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 目を覚ますと、アルメリアの視界にあったのは見慣れた天井だ。
 ずいぶん長く眠っていたような気がするが。

(あ、れ……?)

 直前までの記憶と、うまく繋がらない。
 自分はあのあと……。

(そうだ、レドックスと……)

 対戦に臨んだはずだ。
 でも予想はしていたが、一晩が明けても症状はほとんど緩和していなくて。

 体は重く、起き上がることさえしんどかった。
 むしろ悪化してるようにさえ思う。

(それでも、行かなきゃ……)

 ベッドから降り、ヨロヨロと起き出したのだ。
 そうしなければ、こちらが弱っていると知らせるようなものだから。
 あくまで平静を装い、いつも通りにレドックスと対峙して。

 でも結局、長くはもたなかった。
 息はみるみる上がり、立っているのもやっと。
 すぐに限界を迎え、今にも倒れてしまいそうになる。

 だというのにレドックスときたら、やる気満々だ。
 ちっとも引こうとしない。

(もうダメ……。こうなったら、ギブアップするしか……)

 それでむなく、降参を申し出たわけだ。
 ひどい頭痛に苛まれ、たぶんちっとも冷静でなかった思考でどうにか思い至った、それが最善策だった。

 なけなしでも、あの場でアルメリアに講じることのできた最後の手段。
 でも結果は、火に油となってしまって。

「なんかやけにアチィぞ」

 ついに気付かれてしまった。
 こちらが弱っていると知れれば、そのまま力づくで人里に連行されるかもしれない。

(最悪、ひどい拷問とかされるのかも……)

 そんな不安が頭を付いて離れなかったから、体調が悪いだなんて間違っても言い出せなかった。

 自分が擬人化したマンドラゴラだという、奇想天外なバックグラウンドも踏まえれば尚のこと。

 いったん捕まってしまえば、万事休すだ。
 明るい展望なんてとても見えない。

「何だオメェ、風邪でもこじらせてんのか? それでヨレてんのかよ?」

 だから何としても、それを悟られるわけにはいかなかったのだが。

 結論、レドックスはアルメリアをすぐさましょっぴいたりはしなかった。

 荷物のようにアルメリアを小脇に抱え、森の奥へ。

(いったい、どこに……?)

 連れて行く気かと思えば。

(川……?)
「まァ、ここら辺か?」

 チョロチョロと比較的流れの穏やかなポイントで、ポイ。
 いきなり雑に放り投げられる。

(そんな……! ちょっと待って、私泳げな……!)

 バチャバチャし、必死にガボガボした。
 あるいはマンドラゴラどこや吐けと、今からさっそく尋問が始められるものとも覚悟したが。

(……なにこれ)

 気付けば、アルメリアは川の真ん中で水面にプカプカ浮かんでいた。
 小岩を足場にヤンキー座りをしたレドックスが、アルメリアのえりをつかんで水に浸けているのだ。

「なにを一人でバチャバチャしてやがる。まさか泳げねぇのかよ、オメェ。カナヅチか?」

 それも一応弱点なので、ノーコメントとはさせてもらったが。

「……ねぇ。これっていま、何してるの?」
「あァ? んなモン、決まってんだろうがよ」

 まさかと思ったら、そのまさか。

「オメェが無駄にアチィから水に浸けてやってんだろうが。さっさと冷やせ。分かってんだろうが、冷めたらさっきの続きだかんな。ギブアップなんざさせねぇ。死んでも認めねぇぞ」

「……そ」

 それからしばし、アルメリアはぼんやり空を見上げる。

(川の水に冷やされるスイカって、こんな気持ちなのかしら……?)

 そんな神妙にして場違いな感想を抱きつつ、穏やかな流水をプカプカとただよっていた。
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