Bard-世界に嫌われる才能達の物語-

2升5合

文字の大きさ
2 / 2
別れ出会い、別れる

詩の持つ力

しおりを挟む
『ホント第一印象間違えたな…』
顔の汚れを落としながら呟く。

だって仕方ないじゃん!人がいるとは思わないし!

『さて…こんなとこに子供1人。近くに村があるかも知れないな。それとも、俺みたく…』

 俺は自分の刻印を見た。俺だって人間だ、いつだって最悪を想定してしまう。まぁどちらにしてもこの子が起きないと分からないけどな。

──
 すこし辺りを散策することにした。どこにいっても木、木、木。ほんと変わり映えないのね、ここ。木を見るのにも疲れふと足元の木の葉を見る。葉は緑から少し赤く染まり始めたような色合いをしていた。

 そろそろ涼しくなるな。さて、子供は起きただろうか。子供の所に戻る。

『って、まじかよ…何にもねぇ!』

 さっきまで鞄を置いていて、子供を寝かせてた筈なのに気配すら無い。
 もしかして、ひったくられ…いや!まだわからない。誘拐かもしれない。
若干の焦りもあったがそれほど冷静さは失わなかった。

 こう言う時には効くあるおまじないをしっている、俺は落ち着いてその詩うたを口ずさむ。

 "かの者は千里まで見渡した。かの者は千里先の助けの声を聞いた。あらゆる者に力を貸し、世界の均衡を守る者がいた。"

 これは、うたの可能性を信じた者が生み出した力だ。言葉に想いを持たせて自身に新たな力を与える力。
 今のは大昔に存在したとされる勇者を基に作られた詩で、視覚と聴覚の強化を行える。

『っし!聴こえる!これだと左から3番目の木からまっすぐに走れば追いつける!』

あとは全速で走るのみ。それしても今日はよく走る日だ…
 程なくしてその背中は見えた。まぁ後ろ姿は鞄なんだが…ってことはあの少年が盗んだに違いない。少年は最初こそかなりの速さで走っていたが、徐々に失速していき追い着くことができた。

『目が覚めて何よりだけど盗みはいかんだろ君。何か訳でもあるのかい?』

相手は子供だ怒鳴っちゃいけない。
俺が少年を見つめるとみるみるうちに顔が歪み始めた。

『だって、だって…母さんが…病気で危ないんだ!』

少年はついに泣き出してしまった。

『おいおい泣くなって…』

『まだ死んでないもん!』

違う 亡 じゃないぞ少年。

『落ち着けって。お母さんが病気で薬が欲しかったのかい?悪いが楽器以外持ち合わせてないぞ』

少年の背中をさする。少し落ち着いた後、少年は俺の鞄を指さした。

『お母さんの病気を治せるって教えてもらって、その花を探していました…でもなかなか見つからなくて、起きたら目の前にそれがあって、それだけ持っていこうとしたんですが、なかなか取れなくて、持っていってしまいました』

少年の指したのは俺の鞄。よく見てみると何処で付いたか分からない紫の花が付いていた。

『少年。今、君はひとりかい?』

思った事を聞く。冷静に考えると、こんな森のど真ん中に子供1人でいるのはおかしい。

『はい…誰もいません』

少年の顔は暗くなり、聞かない方がいい事情があるように思えてくる。でも聞く。職業柄知らないことがあるのは許せないからだ。

『どうしてだい?君みたいな子が一人でいると危ないと思うんだけど』

少年は俯いた。そして重々しく事情を語る。

『それは、…僕が"忌子"だから皆に嫌われてるんです』

『忌子?』

少年は脱ぎ始め背中を見せてきた。

『それって…』

 少年の背中には何度も見てきて俺がここにいる原因にもなったあの「刻印」があった。

『僕、生まれた時からこれがあったみたいで理由は聞いたことないんですけど、どうやら不吉なものだからって避けられ続けてきたんです』

 不吉なものか…俺の"刻印"は今のところ実害はないからいいものの何かあったらどうなっちまうんだろう。

『つまりはだ、少年は…って面倒だな。名前は?』

『え?あ、バードって言います』

『なるほどバードね。俺はバリード、似てるな。で、先程の続きなんだが今君は花を見つけるという目的は達成できた訳だ。で、母さんの居る村はどこだい?』

『分かりません…印の通りにきたんですが』

 バードの指した木には深く掘られたバツ印が刻まれていた。

『うーん。あ、なんか村の情報とかない?言い伝えとかさ』

『言い伝え…ですか』

数秒の沈黙の後、また呟く

『あ、確か昔から村が襲われることが多くて魔除けのお守りがあるとかは聞いたことあります。外からは入れなくなると聞きました』

 外から入れなくなる、か。どうやら村の連中は本気でバードが嫌いらしい。最もらしい理由をつけて帰れなくなる守りの外に出したんだろ。

ふとバードを見る。心なしかさっきより焦っている。

『どうしたバード催したか?まあそんなすぐには方法なんて思い浮かばないからな、あんまり焦るな』

『あ、すいません…今どのくらい時間が経ったかなと思っただけです』

そういえば空が少し赤くなってきている。そろそろ夜が来てしまうのだろう。

『そろそろ夜になるくらいじゃないか?』

そう言うとバードの顔はみるみる青ざめていった。

『早く村に戻らないと!今日の夜までに薬を飲ませなきゃ、母さんが!母さんが…死んじゃうって』

ここで俺はことの重大さに気付いた、この礼儀正しい少年が盗みまでして焦った理由を知ってしまったから。

『って!あと数刻だぞ!どこなんだ村は!』

聞くが返事などない。

消えた謎を解くため思考を巡らせる。与えられた情報は、お守り…ぐらいか。どんな力が働いているのだろうか。まずは、知ってる理論から考えてみることにした。

──
 この世界の技術は大きく分けて二つある。一つはバードを追いかけた時のような身体に巡る「魔素」というものに働きかけて身体能力を向上させる技術。

 もう一つはどの空間にも存在する「空素」というものに念じることで形を与えるもの。これはいきなり空中に何かの塊を作れたり出来る感じだ。

 大まかな技法はこの二つだ。他に少数民族だけが使える技術や俺が使ううたの力など細かに種類があるのだが、あいにく知っているのはこの2つだけだ。

 だが、ここの村のお守りに使われてる技術は分かる。おそらく"空素"の技術が使われているんだと思う。空間を歪め、村に真っ直ぐ歩けない様にする、これで見つからない村の理由はつく。

『これが正しいとすれば、俺がすべきはこの森を正常にして体の自由を取り戻すこと…待っててくれバード、絶対お前を帰らせてやる』

 バードは諦め始めている様だ、座り込んでやがる。

…あとで泣くぐらいお礼を言わせてやる。

どのうたが相応しいのだろうか。
あ、…アイツが丁度いいかな。

 俺はバードに返してもらったカバンから弦楽器をだす。前回は使えなくて効力も減っていたからこれでちょうど良い筈。

──ジャララーン。

乾いた木材に音が反響し、静かさが増していく

"旅人の目は曇ることはなかった。ただ己が望む道を突き進み、真実を知る事を望んだ"

とある貴族が周りの噂を自分の目で確認したいがために、旅に出たという話。彼は数々の困難に巻き込まれたが、結果的に自分の望む結末に進めた。
これはその彼の様に望む"道"を見つけることのできるうただ。

 唱えたすぐ景色が歪み始めた。そしてすぐ先にポツンと松明の光が見えた。

『村だ!確かに僕の村だ!』

『おいおい…ほんとに出てくるのかよ』

 この時ほど自分の才を恐れる日は今後訪れないだろう。非現実的な出来事はそれほど衝撃的だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

勇者の様子がおかしい

しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。 そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。 神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。 線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。 だが、ある夜。 仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。 ――勇者は、男ではなかった。 女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。 そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。 正体を隠す者と、真実を抱え込む者。 交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。 これは、 「勇者であること」と 「自分であること」のあいだで揺れる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

処理中です...