異世界転生者の図書館暮らし1 モフモフと悪魔を添えて

パナマ

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2 エルフの国と生贄の山

2- 8.エルフの国と生贄の山

「一体何があったんだ、もっと詳しく」
「ダメだ、ミッツが正気やない、悲鳴のような意識しか飛んでこない・・・・・・・早く行かんと」

オスティオスは急いでニトゥリーを背負い、特殊部隊や他の教師の後に続いて、溶岩洞の降下を開始した。
背中に、ニトゥリーの押し殺した泣き声とその振動が伝わる。すぐ横には、他の教師と手を繋いで降下するソゴゥ。その様子を確認するが、暗くて判然としない。ただ、泣いたり、パニックに陥る事態にはなっていないようだった。

地上から離れると届く光が減り、下降するほどに暗くなる。底にワダカる密度の高い闇が口を開けて、上層の薄闇を飲み込んでいるかのように見える。
最下部に降り立った者達の光魔法によって、洞穴が横穴に続いていることが分かった。
誰も口に出さないが、何か大きなものの存在を感じていた。

それは生物というより、死や恐怖、絶望、救いのない運命、光のない未来といった、人の本能が避けようとする概念のようなものだった。

横穴に立ち入れば、その先はスパルナ族が設置した灯が点々と道を照らしていた。
ここまでの敵の侵入を想定していなかったのか、誘い込まれているのか。
だが、躊躇チュウチョしている暇はない。

「ここからは、あらゆる戦闘を想定し進みましょう。下策は足を止めることです」
前へと出した足から力が抜けて、その場に崩れていきそうな、抗い難い恐怖に襲われる。
しかし、それでも自信に満ちた特殊部隊の掛け声と、先頭を切って進む彼らの存在が非常にありがたく、頼もしいと思えた。体中の血液があわ立つような感覚を押し切って、前に進む。
罠を警戒しながら特殊部隊が先を行くが、その勢いはほとんど全力疾走に近い。一キロほど走ったあたりで空間が突然開けた。
見上げるほど高い位置に天井があり、そして目の前にきれいな円の形の直径二百ほどもある大きな穴が開いていた。

「ミッツ!」
「ヨドもいる」
子供たちが身を乗り出すが、オスティオスと教師とで取り押さえる。
円のちょうど向こう側に、祭壇サイダンのような灯の集中した場所で、歪な翼をもつ男を中心に、子供たちを穴に突き落とさんとする、数人のスパルナ族の様子が見えた。
特殊部隊と教師が穴の縁を通り、向こう側へ回り込む。
こちらに残った教師の一人が、穴の縁に膝をついて覗き込み、仰け反るように尻をついた。
一瞬、口腔コウクウから漏れかけた悲鳴を飲み込んだのは、彼の全力の理性によるものだった。
もう一人いた教師が同様に穴の中を確認した後、全身を震わせてうの体で穴の縁から離れた。
彼らとて、優秀な者ばかりだ、その彼らが腰を抜かすほどのものが、そこにあるというのだろうか。
オスティオスは、子供たちにこの場に留まることを伝え、自ら確認しに縁に向かいその中を覗き込んだ。

「こんなものが・・・・・・・」
オスティオスは絶望に近い感情の来襲に飲み込まれないよう、どうにか思考だけは止めず、最善を模索モサクする。
あんなものが地上にでたら、世界はこの先、未曾有の災厄に見舞われることになるだろう。
星蝉セイダン」エルフの国ではそう呼ばれているが、各国で呼び名が違い「サイ」や、「太歳タイサイ」と呼ばれ、ある国では大昔、その存在に恐怖し続ける王が、国内で大規模な地を掘り返す作業を禁じ、また、土を人の背より深く掘る際には、それがいないか必ず確かめたといわれている。
今では、人が建築などで掘り返す程度では、星蝉にぶつかることはなく、地下の深くに在り一所に留まることがないということが分かっている。

星蝉はただ、この惑星の地中を巡るだけのモノ。大地のエネルギー循環の一役を担っているともいわれ、その個体数が、唯一なのか、複数存在するのかは知られていない。地中から出てくることはないため、その生体がほとんど知られておらず、また、地中から出てきた際は、地上の全ての生き物を喰い、大地を蹂躙ジュウリンしつくし、あらゆるものを壊滅させると言われている。

理性を失ってはならないと、そう自らに注意していたにもカカワらず、どれだけ自失していたのか、穴の向こう側が俄かに騒がしくなり、オスティオスは特殊部隊と何人かの教師たち、それとスパルナ族が交戦状態に入ったことに気付いた。

こちら側が優勢であったところへ、突如、ミツコッシーの身体が宙に跳ね上げられ、星蝉の穴の中へと落ちていく。

背後から、大絶叫を上げたニトゥリーが、教師二人を弾き飛ばして、こちらに向かう。オスティオスが土壁で行く手を遮るが、一瞬で砕かれた。

「うわあああ、コロス! 殺してやる!!」
教師たちが追いスガって取り押さえようとするが、完全に力で押し負けている。

兄弟が連れ去られた理由。それは、その尋常じゃない魔力量のせいに他ならない。
彼らにはそれを発する術の習得や、練度、技術が足りておらず、それほど大きな魔法が使えるわけではない。それでも、生命の危機や、感情の高まりにより魔力が骨や筋肉を強化して、今のニトゥリーのように爆発的に身体能力を向上させているのだ。
もはや、スパルナ族と戦うより、ニトゥリーを取り押さえる方が難しいだろう。
再び教師達が振り払われ、暴れ牛のように突っ込んでくるニトゥリーへオスティオスが鎮静と拘束の魔法を放とうとした瞬間、その体が弾き飛ばされるようにして地面に倒れた。
見ると、ニトゥリーの腰にソゴゥが両腕でしがみ付いている。

「放せ! 放せや!!」
ニトゥリーがソゴゥの背を拳で叩き、引き剝がそうとするが、ソゴゥは声を上げず、ただ兄を押さえ込んでいる。
ソゴゥはニトゥリーより頭一つ分背が低く、体もずっと小さい。それが、教師を二人振り払ったニトゥリーを圧倒している。

オスティオスは周囲を見る余裕を取り戻し、向こう側の様子を確認すると、どうやら今はヨドゥバシーを盾に膠着状態となっているようだった。
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