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第一話 首なし殺人事件……!?

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 神奈川県陽岬ひのみさき市。
 日本有数のパワースポットであるこの地は、呪術師、霊媒師、引いては人ならざる者が数多く集まる土地でもあった。

 その土地の片隅に、いつからか探偵事務所が居を構えるようになった。ある日突然現れたと噂されるその事務所は、「怪奇現象専門の探偵事務所」と呼ばれている。
 その名も「赤松探偵事務所」。
 そんないわく付きの場所に、今日も訳アリの依頼人が訪れていた。

「えーと、名前は上原直己うえはらなおきくんだったかな。……で、何の用?」

 所長の赤松……タバコをくわえたサングラスの男に促され、長身の青年……上原直己は緊張した面持ちで語り始める。

「昨日……俺のマンションの廊下で、首なし死体が見つこうたんです」
「そりゃ怖いね」
「死体はもちろん警察に持って行かれて……今は、検死中らしいんですわ。身元はまだ分からへんって聞いたんですが……」

 頬の傷を撫でながら、赤松は「うーん」と苦笑する。

「猟奇殺人事件の捜査? 悪いけど、そういうのは警察でやってもらってくんない? ウチはね、怪奇現象専門だから」
「ち、ちゃうんです。その首が、今、俺の部屋にあるんです……。それで、その、『どうにかしてや』と喋るもんでして……」
「……ありゃあ。それは怪奇現象だねぇ……」

 二人が話し込んでいると、玄関の方から「ただいまー」と、少女らしき声が飛んでくる。

あかり! 今お客様が来てるの。部屋の方で待っててくれるかしら」
「ん、わかった」

 男性らしき声が、女性のような口調で少女と会話する。上原は何やらホッとした顔つきで、話を続けた。

「とにかく、早く来てください。ほんまに一大事なんです……!」

 関西弁独特のイントネーションで、上原は語る。
 赤松は「ふぅむ」と頬の傷を撫でつつ、「じゃ、また明日ね」と返事をした。



 ***



 翌日、大阪にある上原のマンションの前に、着物姿の長い白髪の女……いや、男が立っていた。
 出迎えた上原はぐるりと辺りを見回し、赤茶けた色の髪も、頬傷のある顔も見当たらないことに首を傾げる。

「……。赤松さんはどないしました?」
「それが聞いてよ……! 『ヤマナっちだけでいけるいける』とか言って、アタシだけ派遣したのよあの男! 嫌になっちゃうわ!」
「そ、そら……難儀ですねぇ……」

 肩をいからせる白髪の男・ヤマナに、上原は困った様子でたじたじと後ずさる。

「まあいいわ。アタシだってプロだもの。いくらでも頼ってちょうだいな!」
「それ何のプロなんです? 夜のお店とかちゃいます?」
「あぁん? テメェ、このおれがそんじょそこらの陰間かげまにでも見えんのかい?」

 何やら上原の発言が地雷を踏んだらしく、ヤマナは額に青筋を浮かべる。上原は身の危険を感じ、即座に頭を下げた。

「えっ、陰……? な、なんか、すみません……」
「はん、分かりゃいいんだよ。……ったく、最近の若造は芸ってもんがわかっちゃいねぇ」

 ヤマナは男口調のまま上原に背を向け、マンションの階段を昇っていく。

「良いかい、おれ女形おやまだ。色を売って欲しいってんなら他所へ行きやがれ」
「……い、色?」
「視線を見りゃわかる。おれの身体に興味があるんだろう?」

 挑発するよう、ヤマナはにやりと笑う。その仕草に、上原の頬がかっと熱くなった。

「おうおう、図星かい?」
「へ、部屋着きました……!」

 上原は赤面したまま、誤魔化すように部屋の鍵を開けた。扉を開き、「ど、どうぞ」とうわずった声でヤマナを案内する。
 促されるまま、ヤマナが足を踏み入れた途端……

「この、浮気者ォー!!!」

 玄関マットに鎮座した生首が、涙目で上原を怒鳴りつけた。

「なんやねんナオキ!! 僕は健気に待っとんたんに、他の男に色目使いよるんか!!!」
「ご、誤解や……! ちょっとええ兄ちゃんや思うただけや!」
「どうせ僕が胴体のうなって、竿も尻も可愛がられへんからって他の男に目移りしてんねやろ!! このヤリチ〇ビッ〇!!」
「だ、誰がやねん……! もうお前以外のチン〇に興味あらへんわ!」

 さっそく始まった痴話喧嘩に、ヤマナは眉間を抑える。今度の仕事は、いつもとは違った方面に面倒そうだ。
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