【完結済】蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―

譚月遊生季

文字の大きさ
7 / 56
第一巡 骸ノ章 ― 餓鬼道 ―

第七話 髑髏武者

しおりを挟む
 本殿のちょうど裏手に差し掛かったところで、髑髏武者はようやく私を下ろしてくれる。

「ほい。ここまで来りゃ、刹鬼あいかたも追ってこねぇだろ」
「……うーん、良いのかなぁ……」

 周りをぐるりと見回してみたけれど、塀と土蔵しかない。本当に、端の方まで来てしまったみたいだ。

「さて、嬢ちゃん。案内するなら蔵か庭、どっちがいい?」
「……庭が気になりますね」
「ほう、風流な趣味だねぇ。そんならこっちだ。ついてきな!」

 私の手首を掴んだ手に、思わずぎょっとする。  
 気安い声もろくに耳に入らず、その「手」から目が離せない。
 ……骨と皮、なんてものじゃない。
 
 これは、骨そのものだ。

「……おっと、驚かせちまったか」

 髑髏武者はばつが悪そうに呟くと、骨の指でぽりぽりと面の頬を掻いてみせる。
 そのまま腰をかがめ、固まっている私と目線を合わせるようにして面を外した。

「こりゃ失敬。……個性ってことで、ひとつ――どうだい?」

 その面の下も、半分は骨だった。
 私から見て右側の顔から、ごっそり肉が削げ、頭蓋骨の形が丸見えになっている。

 ……けれど、残された半分の顔には、へらりと気の抜けた笑みが浮かんでいる。少し頬がこけてはいるが、タレ目が優しげで、ほっとする顔立ちだ。
 短いまげの結われた頭に、ぱらぱらと不精に散った前髪――この人はもしかすると、生前から「武者」だったのかもしれない。

「……やっぱり、怖いかい?」

 眉を下げ、髑髏武者は気まずそうに視線を逸らす。
 思わず、骨の手を取った。

「そんなことないっ!!」

 ……そう、言わなきゃいけない気がした。

「あんがとよ。嬢ちゃんは、優しい子だねぇ」

 へらへらと笑う表情は、明るくて、楽しげで――一瞬だけ、「亡者もうじゃ」の風貌ふうぼうを忘れさせてしまうほどだった。

「あの、髑髏武者さんは、どうして門番を……?」
「髑髏で良いよ。それと、敬語もやめとくれ。お互い、気楽に行こうや」

 不思議な感覚だ。
 明らかに「生きている人間」とは違う、異形の姿なのに――彼はどこまでも人間臭く、親しみやすい。
 
「……分かった。よろしく、髑髏」
「おうよ。こっちこそ、よろしく頼むぜ」
「私は……私の名前は、城島秤。秤でいいよ」
「んじゃ、遠慮なく呼ばせてもらうかね」

 その笑顔が、その話し方が、私に伝えてくる。
 なんだか仲良くできそう。……そんな、月並みな予感を。

「うちの庭はな、四季折々の景色が四六時中どこかに見られるんだ。あっちは春の庭で、向こうは夏の庭。もっと向こうまで行きゃあ、秋と冬も楽しめる」
「へぇ……なんだか贅沢ですね」
「蛇神さまの趣味らしいがね。……なんつぅか、やりすぎて有難みがねぇ」
「あははっ、確かに!」

 少し話しただけで、私はすっかり髑髏にほだされてしまっていた。
 何も知らないけれど、楽しい人だと思ったから。

 ――本当に、何も知らなかったくせに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...