磨してる感じがするよ」と僕が笑顔で応えた。

その後6時間目が終わり、帰宅する時間になった。
「ピエール、一緒に帰ろうぜ!」僕はピエールに声をかけた。彼は僕の幼馴染で、親友と言えるべき存在だった。ガブリエル・デュポン男爵の息子だ。
「ああ勿論良いよ!」ピエールも笑顔で返事をしてくれた。

校門を出て右に曲がり、大通りを真っ直ぐ進もうとすると、突然僕達の目の前に二人の生徒が立ち塞がった。一人はガタイが良い奴で、もう一人は背が低い奴だった。

「おいピエール!今日も躾タイムあるからな!忘れたのか!ちょっとこっち来い!」
「なんだよお前ら」僕が言った。
「ああ黙れお前誰だ。それよりピエール早く来い」
「ごめんシャルル…ちょっと待っててすぐ戻る」
「おい待てよ…こいつら何なんだよ」
ピエールを無理やり連れていく二人を、僕は後からつけた。

草木の生い茂り、人気の少ない裏路地で、ピエールは二人に突き飛ばされて尻餅をついていた。
僕が大木の影で様子を見ていると、突然二人がピエールに暴力を振い始めた。
「男爵の癖に!生意気なんだよ!」
「ちょっと成績が良いからっていい気になりやがって!」
体育座りのような体制でただただ身を守るピエールを、背の低い方が抑えてガタイの良い方が殴ったり蹴ったりしていた。

「やめろお前ら!」衝動的に僕の身体は飛び出していた。
ピエールと二人組の間に僕は立ちはだかった。僕は普段は力は弱い方だが、いざとなると火事場の馬鹿力と言うべきか、自分の暴走を制御出来なくなってしまうことがある。

「この野郎!ピエールを苛めやがって!お仕置きだゴルァ!」
僕は背の低い方の奴の腹に、何度も激しい蹴りを入れた。
「ぎゃああああああああ!」
奴のよろけた隙に首根っこを掴みにかかると、頬に拳で強固な打撃を加えた。
「ひぁぁぁぁぁぁぁぁ」
奴は悲鳴をあげて涙を流しながら倒れた。

「おおお。こいつ意外と弱ぇな」
「な、何だお前は…」
ガタイの良い奴が驚いて立ちすくしていると、僕は手をかざした。
「インフェルノブレイズ」手の平から火の玉が飛び出し、激しく燃え上がった。

「ぎゃあああああああ」
ガタイの良い奴はその場に一瞬倒れ込んだが、何とか立ち上がり、焼け焦げた服を纏いながら逃げていった。服の破れた隙間から、赤くなった背中が見えていた。どうやら火傷を負ったらしい。

「とりあえず追っ払っといたぜ」
「あ、ありがとうシャルル…でも明日絶対仕返しがあるよ…」
「そうしたらまた僕が追っ払ってやるよ。でもピエールやり返さないのか?」

「二人とも男爵の僕より上の子爵だから逆らうとロクなことにならないんだ」
「子爵ってことは、伯爵の僕がやり返す分には問題ないよな?」
「問題は無いけど…」
「まぁ何かあれば僕に言いな」
「ありがとうシャルル」

僕たちは、再び家路を歩みながら話した。
「僕、ピエールがもうあんな思いしない方法思いついたよ」
「えっ、何?」
「ピエールが出世することだよ。ピエールは長男だからデュポン家の家長になるだろ?そうしたら、君が侯爵とか伯爵になるのをベルタン家は全力で支援するよ。偉くなれば、誰もピエールにあんな酷い事できない」
「そうか、デュポン家は元々凄い家だったんだもんな…そうだ、僕が再興するんだ!シャルル、一緒に頑張ろう!」
「うん!」

「ただいま」
「お帰りなさいシャルル様。今日はシャルル様の好物の牛肉ポトフですよ」
「やった!」
夕食を済ませた僕は風呂に入る。

シャワーを浴びながら色々と考え事をしていると、ついつい湯を無駄にしてしまうのだった。ベルタン家の将来なんて風呂場で考えたってどうにもならないのに…。だからシャワーは早く浴びて湯槽でゆっくり考え事をするようにしている。

時計の針が11時を指していたので寝間着を着てベッドに潜り込む。
「もうこんな時間か。もう寝ないとね。今日は疲れたよおやすみジャン」
「おやすみなさい」

続く
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