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3 図書館暮し始めました
3- 8.図書館暮し始めました
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お早うございます。ソゴゥです。
今、俺はイグドラシルの根っこにいます。
あの建物の下には、枯れた世界樹の根っこが地下深く張り巡らされていて、地下室というにはあまりに広大な空間が広がっており、その空間の最下層から約200m付近の第一洞に、俺はいます。
第一洞とは、俺が勝手に名付けたイグドラシルの根っこにある、穴のことです。今日は、こちらで朝食をとりたいと思います。
前世と比べると、こちらの生活はとても素敵で、夢と魔法と希望に満ちていて不満に思うことは少ないのですが、これだけは嫌だなと思うことがあります。
それは、虫がデカいことです。
昨日から、追い払っても、追い払っても、野球ボールくらいのカナブンみたいな奴に襲われています。執拗なうえに、大量にいます。
マジ、泣きそうです。
この数千メートルの根っこ登りも、三回目になります。
一回目は、とりあえず最下層まで連れていかれ、魔法を使えなくされたうえで、地上階まで根っこを自力で登ってくるように言われました。
真っ暗な中を、ご来光目的の富士登山のように、頭にライトをつけて、暗い中をひたすら登らされました。
最初に尻や背が預けられるような空間に辿り着いた時でさえ、その高さと恐怖に気を休めることも出来ず、指と腕が震えて動かない状態で数時間、あるいは一日以上をただじっと恐怖に耐え、疲労の回復を待って、また登りはじめます。
持たされていた携帯食料で、何とか飢えをしのぎ、身体を休めることが出来そうな根の曲がっているところや、洞を探し、少しずつ上へ移動を繰り返します。
登るほど、高さへの恐怖が増していく一方で、空間の明るさが広がるため、何とか諦めずに、何日もかかって登りきることが出来ました。
それから一か月後、二回目に挑戦するにあたり、一回目で必要だと感じた物を持って挑んでいいと言われ、携帯食料の他に俺は、登山で必要な物を一式揃え、根っこ登りに挑みました。
二回目の第一洞で仮眠をとっていると、急に目の前に寿司が現れて、うっかり伸ばした手が空を掴み、危うく洞から落ちてしまうところでした。
その後も、匂い付きの食べ物の幻覚に襲われ、また、一回目では適温だった空間が、冬のように凍えそうなほど寒くなりました。
防寒対策グッズを用意していなかったため、とにかく指がかじかむのが非常に辛い。そのせいで、一回目よりも進み辛くなっていて、時間がかかってしまいました。
第二、第三洞と、仮眠をとる場所で、寒さに身を縮こまらせて眠っていると、モフモフしたものに包まれる夢を見ました。
目が覚めると、寒く辛い現実に直面します。けれど眠っている間は、モフモフの感触の夢をみて、とりあえず凍死せずに何とか制覇することが出来たのです。
これらのあまりに過酷な課題に、思わず母さんに「離れて暮らしていたせいで、親子の情が薄れてしまったんじゃないのか」と言ったら、母さんが泣いてしまい、五体投地で謝って、何とか機嫌を直してもらいました。
以来、どんな無茶ぶりも「イエス、マム!」と二つ返事で不平を言わずに挑戦することにしています。
そして、三回目の現在進行形で、虫がうざい。これらの虫がなんで寄って来るのか、どうやったら追い払えるのか、よく見て後で調べて対策を練らないと。
最初は一睡もできなかった第一洞も、今や第二の我が家かというほどの寛ぎ空間。いかんせん虫だけが余計。
持ってきた布でカーテンを作り、虫除けにして携帯食料を食べる。
座学、実技、体力づくり、これまで色々なことを教わってきたが、とりわけ母さんは昔の少年漫画の修行みたいなことをさせたがる。
ただひたすらに、何かをさせればいい、というものではないと思うのだが。
園の教育でも採用されていた、目的、クエスト、報酬、そして達成状況の可視化。いわゆるゲーム化と言われる手法で、達成感を与えることでモチベーションを上げ、取り組みに熱中させて成長速度を早めるという方が、絶対に楽しい。
社会を形成する人類が持つ、承認欲求、自己実現欲を巧みに利用して、向上心を煽り、知らず知らずのうちに目標を達成する能力が身についている、っていうのがいいんだけれど、ここには目的とクエストしかない。
山頂の景色や、下山後の温泉のような報酬もない。
だが、根っこ登りは指を掛ける位置、足運び、体重移動などを、いかに体力を使わずに効率よく移動できるかが重要で、体力や根性より、知力や判断力、そして瞬発力とかなりの勇気が必要になる。いつも、指先に自分の命がかかっているからだ。
二回目よりはマシだと感じるが、いつも用意しているものが無駄になったり、足りていなかったりする。あらゆる状況を想定するのにも限界がある。全気候型の無人島生活用品を、詰め込んでくればいいのだろうか。俺、図書館に勤めているんじゃなかったっけ・・・・・・。
食事を終えると、気合を入れて直して凶悪な羽音のするカーテンの向こう側へ踏み出し、登頂を目指して出発する。
そんな修行が三年続いた。
ある時はこの膨大な蔵書の中から、「ガイド」と呼ばれる司書がそれぞれ持つ魔法書を使わず、ノーヒントで一冊の本を探してくるように言われた。
また、ある時は、突然変な踊りを踊って「これは、ある国の挨拶です。正しい返答の仕方を見せなさい」と言われたり。
図書館舐めてました、本当にすみませんでした、と枕を濡らす日々だったが、そんな俺も十八歳で母さんの引退と共に館長を引き継ぎ、大司書の準備職となる第一司書となったのだった。
今、俺はイグドラシルの根っこにいます。
あの建物の下には、枯れた世界樹の根っこが地下深く張り巡らされていて、地下室というにはあまりに広大な空間が広がっており、その空間の最下層から約200m付近の第一洞に、俺はいます。
第一洞とは、俺が勝手に名付けたイグドラシルの根っこにある、穴のことです。今日は、こちらで朝食をとりたいと思います。
前世と比べると、こちらの生活はとても素敵で、夢と魔法と希望に満ちていて不満に思うことは少ないのですが、これだけは嫌だなと思うことがあります。
それは、虫がデカいことです。
昨日から、追い払っても、追い払っても、野球ボールくらいのカナブンみたいな奴に襲われています。執拗なうえに、大量にいます。
マジ、泣きそうです。
この数千メートルの根っこ登りも、三回目になります。
一回目は、とりあえず最下層まで連れていかれ、魔法を使えなくされたうえで、地上階まで根っこを自力で登ってくるように言われました。
真っ暗な中を、ご来光目的の富士登山のように、頭にライトをつけて、暗い中をひたすら登らされました。
最初に尻や背が預けられるような空間に辿り着いた時でさえ、その高さと恐怖に気を休めることも出来ず、指と腕が震えて動かない状態で数時間、あるいは一日以上をただじっと恐怖に耐え、疲労の回復を待って、また登りはじめます。
持たされていた携帯食料で、何とか飢えをしのぎ、身体を休めることが出来そうな根の曲がっているところや、洞を探し、少しずつ上へ移動を繰り返します。
登るほど、高さへの恐怖が増していく一方で、空間の明るさが広がるため、何とか諦めずに、何日もかかって登りきることが出来ました。
それから一か月後、二回目に挑戦するにあたり、一回目で必要だと感じた物を持って挑んでいいと言われ、携帯食料の他に俺は、登山で必要な物を一式揃え、根っこ登りに挑みました。
二回目の第一洞で仮眠をとっていると、急に目の前に寿司が現れて、うっかり伸ばした手が空を掴み、危うく洞から落ちてしまうところでした。
その後も、匂い付きの食べ物の幻覚に襲われ、また、一回目では適温だった空間が、冬のように凍えそうなほど寒くなりました。
防寒対策グッズを用意していなかったため、とにかく指がかじかむのが非常に辛い。そのせいで、一回目よりも進み辛くなっていて、時間がかかってしまいました。
第二、第三洞と、仮眠をとる場所で、寒さに身を縮こまらせて眠っていると、モフモフしたものに包まれる夢を見ました。
目が覚めると、寒く辛い現実に直面します。けれど眠っている間は、モフモフの感触の夢をみて、とりあえず凍死せずに何とか制覇することが出来たのです。
これらのあまりに過酷な課題に、思わず母さんに「離れて暮らしていたせいで、親子の情が薄れてしまったんじゃないのか」と言ったら、母さんが泣いてしまい、五体投地で謝って、何とか機嫌を直してもらいました。
以来、どんな無茶ぶりも「イエス、マム!」と二つ返事で不平を言わずに挑戦することにしています。
そして、三回目の現在進行形で、虫がうざい。これらの虫がなんで寄って来るのか、どうやったら追い払えるのか、よく見て後で調べて対策を練らないと。
最初は一睡もできなかった第一洞も、今や第二の我が家かというほどの寛ぎ空間。いかんせん虫だけが余計。
持ってきた布でカーテンを作り、虫除けにして携帯食料を食べる。
座学、実技、体力づくり、これまで色々なことを教わってきたが、とりわけ母さんは昔の少年漫画の修行みたいなことをさせたがる。
ただひたすらに、何かをさせればいい、というものではないと思うのだが。
園の教育でも採用されていた、目的、クエスト、報酬、そして達成状況の可視化。いわゆるゲーム化と言われる手法で、達成感を与えることでモチベーションを上げ、取り組みに熱中させて成長速度を早めるという方が、絶対に楽しい。
社会を形成する人類が持つ、承認欲求、自己実現欲を巧みに利用して、向上心を煽り、知らず知らずのうちに目標を達成する能力が身についている、っていうのがいいんだけれど、ここには目的とクエストしかない。
山頂の景色や、下山後の温泉のような報酬もない。
だが、根っこ登りは指を掛ける位置、足運び、体重移動などを、いかに体力を使わずに効率よく移動できるかが重要で、体力や根性より、知力や判断力、そして瞬発力とかなりの勇気が必要になる。いつも、指先に自分の命がかかっているからだ。
二回目よりはマシだと感じるが、いつも用意しているものが無駄になったり、足りていなかったりする。あらゆる状況を想定するのにも限界がある。全気候型の無人島生活用品を、詰め込んでくればいいのだろうか。俺、図書館に勤めているんじゃなかったっけ・・・・・・。
食事を終えると、気合を入れて直して凶悪な羽音のするカーテンの向こう側へ踏み出し、登頂を目指して出発する。
そんな修行が三年続いた。
ある時はこの膨大な蔵書の中から、「ガイド」と呼ばれる司書がそれぞれ持つ魔法書を使わず、ノーヒントで一冊の本を探してくるように言われた。
また、ある時は、突然変な踊りを踊って「これは、ある国の挨拶です。正しい返答の仕方を見せなさい」と言われたり。
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