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第一章 哀れみも、誉れも、愛も
第4話「鶏小屋に二羽の雄鶏」
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「要件? 少尉殿が触手相手にアンアン言わされて孕まされた件のことですかい」
「…………貴様は、口の利き方も、礼儀も、自らの立場も知らんようだな」
額に青筋を浮かべながら、フェルディナンドは低い声で呟く。
「立場、ねぇ……。要するに口止めでしょう? 例の件を誰かに言われて、困るのはどっちですかい?」
俺が喋るたび、奴の眉間にはどんどん不愉快そうなシワが増えていく。
「私は将校で貴様は一兵卒だ。私は貴様に、命令と守秘義務を課す立場にある。……こんな、基礎中の基礎から教えねばならんのか」
整った顔面に露骨な嫌悪感を滲ませながら、フェルディナンドは相変わらずの高慢な態度で語る。
トントン、と机を叩く指が、冷静な仮面の下の苛立ちを感じさせた。
「埒が明かん。口止めの件もそうだが……他にも、話すべきことがある」
「へぇ……? 一体全体、どんなお話で?」
俺が問うと、場に沈黙が落ちる。
フェルディナンドはちら、と部屋に備え付けられたソファに目をやり、明らかにトーンダウンした語調で告げた。
「……。……そこのソファに横になれ。後は私がやる」
一晩の間に、例の魔獣については一通り調べがついた。
あの魔獣は男……正確には獣のオスをバラバラにし、その血肉、骨、臓物、魔力に至るまですべてを溶かして養分とする。それで、女……正確には獣のメスを、繁殖に利用する。子宮に産卵し、育った幼体を産ませる……前の晩に、散々目の前で見せつけられた光景だ。あの後思い出して三発は抜いたが、それはそれ。
問題はここからだ。
例の魔獣は、苗床になった相手の身体を作り替え、快楽中毒にさせた上で回復力を高める。そうすることで、母体が力尽きるまでに幼体を何匹も何匹も産ませられる、と……。
幼体の生存力が低く、すぐに死ぬ個体が多すぎるから大量に産ませるって寸法だ。気色悪いが、生物の繁殖としては理にかなってる。
要するに、だ。
この野郎……冷静に振舞っちゃいるが、内心ではめちゃくちゃ欲しがってるってことになる。
「……で、命令違反にはどんな『処分』をくださるんですかい」
「……何?」
「いくら名門の生まれで領主様のご子息でも、さすがに処刑までは無理ですもんねぇ。一番重くてもせいぜい追放が限界でしょう。代わりに、自分の痴態が知れ渡っちまうわけで……。割に合うんです? それ」
「……ッ」
俺の言葉に、フェルディナンドは端正な顔を真っ赤にして黙り込む。
……が、すぐに俺の方をキッと睨みつけ、腕を組んでいつもの余裕と自信を取り繕った。
「貴様はどうやら、私を侮っているらしいな」
ああ、またこれだ。
高慢ちきで嫌味な、人を見下した態度。
……侮ってんのはお前の方だろうにな。
「それが人に物を頼む態度か、あ゛ぁ?」
机をバンッと叩き、ドスの効いた声で詰め寄る。
大抵の相手はこれで怯むが、フェルディナンドは大声に目を見開いたぐらいで、顔色すら変えはしない。……さすがはエリート軍人様ってところか。
「俺は軍を辞めさせられようが痛くも痒くもねぇ。魔術に関する知識が得られるんなら、どこだって構わねぇってのが大親分の意思だ」
それなら、と、取っておきのカードをここで切る。
「……カーポ……だと……」
フェルディナンドの顔がみるみるうちに青ざめ、藍色の瞳に確かな絶望が宿る。
……ああ、イイ顔だ。
「おっと、さすがにエリート様は勘が良いねぇ」
「……! 貴様……マフィアか……!」
魔術という、知識や教養に依存する武器を手に入れ、貴族の時代は斜陽を迎えてもなお長く続いた。
……が、時代が経てば経つほど、ズルい奴らも湧いて出てくる。横から実権を掠め取り、圧倒的な暴力によって全てをひっくり返す連中……。
貴族が「表」の権威なら、俺達は「裏」の権威。
弱みを握った以上、立場が上なのは俺の方だ。
「あんたが今やるべきは、靴を舐めて地面に頭擦り付けて、『もう耐えられません犯してください。でも、このことは誰にも言わないでください』って頼むことだ。違うか?」
「……ッ、下衆が……!!」
今度は、フェルディナンドの方が机を叩いた。
椅子を蹴って立ち上がり、息を乱したままぎりりと歯噛みする。
だが、もう詰みだ。どれほど嫌がろうが、奴は俺に従うしかない。
隙をついて背後に回り込み、尻を撫で上げた。
「ひ……っ!?」
甲高い声が漏れ、形の良いケツがびくりと震えたのがわかる。
フェルディナンドはハッと口を押さえるが、もう遅い。
「やめろ……ッ!」
俺の手を振り払い、フェルディナンドは扉の方に逃れようとする。
「逃げて、人を呼んで……そっからどうすんだ? マワされてスッキリするつもりかい?」
「な……何をふざけたことを……!」
「だって、欲しいんだろうが」
腕を掴み、身体を近づける。
ああ、やっぱりだ。こいつの顔は、間近で見ても綺麗に整っていやがる。
「数時間、よく頑張ったよなぁ。挿れられたくて挿れられたくて仕方なかったろ」
からかうように言えば、フェルディナンドは唇を噛み締め、心の底から悔しそうに俺を睨みつけた。
扉の方に視線を投げ、鍵がかかっていることを確認する。
「服を脱ぎな」
「あ……っ」
腰を抱き寄せれば、追い詰められたツバメは艶やかな声で啼いた。
「そしたら、犯してやるよ」
フェルディナンドは屈辱に肩を震わせながら、軍服のボタンに手を伸ばす。
そうして、俺達の歪な関係は始まった。
「…………貴様は、口の利き方も、礼儀も、自らの立場も知らんようだな」
額に青筋を浮かべながら、フェルディナンドは低い声で呟く。
「立場、ねぇ……。要するに口止めでしょう? 例の件を誰かに言われて、困るのはどっちですかい?」
俺が喋るたび、奴の眉間にはどんどん不愉快そうなシワが増えていく。
「私は将校で貴様は一兵卒だ。私は貴様に、命令と守秘義務を課す立場にある。……こんな、基礎中の基礎から教えねばならんのか」
整った顔面に露骨な嫌悪感を滲ませながら、フェルディナンドは相変わらずの高慢な態度で語る。
トントン、と机を叩く指が、冷静な仮面の下の苛立ちを感じさせた。
「埒が明かん。口止めの件もそうだが……他にも、話すべきことがある」
「へぇ……? 一体全体、どんなお話で?」
俺が問うと、場に沈黙が落ちる。
フェルディナンドはちら、と部屋に備え付けられたソファに目をやり、明らかにトーンダウンした語調で告げた。
「……。……そこのソファに横になれ。後は私がやる」
一晩の間に、例の魔獣については一通り調べがついた。
あの魔獣は男……正確には獣のオスをバラバラにし、その血肉、骨、臓物、魔力に至るまですべてを溶かして養分とする。それで、女……正確には獣のメスを、繁殖に利用する。子宮に産卵し、育った幼体を産ませる……前の晩に、散々目の前で見せつけられた光景だ。あの後思い出して三発は抜いたが、それはそれ。
問題はここからだ。
例の魔獣は、苗床になった相手の身体を作り替え、快楽中毒にさせた上で回復力を高める。そうすることで、母体が力尽きるまでに幼体を何匹も何匹も産ませられる、と……。
幼体の生存力が低く、すぐに死ぬ個体が多すぎるから大量に産ませるって寸法だ。気色悪いが、生物の繁殖としては理にかなってる。
要するに、だ。
この野郎……冷静に振舞っちゃいるが、内心ではめちゃくちゃ欲しがってるってことになる。
「……で、命令違反にはどんな『処分』をくださるんですかい」
「……何?」
「いくら名門の生まれで領主様のご子息でも、さすがに処刑までは無理ですもんねぇ。一番重くてもせいぜい追放が限界でしょう。代わりに、自分の痴態が知れ渡っちまうわけで……。割に合うんです? それ」
「……ッ」
俺の言葉に、フェルディナンドは端正な顔を真っ赤にして黙り込む。
……が、すぐに俺の方をキッと睨みつけ、腕を組んでいつもの余裕と自信を取り繕った。
「貴様はどうやら、私を侮っているらしいな」
ああ、またこれだ。
高慢ちきで嫌味な、人を見下した態度。
……侮ってんのはお前の方だろうにな。
「それが人に物を頼む態度か、あ゛ぁ?」
机をバンッと叩き、ドスの効いた声で詰め寄る。
大抵の相手はこれで怯むが、フェルディナンドは大声に目を見開いたぐらいで、顔色すら変えはしない。……さすがはエリート軍人様ってところか。
「俺は軍を辞めさせられようが痛くも痒くもねぇ。魔術に関する知識が得られるんなら、どこだって構わねぇってのが大親分の意思だ」
それなら、と、取っておきのカードをここで切る。
「……カーポ……だと……」
フェルディナンドの顔がみるみるうちに青ざめ、藍色の瞳に確かな絶望が宿る。
……ああ、イイ顔だ。
「おっと、さすがにエリート様は勘が良いねぇ」
「……! 貴様……マフィアか……!」
魔術という、知識や教養に依存する武器を手に入れ、貴族の時代は斜陽を迎えてもなお長く続いた。
……が、時代が経てば経つほど、ズルい奴らも湧いて出てくる。横から実権を掠め取り、圧倒的な暴力によって全てをひっくり返す連中……。
貴族が「表」の権威なら、俺達は「裏」の権威。
弱みを握った以上、立場が上なのは俺の方だ。
「あんたが今やるべきは、靴を舐めて地面に頭擦り付けて、『もう耐えられません犯してください。でも、このことは誰にも言わないでください』って頼むことだ。違うか?」
「……ッ、下衆が……!!」
今度は、フェルディナンドの方が机を叩いた。
椅子を蹴って立ち上がり、息を乱したままぎりりと歯噛みする。
だが、もう詰みだ。どれほど嫌がろうが、奴は俺に従うしかない。
隙をついて背後に回り込み、尻を撫で上げた。
「ひ……っ!?」
甲高い声が漏れ、形の良いケツがびくりと震えたのがわかる。
フェルディナンドはハッと口を押さえるが、もう遅い。
「やめろ……ッ!」
俺の手を振り払い、フェルディナンドは扉の方に逃れようとする。
「逃げて、人を呼んで……そっからどうすんだ? マワされてスッキリするつもりかい?」
「な……何をふざけたことを……!」
「だって、欲しいんだろうが」
腕を掴み、身体を近づける。
ああ、やっぱりだ。こいつの顔は、間近で見ても綺麗に整っていやがる。
「数時間、よく頑張ったよなぁ。挿れられたくて挿れられたくて仕方なかったろ」
からかうように言えば、フェルディナンドは唇を噛み締め、心の底から悔しそうに俺を睨みつけた。
扉の方に視線を投げ、鍵がかかっていることを確認する。
「服を脱ぎな」
「あ……っ」
腰を抱き寄せれば、追い詰められたツバメは艶やかな声で啼いた。
「そしたら、犯してやるよ」
フェルディナンドは屈辱に肩を震わせながら、軍服のボタンに手を伸ばす。
そうして、俺達の歪な関係は始まった。
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