炎へ堕ちる〜王女と男爵令嬢の国崩し〜 【彼女の絶望、私の炎・長編版】

ゆりんちゃん

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第十八章「破滅への行進」

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 大司教が去った後の執務室。苦悶の表情を浮かべていた国王テオバルトは、弾かれたように顔を上げ、近衛兵を呼びつけた。

「おい! セレスティアをここへ連れて来い! 今すぐに!」

 その形相の凄まじさに、兵士は「は、はい! ただちに!」と震え上がり、あわてて部屋を出て行った。

 一人残された王は、爪を噛みながら思考を巡らせる。
(これから、どうする……?)

 もし、セレスティアがしでかしたことが事実なら……その証拠を公爵家に掴まれれば、彼らはすぐさま王を罷免するための「十三貴族議会」を開くだろう。王位を簒奪するには、これ以上ないほどの大義名分だ。

(これまでは、十三貴族が全会一致で王を罷免する権限を持っていても、ある一家の「薬物売買」を秘密にすることで忠誠を誓わせ、全会一致を阻止できた。だから安泰だと思っていたのに……)

 だが、前提が崩れた。
 王女が教団を巻き込んで陰謀を働いたとなれば、「教団を政治に巻き込まない」という絶対の不文律を王家が破ったことになる。
 そうなれば、弱みを握られているあの一家とて、王家への義理立てよりも、教団に睨まれる恐怖を優先して裏切るかもしれない。
 あるいは公爵家が、薬物に関する真相を独自に掴み、あの一家を追い落とし、強引に採決を取ることすら考えられる。

「まずは……まずは娘から全てを聞き出し、対処しなければ!」
 娘を隠すか、あるいは全ての罪を被せて切り捨てるか。そうしなければ、対策の立てようがない。

 その時、先ほどの兵士が戻ってきた。
「陛下! ご報告申し上げます! 王女殿下が……お部屋にいらっしゃいません!」
「なんだと!?」
「今日はどこにも出ていないはず。城内にいるはずだ、徹底的に探せ!」
 王の様子にただ事ではないと感じ取ったのか、兵士は蒼白の表情で敬礼し出ていった。

 王の背筋に冷たい汗が一筋伝った。
 どこへ消えた? まさか既に公爵家の手に落ちたのか? それとも隠し通路で外へ? それならば行方を探すのは極めて難しくなる。

 焦る王の脳裏に、先ほど大司教が置いていった告発文の文字が稲妻のようにフラッシュバックする。
『その陰謀の拠点は、教会である』

「……そうか、そこか」
 そこにいる確証はない。しかし、他に手がかりはない。

 王は血走った目で叫んだ。
「兵を集めろ! 信頼できる者だけでいい! 町外れの古びた教会へ急げ!」

 ◇

 一方、アルテンフェルス公爵邸。エレオノーラは自室で、破滅的な未来予測に震えていた。

(私の失態で……平民の暴動が起きるのは時間の問題だわ)

 聖職者への弾圧と見なされたあの騒ぎは、間違いなく火種になる。
 そうなれば革命勢力がそれを扇動して大きくし、治安維持を大義名分に、辺境貴族が中央へ乗り込んでくるだろう。

「そうなれば、この国はどうなる?」

 ここまで来れば、流石にわかる。
 セレスティア王女が企んでいるのは、単なる政争での勝利などではない。この国に、王家、貴族、平民全てを巻き込んだ内乱を起こすこと。
 ――国崩しだ。

(この国を憎む男爵令嬢に丸め込まれたか、それとも他国の陰謀に利用されているのか……そこまではわからないけれど)

 もはや、王家と貴族が主導権争いをしている場合ではない。一丸となって対策を立てねば、この国は終わる。

 その時、部下から報告が入った。
「王女が行方をくらましました。王家が、必死で王都中を捜索しているようです」

「……!」
 エレオノーラは弾けるように立ち上がる。
 両親は、「王女が何の申し開きもせず行方を晦ますとは。やはりあの告発内容は正しかったのだ」と、悲願成就を間近にして舞い上がっている。彼らが王女を捕らえれば、嬉々として王家を追放する材料にするだけで、その裏にある真の危機には気づかないだろう。
 逆に王家が捕らえれば、保身のために王女をどうにかして、全てを隠蔽するに決まっている。

(どちらに転んでも、破滅への道だわ)

 誰よりも早く自分が捕らえ、どこかに隠さなければならない。
 そして王家と十三貴族、全ての当事者の前で洗いざらい白状させ、真実を共有することで無理やりにでも手を取り合わせるしか、この国が助かる道はない。

 その時、王家を監視させていた者から、早馬による報告が入った。

「報告! 王家が極秘裏に兵を集め、町外れの古びた教会へ向かおうとしています!」

「教会……?」
 エレオノーラの直感が、鋭く警鐘を鳴らす。 そこが、全ての終着点だと。

「すぐに出るわ! 私兵を集めて!」
 エレオノーラはドレスの裾を翻し、部屋を飛び出した。

「誰よりも早く、あの娘を確保しなければ!」

 王と公爵令嬢。
 異なる思惑を抱いた二つの炎が、二人の少女が待つ祭壇へと、同じ破滅へと駆け出した。
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